メガゾーン23 量産型ガーランド前編 ―追撃― 作:tell M.G.
ガーランド開発計画に関わった者達、そしてMZ23を巡る戦いの裏側を描いた物語です。
中川真二によるガーランド奪取事件から始まり、PartⅠ〜PartⅡ終盤までの出来事へ繋がっていきます。
本編では描かれなかった兵士達、開発者達、そしてB.D.最終決戦へ至るまでの群像劇となります。
昨夜は少し食べ過ぎた。
胃に残る重さに顔をしかめながら、佐原修二はベッドから身体を起こした。
「……ちょっともたれるな」
昨夜、榊原光一と共に食事へ行き、久々に羽目を外したせいだろう。まだ眠気も抜け切っておらず、頭は鈍いままだった。
その時だった。
部屋の静寂を切り裂くように、軍専用端末のコール音が鳴り響いた。
修二は眉をひそめる。
「何だよ、朝っぱらから……」
苛立ち混じりに端末を掴み、回線を開く。
『佐原修二軍曹。緊急招集だ。ヒトマルサンマル、第一階層車両格納庫へ集合せよ』
短く、それだけ告げられる。
回線は一方的に切れた。
「……緊急招集?」
修二は呟きながら制服へ袖を通した。
ただ事ではない空気だけは伝わってきた。
⸻
第一階層車両格納庫。
予定時刻より少し早く到着した修二は、そこで足を止めた。
「……何だ、この人数」
格納庫には既に大量の兵士達が集められていた。
整備員、武装兵、車両班。
そして、見慣れたガーランド部隊の姿まである。
単なる警備任務ではない。
空気が張り詰めていた。
兵士達も皆、理由を知らされていないのか、小声でざわついている。
やがて集合時間になると、一人の男が壇上へ現れた。
鋭い目付き。
無駄のない軍服姿。
男は静かに一礼する。
「今回の本作戦の指揮を取る、白鳥少尉である」
格納庫の空気が僅かに引き締まった。
白鳥は周囲を見渡し、そのまま続ける。
「諸君らに集まってもらったのは、これより説明する作戦に参加してもらう為だ」
一拍置き、白鳥は告げた。
「村下智美殺害犯――矢作省吾が、昨夜出現した」
格納庫がざわめく。
「さらに、プロトガーランドを奪取し逃走している」
修二は思わず眉をひそめた。
矢作省吾。
ニュースで何度も耳にした名前だった。
村下智美殺害事件の犯人として、異常なほど連日報道されている男。
ただの殺人事件にしては、軍まで絡むような報道のされ方に違和感はあった。
だが、深く考えた事はない。
しかし今――。
“プロトガーランドを奪った”
その言葉だけは理解が追いつかなかった。
どういう事だ?
なぜ一般人が軍用機を奪取できる?
白鳥は淡々と説明を続ける。
「おそらくだが、矢作省吾は未知セクション“バハムート”へ向かうと思われる」
その単語に、一部の兵士達が顔を見合わせた。
修二も聞いた事がある。
旧市街地下に存在するという未確認区域。
真偽不明の隔離エリア。
「現在、六本木旧大使館地下を中心に包囲を進めている」
白鳥の声が格納庫に響く。
「だが、向こうにもガーランドが存在している。万が一を考慮し、こちらもガーランド部隊を編成する」
修二は内心で首を傾げていた。
たかが一人の逃亡犯。
しかも相手は一般人だ。
確かにガーランドを持っているとはいえ、一機だけのはず。
それに対して、この兵力。
明らかに異常だった。
まるで――何かを恐れているような動きだ。
白鳥は続ける。
「よって、追撃部隊と迎撃部隊に分かれ配備する」
大型モニターに複数の配置図が映し出される。
「矢作が今夜にも動く可能性がある。各員、これより即時配置につけ。詳細は各小隊指揮官の指示に従え。以上だ」
説明が終わると同時に、兵士達が一斉に動き始めた。
修二は抑え切れず、近くにいた兵士へ声を掛ける。
「一般人相手に、何で軍がこんな大掛かりな作戦をやるんですかね?」
男の胸元の名札には、
“町川 輝”
と書かれていた。
町川は少し考えるように目を細める。
「……さっき、“プロトガーランドを奪取した”って言ってましたよね」
「ああ、はい」
「俺、以前ガーランド1号機捕獲作戦に参加した事があるんです」
修二は少し驚く。
町川は苦笑混じりに続けた。
「で、恥ずかしながら取り逃がした」
「……その相手が?」
「矢作省吾ですよ」
修二は思わず黙り込んだ。
町川の表情は冗談を言っている顔ではなかった。
「確かに一般人です。でも……意外と油断できない相手だと思いますよ」
町川は真っ直ぐ修二を見る。
「気を引き締めて行きましょう」
そう言い残し、町川は他の二人と共に去って行った。
迎撃部隊らしい。
修二はその背中を見送りながら、小さく息を吐いた。
やがて、自分にも指示が下る。
追撃部隊。
使用機体――量産型ガーランド。
修二自身が開発に携わった機体だった。
そして今、その機体と共に新たな戦いへ巻き込まれていく。
まだ修二は知らない。
この作戦が、自分達の知る世界の裏側へ繋がっている事を。