転生夢主は救済もコメディ路線で生きたい【完結済み】   作:yako

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身の潔白

 

 

 

ガシャン………ゴゴゴゴ

床から伝わる地鳴りのような音で目が覚める

 

「あなた本当に寝てばかりでしたねぇ」

 

久々に直接鼓膜に響くその声、ジトッとした視線。高明くんは心底呆れたときにしか見せない表情をしてそこに立っていた。この表情久しぶりに見たなぁ……コレはコレで尊い。

 

「あ…今日何日ですか?」

「11月8日です。事件は1人も死傷者を出す事なく終わりました。が犯人はまだ捕まっていません……あなたには松田陣平に渡した装備について説明していただきたい」

「『おまもり』の事ですか?うまく作動しましたか?」

 

私が期待を込めて尋ねると、高明くんは深いため息を吐き、片手で額を押さえた。

 

「………はぁ……あなたご自分が1週間ここで監視されていた意義を全て吹き飛ばしてしまったことを自覚していますか?」

「え…?」

「あなたが『おまもり』と称して渡したあの……ピンク色の飛行装備。あれがどのようにして一人の隊員の命を救い、そして、どれほど彼自身と警察組織のプライドを粉砕したか……理解していますかと聞いているんです」

「何かあったんですか?」

 

首を傾げる私を、高明くんは諦めと鋭い観察眼が混ざり合った複雑な目で見下ろした。

しかし、それ以上言葉を重ねる事は無く、代わりにサッと道を空け扉を完全に押し開けた。

 

「……自分が何をしたのか…上で確かめてくることですね」

 

 

 

ーーーー

 

 

私は一週間の情報の穴を埋めるため

インターネットの世界で記事を読みあさっていた。

 

【速報】長野の魔法少女にライバル出現!?ツンデレ系黒髪ショートの東都の魔法少女!

『あの不機嫌な顔がたまらん…』

『黒髪ショートの元気っ子大勝利♡』

『ボーイッシュなのに全身ピンクってとこが良いよね!』

『空飛んじゃうの最高に天使!』

 

ネット上の各所掲示板、まとめサイトは、ピンクのフリルに覆われた松田さんが空を滑空しながら防護ヘルメット越しにカメラを睨み付ける写真であふれていた。

 

え?なんか生意気かわいい

 

距離とフリルのせいで体格がわかりづらいのもあり、ネット民は彼を「気性の荒いボーイッシュな美少女」だと完全に誤認しているようだった。

 

 

あらら……

 

 

「夢主!よかった!特別任務おわったんだね?」

 

景光くんが後ろから抱きついてきた。

 

「うん……もう良いみたい………突然ごめんね?」。

「いいんだ…俺、ちゃんと待ってたから…」

 

頬を寄せて囁いてくる景光くんを振り返る。

 

「あの……松田さんって今どうしてるかわかります?」

「…松田は入院してるよ?」

 

景光くんが小首をかしげてどこか困ったように答えた。

 

 

 

ーーー

 

 

「よぉ……ライバルさんよ…よくもまぁ、面見せに来られたなぁ?」

 

怒りと屈辱で最早紫色になった松田さんに、地獄の底から響くような声で出迎えられる。

病室の壁には例のピンクのフリルがハンガーに吊されている。

 

「どうも…ライバルの長野の魔法少女です……元気そうで何よりです松田さん」

「…おう…ライバルらしく決着付けようじゃねぇか。屋上来いよ」

「え、嫌です」

「……ライバルなんておこがましいよ。新人が生意気じゃない?」

 

景光くんがにっこりと私を庇うように前に出る

 

「景光の旦那は黙っとけよ………テメェ…嫌ですじゃねぇんだよ。落とし前付けろや」

「陣平ちゃん、女の子殴ったら駄目だよ?」

 

萩原さんがたしなめるが、松田さんの怒りは収まらない。零くんが頭痛を耐えるように眉間を押さえながら口を挟んだ。

 

「魔女……お前、自分が何をしたかわかっているのか?」

「機材の提供……」

「…ふざけんなよ?」

 

松田さんが凄んでくる。

 

「なぜこんなに怒られているのか分からない…」

 

すっかり困ってしまった。しおれると景光くんが無言で肩をさすってくれる。

 

「分からねぇかぁ?夢主よぉ?」

 

伊達さんが腕を組んで困ったように言った。

 

「突然閉じ込められ、1週間ぶりに地上に出たら、松田さんはガチギレしてるし、ネットでは長野の魔法少女はオワコンとか言われるし散々です」

「泣けよ、散々なのはこっちなんだよ。泣いて俺に謝れ」

「松田やめて……夢主、エゴサしちゃったの?やめな?碌な事無いよ?」

 

松田さんの追い打ちを景光くんが制し、そっと慰めてくれる

 

「騒ぐな…一連のことを整理するとだな……」

 

煩わしそうに米神を押さえた零くんが続ける。

 

「諸伏警視はお前に1週間監視を付け、行動のログを取ることで潔白を証明しようとした。しかしお前はその前に松田にガジェットを託し、それによって松田を危機から救った」

「はい……何か悪かったですか?」

「1週間のログが無意味になった。」

「……なぜですか?」

 

「まずお前の渡したガジェットがあの時の松田の需要に合い過ぎていることが問題となった。あらかじめ監禁を予想し、事前に全て準備を済ませていたとも取ることが出来てしまう。お前が監視先であまりにも落ち着いていたのも悪く働いた」

「…暴れてもしょうが無いですし、予測される危険に対処しえる機材を提供しただけです……」

「……今回は警察への挑発とメディアを使った侮辱・扇動行為も含めて疑われている」

「…そんな…こんな魔法少女騒動になるとまでは夢にも……」

「思わなかったってか?せめて色考えろや、どんだけ目立ったと思ってんだ」

 

松田さんが吐き捨てるように言った。

 

「色とフリルも構造のうちです…無ければ性能が落ちます…」

 

だって魔法少女らしくないと、ちゃんとこの世界のコメディの力が働くか分からないし……

 

「…お前が今拘束されていないのは、結果的に松田が助かり、死傷者が出なかったという事実と、諸伏警視がおまえの『おまもり』の備えはあくまで一般的な予想の範囲内と考えることも出来ると上層部を上手く説得した結果があってのことだ……」

 

「扇動……拘束…なんでそんな話になるんですか?1週間の監禁明けなのに…?」

本気で分からない。

 

「わかんねぇよなぁ……お前は良かれと思ったんだもんな?」

うんうんと伊達さんが共感してくれる。

 

「とりあえず……俺の分の『おまもり』は提出したんだけど…中身は陣平ちゃんのと一緒なの?……なんか諸伏ちゃんのとサイズが違ったのは中身の関係でしょ?」

 

萩原さんが困ったように聞いてきた。

 

「俺と兄さんのも提出を求められたから渡したけど……なんか板が入ってるだけだったよね?」

「はい…だって景光くん達は日常的に爆弾処理しないですし。あれは防弾プレートです」

「そっか、だから胸ポケットに入れるように言ってたんだね?俺のこと考えてくれてありがとう。早く返ってこないかなぁ……」

 

ふんわり笑った景光くんがそわそわし出す。

 

「松田さんと萩原さんの物にだけ爆弾処理の際に考えられる衝撃、炎、および高層からの脱出を想定したケルベロスの天空礼装を入れました。………あ、これ伊達さんの分と零くんの分です。どうぞ、これも零くんのは防弾プレートで、伊達さんのはエアバッグです。胸ポケットに入れてください」

 

2人は難しい顔をして無言でおまもりを受け取るとじっとそれをみつめている。

 

「なんで俺のはエアバッグなんだ?」

「張り込み中、車が突っ込んできても大丈夫なように」

「嫌に具体的だな……」

 

「お前、これ以上何か下手な動きをしたら本当に捕まるぞ」

 

零くんが難しい顔で忠告してくる。

でも今回の件は納得いかない、

しおしおになりながらも反論する

 

「……でも……こんなお祭り騒ぎになったのって松田さんが生意気可愛かったからですよね?私、悪くないじゃないですか?」

「……おい、正気か魔女」

「……自殺志願者なの?」

「とりあえずよぉ、松田の件は男だって言ったら終わる話じゃねぇのか?」

 

伊達さんが頭をかきながら困った顔で言った。

 

「それはお勧めしません」

 

私は慌てて待ったをかけた。

全員がいぶかしげな顔をする。

 

「……この騒ぎが収まると何か困るのか?何を企んでいる」

零くんが冷たさを帯びた剣呑な顔をして腰を浮かす。

 

「違います、逆です!女装男子だともっとネット民は喜びます!」

「「「は?」」」

「男の娘っていうんです。そんな属性まで付属したらもうお祭りは収まりません。」

 

部屋に沈黙が落ちる

 

「意味分かんねぇわ…俺は…どうしろってんだよ……」

「どうしたら良いんでしょう……松田さんが可愛かったばっかりに…」

 

ザッと空気が動いた瞬間、強く後ろに引っ張られる

 

ガッ……バン!ダンっ!バシッ!

 

「確保っ!」「っ落ち着け!」「あの子悪気はないんだって陣平ちゃん!」

「うるせぇ!なお悪いんだよ!」

 

無言で松田さんが飛びかかってくるのを萩原さんと零くん、伊達さんが咄嗟に止めた。

一瞬だった、連携の取れた鮮やかな動きに驚いてしまう。

 

「おぉ!流石、お見事です!」

「夢主、煽らないで」

 

私を引っ張った勢いで抱き留めた景光くんは、そのまま流れるように肩でヒョイと持ち上げると、松田さんの方へ片手をあげ「じゃあね東都の魔法少女さん」とニッコリ笑ってサッと病室を後にした。

 

松田さんの怒りの声が響くのを背中で聞きながら

景光くんの方がよっぽど煽っていたのでは?と思ったが

満面の笑みの景光くんに何も言えず。

 

私は黙って運ばれていった。

 

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