転生夢主は救済もコメディ路線で生きたい【完結済み】 作:yako
阿笠博士邸の広い庭には、炭が爆ぜる快い音と、脂の乗った肉が焼ける香ばしい匂いが立ち込めていた。居酒屋での飲み会をきっかけに、魔法少女ちゃん……夢主ちゃんと仲良くなってから4年。彼女を経由して阿笠博士や、その近所の一家とも繋がりができ、今では休日を共に過ごすことも増えていた。
「おう、新一。ちゃんと食ってるか?」
陣平ちゃんがトングを片手に、工藤新一に声をかけた。
「頂いてます。俺もっと食べるんで、ガンガン焼いてください。成長期だからまだまだ全然足りないんですよ」
「威勢がいいな。ほら、焦げないうちに食え」
新一が皿を差し出す横で、毛利蘭ちゃんが遠慮がちに博士の隣へ歩み寄る。
「博士、私もおかわりもらいに来ました」
「おお蘭くん!沢山お食べ。今日の特製タレは絶品じゃぞ」
「蘭ちゃん、今日もかわいいねぇ。中学ももう2年生だっけ?」
俺はひらひらと手を振り、ウインクしながら蘭ちゃんに話しかける。
「はい、もうすぐ受験生です」
欄は少し照れたように初々しくはにかんだ。
「へぇ~……。新一、お前は卒業までに告るのか?」
陣平ちゃんが肉を新一の皿に乗せながら、意地悪く耳元で囁いている。
「は!? な、何言ってんだよ松田さん! そんなんじゃねーし!」
顔を真っ赤にして反論する新一を陣平ちゃんが鼻で笑う。そこへ、買い出しに出ていた班長がレジ袋を片手にひっそりと、だが圧倒的な存在感で会話に割り込んできた。
「お前、好きなら好きってビシッと言っとかねーと! 漢になれねーぞ!」
ガシッと新一の首を腕で引き寄せ、その頭を乱暴に撫でまわす。
「だから! オレは別に……伊達さんだって、さっさとプロポーズしたほうがいいんじゃないんですか?」
「お? 言うじゃねーかコイツ!」
「わぁ!」
新一の生意気な反論にガハハと笑う班長。そのさらに奥のテーブルでは、工藤夫妻とナタリーさんが和やかに談笑しており、まさに平和な休日の風景そのものだった。だが――。
「もう焼きそばできてるよ~。炭水化物も摂ろうね!」
離れた位置にある鉄板の前から、魔法少女ちゃんが振り返って声をかけてきた。
一緒に焼きそばを焼いているのは、諸伏ちゃんだ。
「夢主~、疲れた。おぶって」
諸伏ちゃんの腕が、後ろから当然のように彼女の肩に絡みついた。
「ちょっと、景光くん重いよ~……」
「ははっ! 無理? つぶれちゃう?」
諸伏ちゃんは楽しげに、さらに上からのしかかるように全体重を預けている。
「ぐぅ~! 絶対おんぶする! できる!」
「おぉ! 力持ちだなぁ~……ふふふ」
プルプルと震えながらも、魔法少女ちゃんがついに自力で諸伏ちゃんを持ち上げて笑った。
「あはは! 持ち上がった! 見て見て、あはは!」
「ははっ! 動かないで、落ちる落ちる!」
庭をヨロヨロと歩き回り、けらけらとはしゃぐ2人。
「あぁもう! 焼きそば勝手に持ってきますよ!!」
「新一ったら顔真っ赤ーふふふっ!」
呆れた新一が乱暴に鉄板から焼きそばを回収し、それを見た蘭ちゃんがクスクスと笑う。
俺は、その光景をちらりと後ろにうかがい、すぐに目をそらした。
思わず陣平ちゃんに助けを求めるように話しかける。
「ねぇ……。なんであれで付き合ってないんだ? 諸伏ちゃん、まだ告れてないんでしょ? どういうこと? どっちも怖いんだけど?」
「俺があんだけあの飲み会で煽ってやったってのに……。4年もかけて、なぁんであの距離感に落ち着くんだろうな?」
最早顔すら上げずに、陣平ちゃんは機械的に肉を焼き続けている。
その横で、降谷ちゃんが飲み物を入れたクーラーボックスの具合を確かめながら、隠しきれない苦い顔をしていた。
「あいつらは職場でも見境がない……。魔女も魔女だ。なぜあの距離感を当たり前のように許すんだ?」
「……あー、ごめん。多分、俺だわ」
俺は気まずくなって、頬を掻きながら白状した。
「俺、前に魔法少女ちゃんから相談された時さ。適当に『スキンシップ増やせば?』って言っちゃったんだよね。……いや、もっとこう、エロい展開になって、そのままくっつくと思ったんだよ。まさかこんな幼児退行みたいになると思わないじゃん」
飲み会直後の頃、俺はまだ魔法少女ちゃんを疑っていた。陣平ちゃんを当て馬にして諸伏ちゃんを弄ぶ狡猾な女ではないかと。だから、あえて嫌みも込めてそんなアドバイスをしたのだが……。
「じゃあ戦犯はお前だな」
「肉は没収する」
「ごめんなさい…お肉食べたいです…」
降谷ちゃんと陣平ちゃんに冷酷に宣告され、俺は肩を落とした。
「てか、諸伏ちゃんあんなキャラだっけ?」
「パッと見は明るくなったがなぁ……。あれはなぁ」
班長が何とも言えない、複雑な顔で二人を見る。
あの日を境に、諸伏ちゃんは憑き物が落ちたように明るくなり、その代わりのように魔法少女ちゃんにベッタリになった。友人として「元気になった」と喜ぶべきなのかもしれないが。降谷ちゃんですら、今の異様な距離感にはどう対処するべきなのか悩み顔だ。
「……俺にはもう、わからねぇわ」
陣平ちゃんが投げやりに呟く。
降谷ちゃんは黙ったまま、楽しげに笑う幼馴染たちのあまりに密着しすぎた背中をただ見つめていた。
ーーー
「松田さん、萩原さん」
「あ?何だよ魔女っ子」
「どしたの?珍しく1人じゃん」
自販機横のベンチをギッと鳴らして振り返った松田さんと壁に寄りかかってひらひらと手を振る萩原さんに迎えられる。
「11月7日って出勤します?」
私の問いに2人の表情から冗談めかした色がスッと引いた。
「……例の爆弾犯の件か?」
松田さんが短くなったタバコを灰皿に押しつける。
「はい、ファックス来ますよね?毎年。去年は1でしたし、カウントダウンなら何か仕掛けてくるかなって」
「その可能性は高いだろうな……今度こそ落とし前付けてやろうと思ってるとこだ」
苦々しげにそう言うと鋭い目つきで灰皿を睨んだ。
萩原さんが少し困ったような顔で私を覗き込む。
「あ~……魔法少女ちゃんも何かしようとか考えてる?…でも君はもう関わんない方が良いんじゃないの?」
「何でですか?」
「疑われたんだろ?上の奴らに。自作自演をよぉ」
その言葉に私は言葉を詰まらせる。萩原さんの救済があまりにうまく出来てしまったため「魔法少女を演じるための自作自演ではないか」という嫌疑を一部疑り深い上層部からかけられた事があったのだ。
「はい……今度はちゃんと犯人を捕まえようと思ったんですが…ダメですか?」
「まぁ、それすら仕込みを疑われるパターンもあるんじゃねぇのか?」
松田さんがニヤリと不敵に笑う。それは私を馬鹿にした物ではなく、この警察組織の理不尽さを身をもって知っているが故の忠告だ。
それもそうだ。松田さんの言うとおり。下手な動きをすれば足下をすくわれかねない
………今回は本当に状況が見えなくて何も思いつかない。
「……考えてみます」
「とにかく無理に関わろうとすんな」
松田さんが釘を刺す。萩原さんも真顔で頷き、私に目線を合わせた。
「また同じ爆弾とは限らないからね。不用意にステッキで打ち上げてもらっちゃ困るのよ。おれらは」
「夢主!やっと見つけた…トイレって言ってたのにどこまできてるの……」
焦燥を含んだ声が響く。
振り返るとそこには肩で息を切らした景光くんが立っていた。
「なんだ?魔女っ子もついに育児ノイローゼか?」
松田がサングラスの奥からチラリと視線をよこす。
「?私、育児してないですよ?」
景光くんが私に歩み寄ってくる
「夢主何で?トイレじゃないの?何で?何で?何でこんなとこにいるの?」
「あぁ景光くん、和式が使いたかったんです。そこのトイレ和式あるんで」
私がしれっと答えると、景光くんは一瞬ぽかんとした顔をした
萩原さんが本気で呆れ果てた顔で私を見る。
「………ねぇ女の子なんだからもうちょっとマシな嘘つこ?」
「えぇ?嘘じゃないですよ?署内でここにだけ和式があるので。来たら2人が居たんでついでに声かけただけです」
「なお悪いよ。えぇ?じゃないよ……なんかやめて?魔法少女でしょ?夢を壊さないで」
顔をしかめたら、顔をしかめ返された。解せぬ。
「何でもかんでも正直に言ったら駄目なの!」
「でも景光くんには嘘つかないようにしてるんです」
「……男の子は夢を見たいんだよ?」
萩原さんと言い合う私の袖を
困ったように笑った景光くんがつかむ
「戻ろう?夢主。2人ともまたね」
くんっと袖を引かれて道を戻る。
景光くんは振り返らずズンズン歩く。
後ろを振り返り手を振ると、袖を引く力が強まった。
松田さんも萩原さんも手を上げて応えてくれる。
当日松田さんを別の場所に誘導するのは無理そうだなぁ…
本当にどうしよう…