転生夢主は救済もコメディ路線で生きたい【完結済み】 作:yako
「おまもりです。どうぞ」
「…いや、でけえんだけど?」
「何コレ……サッカーボールでも入ってるの?」
萩原さんと松田さんが困惑した表情で、私が差し出す『おまもり』の文字が刺繍された包みを受け取る。予想外の重量感だったのか、受け取る瞬間ガクンと腕が下がった。
「……貰っていいのか?」
松田さんが怪訝そうに顔をしかめつつ
チラリとこちらを見る。
「てか後ろの諸伏ちゃんニコニコで怖いんだけど?」
萩原さんの指摘に、私の後ろで黙っていた景光くんが更ににっこり笑い、おもむろにごそごそと胸ポケットを探ると誇らしげにお守りを出した
「俺も貰ったんだ…手縫いしてくれたんだって…こんな丁寧に…絶対大事にするから」
うっとりと目を細め、嬉しそうにおまもりを撫でながら言う。
2人の顔がピクリと引きつった。
「お前のだけ何で普通のサイズなんだよ」
「俺らの最早、子供のリュックサックだよコレ」
「すみません私の技術ではこれ以上小さく出来なくて…」
「なんでだよ、あっちは普通に出来てんじゃねぇか」
「作ってて違和感なかった?豪快すぎない?」
詰め寄る2人を制して言葉を重ねる。
「肌身離さず持っててください」
「は?」
「このサイズを?」
2人の抗議を無視して私は真剣な眼差しを向けた。
「もう死ぬって瞬間の10分……いや15分前には開けて、中に入ってるメモを参考に活用してください。一度開けたらもう元に戻せないんで緊急時以外開けないように」
「……なんかガジェットか?」
「…なるほど?魔法少女のお助けアイテムって事ね」
萩原さんが膝の上にのせた「おまもり」をつつく
「今の私に出来る精一杯のことを考えまして……」
「でもまぁ俺らが死ぬって思う瞬間ってそんな15分も時間の余裕ないぜ?せいぜい数秒だろ?」
「そうだなぁ、15分もありゃあ大体の物は解体できる」
2人の言葉にはプロとしての自信がうかがえる。
作戦は結局思いつかなかった。
考えに考え、悩みに悩み抜き
結果として私は、ただこの2人を信じることにしたのだ
「役に立つ場面が来ないならそれが一番です。ラッキーアイテムぐらいに思ってください」
「ふ~ん……中身は?」
「防護と緊急の脱出に役立つアイテムです」
「しゃーねぇな……持っといてやるよ」
「えぇ…じゃあ…俺も持っとくわ」
松田さんも萩原さんも了承してくれた。良かった。
「しかしでかいなぁ…」と文句を言いながらも腰のベルトに頑丈に固定してくれる。
「受け取ってくれてありがとうございます。絶対!肌身離さず持っててくださいね」
「おうよ……」
「ははっ…御利益、期待してるよ」
目的を果たした私は2人に手を振って
景光くんと一緒に警備企画課のフロアに戻った
「諸伏警視はどこにいらっしゃいますか?」
「丁度良かった。お前探されてたぞ」
「諸伏警視が私をですか?」
「なにかあったのかな?」
景光くんが不思議そうに首をかしげる。
「あぁ…いましたか、夢主さん」
後ろから特徴的な低い声で呼びかけられる
「はい、何かご用でしたか?」
「歩きながら話しましょう。景光は外してくれ。」
「………。わかった。待ってる」
立ち止まった景光くんに手を振って、高明くんを追いかける。
脚のコンパスが違うので私は少し駆け足気味だ。
「高明くんコレ……貰ってください」
「なんですか?」
「おまもりです。いまちょっと配ってて、コレは高明くんの分です」
高明くんは受け取ったおまもりの感触を確かめるように指で撫でると穏やかな笑顔を向けてくれた。
「………そうですか。上手に出来ていますね…景光にもコレを?」
「はい、喜んで貰えました」
「そうでしょうね……コレは御利益がありそうです。大切にします」
そう言うと持っていたおまもりを背広のポケットにそっとしまってくれた。
「あの、今どこに向かってるんですか」
「どこだと思われますか?」
高明くんがいたずらっぽく微笑む
「まだあなたが見たことのない部屋があるんです。ご案内します」
「私の知らない部屋……?」
向かった先には重厚なエレベーター。地下へと下りる感覚の後にポーンと到着音が響く。
扉が開いた先に現れた部屋を見て私は思い出した。
(あ、ここ映画で見たことある…ハロウィンの花嫁と隻眼の残像)
キョロキョロと辺りを見回してしまう
気分は聖地巡礼である
「貴重品や装飾品、今持っている物は全てそこのトレイに」
「あ、はい」
時計を外して持ち物と一緒にトレイに入れる。
「そこに立って……失礼」
パタパタとポケットを中心に全身のボディチェックをされる。
「口を開けて………何も持っていないですね?」
「はい、トレイに置いたのが全てです」
「ではこちらに……入ってください」
「はい」
ガシャン
重い鍵を閉める音と共に背後で扉が閉じた。
「???」
あれ?
ガラス張りの向こうにいる高明くんに目を向けるとあちら側の受話器を耳に当てて立ち、壁の電話を取るように目線で促される。
恐る恐る電話を取ると高明くんの声が受話器越しに囁くように聞こえてきた。
「11月7日に以前逃した爆弾犯が動き出すことが予想されます。これはあなたも調べてらっしゃったので知っていますね?」
「……はい」
「あなたには前回の事件の際、一部の上層部から自作自演の嫌疑がかけられています。これも理解していますね?」
「……はい」
「11月7日が過ぎるまで、あなたにはここで監視付きで過ごしていただきます」
逃げ場のない地下の聖地にて
「………はい」
私は小さく返事をし、外で動き出すであろう運命の歯車を想った。
ーーーーー
フゥー………
肺の中の空気を全て吐き出すように
ゆっっくりと煙を吐く
俺は途中まで解体した爆弾と共に72番の観覧車に閉じ込められていた。
署内全部署に送られてきた暗号を解き、現場に乗り込んだまではよかったものの
3秒前に次の爆弾のありかを表示するなんざ、相当ふざけた野郎でないと思いつかねぇなぁ…
ピリリリ……ピリリリ
紫煙の燻る観覧車の中に携帯の音が響く。
『陣平ちゃん!もう一個の爆弾のありかがわかった!米花中央病院だ!爆弾も俺が確認した。間違いなく4年前と同じ作者の癖が出た代物だったぜ』
「あ?なんでありかがわかった?」
『匿名の通報があったんだよ!で、駆けつけてみればビンゴだったってワケ!』
「……念のため俺はこの3秒前の表示をギリギリまで確認する」
『陣平ちゃん!』
「心配すんな、あいつが言ってただろ緊急脱出に役立つアイテムの『おまもり』だって。……俺はあいつのトンチキな発明の腕は信用してんだ。無事に脱出してやるよ」
『……生きて帰れよ?…そんで『おまもり』のお礼…ちゃんと魔法少女ちゃんに伝えねぇと』
「はっ………当たり前だろ……じゃあ、後でな」
たばこを消す。
俺は気持ちを抑えながら夢主に託された『おまもり』のひもを解いた
しゅぼっと言う妙に間の抜けた音と共に中身が一気に膨らみ、広がる。
それを目にした瞬間の心境は表現が難しい。
ただそれが何かを理解すると共に、猛烈な怒りで視界が染まっていくのがわかった。
中から出てきたのは成人男性サイズのピンクのフリフリ防護服らしき物だった。
何やら背中から折りたたみ式の羽のような物が生えている。
「あっのっ…ア…マっ!!!……これを俺に着ろってのか!」
あまりの屈辱に震える手で中に入っていた手紙に目を走らす
手紙は一通りの着用方法と性能、羽の使い方が記され『最後まで諦めず生きて帰ってください』と締めくくられている。
「クソが!ぜってぇ生きて帰って一言言わなきゃ気が済まねぇ!!」
俺は毒づきながら手紙の指示通りの手順でそのふざけたデザインの防護服に身を包んだ。
頭部のシールドを下ろす。空中で胸元のハート型のボタンを押すと自動的に羽根が開閉して滑空出来るらしい。ある程度の方向操作も可能。耐衝撃、耐熱防火仕様、…コレならギリギリまで表示を確認して飛び降りれば助かる。
「ふざけやがってあの魔女っ子………ぜってぇ泣かす!」
残り十数秒
観覧車がきしむ音
汗が顎を伝う感覚
全てが、怒りで過敏に感じる
ピンクでフリフリの俺は、血走った目で爆弾の表示を睨み付けた。
―――――
ーーー
聖地巡礼だと思ったら監禁された。
映画の零くんの時は椅子とテーブルがあったのに何もない
寝よう
私は床にごろんと横になった。
毛布もクッションもないが贅沢は言えない
出られるのは11月7日か…いや8日?そもそも今日何日だっけ?
あぁそうだ11月1日だった……え?一週間も?仕事はどうなるんだろう?有給扱いだったら泣いちゃう。あぁ……だんだん眠くなってきた………。
ウトウトしてきた………寝れそう…………
ふっと影を感じて半目を開けると、ガラス越しにこちらを見る高明くんと目が合った。
私は黙礼をした。
そしてそのまま
まぶたが落ちるに任せて今度こそ眠った。
ジリリリリ………ジリリリリ
電話の鳴る音がする。でも聞き覚えがない。おそらく古いタイプ……黒電話のそれだ。寮の壁薄いからなぁ…隣の部屋の子かなぁ……目が覚めてしまったので体を起こす。
ふと見回すとガラス越しに黒電話を持って屈んでいる高明くんと目が合う。
どこか困ったような顔をしていた。目線で室内の黒電話を示されたところで慌てて受話器を取る。
「……はい!」
『……よく寝ていたようですね』
「……すみません」
『何か質問や要望はありますか?』
「今何時ですか?」
『あなたがここに入ってから5時間ほど経っています。……この部屋の説明を聞きますか?』
「あ、はい、トイレとかどうしたら良いでしょうか?」
『こちらでボタンを押すと下からせり上がる仕組みです。申告してください』
「下から……食事は?」
『食事もまた下からせり上がる仕組みです』
「なんか……床から食事って嫌ですね」
『………他に何か言いたいことはありますか?』
「特にないです」
高明くんが目をつむり、目元を指で揉む。
『………毛布の差し入れは?』
「いいんですか!お願いします!」
『……行雲流水……本当にどのような状況も受け入れてしまえるんですね』
「いえ……不満があれば言いますが…」
『人は未知に直面すると、少なからず乱れるものです。しかしあなたは……波紋一つ立てない……底が見えぬ水面というのは、時に深く…覗き込む者を飲み込んでしまう』
高明くんがじっと私の目を見ている。
『…その危機感の欠如。あるいは、底の知れない適応能力には恐怖を覚えます』
「恐怖……ですか?」
『毛布を持ってきます。……待っていなさい』
プツリ、と通話が切れた。
静寂が戻った部屋で、私は再び床に身を投げ出した。
眠気がゆっくりと体を包みこむ。
この後の流れってどうなるんだっけ………プラーミャの事件が起こって……松田くんが観覧車で殉職して………伊達さんが車に轢かれて………それから………それから?
あれ?………どうなるんだろう……景光くん……潜入してないし、高明くんも長野にいない…甲斐さんも無事だし、隻眼の元になる自殺は止めた……あとどうやったら……なにから…助けてあげられるんだ…っけ……?
わからないまま…………答えの出ないまま
プツリと意識が切れた。