サ終のネトゲキャラで異世界転移した光の暗殺者さん(ガチ勢)   作:春海TMT

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第5話 魔導書

 狼耳少女をトラムに招き入れる。

 

 ソファーに立て掛けかけていた情報端末を回収し、狼耳少女を座らせようとするが。

 

「えっと、あたしがここに座るの?」

 

 オンボロトラムで唯一綺麗な座席を見て遠慮気味だ。

 

「君は客人だ。なら相応のおもてなし……と言いたいところだが、すまない。ごらんの有様でな。せめて、最低限のおもてなしを受けてくれると、こちらとしても助かるんだ」

「そ、それじゃあ……うん」

 

 ソファーにちょこんと浅く座る狼耳少女。

 ……これ以上言っても逆効果だな。

 

「では、まず自己紹介からだな。俺は――」

 

 リアルの名を明かすより、今の外見も含めて適した名はネトゲキャラの名前かな。

 

「光の暗殺者にして、【一人円卓会議中】のクランマスターであるアサヒ・P・テラクロス。親しい人なんかはアサPと呼んでいた。好きに呼んでくれて構わない」

 

 リラックスしてもらおうと、おどけるように自己紹介をする。

 またヘッドマウントディスプレイをおでこに装着し、情報端末をはめて指し示す。

 

「こちらは俺専属のAI(精霊)で、マリリン」

「お初にお目にかかります。私はマスターの日常生活からトラム運行管理まで幅広くサポートを請け負うコンシェルジュAIのマリリンです」

「初めまして」

 

 この世界にスマホみたいな情報端末はないのか、狼耳少女は物珍しそうに画面を見つめている。

 

「私は……ハティ。氷狼(ひょうろう)族のハティ」

「ハティか。よろしくな」

「よろしくお願いします、ハティ様」

 

 俺達の挨拶になぜかハティが驚き、固まってしまった。

 

「どうかしたか?」

「ううん。よろしくね、えっと、アサヒにマリリン」

「ああ。自己紹介もすんだし、本題に進もう。さてハティ、素直に白状するが――俺達は別世界から来たと言ったら信じるか?」

 

 この世界で異世界召喚が主流になっているなら、話は分かりやすいと思ったが。

 またしても驚いているハティを見るに、違うようだな。

 

「ごめんなさい。疑っているわけじゃないけど、聞いたことのない話で分からない」

「謝らないでいいさ。じゃあ、日本という国や、東京ミッドガルドという都市の名に聞き覚えは?」

「それも……聞いたことのない土地名だね」

 

 分からないという情報でも今は価値がある。

 さっきの武装集団も似た反応だったしな。

 どんどん聞いていこう。

 

「そうか。じゃあ、ここの国や現在地を教えてもらっていいか?」

「アブリュアス国のクーラル連峰の一つにあるダンジョンだよ」

「国や山は聞いたことない名だが、ダンジョンは分かるな。つまり、敵がいるのか? あまり長居はよくない?」

「大丈夫じゃないかな。私がその……暴走してダンジョンコアであるボスモンスターも殺しちゃったから」

 

 ハティは先ほどまで獣化していた右腕を押さえながら言った。

 

 まずは一番の疑問でもある事柄を聞いた方が、彼女とどう接するべきか判断しやすくなるな。

 

「なら安心か。それで先ほどの武装集団が変身に使った魔導書(グリモワール)、ってのはなんなんだ?」

「魔導書? 元々はこの星で初めて芽吹いた命――創星樹(ユグドラシル)から創り出されたものだよ。大昔、ここみたいなダンジョンが各地に発生して、対抗策もなくてみんな怯えていた。だから、創星樹の神託を受けたエルフが、創星樹の枝で魔導書を作り、各地の部族に分け与えたんだ。それを原典として魔法が広まり、ダンジョンの対策をした」

「身を守るための武器であり、生きていくための知恵って感じか」

 

 俺達の世界に照らし合わせれば、銃や刃物、それらを駆使した戦闘技術。

 

 一族にだけ伝わる特別な術理――一子相伝(いっしそうでん)の極意。

 

 ある種のスキルブックとも言えるかな。

 ダンジョンという驚異に対しては有効な力になったわけだ。

 

「でも、あいつらが言っていた闇の魔導書ってのは、かなり物騒な代物に聞こえたが。それは別物なのか?」

「同じ創星樹から作られたけど、別物。魔導書を作成するに当たって、一つだけ破ってはいけない掟があったんだ。大地に深く伸びる根では決して魔導書を作ってはいけない。地底には呪いが溜まっていて、根はそれを吸い上げ、浄化しているから。実際、ダンジョンはその呪いが溜まって地表に噴出する現象って言われてるくらいだよ」

「神話や伝説、寓話(ぐうわ)で定番の絶対ダメって言われているのに、やっちゃうあれか」

「えっと……多分、そうかな」

 

 ハティにはあまり刺さらずピンとこない例えだったかな。

 続きを聞こう。

 

「でも、一人のエルフが裏切って、根から魔導書を作ったんだ。根を切られた創星樹は呪いに犯され、枯れてしまった。エルフ達は裏切り者をダークエルフと呼んで、そいつが率いる闇の勢力との終末戦に臨み、どうにか光の勢力が勝った。闇の魔導書は禁書として天空書庫(てんくうしょこ)に封印されてた……って聞いてたけど、一年前の襲撃で持ち出されたって噂があったんだ」

「その犯人が終末蒐集会(しゅうまつしゅしゅうかい)って組織か」

「多分、そう。そいつらがあたし達の里にあった魔導書を狙って襲撃してきて……みんなを……お婆ちゃんを」

 

 ハティはまた顔を曇らせ、俯いてしまう。

 膝をついて、下から話しかける。

 

「話してくれてありがとう。よく分かったよ。禁忌とされていた創星樹の根から作られたのが、闇の魔導書。言うなれば、根暗の書だな」

「なにそれ? そんな風に言う人は初めてだよ。アサヒは若いのに、おじさんみたいなこと言うんだね」

 

 ハティはおかしそうに笑った。

 

「まあ……そうだな。見た目より中身は老けてるね、みたいなことはたまに言われるかな」

 

 場を和ませようと思っての発言だったからいいが、そんなにおじさん……オヤジギャクだったかな。

 

 アサヒの見た目、設定的には二十歳で陽キャなお兄さんだ。

 しかし、リアル影の者である俺の実年齢は二十六。

 

 ……まだギリお兄さんのはずだ。

 

 いや、逆に言えばギリおじさんの領域に足を踏み入れてるのか?

 まあ、哀しみに暮れるのはあとだ。

 

 気を取り直して、立ち上がる。

 

「さて、マリリン。今までの話を聞いて、どう思う?」

「ダンジョンは廃滅異常(はいめついじょう)世界と似ていますが、別種の現象が濃厚かと判断します。やはり日本――地球とは別世界に転移したと推測します。損壊する前のログによれば、バグナライズの余波もバグノイズの気配も一切ありません。だからこそ、問題もあるのですが」

「と言うと?」

「バグナニウムが存在しないので、バグナライズ・ドライブユニットが再点火できません」

 

 バグナニウムは【バグナイ】で万能素材として扱われ、色々な物に使用されていた。

 

 俺達のマイホームであるトラム【キャラメッテ】を修理する際にも使われていた。

 ただあくまで架空の物質、実際には存在しないのだが。

 

 ネトゲキャラである俺達は存在しているので、絶対に存在しないとも言い切れない。

 

「マイホームであるトラムを修理するのに必要なクラフトデバイスの呼び出しも不可。拠点としての機能は皆無、トラムとしても行動不能です。今の私はポンコツと評せざるおえません」

「俺の【スクラップアンドビルド】でも、バグナニウムそのものを精製するのは無理だからな。でも、こうして相談にのってくれるだけで十分役に立ってるさ。そう落ち込まないでくれ」

「ありがとうございます、マスター」

 

 そして、マリリンは【バグナライズ・ナインガルド】の世界を現実だと認識している。

 

【バグナイ】自体をネトゲの産物だと説明するのも、今の時点ではややこしくさせるだけだ。

 

 異世界の情報はそれなりに把握したし、次は別のネトゲなのか、本当に現実なのかを検証する必要がある。

 

 ヘッドマウントディスプレイから情報収集を外す。

 

「マリリン、少しばかりハティとお話しして仲を深めてくれ」

「了解しました。マスターは?」

「さっき殺した奴らの状態を見てくるついでに、ちょっとした検証をな。そういうわけで、ハティ。マリリンを頼む」

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