芳賀ココノの献身   作:レバニラ炒め

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プロローグ
私の役目


「あなたが必要です」

その言葉が始まりだった。

 

姉を失い、居場所を失い、役目も果たせなかった。

 

ただ漫然と死を待ち望みながら生きていた私に、あの人は役目を、居場所を与えてくれた。

 

だから私は、芳賀ココノは、その命を捧げることを決めたのだ。

 

 

 

 

「連邦捜査部シャーレ……?」

「はい、ココノさん。あなたにはそこに出向していただきます」

 

カヤ先輩は、いつも通り落ち着いた声で言った。

 

連邦生徒会防衛室。

現在の私の所属。

連邦生徒会長が失踪してから、幾日が経過しただろうか。

 

出所不明の武器流通の増加。

七囚人の脱獄。

各学園からの問い合わせ。

治安維持機能の低下。

連邦生徒会に対する不信。

 

キヴォトスは日に日に混乱に満ちていく。

 

「そんな中現れた、生徒会長と同等の権限を有するシャーレ。その存在を、私たちが見過ごすことはできません」

 

カヤ先輩は資料を閉じる。

 

「近々『先生』が来るそうですが、外部の『大人』です。連邦生徒会として、その動向を把握しておく必要があります」

 

「監視……ってことなのよ」

 

私が言うと、カヤ先輩はすぐに首を横に振った。

 

「いいえ、ココノさん。補佐です」

「補佐」

「はい。あくまで先生の業務を支えるための出向です」

 

相変わらず口の回る人だ。

 

私は目の前で論理をこねくり回す上司を見ながら、資料の内容を頭の中で整理した。

 

この話は、私にとっても都合がいい。

シャーレがこれからキヴォトスの台風の目になるというのなら、そこに最も近い立場にいることは重要だ。先生がどういう人物なのか。シャーレが何をするのか。連邦生徒会はどこまで制御できるのか。

それらをいち早く知ることができる。

 

「……故に、あなたには先生の補佐を……って、聞いていますか?」

「はいはい、聞いてるのよ」

 

この人は優秀だが、それ故視野が狭まり的はずれなことを言い出す時がある。一年の付き合いの中で私はそれを理解していた。

 

「まあいいでしょう。時が来たら、あなたに指示を出します。それまでは通常業務を行ってください」

「あと、引き継ぎの作成もお願いします」

「わかったのよ」

 

 

 

 

数日後。

私はカヤ先輩から呼び出しを受けていた。

 

防衛室に入ると、カヤ先輩はいつもより少し慌ただしい様子で端末を操作している。

 

「前に話した出向の件ですが、今日にも先生がいらっしゃるようです」

「急すぎるのよ」

「私も知ったのは今朝のことです」

 

カヤ先輩は不機嫌そうに目を細めた。

 

「恐らく……リンですね。情報を回して、先生が襲撃を受けるのを避けたかったのでしょう」

「引き継ぎの方は用意してあるのよ」

 

私は持ってきた資料の束を、カヤ先輩のデスクに置く。

突貫で作ったにしては、我ながら悪くない出来だと思う。

 

「ありがとうございます。……しかし、いざとなるとあなたを手放すのが惜しくなりますね」

「先輩が決めたことなのよ」

「室長」

「……室長が決めたことなのよ」

「よろしい」

 

カヤ先輩は端末を閉じ、立ち上がる。

 

「先生が来たようです。向かいましょう」

「そういえば、カヤ先輩」

「室長」

「室長。シャーレのオフィスはどこなのよ?」

「D.U.外縁部です」

 

私は端末を開き、地図情報を確認した。

そして、画面をカヤ先輩の前に差し出す。

 

「そこ、七囚人のワカモが今襲撃を仕掛けてるのよ」

「……はぁ!?」

 

カヤ先輩の声が、防衛室に響いた。

 

 

 

 

「リン!」

 

カヤ先輩が声を上げる。

 

その先に、七神リン先輩がいた。

顔色は悪くないが、随分疲れているようだ。

その周囲には、何人かの生徒がいる。

 

ミレニアムの制服を着た、眼鏡の生徒。

トリニティの制服を着た、長身の生徒。

同じくトリニティの、落ち着いた雰囲気の生徒。

ゲヘナの制服を着た、救護鞄を持つ生徒。

 

そして、男の人。

あれが、先生なのだろう。

 

「……また面倒なのが」

 

リン先輩が顔を手で覆う。

 

「そういうのはいいですから! それよりも……」

 

カヤ先輩が詰め寄ろうとしたところで、リン先輩が先に口を開いた。

 

「シャーレのオフィス予定地が、狐坂ワカモ率いる集団に襲撃されている。でしょう?」

「そうです!」

 

カヤ先輩は勢いよく頷く。

 

「何をこんなところで呑気にしているんですか! 今すぐSRTを出動させてでも鎮圧するべきです!」

 

その主張には一理ある。

ただし、この前の会議でSRTは凍結されたばかりだ。

今すぐ動かせる状態ではない。

 

リン先輩は眼鏡に手を当て、静かに答えた。

 

「この前の会議で決めたでしょう。今、SRTを動かすことはできません」

「……そうですね」

 

カヤ先輩の表情が引きつる。

 

その時、先生がおずおずと手を上げた。

「あの……君たちは?」

 

カヤ先輩が咳払いをする。

 

「お見苦しいところを失礼しました。挨拶も済ませずに。私は不知火カヤ、連邦生徒会防衛室室長を務めています」

 

そして、カヤ先輩は私を見る。

 

「私の名前は芳賀ココノ。防衛室で庶務を務めています」

 

さすがに、初対面の人の前でいつもの調子を出すほどではない。

 

先生は私たちを見て、穏やかに頷いた。

 

「私は先生と呼んでほしい。二人とも、よろしくね」

挨拶が終わり、カヤ先輩が向き直る。

「それで、結局襲撃はどうするんですか? まさか……」

 

嫌な予感を感じているのか冷や汗を流すカヤ先輩に、リン先輩は眼鏡に手を当て少しやけくそ気味に言う。

 

「ええ。そのまさかです。ここにいる、非常に頼りになる暇を持て余した方々と協力して、狐坂ワカモの襲撃を制圧します」

「はあ!?」

 

声を上げたのは、ミレニアムの生徒だった。

たしか、早瀬ユウカ。

 

反応としては正しい。

いまここにいる面々をざっと見ても、戦闘を目的として集まった部隊ではない。

トリニティの羽川ハスミは明らかに戦闘能力が高そうだが、それ以外は文官や支援寄りに見える。

もっとも、守月スズミは前衛として動けそうだし、火宮チナツは後方支援に向いている。

どうとでもなるか。

 

「まあ、私は戦闘でも問題はないのですけど?」

 

カヤ先輩が妙に強がった声を出す。

 

「ですが、今ここにいる人たちは戦闘を行うために来たわけではない様子ですし? SRTがだめなら、ヴァルキューレ……そう、ヴァルキューレを呼べばいいじゃないですか!」

 

どうしても前線に出たくないのだろう。

目がすさまじい勢いで泳いでいる。

 

ヴァルキューレと言っていたが、あちらも各地の犯罪対応で手一杯のはずだ。

こちらに割ける人員がどれだけあるかは怪しい。

……助け舟を出すべきか。

 

「カヤ先輩」

「室長」

「室長。今は連邦生徒会……ひいてはキヴォトスの一大事なのよ」

 

私は言った。

 

「あれには私たちが対応するから、カヤ先輩は後方で、ほかに支援に来られる組織がないか掛け合ってほしいのよ」

 

カヤ先輩の目が、わが意を得たりと言わんばかりに輝き出す。

 

「ええ、ええ! そうでしょうとも! そうですとも!」

 

カヤ先輩は咳払いをした。

 

「そういうわけなので、こちらにはココノを残します。よろしくお願いします、リン」

「……来たかと思えば」

 

リン先輩が疲れた声を出す。

 

カヤ先輩はその場を離れていった。

足取りは速い。

 

「申し訳ないのよ、リン先輩。あの人、本当に前線は苦手だし」

 

私が言うと、リン先輩はため息をついた。

 

「きっちりと仕事はしてもらいますからね」

「ええ、もちろんなのよ」

 

それが私の役目なら。

 

先生が私を見る。

 

「ココノも一緒に来てくれるんだね」

「はい。先生の補佐として同行します」

「助かるよ。よろしく、ココノ」

 

私は一拍置いて、軽く頭を下げる。

 

「よろしくお願いします、先生」

 

 

 

 

シャーレへ向かう前に、私たちは改めて互いの役割を確認することになった。

即席の部隊。

そう呼ぶのが一番近い。

 

早瀬ユウカさんは、ミレニアムサイエンススクール所属。計算能力と状況判断に優れている。装備を見る限り、前衛としても動ける。

 

守月スズミさんは、トリニティ総合学園所属。制圧と撹乱に向いている。前線で敵の動きを止める役に適している。

 

羽川ハスミさんも、同じくトリニティ所属。長距離からの精密射撃が可能。後衛として置くのが妥当。

 

火宮チナツさんは、ゲヘナ学園所属。救護鞄を持っている。後方支援、負傷者対応。

 

そして先生。

武器はない。

戦闘員ではない。

けれど、この場の指揮を担うことになる。

 

私は中衛。

通信、周辺情報の整理、状況報告、必要に応じて戦闘補助。

 

「ユウカさんとスズミさんが前衛。私は中衛で情報整理。ハスミさんとチナツさんが後衛。先生は全体指揮でいいと思うのよ」

 

私がそう提案すると、ユウカさんは顎に手を当てて頷いた。

 

「即席の編成としては妥当ですね。前衛が少し薄いですけど、目的はシャーレへの到達」

「ええ。長引かせる必要はないのよ」

 

ハスミさんは静かに銃を確認している。

 

「後方から援護します。先生、必要な指示があれば遠慮なく」

「ありがとう、ハスミ」

 

スズミさんも頷く。

 

「前方の敵影は私が抑えます」

 

チナツさんは周囲を見渡してから、先生へ視線を向けた。

 

「負傷者が出た場合は、すぐにこちらへ。先生も、無理はしないでください」

「うん。気をつけるよ」

 

端末を確認する。

シャーレまでの経路。

建物の位置。

遮蔽物。

退路。

 

「行きましょう。時間をかけるほど、状況は悪化するのよ」

 

先生が頷く。

 

「みんな、無理はしないで。目的はシャーレに辿り着くことだ」

「分かっています」

 

ユウカさんが答える。

こうして、私たちはシャーレへ向けて進み始めた。

 

 

 

 

D.U.外縁部。

 

本来なら、そこはそれほど騒がしい場所ではないはずだった。

けれど今は、あちこちから銃声と爆発音が聞こえてくる。

 

建物の窓は割れ、道路には放置された車両があり、看板が折れている。

ワカモに扇動された不良生徒たちが、思い思いに暴れているらしい。

 

「前方、敵影」

 

スズミさんが短く告げる。

遮蔽物の向こうに、スケバンらしき集団がいる。

数は多くない。

ただし、こちらを見つければすぐに撃ってくる距離だ。

 

私は端末を見ながら言う。

 

「左側の路地を使えば迂回できるのよ。ただし、少し時間がかかる」

「右は?」

 

先生が聞く。

 

「右は開けすぎてる。撃たれやすいのよ」

 

先生はすぐに判断した。

 

「じゃあ、正面を短く突破しよう。ユウカ、前に出すぎないように。スズミは相手の足を止めて。ハスミは奥の武器持ちを狙える?」

「可能です」

「チナツは後方で待機。ココノはユウカと一緒に動いてスズミの支援を」

「了解なのよ」

 

戦闘は短かった。

スズミさんが閃光で相手の動きを止め、ユウカさんが前線を押し上げる。

ハスミさんの射撃で、奥にいた相手が武器を取り落とす。

チナツさんは後方から状況を見て、誰にも無理をさせない位置を保つ。

 

先生はその全体を見ていた。

 

「ユウカ、深追いしないで」

「分かっています!」

「スズミ、右から来る」

「対応します」

「ハスミ、左奥」

「任せてください」

 

指揮能力あり。

状況把握が迅速。

生徒個々の能力を即座に理解し、適切に使用できる。

敵の撃破より味方の負担軽減を優先する傾向が強い?

 

私たちはほとんど足を止めずに先へ進む。

その後も、何度かスケバン集団や暴徒化した生徒たちと遭遇した。

いずれも先生の指揮のもと、短時間で突破する。

 

「先生、右側の建物上に敵影」

「ハスミ、見える?」

「見えます」

「お願い。ユウカは前の遮蔽物まで。スズミは煙幕が晴れるまで待って」

「了解です」

「ココノ、次の経路は?」

「このまま真っ直ぐ進むと大通りに出るのよ。敵の数は多いけど、最短」

「迂回は?」

「安全だけど、五分は遅れる」

 

先生は少しだけ考えて、言った。

 

「大通りを抜けよう。ただし、戦闘は避けられるだけ避ける。相手を倒しきらなくていい」

「分かりました」

 

ユウカさんが前へ出る。

シャーレが近づいてくる。

 

建物の輪郭が見え始めた頃、私たちは足を止めた。

大通りの先に、戦車がいた。

 

「……戦車?」

 

ユウカさんが目を見開く。

スズミさんが表情を引き締める。

 

「通常の不良生徒が扱う装備ではありませんね」

 

ハスミさんが遠くを見据える。

 

「外装にPMC系の装備が混じっています。流出品でしょうか」

「正面突破は危険なのよ」

 

私は端末で戦車の位置と周辺地形を確認する。

 

「この位置だと、シャーレへ向かう最短経路を完全に塞がれているのよ。迂回は可能だけど、時間がかかる。内部状況を考えると、あまり遅れたくない」

 

ユウカさんが素早く計算する。

 

「こちらの火力で無力化できる可能性はありますが、負傷リスクが高すぎます」

 

スズミさんが言う。

 

「撹乱して突破する方法はあります」

 

ハスミさんも続ける。

 

「装甲を撃ち抜くことは可能です。ただし、一撃で止める保証はありません」

 

先生は戦車を見て、少しだけ眉を寄せた。

その時、通信が入る。

カヤ先輩からだった。

 

『ココノ、先生。聞こえますか』

「聞こえてるのよ」

『出動可能なヴァルキューレの人員を、そちらへ回しました。まもなく到着するはずです』

 

その直後、別方向からサイレンが聞こえた。

ヴァルキューレ警察学校の車両が通りに滑り込んでくる。

先頭にいた生徒が、こちらへ視線を向けた。

尾刀カンナ。

局長クラスの人間が出てくるとは。

 

「ヴァルキューレ警察学校、尾刀カンナです」

 

カンナさんは短く敬礼する。

 

「戦車はこちらで引き受けます。先生方はシャーレへ」

先生が頷く。

「ありがとう。無理はしないで」

「こちらの台詞です」

 

カンナさんはそう言って、すぐに戦車の方へ向かった。

私は通信を切る前に、カヤ先輩へ短く言う。

 

「助かったのよ、カヤ先輩」

『当然です。あと』

「助かったのよ、室長」

 

通信の向こうで、少し得意げな気配がする。

 

私たちはヴァルキューレが開いた隙に、シャーレへ向かった。

建物内部に入ると、外よりも空気が重かった。

 

破壊された扉。

荒らされた廊下。

散らばる資料。

床に残る足跡。

 

その後、内部の襲撃者を制圧しながら奥へ進む。

そして、先生は彼女と遭遇した。

 

狐坂ワカモ。

七囚人の一人。

襲撃の中心にいたはずの危険人物。

そのはずだった。

 

ワカモは先生に向けて言葉を投げる。

その声には、襲撃者とは思えない熱が混じっていた。

まさか惚れたのだろうか。

 

やがてワカモは撤退する。

追う余裕はない。

今はシャーレの機能回復が先だった。

事態が一段落した後、先生はシッテムの箱を手にすることになった。

 

連邦生徒会でも扱えなかったオーパーツ。

誰も起動できず、ただ保管されていたもの。

先生が触れる。

シッテムの箱が起動する。

 

その後、サンクトゥムタワーの制御権が回復し、キヴォトス全体の混乱は一段階収束した。

 

 

 

 

リン先輩と私は、先生をシャーレのオフィスへ案内した。

 

リン先輩が、シャーレの権限と役割を説明する。

先生は真面目に聞いている。

私は少し離れた場所で、その様子を見ている。

 

説明が一通り終わったところで、リン先輩が私を見た。

私は一歩前に出る。

 

「改めて、私は芳賀ココノ。連邦生徒会防衛室から、先生の補佐としてシャーレへ出向することになりました」

 

先生は驚いた様子もなく、頷いた。

 

「助かるよ。よろしく、ココノ」

私は頭を下げる。

 

「よろしくお願いします。先生」

 

こうして、私のシャーレでの業務が始まった。

 

 

 

 

数日後。

シャーレは、動き始める前からすでに書類に埋もれていた。

 

机の上には、連邦生徒会から回された資料。

各学園からの問い合わせ。

権限確認。

治安報告。

備品申請。

未処理案件の山。

 

先生は机に突っ伏していた。

 

「……終わらないね」

「終わらせるのよ」

 

私は処理済みの書類を横へ移し、次の束を先生の前に置く。

 

先生は顔を上げる。

 

「ココノ、容赦ないね」

「先生が確認しないと進まないものだけ残してるのよ。私が処理できるものはもう処理済みなのよ」

「優秀すぎて怖い」

「褒め言葉として受け取るのよ」

 

先生は苦笑した。

 

窓の外を見ると、日が傾き始めている。

今日は金曜日。

明日は休みだ。

先生もそれを思い出したのか、少しだけ表情を明るくする。

 

「今日を乗り切れば、明日は休みだね」

「その前に今日分を終わらせるのよ」

「現実を突きつけてくる」

「逃げれないのよ」

 

先生はため息をつきながら、書類に目を通す。

しばらくして、ふと思い出したように私を見た。

 

「ココノは、明日予定ある?」

「あるのよ」

「そうなんだ」

「母校で友人とお茶をする予定なのよ」

「いいね。ゆっくり休んで」

「先生も休むべきなのよ」

「努力するよ」

「努力じゃなくて実行するのよ」

 

先生はまた苦笑した。

 

 

 

 

翌日。

聖ウィストリア学園のカフェテリア。

窓際の席に、皆岸メメはいた。

 

目の前には紅茶と、食べかけのアップルパイ。

彼女は私に気づくと、軽く手を上げた。

 

「お疲れ、ココノ」

「お疲れ様」

 

私は向かいの席に座る。

 

「で、先生ってどうだった?」

 

メメは早速聞いてきた。

 

「報告が先」

「はいはい」

 

私は端末を開く。

 

「先生はシャーレに着任。私は補佐として出向することになった」

「そりゃいいね」

「それから、先生への評価は慎重に行うべき」

 

メメが紅茶を飲む。

 

「へえ」

 

私は報告を続ける。

 

先生は戦闘員ではない。

しかし、短時間でユウカさん、スズミさん、ハスミさん、チナツさんを指揮し、シャーレ奪還に成功した。

生徒個々の能力把握が早く、指示も的確。

そして、先生はシッテムの箱を起動した。

連邦生徒会でも扱えなかったオーパーツを。

 

メメはアップルパイを切り分けながら言う。

 

「なるほど。危ない人?」

「少なくとも、重要監視対象」

 

メメが声を少し落とす。

 

「そういえば、エデン条約の話。動き出してるみたい」

私は顔を上げる。

「連邦生徒会長不在で凍結していたはずじゃなかったの」

「そうだったんだけどね。トリニティとゲヘナの間で、また調印に向けて進み始めてるらしいよ」

「マダムは?」

「もちろん、見てる」

 

メメは軽く言った。

 

「先生、シャーレ、エデン条約。忙しくなるね」

「他人事みたいに言わないでよ」

「そう思わなきゃやってらんないのさ」

 

そう言って、メメはアップルパイを口に運んだ。

 

シャーレは今後、キヴォトスの中心になるだろう。

エデン条約も再び動き始めている。

私は、私の役目を果たす。

 

ベアトリーチェ、マダムのために。

 

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