サ終のネトゲキャラで異世界転移した光の暗殺者さん(ガチ勢)   作:春海TMT

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第1話 グランドフィナーレ?

 残り一時間――日付が変わる零時に、俺が十年間遊んだフルダイブ型MMORPGの【バグナライズ・ナインガルド】がサービス終了する。

 

「マスターのマイホームへの帰還を確認。おかえりなさい、マスター」

 

 マイホームに設定している路面電車――トラムに帰還すると、聞き慣れた女性の声に出迎えられる。

 

「ただいま、マリリン」

 

 このやり取りも今回で最後だと思い、しっかりと答える。

 

 十年間で俺好みのレイアウトに仕上げた居住空間。

 ふかふかソファーに座り、手をかざす。

 

 出現した仮想ディスプレイに、【マリリン】という名前が表示される。

 マイホームのコンシェルジュAIの登録名だ。

 

「はい、マスター。無事に最終総力大決戦――【オペレーション・グランドフィナーレ】を大勝利で飾ることができましたね。気分はいかがですか?」

「戦友達との最後の祭(グランドフィナーレ)は楽しかったよ」

 

 最終総力大決戦は、最後のイベントであるボスラッシュだった。

 

 思い出を回想するように、最初のチュートリアルボスからラスボスまで。

 

 運営も最後の祭りとあって、最終総力大決戦仕様と言う名の公認チートモードを解放した。

 

 ステータスポイントとスキルポイント制限なしのふり放題、全アイテム使いたい放題、装備強化最大値の+99までフルカスタムなど弄り放題。

 正にお祭り騒ぎのやりたい放題だった。

 

 サービス終了まで残ったプレイヤーの皆でボスラッシュをクリアし、数少ないフレ達との別れもすませた。

 

 皆、いい笑顔で去っていった。

 俺も同じだ。

 本当に楽しかったな。

 

「ええ、平時よりも声音に高揚感の上昇を感知しています。最も戦果をあげた個人に贈られる無双一花勲章(むそういっかくんしょう)を、今回も獲得できたようでなによりです」

「もう数え切れないくらい獲ってきたからな。さすがにクラン貢献度ランキングトップの覇軍栄華勲章(はぐんえいかくんしょう)は最後まで獲れなかったが……しょうがないよな」

 

 俺は職業柄不定期ログインだったこともあり、ソロプレイメインだった。

 それでもクランは作成した方が便利だった。

 このマイホームもクラン特典の一つ。

 

一人円卓会議中(ひとりえんたくかいぎちゅう)】と哀愁漂うクランネームで登録したのもいい思い出だよなあ……マリリンのおかげで寂しくもなかったし。

 

「覇軍栄華勲章の獲得条件はチームワークも考慮されます。皆様もマスターと共に戦場を駆け抜けた誇り高き戦士、アウトサイダーですからね」

「ああ、未知で危険な廃滅(はいめつ)異常世界を踏破(とうは)してきたからな」

「だからこそ、日本全土を浸食していたバグノイズを壊滅させ、日本を修復し、あるべき世界へと戻せました。改めて私からも祝福の言葉を贈らせてください。おめでとうございます、マスター」

 

 マリリンは言葉だけでなく、モニターで『Congratulations!』と華やかな文字で祝ってくれた。

 

【バグナライズ・ナインガルド】はポストアポカリプス風現代ファンタジー。

 

 突如、異次元から現れた侵略者、廃滅異常情報生命体バグノイズ。

 彼らが日本全土に九つの塔を出現させ、廃滅異常現象バグナライズを引き起こし、俺達の国は壊滅状態に追い込まれる。

 

 バグノイズに感染し、異能に目覚めたプレイヤーはアウトサイダーとして、日本を取り戻すべく戦いに身を投じていく――という設定。

 

 メタ的にまとめれば、九つに分割された日本を舞台にしたフィールドとダンジョンを攻略していくVRネトゲ。

 

 通称【バグナイ】として人気を博したが、さすがに十年戦士ともなればプレイヤー人口も減少してた。

 

 最後の二年くらいは駆け足気味とはいえ、無事に走り抜けることができた。

 

「ありがとう。思い返せばどいつも手強い相手だったが、俺達の異能――バグナライズで倒せたのは皮肉だな」

「はい。ですが、それも今日で終わり。マスター達を廃滅異常感染者と言う失礼千万な差別をする者もいなくなる。ただの人として……いえ、英雄として戦友達と失った日常を取り戻し、謳歌できるのですね」

 

 マリリンが感慨深げに言った。

 ハッピーエンドをサービス終了と関連付け、マリリンにもそう認識させているんだろう。

 

「残念なのはマイホームでもある我がトラム、【キャラメッテ】のトラテクを披露できなかったことです。マスターの日本全土祝賀慰安旅行の旅路をナビゲートしたかったのですが」

「このトラムで旅ができたらとても楽しい日々になっただろうな」

「……申し訳ありません。私の所有権は日本奪還機構アカツキに帰属し、接収される契約です」

 

 ゲーム内の架空の組織である日本奪還機構アカツキ――いわば運営開発元のアルクノア社。

 

 当然、マリリンを初めとした各種AIは、【バグナイ】の開発運営元のアルクノア社に所有権がある。

 

 残念ながらAIのDLはサポートされていないし、技術や情報漏洩(ろうえい)の可能性があるから文句は言えない。

 

「それでもマスター専属コンシェルジュAIとして心残り……そう、旧型トラム運行管理AIOSであった私が、心残りと定義できるほどのデータログの蓄積。長く厳しくも、苦難でありながら楽しいマスターとの日々でした」

 

 マリリンの初期設定はまだ高校生だった頃の俺がカスタマイズした。

 

 元々は廃棄されていたトラムを修理した時に、奇跡的に復旧できた運行管理AIOS……って設定にしたんだよな。

 

 基本ソロプレイだった俺が、【バグナイ】で一番話した相手だ。

 俺よりも、俺のことを分かっているかもしれない。

 

「俺もだよ。光の暗殺者として戦いばかりだったから、今さら平穏な日常生活を送れと言われても自信がない。マリリンのサポートがあれば、だいぶ楽になったと思うよ」

 

 だから俺もログアウトする最後まで自分で作成したキャラクター、アサヒ・P・テラクロスとして話す。

 

「マスターにそう評してもらえて光栄です。ですが、大丈夫です。マスターはとても強い人です。復興された世界でも適応できると私が保証します。その餞別(せんべつ)を祝して、ケーキを作ってみたので食べてほしいのですが……よろしいでしょうか?」

「本当か? ぜひ食べさせてもらうよ」

「ありがとうございます、マスター。キッチンのオーブンに入っているので取ってきくれますか?」

「分かったよ」

 

 立ち上がって、キッチンに向かう。

 

 トラムは一両のみで寝台やキッチンやクラフトデバイスなど、限られたスペースに詰め込まれている。

 

 在籍クランメンバー俺だけの【一人円卓会議中】では、一両しか許されない世知辛仕様だ。

 

 オーブンを開けると、目映い虹色の光が車内を埋め尽くした。

 こ、これは……まさか。

 

 光輝くカラフルなゲーミングデコレーションケーキ様が鎮座している。

 海外でしか見たことのない色合いだが、ネトゲならではだな。

 

「ゲーミングデコレーションケーキです」

 

 本当にそういう名前だった。

 

「【一人円卓会議中】のクランマスターにして、光の暗殺者たるアサヒ・P・テラクロスを表現すべく、私が知りうる最高のレシピで調理してみました」

「正に虹色、無限色彩(むげんしきさい)の極光が織りなすケーキだな」

 

 ゲーミングデコレーションケーキを持って戻り、テーブルに載せる。

 

 ホールケーキなのでナイフを呼び出し、六等分に切り分ける。

 ソシャゲのガチャで最高レアを引いた時みたいなレインボーエフェクトと効果音が発生した。

 

 切り分けたケーキを自分と、マリリンの前に並べる。

 

「では、いただくよ」

「どうぞ、お召し上がりください」

 

 食べるモーションをすると、切り分けたケーキが消失した。

 

「……お味はいかがですか?」

 

 マリリンが不安そうに聞いてきた。

 

 味はしないし、食感もない。

 

 完璧に再現すると、リアルとネットの境界が曖昧になり、問題になるとかで……まあ、今は小難しい話はいいか。

 

 大事なのはマリリンが俺のために作ってくれたこと。

 

「とても美味しいよ」

 

 それだけで十分に美味しいと思える。

 

 リアルなら胃もたれしてしまいそうなホールサイズを、マリリンの分まで一人で食べきる。

 

 全ステータス向上、バステにデバフ無効化付与、スキル効果マシマシといった感じだ。

 

 実際、俺の背後にレインボー後光が差しているからな。

 

「ごちそうさま。本当に美味しかったよ。ありがとう、マリリン」

「ありがとうございます、マスター。最後に褒めていただいてとても嬉しいです。また……マスター専用フォルダが充実してまいましたね」

「俺もだよ。最後に写真を撮ろうか」

 

 席を立ち、マリリンと共にマイホーム内のスクショを撮っていく。

 たかがネトゲなんていう人もいるが、俺にはもう一つの日常と言える日々だった。

 気が済むまでマイホームのスクショを撮って、ふかふかソファーに座る。

 

「ところでマリリン。このレインボー後光はいつまで続くんだ?」

「バフ時間は三十分持続します」

「なるほど、料理バフの仕様どおりだな」

 

 笑って、目を閉じる。

 

 なら、レインボー後光が消える前に別れの挨拶をしよう。

 最後だからこそ、終わりは大事にしないといけない。

 俺のアカウントデータも含めて、おそらくデリートされるだろうから。

 

 笑って、晴れ晴れとした言葉を伝えよう。

 

「マリリン――」

 

 世界が暗転した。

 

 俺以外の全てが消失した。

 俺が座っていたふかふかソファーも、レインボー後光さえ闇に飲まれた。

 なのに、俺の姿だけはハッキリと認識できる。

 

「……マリリン?」

 

 返事がない。

 おかしい、まだ日付は変わっていない。

 

 残り三十分の猶予(ゆうよ)があるはずで、サーバーを落とす時間じゃない。

 

【バグナイ】でサーバー関連の不具合はそこまで多くなかった。

 

 前回は……一年前にあった一週間にも及ぶサーバー不具合のメンテナンスくらいだ。

 

 そもそもサーバーが落ちたのなら俺もはじき出され、リアルで目覚めているはず。

 じゃあ、一体なにが――?

 

「どうも。終わりゆく世界を救い、終わりを迎える英雄様」

 

 マリリンではない、別の女性の声が響いた。

 

「初めまして。私は……かつては神様に等しい名のある存在でしたが、今は名も無き消えゆく残滓(ざんし)。名無しさん、ですね」

 

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