メガゾーン23 量産型ガーランド後編 ―迎撃― 作:tell M.G.
町川機はマニューバクラフトへ変形し、東京ベースへ向かっていた。
眼下の街には、すでに無数の戦闘痕が刻まれている。
崩れた高架。炎上するビル群。道路に突き刺さった機体残骸。
そして各所には、撃墜された友軍機が黒煙を上げていた。
「……くそっ」
短く吐き捨てたその時だった。
少し離れた空域で、量産型ガーランド一機が異形の敵と交戦しているのが見えた。
町川は即座にスロットルを押し込む。
「大丈夫か!? 加勢する!」
急減速。
同時にマニューバスレイブへ変形。
着地と同時にレーザーオーブガンを連射した。
蒼白い光弾が夜の街を裂く。
本来なら、人々が行き交い、ネオンに照らされる華やかな街。
しかし今そこには、人影一つ存在しない。
いるのは、見慣れぬ異形だけだった。
敵は上下左右へ不規則に蠢き、まるで重力を無視するような動きで光弾を回避していく。
「くそっ……動きが気色悪いんだよ! おまえ!」
町川は叫びながら引き金を引き続けた。
だが当たらない。
敵の動きは生理的嫌悪感すら覚えるほど異様だった。
残弾表示が減っていく。
予備カートリッジは、あと一つ。
「……っ!」
町川は深く息を吐き、敵の軌道を見据えた。
次の瞬間。
放った一撃が敵を掠める。
「捉えた!」
さらに追撃。
今度は命中した。
異形の敵の動きが鈍る。
そこへ友軍機が一斉射撃を浴びせた。
閃光。
異形の敵は爆散した。
『……ありがとう』
通信が入る。
町川が返答しようとした――その瞬間だった。
ビルの内部を突き破り、新たな異形が飛び出した。
「!?」
町川は即座に後退する。
一歩遅れて友軍機も下がろうとした。
だが遅かった。
無数の触手が伸び、友軍機へ絡みつく。
「なっ――!」
触手は装甲を容易く貫通した。
機体が痙攣するように震え、そのまま力なく倒れ込む。
「くっ……!」
町川は前進した。
倒れた友軍機を庇うように、レーザーオーブガンを撃ち込む。
だが今度は触手がこちらへ向かってきた。
ガガガガッ!
機体装甲を貫き、警告音が鳴り響く。
ダメージ表示が赤く染まっていく。
「っ……!」
一発。
外れる。
二発。
また外れる。
三発目も逸れた。
敵は不規則に蠢き続ける。
「当たれぇぇっ!!」
四発目。
光弾が敵を掠めた。
そして――
五発目。
直撃。
異形の敵は爆散した。
しかしその瞬間。
爆風が町川機を飲み込む。
「うわぁぁぁっ!!」
機体は後方へ吹き飛ばされ、そのままビルへ激突した。
ガシャァァン!!
衝撃が全身を貫く。
視界が揺れる。
警報音が鳴り続けるコクピットの中で、町川は苦痛に顔を歪めた。
その時だった。
声が聞こえてきた。
「……?」
倒れた機体のすぐ横。
ビルのショーケース内に設置された複数の大型テレビ。
その全てに、一人の男が映し出されていた。
『作戦遂行中の全員に告ぐ』
低く冷たい声。
町川は痛む身体を起こし、メインモニターのチャンネルを切り替える。
同じ男の顔が映った。
『ただいまより作戦を変更する』
町川の目が細まる。
『一人でも多くの住民を宇宙口及びシェルターへ誘導後、MZ23を放棄する。以上』
「……は?」
理解が追いつかなかった。
作戦変更。
しかも、MZ23放棄。
この作戦を知った上で命令を出せる人間。
軍上層部。
つまり――。
「どういう事だよ……」
町川は呟く。
だが、一つだけ理解できる事があった。
MZ23を捨てる。
それはつまり。
宇宙部隊――FX艦隊が敗北したという事だ。
だからこそ、異形の敵がここまで侵入してきている。
町川はゆっくり身体を動かした。
全身が痛む。
「……っ」
おそらく打撲。
だが、まだ動ける。
機体を確認する。
損傷は大きい。
しかし、まだ動きそうだった。
周囲へ視線を向ける。
先程の友軍機は倒れたまま動かない。
全身に触手が突き刺さっていた。
助からないだろう。
町川は静かに目を伏せた。
そして操縦桿を握る。
機体は再びマニューバクラフトへ変形した。
「黒崎、杉山……」
苦笑混じりに呟く。
「作戦変更だとさ」
エンジンが唸る。
「今度は一人を追い詰めるんじゃなくて、大勢を誘導しろってさ」
小さく笑った。
「真逆の命令だな」
アクセルを吹かす。
「さて……もうひと頑張りしてくるよ」
夜の街へ機体が浮かび上がる。
「痛いのも、疲れるのも……生きてる証だな」
傷だらけの量産型ガーランドは、再び戦場へ飛び立った。
【エピローグ】
歌。
避難民達へ降り注ぐ、時祭イヴの声。
崩壊が始まったMZ23の街に、その歌だけが優しく響いていた。
傷だらけの佐原修二は、人々に押されながらシェルターへの通路を進んでいた。
誰もが無言だった。
泣き叫ぶ者もいない。
ただ、生きるため前へ進んでいる。
修二はふと足を止めた。
崩れかけたビル群の隙間。
そこに、一機の量産型ガーランドが見えた。
両脚を失い、ビルへもたれかかるように停止している。
装甲は裂け、複数の異形の触手が機体を貫いていた。
すでに動く気配はない。
修二はその姿を見つめる。
「……アイツも戦ってたんだな」
小さく呟く。
「みんなを守るために……命を賭けて」
誰だったのかは分からない。
名前も知らない。
だが確かに、自分達を逃がすため最後まで戦った人間がいた。
後ろから押し寄せる避難民の波に押され、修二は再び歩き出す。
あれほど華やかで、賑わっていた街。
光に溢れていたMZ23。
しかし今、その景色は崩れ落ち、もう微塵も残ってはいなかった。
時祭イヴの歌声だけが、静かに街へ降り注いでいる。
その歌は、
もう誰にも届かない。
そして――
MZ23の崩壊が始まった。