メガゾーン23 二つのガーランド「交差」   作:tell M.G.

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第6話 佐原修二編 異形のガーランド

低く唸るような振動が、地下格納庫の空気を震わせていた。

 

重い防壁に囲まれたその空間は、外界から完全に遮断されている。

照明は最低限。影が濃い。

 

その中央に——それはあった。

 

ガーランド。

 

だが、佐原修二の知るそれとは、明らかに違う。

 

「……なんだ、あれ」

 

思わず口から漏れる。

 

車輪がない。

地面に接していない。

 

機体は、わずかに浮いている。

 

足元から伝わる振動は、エンジンではない。

空間そのものを歪ませるような、不気味な低音。

 

「試作機だ。ホバー走行型ガーランド」

 

背後から声が飛ぶ。

開発主任だった。

 

「ホバー……?」

 

佐原は目を細める。

 

ガーランドは“走る”ものだ。

タイヤで地面を掴み、加速し、変形する。

それが常識だった。

 

だが目の前の機体は——

 

「浮いてるじゃないか」

 

「その通りだ」

 

主任は淡々と答える。

 

「反重力制御を応用した推進システムを搭載している」

 

佐原は黙って機体を見つめる。

理解しようとする。

だが、今までの知識と噛み合わない。

 

——別物だ。

 

その一言に尽きた。

 

 

「テスト開始する」

 

アナウンスが響く。

搭乗しているのは、専属のテストパイロット。

 

機体がゆっくりと前進する。

 

——滑るように。

 

だがその動きは、どこかぎこちない。

 

「……」

 

佐原は腕を組み、観察する。

加速。旋回。減速。

 

一通りの動作はこなしている。

だが——

 

「……ちょっと重いな」

 

小さく呟く。

 

主任が反応する。

 

「出力は規定値に達している」

 

「出てるっぽいですけど」

 

佐原は視線を外さない。

 

「なんか、うまく使えてない感じかな?」

 

周囲の空気がわずかに張り詰める。

 

機体がカーブに入る。

わずかに挙動が乱れる。

 

「あ、ほら」

 

佐原は軽く顎で示す。

 

「浮いてる分、余計にバランス取りにくそうですよね」

 

主任が低く問う。

 

「なら、どうする」

 

佐原は一瞬だけ考え

肩の力を抜いて言った。

 

「ちょっと乗ってみてもいいですか?」

 

ざわめきが起きる。

 

「俺、一応ガーランドは触ってきてるんで」

 

一歩前に出る。

 

「構造とかクセとか、多少は分かるつもりです」

 

そして、ほんの少しだけ間を置く。

 

頭に浮かぶのは——あの動き。

ガーランドシックス。

榊原光一の操縦。

 

「動かし方は……見てきてるんで」

 

軽く笑う。

 

沈黙。

 

やがて主任が頷いた。

 

「……いいだろう。交代だ」

 

 

整備クレーンが機体を固定する。

佐原は機体へ歩み寄る。

 

近くで見ると、構造がよく分かる。

 

フレーム配置はガーランド。

だが駆動系がまるで違う。

 

「……なるほどな」

 

小さく呟く。

 

「根っこは一緒か」

 

ステップに足をかける。

身体を引き上げ——シートに収まる。

 

その瞬間。

機体との距離が、ふっと近づいた。

 

「……」

 

ハンドルを握る。

違和感はある。

だが——理解できる。

 

計器に目を走らせる。

 

「要は……」

 

小さく呟く。

 

「流れに乗せればいいってことか」

 

スロットルをゆっくり開く。

機体が浮き上がる。

だが、今度はぶれない。

 

腰で重心を合わせ、

機体の動きに身体を預ける。

 

前へ。

 

滑る。

 

「……あ、これか」

 

自然に言葉が漏れる。

さらに出力を乗せる。

加速。

視界が流れる。

 

「これならいけるな」

 

機体が応える。

無理に動かす必要はない。

“ガーランドの動きに乗る”。

脳裏に焼き付いた動きと重なる。

 

——カーブ。

 

ハンドルでこじらない。

流す。

機体が自然に軌道へ乗る。

 

——曲がる。

 

「おお……いいじゃん」

 

思わず笑みがこぼれる。

数値が跳ね上がる。

警告音。

だが、止めない。

そのまま——走り切る。

 

——停止。

 

静寂。

低い駆動音だけが残る。

佐原はゆっくりと顔を上げる。

 

「……ちゃんと出るじゃないですか」

 

軽く機体を叩く。

その背中に、視線が集中する。

主任が歩み寄る。

 

「……数値は?」

 

オペレーターが震える声で答える。

 

「全項目、過去最高です……」

 

ざわめきが広がる。

主任は佐原を見据える。

そして——

 

「佐原修二。今よりテストパイロットに任命する」

 

一瞬、理解が追いつかない。

 

「……え、俺が?」

 

「お前が、この機体を扱え」

 

佐原は目を瞬かせる。

整備兵だ。

裏方だ。

 

だが——

手に残る感触が、それを否定する。

 

あの一体感。

あの動き。

 

数秒の沈黙。

やがて、肩の力を抜いて笑った。

 

「……ま、やるしかないですね」

 

顔を上げる。

 

「やってみます」

 

その言葉と共に——

 

量産型ガーランドの歴史が、静かに動き出した。

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