サ終のネトゲキャラで異世界転移した光の暗殺者さん(ガチ勢) 作:春海TMT
元神様っぽい名無しさんとは中々の存在だ。
爺ちゃんの昔話では、ネトゲ
いや、【バグナイ】にも結構いたな、自称神様や姫達が。
まあ、メタ的に考えればネトゲの神様的な存在……運営のゲームマスターあたりだろう。
名無しもネット掲示板にちなんだ感じに思えるし。
「先の戦い、お見事でした。最も強き英雄は貴方であると見定めさせてもらいました」
最終総力大決戦の話かな。
「どうも。お褒めいただいて光栄だ」
敬語で答えようとも思ったが、あえてネトゲキャラのロールで答える。
これが最後だし、ノリよくいこう。
「はい。そこで貴方に一つ質問があります」
個人の貢献度ランキングトップをたたえた特別アンケートだろうか。
「終わり――終末についてどう思いますか?」
また
【バグナイ】のサービス終了について、どう思うかってことかな。
ここは素直に答えよう。
「今は悲しさや寂しさの方が大きいかな。そう思えるくらいに楽しかったし、もっと遊びたかった気持ちがあるから」
自分でキャラメイクしたアサヒ・P・テラクロス、マリリンともあと数十分でお別れだ。
十年分の思い出がつまった、もう一人の自分。
感傷に浸る気持ちがあるのは確かだ。
「でも、終わりがあるからまた新しい、知らない別のゲームを遊ぶことができる。そう思うとワクワクする自分がいるのも確かだよ」
「そうですね。終わりは決して悲しいだけのものではない。新たな始まりへとの門出ともなる」
名無しさんは晴れやかな声で答え、続ける。
「人であって人でなく、それでいて人らしい。そのような存在など簡単には見つからないと思いましたが、よすがを辿って探してみるものですね」
「そうだな。今の俺は人であって、人でないけど、人ではあるな」
あくまで意識だけを送って、ネットの世界を認識している存在だからな。
「今はまだ、そうですね。ですから、私達の世界に転移する前に、なにか希望はありますか?」
言い方からして、【バグナイ】から引き継げる感じ……かな。
ステやジョブはともかく作成したキャラデータ。
金髪イケメン陽キャ系のアサヒ・P・テラクロスを。
もしかしたら、マリリンも。
ベータテスト専用のキャラかもしれないが、だったら遠慮なく言わせてもらおう。
「プロフィールノート――
俺やマリリンの設定を記し、マイホームストレージの奥底に封印……眠っているキーアイテム。
キャラクターを作成した際の設定データが記録されている。
高校生だった頃の俺はまだ若かった。
設定ページにプレイヤーが自由に書き加えられる箇所があったから、若さ故に色々追記しまくった。
……偉そうに格好をつけたが、愛着は十分にあって未練たらたらだな。
十年経ってもあんまり変わってない。
人間そうは変わらない。
むしろネトゲだから好き勝手に最後までやり通しちゃったわけだ。
「承知しました。では、黒歴史自由帳を遵守した力を与えましょう。最後の断片を託します」
目の前に光が灯り、黒いノート――黒歴史自由帳が召喚された。
まっさらな一枚の紙切れも現れ、黒歴史自由帳に吸い込まれていった。
「終わりゆく架空の存在を今、確かな命として――貴方達ならきっと――」
名無しさんの声が遠のき、闇が晴れて、レインボー後光が差した。
「マスター! 緊急事態です! 未知の空間振動を確認しました!」
マイホームに戻されると、マリリンが初めて声を荒げ、警報音がこだまする。
「空間転移の完了を確認! 周辺地域のスキャンを開始――これより一分後、未確認世界の地表に不時着します! 備えてください!」
「一分もあれば十分だ。備えよう」
マリリンのアナウンスに従う。
ふかふかソファーにもたれかかると、シートベルトで固定される。
揺れがどんどん激しくなる。
それでも冷静に対応できるのは理由が予想できるているから。
未確認世界――つまり、新作の先行体験版。
オープニングのさわりを遊ばせてくれるんだろう。
先の暗転も新作の追加データの読み込みと考えれば納得がいく。
サービス終了の最後まで残ったご褒美というやつだ。
正直、新作を開発中ならサービス終了前に告知した方がいいと思うが、色々内部事情があってもおかしくない。
「インテリア、クラフトデバイス――全てのオブジェクトを一度撤去します。マイホームストレージに保存完了、マイホームをニュートラル状態に移行完了」
マリリンが家具やクラフト装置を片づけた。
配置データはマリリンがセーブしてくれているから、心配はいらない。
「……マスター。旧式トラム故に廃棄されていた私を回収し、修理してくれた貴方です。また損壊しても修理してくれると確信していますが、まずは自分の身を優先してください」
「分かっているさ。心配はいらない。俺は光の暗殺者。この程度で深手を負ったりしないよ。大切なマイホームの修理ができなくなるからな」
そう答えた瞬間、外の景色は暗がりから一面――真紅に彩られた。
「予測回答でしたが、言葉にされると嬉しいですね。故に私もマスターの身命の保護に全リソースを注ぎます。まもなく地表に衝突します。衝突まで5、4、3、2、1――きます」
マリリンのカウントに合わせ、備える。
衝撃で車内が揺れ、車体がひしゃげ、窓ガラスが割れる。
トラムの正面から真下に墜落し、運転席部分が圧壊した。
ギギギと鈍い金属音が響き、車体が重力に引かれて傾いていく。
車体が縦から横に倒れ、ようやく揺れは収まった。
俺の座席だけはマリリンのサポートのおかげもあって無事だ。
シートベルトを外し、立ち上がる。
「ありがとう、マリリン。おかげで五体満足だ」
「……申し訳ありません。予測どおり車体フレームに致命的な損壊を受け、マイホームの全機能が停止してしまいました。緊急用プロトコルとして、私のみをマスターの
ポケットから情報端末を取り出す。
「マリリンが無事ならいいさ。一度、外に出て……状況を確認しよう」
「了解しました。トラムの機能が停止する前に観測した情報によれば、ここは廃滅異常世界とはまた違う異なる世界――異世界のようです。気をつけてください」
「だろうな」
入り口のドアを無理矢理こじ開け、外に出る。
しかし……レインボー後光もあって、本当にソシャゲの最高レアが出た時の演出だな。
どうやら地下洞窟の一角に不時着したらしく、周辺は真紅の氷らしき物体に覆われている。
トラムの割れた窓から見えた人影を改めて視認する。
右側には黒いローブと甲冑を組み合わせた出で立ちの武装集団。
左側には病理服に身を包んだ、頭から犬耳……いや、狼耳を生やした赤髪の少女。
トラムは見事にど真ん中に鎮座しており、両陣営が俺達を見つめて固まっている。
「貴様! ど、どこから現れた!?」
「どこからって」
指揮官らしき小太りの男の指摘に、上を指し示す。
「見てなかったのか? 空中だろ? それより喜べ、最高レア演出だぞ」