転生夢主は救済もコメディ路線で生きたい【完結済み】   作:yako

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オーバーテクノロジー

 

「――いい加減にしたまえ!……君はふざけているのか!!」

 

警視庁警備局の会議室で警視正の怒号が響く。

夢主は内心ずっと「???」と疑問符を浮かべていた。

 

普段お目にかかれないような上役の居並ぶ中

テーブルの中央にはケルベロスステッキ(打撃力増強バット)。フリルに包まれた魔法少女のアイテムが今、国家レベルの問題として扱われている。

 

「……いいかね、君は見事に今回の爆破事件の被害を防いだ功労者だ。しかしこの報告書は何だ!特に問題なのはこの打撃力を底上げするというバットだ!」

 

めっちゃ詰められている。…いやどうしてこんな事に。

 

名探偵コナンの世界は小学生がスケボーで高速道路を爆走し、サッカーボールで人工衛星を打ち落とす。そんなことは日常茶飯事の修羅の世界であるはずだが

裏側では毎回こんな大変な事になっていたのだろうか?

コナンくんも毎回詰められてたとか?

発明関係はふわっとした報告で目をつぶってほしい。

 

「あの、ケルベロスステッキ……ステッキです」

 

せめてあくまでもステッキであってバットでは無いという体がほしい。凶器扱いになると困ってしまう。

 

警視正が苛立った様子で机の上にある分厚い資料を叩く。

 

「技官達がこの…ステッキの解析をしたが、結果は散々だ。意味のない変数、絡み合ったスパゲティコード……まともな再現性は見込めん」

 

向けられる視線が鋭い

 

「しかしその打撃増強機構は軍事力に影響を与えかねない水準にある。防護服の方もそうだ、従来の防護服に比べれば全てがオーバーテクノロジーの結晶。正直そのふざけたフリルを取り払って図面を引き直し、安定生産が可能なら機動隊装備に導入させたいくらいだ。それを…」

 

言葉を切るとゆっくりと問いかける。

 

「なぜこんな物を私物でロッカーに保管する必要があった。何を想定して動いていた」

 

「あ、フリルも機構の一部なんで外せないです。安定生産も…今はちょっと難しいです」

技術転用は困る。あくまで特殊な武器の体を取ってないと。

コレが一般流通したら本編のコナンくんの推理に支障が出る。

 

 

警視正がピクリと顔を引きつらせた。

 

「例えばの話だが……あれだけの派手な衣装での活躍、君は自己顕示欲が強そうだ。しかもそれだけの技術があれば爆弾ぐらい容易に作れるだろうな」

 

あら、この流れはまずい。シリアスな展開になりそう。

 

「もしかして…私を自作自演の犯人として疑われていますか?」

「タイマー再開のタイミング、爆弾を前に思い切りの良すぎる行動。正直、君の動きは鮮やかで都合がよすぎる節がある」

 

これは…想定外だ……

 

「それで?…何か言い添えることはあるか?」

 

「…いえ、全て調書に記載の通りです。当日は萩原研二巡査に報告書の内容を確認した後、直帰の予定で趣味のバッティングセンターで使う私物を所持、着用していました。ステッキはホームランを打つための装備。防護服は球に当たるのが怖いからです。また、魔法少女のアイテムからフリルを奪うのは、パトカーから赤色灯を外すようなもの。付いて無ければ役割を果たせません。私が申し上げられることは以上です。」

 

なんと言われても、前世云々を説明出来ない限り

私は魔法少女の不思議ちゃんを演じなければいけない

私にはコレを突き通す以外、道は無い。

 

室内の空気は重苦しい。

 

「失礼します。皆様少々よろしいでしょうか」

 

静かに入室してきたのは高明くんだった

椅子に座る私の隣に立つと、憔悴しきった上官達に静かな視線を向ける。

 

「この件、私に預けていただけないでしょうか」

「……諸伏くん、君なら彼女の行動を整合性を持って説明出来るかね?」

「ええ。彼女独自の理論を公式な記録として再構築する作業と彼女の今後の教育管理指導の全てを引受けます。彼女は今回の件のように優秀な人材ではあるのですが……」

 

高明くんはそこで一度テーブルの資料に視線を落とした。

 

「…その言動にはいささか扱いが難しい側面がある。一般的な物とは別の論理で構成されてしまっている事柄が多い。」

 

顔を上げると姿勢を正し会議室を見渡す

 

「皆様はこのような調整に無為な時間を費やすべきではありません。成果の扱いと責任の所在については、こちらで整理いたします。現場の功績が世間に…そして警察組織にとって最も正しく望ましい評価をされる形に整えておきましょう」

 

「君がそう言ってくれるなら任せよう……我々も本心では身内を疑うような真似はしたくない。通せるような報告書、期待している」

 

その言葉でお開きになったのか、上役達は立ち上がりぞろぞろと部屋を後にする。

………助かった。のかな? 

 

魔法少女として現場に自然に入る方法ばかり考えて後は場当たり的に動いてしまったのがいけなかっただろうか、他にやりようがあっただろうか?ダメだ疲れて頭が働かない。

 

椅子から立ち上がり頭を下げて見送りながら考えるうちに上役の退出が終わった。

二人きりになった部屋に低く静かな高明の声が響く。

 

「座りなさい。夢主さん」

「…はい」

ゆっくり深く椅子に腰掛けると、前に立った高明くんが両手で椅子をつかみ身を屈めた。

切れ長の目が至近距離で私を射貫く。え、近い。顔が良い。

 

「報告では『機動隊部署に書類の確認に行った』と聞いています。なぜ現場に?」

「…移動中に、確認の必要のあった萩原巡査が現場にいると知り、行き先を変えました。」

「あなた野球にご興味が?あぁ、素振りがしたかっただけですか?」

「ストレスがたまってて……」

「あの量の書類を抱えてよく内職する時間がありましたね」

「気になったのでつい……」

「もう少し書類をまわしましょうか?」

「私では能力不足です。」

 

勘弁願いたい。

即答した私を、高明くんは至近距離で見つめたまま動かない。

観察するような視線を向けられると後ろめたい事のある身としては背筋が冷える。

 

「能力不足、ですか。………あなたが非番を返上してまで励んでいたあの書類、実は処理の煩雑な物ばかりを私が選んで回していたのですが。気がつきませんでしたか?」

 

「え…煩雑な…え?私だけにですか?」

書類に忙殺された大変な日々が、頭の中を駆け巡る。

 

「はい、そうです。だから能力不足と言うことは無いです。むしろあの量をこなしながら内職をなさっていたことに驚いています」

にっこり笑って告げられる。

 

「え?パワハラでは…?高明くん、実は私のこと嫌いですか?」

ついに愛想を尽かされてしまったか。

無理も無いがショックである。

 

「いいえ?」

高明くんは目を細め、わずかに首をかしげた

 

「いつ私を頼ってくるかと待っていたのですよ。それに私の目が届く庁舎内に留めておくのにはそれなりの『重し』が必要と考えてのことです。……まぁ不十分だったようですが。負担を掛けてしまい、申し訳ありません」

 

かがんでいた体を起こしながらその低い声で淡々と続ける。

 

「降谷くんは気がついたようですよ。私に聞いてきましたから。あなたはもう少し周りを見て、人を疑うという事を知った方が良い」」

 

背が高いから見上げる形だ

じっと見られると居心地が悪い。

追い詰められたネズミの気分だ

 

「処変不驚、というべきでしょうか。異常な状況に置かれても警察組織を疑うこと無く、与えられた役割にためらいなく身を預けるその姿勢。景光が偽装人事の件以来、人を信じられなくなり、今も周囲と馴染めないでいるのとは大きな違いです」

 

「…景光くん……?調子悪いんですか?」

「表面上は取り繕っていますが、ペアの方ともうまくいっていないようです」

 

心配だ。確かに景光くんのメンタルが不安定なのは感じていたが

忙しすぎて会いにも行けていなかった。

 

「あなたは上層部に爆弾犯の疑いを掛けられるような状況でも自分を崩さない。危機の前に立たされてなお、泰然自若としている。それも全てあなたの言う『魔法』の一端ですか?」

 

「……あの、私の処遇はどうなるんでしょうか?」

 

「少なくとも警察組織内で、今後もあなたがその能力を上層部にとって理解不能である『魔法』として扱う限り―――あなたに関する全ての担当は、私です」

 

「……これ以上書類を増やすのは、どうか…ご容赦いただけると」

体力的に限界な上、色々とやりたいことがある。

まずは景光くんの様子を見に行きたい

 

「書類は通常量に減らしましょう。代わりに景光を出向という形であなたにつけます。」

淡々とした声で告げられる。

 

「え?」

 

願ったり叶ったりだ。

 

「ですから―――」

ふっと目線を緩めた高明くんが

かがんで私に目線を合わせる

 

「―――今後は余所に目を向けず目の前のことに注力するように願います」

 

にっこりきれいに微笑んだ。

 

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