サ終のネトゲキャラで異世界転移した光の暗殺者さん(ガチ勢)   作:春海TMT

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第3話 と言う設定なので

「確かに空中から転移してきたように見えたが――」

 

 指揮官の言葉をさえぎり、鈍い鐘の音が響いた。

 音は腰にぶら下げている懐中時計からだ。

 

 指揮官が懐中時計を手にした途端、見る見る血の気が失せていく。

 

「終末時計の指針の回転が止まらない……こ、こんな現象初めてだぞ!? まさか!? ノポリア! 神託書を!」

「はっ! コドル様! こちらに!」

 

 副官らしき()せのっぽの男が、豪華な装丁の本を指揮官に渡した。

 指揮官は本を開き、文章を指先でなぞり始める。

 

「我らが求めし最後の終末断片を宿せし、終末の反逆者降臨す。その者、虹色の後光を携えて、純白の外套を(まと)い」

 

 声を発して説明してくれる新設設計だ。

 確かにレインボー後光に白のパーカーはあっているな。

 

「太陽の如き威光を放つ、金髪の偉丈夫(いじょうふ)

 

 陽キャオーラ120パーセントで、どこにいても目立つ暗殺者には向かない容姿の意。

 リアル影の者である俺とは正反対の設定にしたから、間違いなく――。

 

「俺のことだな」

 

 的中率百パーセントで言い当てられたが、事前にキャラデータを読み込んだ結果だろう。

 

「こうもあっさり認めるとはな。まさか本当に未だ空席の一位、光の御身……?」

 

 指揮官は脂汗を流しながら、本を副官に返した。

 

 ついでにこっそり部下にハンドサインで指示を出している。

 抜け目ないな。

 

 ならこちらとしては。

 

「光の御身、か。少し違うな」

 

 話をしよう。

 

「と、言うと?」

「俺は終末の反逆者でもなければ、光の御身でもない。俺はアサヒ・P・テラクロス。光の暗殺者。闇の暗殺一家に生まれながら、目立ちすぎる容姿と発現した異能故に追い出された一匹狼」

 

 と言う設定。

 

「ちなみに異能(バグナライズ)は光輝。黒き光を操り、具現化する能力者。黒より黒く、闇に染まらない漆黒の輝き。それによって最大で0.02秒くらいの光速思考もできる」

 

 と言う設定。

 

「【一人円卓会議中】のクランマスターでもある。出身は東京ミッドガルド」

 

 と言う設定に、

 

「聞き覚えは?」

「一切知らん。さっきからなにを言ってるのか分からんぞ……」

「そうだろうな。俺もだ。お互い間抜けな顔がその証拠。世界観が違うから当然だが」

 

 今はなるほど分からん状態だが、ラノベやアニメ、ゲームを(たしな)んでいる。

 用語の意味はある程度察理解できるが、考察はほどほどにしよう。

 

 行き当たりばったりで、新作の世界観を知っていくのも一つの楽しみ方だ。

 

「正しくは光の暗殺者降臨す、だ。分からないのなら、一度帰って上司に判断を仰いだらどうだ? レインボー後光が消えるまでは待ってやる」

 

 今度は指揮官の男が判断に迷い、口を閉ざした。

 

【バグナイ】でも思ったが、NPCの思考能力には驚かされる。

 リアルで人と話しているのと変わらない。

 

 俺の言葉、態度、仕草によって好感度、反応、内容が変化する。

 そのNPC要素も受け、人気が出た部分があるくらいだ。

 

 新作にも活かされてるのは喜ばしい。

 戦うか、見逃すか、協力するかの交渉。

 

 正義の道に進むか、中庸を貫くか、悪の道に堕ちるかもプレイヤー次第だ。

 俺は光の暗殺者なので、中庸路線を貫かせてもらった。

 

 まあ、悪役は全員ぶっ殺しモードだったが。

 派手な戦闘が多い方が楽しめたからな。

 

「断る! 貴様が光の御身でないのなら、捕らえるまで! もしも、終末断片魔導書(アポカリプス・フラグメント・グリモワール)を手に入れれば私も末席……いや、主席に至れる可能性もある! なによりも終末神様の神託は絶対! 目を背けるわけにはいかない! その小娘もろとも来てもらおうか!」

 

 野心に燃える目で睨まれる。

 上昇志向旺盛な指揮官殿だ。

 

「誰があんた達なんかの道具になるか!」

 

 ずっと黙っていた狼耳少女が叫んだ。

 

「吠えるな。同調の進行が早まるぞ?」

「お前らがそうしたんだろうが!」

「んー……そうだったか? 我々には貴様が自ら唯一の肉親である祖母を氷付けにしたように見えたが? 彼女も可哀想に。まさか孫娘に裏切られるとは……同情するよ」

「ふざけるな! 元はと言えば、貴様らがお婆ちゃんを人質にして!」

「あれは選別に必要な工程なだけだ。貴様が素直に我々に従っていれば最悪の事態は回避できた。なによりも失敗して、逃げ出したたのは貴様だろう?」

「そ、それは……」

 

 あれだけ叫んでいた狼耳少女の勢いが削がれた。

 それを見て指揮官は不快な笑みを浮かべ、一気に攻め立てる。

 

「まあ、孫娘が自分を見捨てた瞬間を、氷付けで見られなかったのは不幸中の幸いだな。勘違いしてもらっては困るが、我々は敵ではない。同志なのだよ。貴様が歯向かえば、祖母がどうなるかくらいは想像がつくだろ? まだ、間に合うのだよ」

「だ、だからって……グッ!?」

 

 狼耳少女はまだ人の原形をとどめている左手で、本物の狼のような右腕を押さえ込んでいる。

 

 怒りに呼応して暴れる右腕を見るに、状態はよろしくない。

 

「それは魔導書と極めて適合率が高い者に現れる兆候――始祖回帰(しそかいき)だ。抑制方法も、治療方法も我々は知っている。我々だけが、助けられる。貴様も、氷付けにされた祖母もな」

 

 しかし、思ってもいないことをべらべら喋る指揮官だ。

 分かりやすいくらいに自ら進んで長いものに巻かれたがるタイプ。

 

 指揮官の上から目線の横暴発言に、狼耳少女は全身の毛を逆立たせる。

 今にも飛びかかりそうだが、俺の存在が未知数で判断に迷っている。

 

 話はそれなりに察した。

 

 武装集団が狼耳少女の祖母を人質にとり、彼女はやむをえず魔導書と契約して暴走。 

 

 祖母を氷付けにしてしまったのも、周囲の壁が真紅の氷になっているのも彼女の仕業だが、本人の意思じゃない。

 コントロールできず苦しんでいる。

 

 0.02秒の光速思考風にまとめると、だいたいこんな感じだな。

 

「彼女も貴様らが気に食わないようだな」

 

 狼耳少女の前に立ち、無防備な背中を見せる。

 

 実は指揮官達の方が味方で、悪役が狼耳少女のパターンも十分に考えられる。

 厄介ネタの宝庫かもしれないが、細かい事情は時間がないので思考から排除する。

 

 今回は単純に気に入らない方をぶちのめそう。

 

「君、辛いところ悪いが、しばらくそこでじっとしていてくれ。危ないからな」

「……え?」

 

 気の抜けた声が聞こえた。

 

「貴様も勘違いしているようだが、我々は同志だ。戦う必要はない。見たまえ」

 

 指揮官は手を掲げ、黒い本を呼び出した。

 

「これがその枝葉(しよう)の一端、闇の魔導書だ。我々は偉大なる主の御業によって選ばれた同志なのだ。災厄を引き起こし、終末さえ手中に収め、世界を統べる選ばし者の集い――終末蒐集会(しゅうまつしゅうしゅうかい)のな。貴様も感じるだろう? この深淵なる闇の魔力の鼓動を」

「いいや、全然。俺の黒歴史自由帳(ブラックボックス)似ているが、全く違う存在だよ」

 

 自分の思い通りにならないと見るや、指揮官は顔を真っ赤にした。

 

「そこまで頑なに拒むのなら仕方がない! 貴様にも分からせるまで! 我々が災厄級の力が力があるということをな! 【オーバーライド! テラースキン――ムスペルズ!】」

 

 指揮官の声を皮切りに、武装集団も魔導書を呼び出し、ページが散って燃え始める。

 ページが武装集団全員の身体を覆い、炎で包み込んだ。

 

 自ら発火し、焼死して終わりを迎えることもなく――炎をまとう怪物と化した。

 なるほど、今度は本の魔法で変身した戦うファンタジー世界かな。

 

複製魔導書(リプロダクション・グリモワール)とはいえ、この魔力の(みなぎり)り! さらに! 来たれ、悪魔機兵(デーモンマキナ)!」

 

 空中に本格的なメカの悪魔が召喚される。

 いや、SFか現代風異能バトル路線もあるか?

 

「十人に十機。いくら終末の反逆者だろうと、多勢に無勢。我々の傘下に加わるのであれば、その力を御する術を授けてやる。その様子ではなにも知らんのだろう。さあ、最後の確認だ。どうする?」

「必要ない。貴様に教わることは一つもないさ。揃いも揃ってのバカみたいに燃えるわりに、彼女の氷も溶かせやしない。本当に貴様らが彼女を助けられると?」

「い、今は必要ないからしてないだけだ。終末断片魔導書の所有者の可能性がある以上、最優先すべきは貴様だからな」

「そうか。でも、良かったよ。天使機兵(エンジェルマキナ)じゃなくて」

 

 右手を動かし、音声認識で装備召喚を行う。

 

「【ロードアウト――カリバーン】」

 

 白銀のリボルバーを呼び出し、やかましい発砲音、強烈なマズルフラッシュ、四散する悪魔機兵の爆発音が同時に発生した。

 

 一番近い悪魔機兵が漆黒の弾丸によって撃ち抜かれ、残骸と化して墜落していく。

 

「天使様を打ち落とす不届き者にはなりたくないからな」

「は?」

 

 呆然とする指揮官を放置し、残骸に近づく。

 頑丈そうな見た目より柔らかいな。

 

 フルカスタムでも威力は下から数えた方が早い【カリバーン】の一撃で落ちるとは。

 

 オープニングだし、負けイベじゃない限りHPは低めか。

 いや、まだテスト段階だからか。

 悪魔機兵の部品に触れる。

 

「【スクラップアンドビルド】」

 

 部品が変化し、即席のヘッドマウントディスプレイができあがる。

【スクラップアンドビルド】は特定の素材を用いて、任意の装備や素材に変換できる定番のクラフトスキル。

 

 ヘッドマウントディスプレイに情報端末をはめ、おでこに装着する。

 旧世代のVRスタイルだ。

 

「見えるか、マリリン?」

「視界良好です、マスター。クソマッチ棒野郎共のご尊顔が高解像度で認識できます」

 

 マリリンも同様の認識で敵対の意思を示している。

 

「石版が喋った!? 精霊使い!?」

「違う。言っただろう、俺は光の暗殺者――」

 

 新作のオープニングの流れや設定もそれなりに把握した。

 

 あとは暴れるだけ。

 

 最後に俺の勇姿をマリリンに見せられる場が来るとは、運営も(いき)(はから)らいをしてくれる。

 

「アサヒ・P・テラクロスだとな! あとこちらはマリリン! さあ、正真正銘のグランドフィナーレといこうじゃないか!」

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