転生夢主は救済もコメディ路線で生きたい【完結済み】 作:yako
う~ん………
私は松田さんの爆弾事件に関する公式な調書の写しを読みながら腕を組んで考えていた。パサリと紙をめくる音が夜の静かなフロアに響く
この匿名の通報ってなんだろう……
原作ではこんなの無かった
指先でなぞったのは、事件発生直後に警察に寄せられたという一本の電話。
「米花中央病院で爆弾を見つけた。」という情報提供だ。
通報者は不明。
添付されていた監視カメラ映像の分析資料には、一人の人物が病院中を何かをしきりに探して歩き回り最終的に爆弾を発見、その場で騒ぎ立てずに病院の公衆電話を通じて通報、そのまま人混みに紛れて姿を消す様子が映っていたと書かれている。
そんなはずはない。この情報は本来、松田陣平がその命と引き換えに爆弾に表示された文字を佐藤刑事に託してようやく得られたものであったはずだ。
思考の海に沈んでいると不意に後ろからするりと私首筋に2本の腕が滑った。
「何見てるの?」
私の肩に顎を乗せ、デスクの上に広げていた書類をひょいと持って行く。
景光くんだ。私を椅子ごと抱きしめるようにしながらその指先が事件の概要をなぞる。
「………あぁ、松田の件、今回も犯人捕まらなかったね」
「そうですねぇ……また4年後でしょうか……」
「爆薬の入手経路が割れたらなぁ……規模も大きいし次の事件前に捕まえないと……」
まぁ割れないだろう。
私はため息をついた。この犯人は4年後まで捕まらない。私が何もしなくてもコナンくんが捕まえてくれるはずだ。野放しにすることに一抹の不安はあるがこればかりはどうしようもない。
「…何か気になることがあるの?」
景光くんが困ったように微笑んで私の顔を覗き込んだ。
尊い……思わず拝みたくなる。癒やしの笑顔に私も自然と笑い返す。
「この通報者って何を探してたのかなって、気になってて…」
「そうだね…気になるよね…でも今日はもう帰ろ?…ね?」
猫のようにスリスリと首元に甘えてくる
何だか原作のイメージよりも私に対して弟属性が前面に出ている、甘えてこられると無碍にできない。同級生だけど、私の方がお姉さんって昔に言ったのもあって、今更突き放すのも何だか可哀想だ。
景光くんは一時、私の何気ない言葉にも、『信じられない』とこぼすぐらいに気持ちが不安定になってしまって本当に心配した。小さな助けにしかならないとは思うが、私もペアとして接し方について人に相談もしながら試行錯誤してきたつもりだ。
気持ちが落ち着いている時には新一くん達と交友関係も広げてみたり。逆に2人で過ごしてみたり。
そんなこんなでここ数年はすっかり落ち着いて、仕事も順調にこなしているし、他の職員とのコミュニケーションや連携も普通に取ることが出来るようになっていた。やはり時間が解決してくれた部分が大きいのだろう。その苦しみがどれほどの物であったか、正しくは本人にしか分からないが、乗り越えることができたなら本当に良かった。
それを思うとつい甘やかしてしまう。
「おい、お前ら。何をしている」
コツコツと堅い靴音を響かせて零くんが呆れた顔で近寄ってきた。
「おつかれさまです~」
「……ゼロ…おつかれ」
「ヒロ…近すぎる、離れろ。ここは職場だ」
「あらら、ほら、怒られてますよ?」
「え~……ふふふ」
景光くんは穏やかに深く喉を鳴らして笑うと、書類を持ったまま今度は抱え込むようにして私の頭に顎を乗せる。
零くんは眉間のしわを深くしたが、それ以上何も言わなかった。デスクに残る書類にチラリと目線を向ける。
「……その調書…魔女、お前はこの件にもう関わるなと諸伏警視からも言われただろう」
頭痛をこらえるように眉間を押さえると、射抜くような鋭い視線を向けて来る。
「気になるんですよ、コレ」
監視カメラの情報が書かれたページをなぞる。
「…状況が分かっているか?……わざわざお前が首を突っ込む理由がない」
零くんの声は硬い。デスクの端を指先でトントンと叩き、圧を持って一歩踏み込んできた。
「あらぬ疑いでも、捜査が行き詰まればそこをつつかざるを得ない。お前がこのフロアで今も仕事が出来ているのは諸伏警視が手を尽くしているからだ。その意味が分かるか?」
「?疑いを晴らすために犯人を追うのは普通にあるのでは?」
私が首をかしげて聞き返すと零くんは眉根を寄せて私を見下ろした。
あと数年もすればコナンくんが来てくれる。勧善懲悪の少年誌の世界
拗れたとしても最終的には犯人も捕まり、めでたしめでたしとなるはずだ。
「……お前は何年ここに居る?……ここのやり方を間近で見てきたはずだ……」
「私達同期じゃないですか…はい、色々見てきましたけど…なんですか?」
私は零くんの言いたいことが上手くつかめず、聞き返す。しかし零くんはそれ以上何も言わず、黙って私を睨み付けてきた。その瞳には苛立ちと何故か焦燥が滲んで見える。
「………没収だ」
零くんが私の手からむしり取るように、荒々しく調書のコピーを掴んだ。紙の束がその手の中でぐしゃりと潰れる。揃えることもせず乱暴に全てをかき集めると、そのまま一度も振り返ることなく苛立ちを隠さない足取りでフロアの外へ消えた。
私は勢いに驚いてしまい、ただその背中を見送るしか出来なかった。
「……手、切らなかった?見せて」
景光くんが私の手を確認する感触で我に返る。
「あぁ、大丈夫です。ちょっとびっくりしただけで」
「心配なんだよ……」
「そうですか……」
先が分からないから、皆怖いのか
でも話すわけにはいかないからなぁ
そもそも前世云々を話して信じてもらえるとも思えない。
「もう夜も深いから帰ろ。送ってくから……」
私は景光くんに手を引かれて、フロアを後にした。