メガゾーン23 二つのガーランド「交差」 作:tell M.G.
暗い格納庫に、低い駆動音が響いていた。
ガーランドゼロ——
その巨体は、静かに起動状態を維持している。
だが、その内部では
未だ“力”が暴れていた。
「リミッター、第一段階。設定完了」
オペレーターの声が響く。
コクピットの中で、榊原光一は目を閉じたまま頷いた。
「行くぞ」
スロットルに手をかける。
ゆっくりと——押し込む。
反応は、安定していた。
前回のような突発的な出力変動はない。
機体は滑らかに前進する。
「……悪くないな」
だが——
次の瞬間、光一の眉がわずかに歪む。
「遅い」
「出力、制限内で安定しています」
「分かってる」
吐き捨てるように言う。
「安定してるが——死んでる」
本来のキレがない。
反応は鈍く、重い。
あの“危うさ”が、消えていた。
「第二段階、上げろ」
「了解。リミッター緩和」
次の瞬間。
機体の“芯”が変わる。
「……来たな」
わずかに、手応えが戻る。
だが——
「出力変動、増加」
警告音。
バーニアが微細に揺れる。
「チッ……!」
制御入力を細かく刻む。
押さえ込む。
だが、完全には止まらない。
「安定しきらないか」
「現状、これ以上の出力は危険域に入ります」
光一は舌打ちした。
「上げれば暴れる。下げれば使えねぇ」
静かに吐き出す。
「どうしろってんだ、これは」
数時間後。
同じ試験が繰り返されていた。
リミッター調整。
出力変更。
制御テスト。
その全てが——
“中途半端”に終わる。
「第三段階——」
「ダメだ」
光一が遮った。
「結果は見えてる」
沈黙。
そして、低く言い切る。
「リミッターだけじゃ、
この機体は飼えねぇ」
通信の向こうで、誰かが息を呑む。
「だが、他に方法は——」
「あるだろ」
光一は即答した。
「“機体を抑える”んじゃねぇ」
前を見据える。
「“機体に合わせる”んだよ」
その言葉に、空気が変わる。
数日後。
コクピット内部は、わずかに様相を変えていた。
追加されたインターフェース。
神経接続用の簡易ユニット。
思考伝達装置。
「試験段階だ。完全なものじゃない」
開発側の声。
「分かってる」
光一は短く答える。
「行くぞ」
接続。
一瞬のノイズ。
そして——
“繋がった”。
「……っ」
息が詰まる。
視界が、広がる。
機体の状態が“情報”ではなく——
“感覚”として流れ込んでくる。
スロットルを入れる。
——違う。
手で操作している感覚が、薄い。
代わりに——
“動かそうとした瞬間に、動く”。
「……やっぱり、これしか無いか」
思わず漏れる。
機体が滑る。
いや——
“意図通りに動く”。
出力を上げる。
リミッターが効いている。
だが——
「……使える」
これまで感じていた“ズレ”がない。
暴れかける出力も——
“先に分かる”。
「出力安定……いや、違う」
オペレーターの声が揺れる。
「制御が……追いついている……?」
光一は小さく笑った。
「違うな」
「追いついてるんじゃねぇ」
ゆっくりと、言い切る。
「最初からズレてねぇんだよ」
機体が応える。
まるで
最初からそうあるべきだったかのように。
だが
完全ではない。
リミッターは、確実に“力”を削っている。
それでも——
「これが……落としどころか」
暴走はしない。
だが、全ては出せない。
光一は目を細めた。
「……上等だ」
制御できる力。
扱える範囲の怪物。
それはまだ——
“完成”ではない。
だが確実に——
そこへ近づいていた。