サ終のネトゲキャラで異世界転移した光の暗殺者さん(ガチ勢) 作:春海TMT
相手は一撃で落とされた
こっちのターンは継続というわけだ。
「【ロードアウト――クラレント!】」
別の悪魔機兵に跨がり、装甲にショットガンの銃口を押しつけ、引き金を引く。
零距離射程スキルの
武器カスタマイズで消音性をマイナスに振り切り、発砲時の発光度を限界まで引き上げた成果だ。
スキルエフェクトの色彩や明度なども自由に調整できる。
PvPも考えれば視認しづらい調整にするべきだが、俺はPvEメインだったので明度を上げに上げ、黒は黒でも闇でも輝く漆黒の光に仕上げた。
およそ暗殺には向かないカスタマイズ。
光の暗殺者故、忍ばず、潜まず、隠れず、
最後の祭なのだから派手に、正々堂々と正面突破スタイルを貫く。
「な、なにをしている! お前達! 全員でかかって焼き殺せ!」
ようやく武装集団も臨戦態勢に入り、悪魔機兵を前衛として、炎の矢や火球で遠距離攻撃を仕掛けてくる。
「【ロードアウト――セクエンス、クールシューズ!】」
右手にアサルトライフル、左手にサブマシンガンを装備し、フルオートで乱射する。
悪魔機兵も炎魔法も怪物もまとめて蜂の巣にしていく。
「そしてジョブはライトキーパー!」
暗殺者タイプはダークチェイサーあたりだが、光の異能であるライトキーパーが設定的にアサヒに適していた。
ダークチェイサーはリアルで間に合ってるしな。
「【ロードアウト――フェイルノート!】」
本来なら両手持ちで狙撃姿勢が必要なスナイパーライフルも、片手持ちで難なく照準を合わせる。
悪魔機兵十機と兵士八人を犠牲にし、最後尾で特大の火炎槍を放った奴らを迎撃する。
火炎槍は切り裂き、副官が撃ち抜かれて絶命し、最後の一人になった。
「バカな……オーバーライドもしない、生身の人間にここまで圧倒されるのか? 本当に光の御身……終末をもたらす光、正しく――」
「違うと言ってるだろ。俺は光の暗殺者、アサヒ・P・テラクロスにして、【一人円卓会議中】のぼっちクランマスターだ。【ロードアウト――アロンダイト】」
マグナムを召喚し、未だ燃え盛る炎の怪物の額に銃口を押し当てる。
「ま、待ってくれ! 降参だ!」
指揮官は変身を解き、元の人の姿に戻った。
「要求ならなんだって飲む! だから、命だけは! 命だけはとらないでくれ!」
それでも銃口をどかさない。
「さっき、自分で終末さえ手中に収められると
さらに強く銃口を押しつける。
「なにより、指揮官なら責任をとるべきだ。お前が下した決断だろ。その為に部下は俺に殺されんたんだ。最初に言ったはずだ。状況が分からないなら、一度帰って上司に判断を仰げと。二度目はない」
「た、助け――」
容赦なく、引き金を引いた。
最後の戦いが終わり、レインボー後光も消失した。
ライトキーパーの最強武器の一角、【Knights of Roundシリーズ】を全部使うには敵が弱すぎたな。
ボスラッシュで使用したので許してもらおう。
【アロンダイト】をインベントリに戻す。
俺は光の暗殺者。
宵越しの金は持たないが、無駄撃ちはしない。
たとえ、強化値+99を目指すに当たり、後半は失敗しても強化値が下がらない課金アイテムを使っていたとしても我慢だ。
トリガーハッピーで終わるのは似合わない。
しかし、と指揮官の頭からぶちまけられた血だまりを眺める。
それにしても……リアルすぎない?
【バグナイ】はポストアポカリプス風現代ファンタジーだったから、残酷な描写が必要なシーンはあったが、血の表現一つにもかなり気を使っていた。
死体をそのままモザイクなしで、ポンだしするとは驚きだ。
まだ開発段階だからか?
俺の個人情報も把握して、成人済みだと分かってるだろうし。
規制なしバージョンのデータをとって、フィードバックしたかったのかな。
考え込んでいると、背後から視線を感じる。
ひとまず新作についての感想は後回しだ。
「凄い。一瞬で……全員をやっちゃうなんて」
驚いて呟く狼耳少女に歩み寄り、腰を落として目線を合わせる。
「右腕は痛むのか?」
「触らないで!」
獣化した右腕に触れようとした瞬間、狼耳少女が叫び、俺の右手も真紅の氷に包まれた。
「ご、ごめんなさい……ごめんなさい、ごめんなさい……」
途端、人が変わったように怯えた眼差しで謝り続ける狼耳少女。
「……俺も不用意だった。すまない」
狼耳少女も複雑な事情で肉親のお婆ちゃんを氷付けにしてしまったようだし。
でも、この状態異常……凍結は【バグナイ】でもあった。
赤い氷の凍結状態は見なかったが、いけるかな。
「【リカバリーオール】」
黒い光が俺の右腕を包み込み、凍結状態を解除した。
「嘘……あたしの、氷が溶けた?」
狼耳少女が俯いていた顔を上げ、曇っていた青い瞳に光が戻る。
「これが俺の
ライトキーパーのコンセプトは光で照らし、浄化し、滅する――硝煙をまといし光の守護者。
銃火器&光学兵器系の攻撃スキル、回復特化のメディックには劣るが、状態異常耐性&治療スキルのジョブだ。
本来なら全スキルをマスターできないが、今回の公式チートモードのおかげで全種類カンストだ。
「触っていいかな?」
今度は狼耳少女に確認をとる。
「いい……けど、さすがに
こちらの意図を汲んだ、諦観じみた声を聞きながら右腕に触れる。
凄いな、本物の獣の質感だ。
なのに、赤い毛に反して酷く冷たい。
「やっぱりダメ! すぐ離して!」
当然だ。
また俺の手が凍り付けになるほどなんだから。
すぐに凍傷になってもおかしくないが、それでも離さない。
世界観は違っても、回復の規格は統一されていてもおかしくない。
名無しさんもそういう風にしてくれたと言っていた気がする。
「君はまだ死ぬべきじゃない――【リカバリーオール】」
再び真紅の氷が溶け、獣化していた右腕から毛が消えていき、人の手に戻っていった。
「ほ、本当に始祖回帰が治った?」
狼耳少女は驚きの声を上げながら、右腕をかかげる。
かざした右手を何度も開閉し、全く動いていなかった狼耳や尻尾が動き始める。
「綺麗な手に戻ったな」
「あ、ありがとう! お礼も言わなくてごめんなさい」
「謝らないでいい。君が元気になってよかった」
「うん……ありがとう」
お礼に笑って応える。
やはり今回だけは【バグナイ】の俺でも通用するわけだ。
しかし、ボロボロの病理服姿は見るに堪えない。
パーカーを脱ぎ、肩からそっとかけてあげる。
守護者の聖服も強化値+99の耐性もりもりだから、保温性能もバッチリだ。
俺に着られて消えるよりも、可愛い狼耳少女の役に立って終われる方が本望だろう。
そろそろ……時間だな。
立ち上がり背を向ける。
「え? 待って! あんた……じゃなくて、貴方の名前は!」
俺も狼耳少女の名前を知りたいし、できるのなら一緒にお婆ちゃんを助けにいってあげたいが……時間切れだ。
「光の暗殺者だ。またどこかで会おう」
最後の挨拶をし、トラムに向かう。
今回の俺の役目はここまで。
この先は次回の俺に任せよう。
狼耳少女はヒロインポジか、相棒枠か、実は村人A、はたまた悪役、まさかのラスボス枠か。
俺はどれでも構わない。
今さらだが、そもそも新作がVRMMOなのか据え置きゲーかも分からないしな。
ま、それも含めて公式発表を待とう。
マイホームのトラムに戻る。
すっかり初期のボロトラムに逆戻りだが、これはこれで味がある。
ヘッドマウントディスプレイから情報端末を取り外し、唯一残っている綺麗なふかふかソファーに立て掛ける。
俺は床に座り、画面に映されたマリリンを見つめ、笑う。
【バグナライズ・ナインガルド】で最後の挨拶だ。
晴れやかにいこう。
「マリリン。今までありがとう。楽しかったよ」
「マスター……? ええ、はい。先の戦闘も見事でした。さすが
マリリンは戸惑いを隠せていない。
初めの頃はもっと機械じみて淡々としたAIだったが、随分成長したな。
だからこそ笑顔を崩さず、右手をかかげる。
「さようなら、またいつか」
多くの言葉は必要ない。
先ほどまでに多くの思いを共有できたから。
UIからログアウトボタンを呼び出し、ログアウトした――ログアウトしたいんだが……おかしいな? ログアウトボタンがでないぞ?
右手、左手、右足、左足、あらゆるUIコールモーション、思考操作、音声認識などでログアウトボタンを呼び出そうと試みる。
だが、一向に現れる気配はない。
お探しのログアウトボタンはどこにもありませんよ? 状態だ。
そもそもUIが一切表示されない?
……振り返ってみれば、名無しさんと会話した後、マリリンから警告を受けた時点で消えていたな。
もしかしてこれは俗に言うネトゲに閉じ込められたデスゲーム?
まさかの別ゲー転移……?
いや、こんなゲーム知らないし、まさかまさかの完全新規の異世界転移……?
バグをテーマにした【バグナイ】で発生するとは笑えない冗談だ。
「マスター、落ち着いてください。突然の異世界転移に動揺するのは理解できます。ですが、マスターは一度世界を救った英雄です。今回も困難を乗り切れると確信しています。ファイトです。ガンバです。めげてはいけません。まずは状況把握に努めるべきかと」
「……そうか。そう、だな」
冷静に告げるマリリンに答え、立ち上がる。
疑問は壊れた入り口からのぞく狼耳……の少女が教えてくれるはず。
入り口に向かうと狼耳がピョンと反応した。
ひょっこりと顔を出した第一異世界住民らしい狼耳少女に尋ねる。
「ごめん……ここ、どこ?」