メガゾーン23 量産型ガーランド後編 ―迎撃― 作:tell M.G.
町川達は、無言でモニターを見つめていた。
薄暗い高架下区域。
封鎖されたE4区画の中央に、一機の巨大な機体が静かに立っている。
薄いブルーの重装甲機。
ヴィルデ・ザウ。
最新鋭の指揮官専用機だった。
その後方に量産型ガーランド部隊が展開し、道を塞ぐように横一列に並ぶ。
完全包囲。
逃げ場は無かった。
『矢作はまだか?』
通信回線に白鳥少尉の低い声が響く。
『……いや、まだ来ておりません』
最前列の量産型ガーランド隊員が答えた。
その直後、別回線が割り込む。
『矢作の集団が線路内へ侵入! 現在追撃中! まもなくE4区画へ到達します!』
白鳥は小さく笑った。
『ようやくだ……』
半年。
ずっとこの瞬間を待っていた。
回線を切らぬまま、白鳥は独り言のように呟く。
『早く来い……矢作……!』
町川はモニター越しにヴィルデ・ザウの背中を見つめていた。
異様な威圧感だった。
ただ立っているだけなのに、周囲の空気を支配している。
やがて――。
前方トンネルの奥に、いくつもの光が見えた。
バイクのヘッドライト。
『来た!』
一瞬で全部隊に緊張が走る。
先頭にいたのは黒い大型バイク。
その後ろ。
赤い巨大な機体――プロトガーランド。
さらに数台のバイクが続き、部隊を視認した瞬間、一斉に急制動をかけた。
タイヤが火花を散らす。
同時に量産型ガーランド隊が銃を構えた。
『……ここまでだ、矢作』
白鳥少尉が回線を開く。
『お前一人のために、これ以上仲間を失いたくはないだろう』
静かな声だった。
だが、その奥には怒気が滲んでいる。
『大人しく投降しろ。残りの連中はバイクを降りろ。両手を上げ、その場から動くな』
『けっ……ここまで来て止まれるかよ!』
金髪の男が怒鳴った。
白鳥は構わず続ける。
『下手な真似はするな。全員死ぬぞ』
短い沈黙。
そして。
『……わかった。今行く』
矢作の声だった。
赤いプロトガーランドが、ゆっくりと前へ進み出る。
『そのまま来い』
白鳥は警戒を解かない。
町川達も固唾を飲んで見守っていた。
距離が縮まる。
プロトガーランドはヴィルデ・ザウの目前で停止した。
『止まれ』
白鳥の声が低くなる。
『武器を捨てろ。両手を上げて降りるんだ』
その瞬間だった。
白鳥の表情が変わる。
『……待て』
ヴィルデ・ザウがわずかに身構える。
『両手に持っている物を見せろ』
町川の背筋に冷たいものが走った。
何かある。
直感だった。
『見せろ!!』
白鳥が叫ぶ。
同時に――爆発。
轟音。
爆炎。
視界が一瞬で白く染まった。
『うわっ!?』
煙が周囲を覆い尽くす。
何も見えない。
味方の位置すら判別できなかった。
『全機、むやみに動くな!』
白鳥の怒号が飛ぶ。
『まだ近くにいるはずだ! 絶対逃がすな!』
前列の量産型ガーランド一機が煙の中へ前進する。
だが次の瞬間。
『上だァー!!』
黒崎の叫び。
直後、前進した量産型ガーランドが爆散した。
上部からの攻撃。
ヴィルデ・ザウが即座に回避運動へ入る。
その時だった。
横を高速で駆け抜けるエンジン音。
『あれか!』
杉山が反応した。
レーザーオーブガンを発射。
だが最初の二発は外れる。
『待て!!』
白鳥が叫ぶ。
『その音はガーランドじゃない!!』
しかし杉山には聞こえていなかった。
さらに発射。
『うわあああっ!!』
後方を走っていた二台のバイクが吹き飛ぶ。
『他の二台は撃ち損じました!』
杉山が報告する。
『ザコはいい!!』
白鳥が怒鳴った。
『プロトガーランドを追え!!』
その時。
杉山の目前に、転倒した男がいた。
矢作の仲間だった。
怪我をして動けないらしい。
杉山が銃口を向ける。
『……矢作は助けに来ないのか?』
返事は無かった。
次の瞬間。
爆発。
杉山の後方。
そしてヴィルデ・ザウの足元で同時に火柱が上がる。
『なっ!?』
揺らぐヴィルデ・ザウ。
その脇を、巨大な影が突っ切った。
プロトガーランド。
しかも前方には大型トラック。
仲間を盾にするように押し込みながら強引に突破してくる。
『止まれぇぇぇ!!』
ヴィルデ・ザウが正面へ回り込む。
町川と黒崎も反応した。
二機は左右へ展開。
プロトガーランドを挟み込む。
銃口が向けられる。
白鳥少尉の怒声が響いた。
『ガキのくせに……軍を舐めるな!!
許さんぞ!』
ヴィルデ・ザウの腕部装甲が展開する。
内蔵火器。
砲口がプロトガーランドを捉えた。
対する矢作も銃を構える。
だが。
『貴様の銃に――もう弾は無い!!』
閃光。
発射。
正確無比な射撃だった。
プロトガーランドの腕部。
脚部。
機能部位だけを撃ち抜く。
赤い巨体がバランスを崩し、崩れ落ちた。
町川達は言葉を失っていた。
圧倒的だった。
これが正規軍。
これが最新鋭機。
ヴィルデ・ザウはゆっくりと歩み寄る。
『手間をかけさせるガキだ……』
巨大な手がプロトガーランドの頭部を掴む。
『出てこい、矢作!!』
装甲が悲鳴を上げる。
頭部が力任せにもぎ取られた。
ハッチが途中で引っかかる。
ヴィルデ・ザウは、それすら紙を剥がすように引き裂いた。
コクピットが露出する。
白鳥の表情が止まった。
町川達も息を呑む。
そこにいたのは――
矢作省吾ではなかった。