妹の対戦を観戦する兄貴の話。対戦内容ガバガバだけど許して(懇願)

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対戦内容ガバなのは許してくださいお願いします


変とか変じゃないとか

 

 物心ついてすぐの頃。親戚のお姉さんから“パートナーを与える”と言って生体を譲ってもらった時、なんかおかしいとは思ったのだ。

 

 ぱっと見は、縄張りの親分でも張れそうなほど巨大だが貧相な魚だ。丸々と大きな身体が、我が家の床でぴちぴちと跳ねている。恐らく肺魚なのだろう。陸上でも特に苦しそうにする様子は見られないが、明らかに移動には困難を生じていそうである。

 

『君の相棒よ。大丈夫大丈夫、素質ありそうな子を選んだし! 知ってる? この子、育ったらそれはもう綺っ麗なんだから!』

 

 お姉さんはそう言うと、朗らかに笑って俺の頭を撫でた。

 

『いいなー、兄たん』

『大丈夫! 来年はメイちゃんの番だからね!』

 

 妹が羨ましそうに俺を見ているが、俺はそれどころではなかった。

 

 ヒンバスじゃねえか。

 ここ、ポケモン世界じゃねえか! 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 ポケットモンスターと言えば、現代において世界的な知名度を誇るIPである。

 

 1000を超える魅力的なポケモンというキャラクターと、そのパートナーであるこれまた魅力溢れるトレーナーたちが彩る世界。

 

 現実のどこかをモデルにした架空の地方の旅は、数多くの人にとって原初のゲーム体験になっていると思われる。心と目が濁ってしまった大人たちになると「ポケモンは対戦ツール」とか言い始めるんだけど今は関係ない。「ダメ計」とか「ポケ徹」とか言い出すけどマジで微塵も関係ない。

 

 問題なのはそう、俺がどうして日本からイッシュ地方に生まれ落ち、根を下ろす羽目になったかということであり───

 

「お兄ちゃん、バトル! バトルしよ、バトルバトルバトルバトル」

「るっせえ!」

 

 妹のメイがトレーナーズスクールから帰ってきた。

 そう、あのメイだ。ベーグルを側頭部に二つ括りつけたような髪型の元気後輩系美少女、ブラック2/ホワイト2の女主人公のメイちゃんである。妹なんだよね。仲が良いんだ。

 

 ……初めは単なる疑惑に過ぎなかった。

 なんだかんだで兄に似て優秀な可愛い妹だったのだが、成長するにつれて(ん?)と思う瞬間は増えていった。服の好み、バトルの才能、声、顔、仕草。トドメにあの髪型だ。

 

 メイじゃねえか! (歓喜)

 

 俺は前世(ということにしている、便宜上)において、女主人公のデザインではメイが一番好きだった。いやまあ皆好きなんだが、一番を決めろと言われたら苦渋の決断としてメイを指差す。そういう存在である。頭のベーグルが美味しそうで可愛いからな。

 それが妹というのだから嬉しいに決まっている。無責任に愛情注ぎ放題だ! 兄という立ち位置、非常に良い! 

 

「ふーんだ、うるさくないもんねー。お兄ちゃん、あたしにされることなら何だって喜ぶくせに」

 

 まあそうしたらこんなクソ生意気な妹に育ったんですがね。接し方間違えたかな。

 

「図星を突くな。頬ずりするぞ」

「キモいけどいいよ」

「えっいいの?」

「とにかく、今日こそあたしが勝ぁつ!!」

 

 ……ということで、求められるがままに接していたら天然バトル狂の元気娘が爆誕してしまった。ちなみに友達はいない。泣けてくる。

 彼女は言うが早いか、腰のホルダーからボールを一つ抜き、オーバースローでぶん投げた。

 

「行けっ、バンちゃん!」

「うおっいきなりガチ過ぎ……!」

 

 河川敷に深緑の装甲を纏った二足のポケモンが着地する。ずぅん、と地面が揺れて、舞い上がった砂は彼女を中心に渦を撒き始める。

 

 目の前のソイツは、ちょうど怪獣映画の着ぐるみめいた造形である。一つ異なるのは、それが作り物ではなくれっきとした生物であり、血走った両目に殺意を滾らせて俺を睨んでいることだろうか。昔からこうなんだよな。なんで? 

 

「バンちゃん、お兄ちゃんじゃなくてお兄ちゃんのポケモンと戦ってね!」

「何度聞いてもアホみたいな指示内容だ……」

 

 了承の意なのか、ぐぼあー、と吠えるバンギラスのバンちゃん。ちなみに昔はヨーギラスだったのでヨーちゃんだった。妹のネーミングセンスなんてそんなものである。

 

 俺が全く乗り気でないことに気付いたのか、妹は砂嵐の中をゴーグルも無しに突っ切って───今のどうやったの? 俺の胸元に飛び込み、身体を掴んで揺さぶった。

 

「ねーお願い、来週フロンティアシティで大会戦あるんだから! スパー相手になって! チャンピオン級かかってるし、世界に中継されるんだからさー!」

「ええー……いいけど……お前対戦中変なこと言うなよ……」

「言わないよぉ!」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 照明が落ち、巨大モニターだけが青白く輝く。観客席を埋める数千人の歓声は、もはや地鳴りと呼んで差し支えない。

 

 舞台は世界でも最大級のスタジアム、バトルアリーナ。キャラウェイオーナーによって主催されるこの大会は、トレーナーの序列を徹底的に決めるという戦いの祭典である。頂点であるチャンピオン級の席は限りなく少なく、勝率と勝利数、どちらも揃わなければ座ることは許されない。

 

 実況席ではアナウンサーが絶叫していた。

 

「さあ始まった! 東はチャンピオン級目前、メイ選手! 西は勝率7割をキープ、レイン選手が入場です!」

 

 モニターに向かって右側のゲートから現れたメイは、スポーティな格好で周囲に手を振りながら中央へと歩いていく。観客席からは即座に独特の歓声が飛び出した。

 

「来た!」

「メイだ!」

「ありえない!」

 

 だが当の本人は慣れた様子で、軽くサンバイザーのつばを押し上げるだけだった。

 対戦席に着くと、向かいのレインが苦笑する。

 

「相変わらずすごい人気だな」

「当然。私、努力してますから」

「いや、その、ほんと徹底してるよな……その年齢で……」

 

 メイは真顔のまま腕を組んだ。

 

「中途半端が最もありえませんぞ!」

 

 ブザーが鳴る。巨大スクリーンに、両者の使用ポケモンが映し出された。

 

 メイ側は、

 

 ・ユキノオー

 ・バンギラス

 ・アシレーヌ

 ・ケンタロス(パルデア・炎)

 ・ギャラドス

 ・ヌメルゴン(ヒスイ)

 

 サイクル構築だ。というかアレだ。隠す気ないだろ。

 観客席の誰もが絶句した。天候、耐性、火力を兼ね、代わりとばかりに小技を切り捨てたかの如き編成だった。

 

 一方、レイン側は高速アタッカー中心の攻撃的な並びである。

 

 ・ドラパルト

 ・リザードン

 ・ミミロップ

 ・カバルドン

 ・ウォッシュロトム

 ・ルカリオ

 

 レインは肩をすくめた。

 

「今の環境でそこまで受け回しに寄せるの、逆に怖いよ」

「受け回しではありません」

 

 メイは朗らかに笑って即座に返す。

 

「受け出して破壊するのですぞ!」

 

 ルールは見せ合い3対3。互いの手持ち6体を見せ合った上で3体ずつ選択し、その選出メンバーで戦い合うというのが公式ルール。二人はお互い三つのボールを手に取った。

 

『バトル、スタート!』

 

 レインの初手はドラパルト。

 対するメイは、静かに最初のボールを掲げた。

 

「出てこーい、ユキちゃん!」

 

 白光の中から現れたのは、巨大な樹氷の化身たるユキノオー。ずしりとした着地音と同時、フィールドに雪が降り始める。

 観客席がどよめいた。

 

「ユキノオー側有利対面か?」

「ごめん全然わからん! なんだこの対面!」

「ありえなくない!?」

 

 レインも目を見開く。ドラパルト対面に出すのか。

 しかし、メイは不敵に笑った。

 

「問題ありません」

 

 ドラパルトが宙を滑った。かのポケモンが超高速を誇るのは有名な話だ。

 

「かえんほうしゃ!」

 

 灼熱の炎が一直線に放たれた。降りしきる雪を蒸発させながら、ユキノオーへ直撃。

 

 爆炎。

 観客席から悲鳴が上がる。

 

 だが、煙の向こうで、ユキノオーはなお立っていた。

 

「耐えたァ───!!」

 

 実況が絶叫する。

 メイは微動だにしない。

 

「タスキか!」

「ぺゃっ! 役割対象だからね!」

 

 ユキノオーに氷気が集まる。

 

「ふぶき!」

 

 轟音。

 氷の波濤がドラパルトを真正面から叩き潰した。レインは思わず息を呑む。

 

「一撃……!」

「耐えて返す以外あり得ない!」

 

 ドラパルトが倒れる。メイの兄も膝から崩れ落ちた。俺の妹が変なことばっか言ってる。

 だがレインも即座に次のボールを投げた。

 

 現れたのはカバルドン。天候を書き換え、砂嵐による傷でユキノオーを倒そうと言うのか。メイは即断した。

 

「ここは引きですなー」

 

 戻されたユキノオーに代わり、麗しい歌声と共に姿を現したのはアシレーヌ。どよめきに空気が揺れる。レインの選出がピンポイントで読まれ尽くしているかのようだ。彼女の強みは解析(これ)か。男は腹の底が震えてくるのを感じた。

 

「ここまで読まれるとはね……!」

「先に言っときますけどここあくびはあり得ないんで」

 

 メイが高速で何か詠唱したが、その場にいる誰もが聞き取れなかった。早口すぎたのだ。

 直後、カバルドンがあくびでアシレーヌを流そうと試みるが一手遅い。

 

「うたかたのアリア!」

 

 アシレーヌの歌声が一層激しくなり、呼び出された水流がカバルドンを痛打。そのままカバルドンは地に伏せた。

 観客席から歓声が上がる。

 

「だから言ったでしょう」

 

 メイがニチャア……と笑った。

 彼女に友達がいない理由を体現したかの如き、ネバネバとした笑みだった。

 

「ぼくびは、()()()()()

 

 観客席が沸く。

 実況席では解説者が思わず身を乗り出していた。

 

「メイ選手、完全に主導権を握っています! しかもただ有利対面を押し付けるだけじゃない、相手の選出まで読んでいる!」

「ええ……しかも今の環境でユキノオーを採用している時点で、相当尖っていますな」

 

 隣の解説者が唸る。

 

「普通ならバンギラスと天候が競合する。弱点もメジャーなタイプだ。しかし彼女は、“必要な場面だけ雪を通す”前提で組んでいるのでしょう」

 

 レインは奥歯を噛み締めた。

 だが、まだ心までは崩れていない。

 

「なら、これならどうだ!」

 

 放たれた三体目。

 現れたのは、ウォッシュロトムだ。青白い電光を纏ったロトムが、フィールド上へ滑り出る。

 観客席がざわめいた。

 

「ウォッシュロトム!?」

「だが、レインにはもうサイクル戦は無理だ!」

 

 ボルトチェンジ、おにび、ハイドロポンプ。受け主体の構築へ圧力を掛け、器用に隙間を埋めるタイプのポケモンだ。他に主軸となるポケモンがいれば活躍も見込めたのだろうし、カバルドンを居座らせた判断ミスも響いている。

 ただし、今はアシレーヌが眠っている。無防備な隙にボルトチェンジ二発で落とせるとレインは踏んでいた。

 レインが笑う。

 

「アシレーヌ居座りは無理だろ?」

「そうですねぇ」

 

 だがメイは、焦るどころか嬉しそうだった。

 

「だから交代するんですよ」

 

 アシレーヌが戻っていく。

 代わってフィールドへ現れたのは、

 

「バンちゃん!」

 

 黒鉄の巨体が砂煙と共に降り立つ。

 

「読んでたさ!」

 

 しかしレインもさる者、交代を読んでハイドロポンプを指示していた。

 タイプ一致の弱点高火力技がその岩肌へ叩き込まれるがしかし、バンギラスは微動だにしない。

 

「ん、───」

「特殊耐久で受け切ったァ──!!」

 

 メイの呟きを実況席の絶叫が掻き消す。観客席もまた震えていた。

 

 レインの顔から笑みが消える。ロトムによる交代読みは通った。だが、“有利な展開”にはなっていない。

 ハイドロポンプには溜めの時間があり、高速戦闘中に必ず命中するとは限らない。次を外せばロトムはバンギラスの高火力技で落ち、三体目の脱落、つまりレインの敗北が確定してしまう。

 

「敗着は初手か……ユキノオーによる役割破壊!」

「ええ」

 

 メイは朗らかに笑う。

 

「交代戦って、楽しいでしょう?」

「その笑い、この手で崩したかったよ……!」

 

 レインは舌打ちしながら最後の指示をロトムに下した。

 

「ハイドロポンプ!」

「うん」

 

 メイは笑いを静かなものへと変える。

 

「一か八か。嫌いじゃないです」

 

 迫る水流砲を前に、バンギラスも両の足を踏み締めている。

 

「でもねえレイン氏───んん、ロマンを通すには、“足りる耐久”が必要なんですな! 総合的にロジックして、耐える以外あり得ない!!」

 

 そう。このバンギラス、体力と特防が厚くなるよう調整されている。

 

「なっ、二耐え調整!? 異教徒じゃないか!!」

「負けたら破門! なりふり構っていられないのですな!」

「あり得ないんじゃないのか!?」

「むしろアリエール!!」

 

 いやあり得ないだろ。お前多分破門だよ。

 兄は観客席で頭を抱えた。また妹の奇行・失言まとめサイトに燃料が投下されてしまった、と。

 

「バンちゃん、メガシンカ! ストーンエッジ!!」

 

 そして───

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 スタジアムの照明が一斉に灯る。

 巨大モニターには、“WINNER MEI”の文字。

 

 実況はなお興奮冷めやらぬ様子だった。

 

「凄まじい試合でした! 役割論理をベースとした重サイクル構築! しかしメイ選手、ただ理論を押し付けるだけではない! 読み、経験、そして大胆な調整変更まで含めて、まさしくトッププレイヤーです!」

「ええ」

 

 解説者も深く頷く。

 

「恐らく彼女、“勝つためなら論理すら拡張する”タイプですな。あれは純粋な論者というより、ただの実戦屋です」

「なるほど!」

「ただまあ」

 

 解説者が苦笑した。

 

「さっきの『むしろアリエール』発言で、ネットは荒れるでしょうな」

「あ────!!」

 

 実況が笑い混じりに声を上げた。

 

「トレンド入りしてる! もうしてる!!」

 

 モニターの映像が配信のものに切り替わり、画面端には既に高速で流れるコメント群。

 

『異教徒堕ちで草』

『アリエール派、爆誕』

『二耐え調整はありえるのか問題』

『メイちゃん破門RTA』

『変なお姉ちゃんがんばえー』

『HDはボンギラス』

『兄貴見てるー? やーいお前の妹ヤーティ使い!』

『論者のくせにほんと強いな』

『は?』

『公開侮辱はあり得ないwww』

 

 用意されたVIP席で俺はそっと顔を覆った。もう見てられない。めっちゃ笑われてますやんうちの妹。

 

「だから変なこと言うなっつっといたのに……」

 

 隣の観客がこちらを見る。

 

「え? なんでしょうか、キョウヘイ様」

「いや、何でもないです」

 

 妹がまたやらかした。しかも世界配信で。

 絶対あとで擦られる。なんせ最近神童と呼ばれ始めた、アイドル級の容姿の彼女が役割論者という動かぬ証拠だ。未来永劫デジタルタトゥーと化すだろう。兄として断言できる。いつか絶対後悔する、と。

 

『お兄ちゃーん、おかげで勝てたよー! 愛してるー!』

 

 デジタルタトゥー確定だ。ブラコン属性でネットのオモチャだろう。

 だが……フィールド中央で楽しそうに笑うメイを見ていると、不思議と悪い気はしなかった。

 

 子供の頃からそうだった。

 あいつはいつだって全力だった。好きなものに真っ直ぐで、勝負になると目の色が変わって、周りが呆れるくらい夢中になる。その結果として、変な方向へ突き抜けることも多いのだが。

 俺が孤独感に狂わなくて済んだのも、妹がメイだったおかげなわけで。なにせ俺も友達がいないからな。

 

「……まあ、いっか」

 

 俺は小さく笑った。

 先ほど話しかけてきた人の反対側の隣では、連れてきていたミロカロスが静かに鳴いている。

 かつてヒンバスだった相棒は、照明を受けて虹色に輝いていた。

 

 あの日。

 床の上でぴちぴち跳ねていた貧相な魚は、今では誰よりも美しい。

 そして、ぼっちでバトル狂の妹は、今日から誰もが認めるトップトレーナーだ。

 

 人生、何が起こるか分からない。いきなりある朝目覚めたらポケモン世界に転生? 憑依? していることだってあるわけだし。

 

 本当に。

 

 総合的にロジックしたって、誰にも分からないのだ。

 




思いつくままに指動かしたら話が散らかりました。供養です

あとメイの論者化はお姉さんが大丈夫大丈夫言いながらオヤブンコイキング渡してきたのがきっかけです。ヤャラドス以外あり得なくなりました

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