転生夢主は救済もコメディ路線で生きたい【完結済み】 作:yako
松田陣平の救済ってどうやったらいいの?
夢主は悩んでいた。
ここまでの救済の影響で、かなり状況が原作と違ってきている。
まず松田陣平は部署異動の希望を出していない。動機が消えたのだから当然だ。爆発物処理班のエースとして今後も萩原研二と共に機動隊に留まるだろう。となると原作で犯人からの暗号を解いた松田陣平が捜査一課に不在。よって当日一番に現着するのが捜査一課であるかすら怪しい。ウ~ン……当日どうなるか全然予想つかない。
まだ事件まで4年あるからなぁ………
とりあえず松田陣平が4年後の11月7日当日、どう動くかがポイントか…。よし…。
ーーー夢主は布石を打つために動いた。
「飲み会?」
警察庁のフロアで、零くんが怪訝な顔をして声を上げた。
「爆処のエースの人たちって零君と景光くんのお友達でしたよね?」
「え…あぁ、松田と萩原ね」
景光くんが答える。
「私、先日の爆弾事件の時、萩原さんに失礼な態度だったなと思って…謝りたくて…」
すると、零くんが腕を組んで難しい顔をした。
「…あの事件は責任の所在が複雑だ。お前の裁量で下手な謝罪をすれば拗れるぞ」
「そうなんです。正式に謝るのは出来なくて…。個人的な場所って事で、何とか飲み会のセッティングお願いできませんか?」
「そうか…じゃあ俺から声かけてみるよ」
私の必死の訴えに、景光くんを幹事として飲み会が開かれることが決まった。
ーーー
都内の個室居酒屋で飲み会は開かれた
「先日はありがとうございました!」
顔を合わせて早々に萩原さんが真剣な表情で丁寧に頭を下げる。
「あんたが例の…俺は同僚の松田陣平。コイツを救ってくれたこと…感謝します…」
「こちらこそ失礼な態度でした…言い訳させてもらうと当時寝不足で頭回ってなくて…申し訳ないです。改めまして夢主といいます。趣味で魔法成人女性をしてます。タメ口でいいです。職務外ですし」
「魔法少女ちゃんって結構話しやすいんだね!意外!」
萩原さんが軽快に笑い、堅かった場の空気が和らぐ。飲み会は順調に楽しく始まった。
それは会の中盤となった頃…
垂らしてた糸に狙い通り松田さんが食いついた
「あんたそれ…何つけてんだ?」
「コレですか?私の開発したケルベロスシリーズのガジェットです」
私が鞄に付けていた小物を見せると、松田さんの瞳に鋭い好奇心の光が宿った。
「これバラしていいか?…ちゃんと元通り組み立てるから」
「やめなよ松田…それは夢主の大事な…」
「良いですよ?工具貸します?」
景光くんが隣でそっと止めようとしてくれたのを制して、私は松田さんにガジェットを渡す。
「いや、持ってる」
松田さんはどこからともなく精密ドライバーを取り出した。
ケルベロスシリーズをバラす松田さんの様子は、新しいオモチャを与えられた子供のようだ。私は用意していた複数のガジェットを次々にあれこれ差し出した。
「コレとかちょっと複雑なんですけどいけますか?あ!凄い!こっちの小さいの蓋がどこだかわかります?…えー早い!絶対わからないと思ったのに!」
「コレ凝ってるな」
「拘りなんです!ここの強度を上げたいんでコレをこっちに持ってきてて…」
「あー…だからコレが…こうなるのな」
「そうです!見ただけでわかってもらえるんですね!凄い凄い!」
褒める。
合コン「サシスセソ」のフル活用だ。
私はここぞとばかりに盛り上げに盛り上げた
「コレはどうですか?こっちのとちょっと違うんです」
「へー…ああ、コレはこうでこっちがこうな…」
「そうです!理由としては〜」
「はぁ~……なるほどな」
「えー、器用ですね~流石、処理班ですね~」
「まぁな…」
松田さんは沢山のガジェットを思うままバラして組み立てることが出来て嬉しいのか、満足そうな顔をしている。
そろそろいいだろう。
「本当に凄いです!感服しました!」
「もう他にはねぇの?」
「他にも見せたいものあります!松田さん今度お休み合わせて2人でご飯でもいきませんか?」
その瞬間。
「…っ!ゴホッ!ゲホッ!!」
急に横に座っていた景光が飲んでいたお酒に盛大にむせた。
勢い余ってコップを畳に落とし、苦しそうに咳き込んでいる。
私は慌てて背中をさするがなかなか収まらない。
「大丈夫ですか?すみませーんおしぼりください!」
「はぁ?…お前…何を考えている…」
地を這うような声で零君が凄んでくる。
「えっ…おしぼり追加ダメですか?じゃあ…机と床拭くのにダスター、ダスターで大丈夫です」
店員さんに慌てて頼み直す。
「ごめん…大丈夫だよ…ちょっとお手洗いで洗ってくる」
フラっと席を立つ景光くんに零くんが続くかと思ったら突然、襖の前でキッとこちらを振り返り
「言っとくが…そこの魔女は学生時代ヒロと同棲してた女だ…。」
と、何故か呪詛を吐くようにそれだけ言い残し、零くんは景光くんの後を追っていった。
「は?諸伏ちゃんと付き合ってたってこと?君、元カノ?」
萩原さんが驚いた顔でこちらを向いた
「いえ、それよく聞かれたんですが付き合ってないですよ。幼馴染で色々お世話になってて…」
「…あ〜そういう感じね」
うんうんと頷いた萩原がテーブルの斜向かいからスッと身を乗り出して来た
「あんた凄いね。あんな調子の諸伏ちゃんの眼の前で、陣平ちゃん誘うんだ?」
萩原さんの瞳の奥は笑ってない、冷ややかで探るような視線だ。
「あんな調子…最近景光くんが不安定な件ですか?…ウ~ン…遊びで浮かれてるのがバディとして良くなかったです??でもあんまり周りが気を使いすぎるのも良くないと思いますよ?出来るだけ普通に接して見守るのが一番だと個人的には考えてます…。フォローは勿論しますが、こればっかりは時間薬だと思うんですよね…。心配ですけど…」
私はこぼれたお酒を片付けながら答える。だが萩原さんは納得いかないのか眉を顰めてどこか困惑した様子でこちらを凝視している。
「…本気で言ってる?」
「?…はい…そう思ってます」
「あのさぁ…自分の行動にやましいことないの?」
睨まれた私は答えに困ってしまった。改めて自分の行いを振り返る。
親友から見たら私の行動はどう映っているんだろう?
調子の悪い景光くんに幹事任せてお酒の席を用意させて?そこでデートだなんだとはしゃいでる…?いや、今まで散々お世話になってたならもうちょっと気を使えやって思われた?……確かに恩知らずかもしれない。現状、零くんが付き添うぐらい景光くんフラフラだったし…。もっと出来ることがあった…のかも…。
「萩原さんも連絡先交換してもらえますか?」
「は?」
「景光くんのこと、何かあったら相談したいです。私、よく考えたら景光くんにはお世話になりっぱなしだなって反省しました…。何かできることがないか考えます」
萩原さんは呆れたのか微妙な顔をすると「えぇ…あ〜…うん。じゃあ…。」っと少し戸惑いながら携帯を差し出してくれた。
交換作業をしてるところに丁度、景光くん達が戻ってきた。じっとこちらを見つめた景光くんの顔色は居酒屋の照明ではよく分からない
「あ、ヤベっ……」
「景光くん、悪酔いしましたか?温かいお茶飲みます?」
私が声を掛けると、零くんが鬼の形相で詰め寄ってきた。
「は?…貴様…目的はサークルクラッシュか…?」
「サークルって懐かしい響きですねぇ」
「この魔女が…その連絡先を消せ…今すぐに」
「え!嫌です」
「っ許さん!!」
「わぁ!嫌ですって」
とにかく景光くんの体調を考えたらここでお開きがいいだろう。その前に目的だけは達成せねば。
「松田さん、1日預けてくれたらもっと沢山ガジェット見せられますし!どうですか?」
「あぁ、俺は構わねぇよ」
ニヤリと笑った松田さんが了承してくれる。
「おら、嫌だっていってんだからやめろやめろ」
松田さんが零くんから庇ってくれる。助かった。
「松田…」
「何でお前がキレてんだ?嫌な事は自分で口にしねぇとなぁ……大人相手に過保護なんじゃねぇのか?降谷さんよ」
松田さんはニヤニヤと笑いながら零くんの方をちらりと見た。
「ありがとうございます。後日連絡するのでよろしくお願いします」
お開きの手筈を整えながら、私はほくほくだった。
目的の松田さんとの繋がりを確保することが出来た。
友達になれたら事件当日に情報を集めるのも難しくはないだろう。
計画通り。鼻歌すら出そうだ。
ーーー
ぐるぐるぐるぐる
ずっとずっとずっと
かんがえがあたまからはなれない
いやだっていって
いやだってかえってきたらどうしよう
いやだっていって
きらわれたらどうしよう
そばにいたいっていって
ことわられたらどうしよう
そばにいたいっていって
となりにいられなくなったらどうしよう
いかないでっていって
ことわられたらどうしよう
いかないでっていって
いなくなったらどうしよう
なにもいえない
なにもいえない
なにもいえない
なにもいわなくても
いなくなったらどうしよう
ーーーー
「あぁ……やはりあなた方でしたか」
静かだが鼓膜に染みこむような、低く凜とした声
「…諸伏警視?お疲れ様です」
俺はヒロを支えたまま、その特徴的な声に振り返る
街灯の下にたたずんでいたのは上司の諸伏高明警視だった。
警察庁のフロアで見かける、いつもの整った身なり。
だが見慣れた姿も場所が違えば何故か違和感を覚える。
「……………にいさん?どうしてここに?」
ずっと黙っていたヒロがどこか掠れたような声を出した。
「ふふふ、私もあなた方と同じ…飲み会の帰りです。奇遇ですね」
どこか浮世離れした笑みを漏らしながら、警視がゆっくり歩み寄ってくる。
「高明くん飲んでるんですか?車じゃないの珍しいですね」
今日の戦犯である魔女が出す、のほほんとした声に思わず睨み付ける。
警視が魔女に視線を合わせた。
「謝りたいからといっていた飲み会、首尾はいかがでしたか?」
「はい、わだかまりなく。お友達になれそうです」
「…そうですか。お友達」
諸伏警視はその魔女の言葉の響きを確かめるかのように繰り返すと、少し思案するような仕草をした。その表情からは何も読み取れない。事件関係者のパワーバランスについて考えているのかもしれない。底知れない人だ。
「……降谷くん、代わろう。…景光はそんなに飲んだのですか?」
警視がヒロの腕を取り、自身の肩へ回す。
俺の肩からヒロの重さが消えた。
「お酒で咽せちゃったんです。体調悪かったんだと思います」
何もわかっていない魔女がいつもの調子で宣う何もわかってない言葉を受け、警視がヒロの青ざめた横顔を静かに見つめる。
「そうですか……。私が寮まで連れて帰りましょう。あなたも気をつけて…降谷くん、夢主さんを女子寮まで送っていってあげてくれませんか?」
「はい……おいさっさと行くぞ」
「景光くんお大事にね~」
警視に支えられ歩き出すヒロを見送る
俺は言いようのない感覚が肌をなぞるのを感じた
魔女が一緒にいるからだろうか?
嫌な予感がして堪らない
「……お前やっぱりさっきの連絡先消せ」
「嫌ですって…」
俺はため息をつくと重い足取りで帰路を急いだ。