転生夢主は救済もコメディ路線で生きたい【完結済み】 作:yako
「ナタリーさんといつ結婚するんですか?」
ある日の飲みの席で私は伊達さんに聞いてみた。
指輪を落とさなければいいのだ。この人は
「っそりゃ…そのうちだよ…時が来たら…」
「今じゃないですか?今から呼び出してプロポーズしてください。ちょうど証人も揃ってますし」
「おいおい」
伊達さんが焦ったような声を出した
「オーいいね!班長!漢を見せないと!」
萩原さんがニヤりと笑ってのってくる。
「班長にも計画があるだろ、無理強いするな」
零くんがブレーキをかけるがその表情はどこか楽しげだ
「あぁ?魔女っ子はな~んでそんな事、突然言い出したんだ?」
ほろ酔いの松田さんが半目で絡んでくる
「私友達少ないので、結婚式とか出たことないんです。本格的なドレス姿の花嫁さん!見たいです!式には呼んでくれますよね?明日にでも結婚してください!」
「明日は無理だなぁ…夢主よぉ。」
嘘ではないが本当でもない適当な理由をあげる。
いっそ籍だけでも入れて欲しい。伊達さんの後ろにはナタリーさんとその両親、この結婚には4人分の命がかかっている
「じゃあご実家への挨拶の日取りだけ決めましょう、いつですか?」
「どんだけ見たいんだよ」
「おい、勝手に話を進めるな」
零君が嗜めると、私の横に座った景光くんが穏やかな声で話し出した
「夢主ドレスが見たいの?じゃあ俺と結婚しよ?」
「しないですよ?」
「そっか…」
場が一瞬シンとなる。
萩原さんが驚愕の声を上げた。
「え、まって今さらっと告白しなかった?諸伏ちゃん」
「………さらっと振られてなかったか?」
松田さんがグラスを傾けながら呟く。
「景光くんはたまに言いますよ?季節の変わり目とか………寂しくなるんですかね?」
「「「「は?」」」」
男四人の声が見事に重なった。
「定期的に…?え?」
「…それでお前は何で振るんだよ?」
松田さんが奇妙な物を見るような目で言った
「お付き合いしてないですし、私、魔法少女ですから」
「「「「は?」」」」
そう、最近景光くんは年頃のせいか結婚を意識しているらしい。正直、私も適齢期なので『きゃあ!推しからの求婚!嬉しい!』といった気持ちはある。だが、景光くんは原作では独身だ。これ以上、原作から意図的に離れるのは正直したくない。
そもそも私は異物だからこそ、救済などと言うイレギュラー行為に動けているのだ。ただでさえ色々変わってしまっているのに、下手に主要キャラクターの深い設定に食い込んでしまってはどんな力が働くか分からない。
「いつも断るよね?どうして?」
景光くんが困ったように顔を覗き込んでくる。
「魔法少女だからです」
そう、私は自称魔法少女として推しを救済するのが使命なのだ。命が優先。
「魔法少女って結婚しないの!?」
萩原さんの絶叫が響く。
「あんだけイチャイチャベトベト許しといて今更何言ってんのこの女!悪魔!とんでもない悪魔だよ!」
荒れている。飲み過ぎてないだろうか?
「お前、往生際が悪いぞ…」
松田さんはグッと飲みきったグラスを置くと、メニューを見ながら投げやりに言った
「え…いや…魔法少女が結婚するって聞いたことないでしょ?」
「あるかもしれないじゃん!?探そう?いまからでもゲオ行こ?」
萩原さんが携帯を連打し、検索しだした。相当酔ってる。
「おい魔女....お前の独自ルールなどどうでもいい…お前はヒロをどうしたいんだ…振り回すのはやめろ」
零くんが睨み付けてくる
「そう言われましても、私…現役魔法少女ですから…そもそもお付き合いもしてないですし」
「じゃあ付き合ってよ。俺と付き合おう?」
「…いや、結婚を前提としないお付き合いはしない主義で…」
「詰んでるじゃん!」
萩原さんが頭を抱える
「…。」
不満げな目をした景光くんの手に力がこもる。今回の景光くんはちょっとしつこい。人前で言い出したのも初めてのことだ。
「俺のこと嫌?迷惑?」
「いえ、嫌ではないです。迷惑にも思ってないですよ?一緒にいられて楽しいですし、いつも助けて貰ってます」
「……俺と一緒にいて欲しいんだ……」
「……今日はいったいどうしたんですか?いつもより食い下がりますね……」
「お前が悪いわ」
松田さんが口を挟んでくる。
「…他に恋愛をする予定が無いなら、もう引き取ってやったらどうだ?」
伊達さんが困ったように提案し、萩原さんが続く
「なんなの?諸伏ちゃんいい男だよ?尽くすタイプだし?何でそんなに魔法少女にこだわるの?」
こだわりも何も、コレは私なりのこの世界での生存戦略であり、唯一の武器である。失うわけには行かない。
「私のことより、伊達さんの話が先です。早く呼び出しましょう。それとも迎えに行きますか?」
「いや俺は……」
「逃げないで……逃がさないから……」
「ほら、景光くんも逃がさないって言ってますよ?」
「班長じゃねぇだろ、お前のことだよ」
松田さんが呆れたように指を指してくる。
「私は逃げてないです。ちゃんと断ってます」
「……納得できない」
景光くんが手を握ってくる。今回は相当人恋しくなっているようだ。私は空いた片手で盛り合わせのお皿に手を伸ばす
「ほら、焼き鳥あげます。お腹すいてるから寂しくなるんですよ」
「………」
無言で横から抱きついてくるのを受け止める。ポンポンと背中を叩いた後、焼き鳥を口元まで運んであげたら素直にガブッと齧りついてモグモグと食べた。えーかわいい。
「………俺お前らがわかんねぇわ」
「そうですか?私は伊達さんが分からないです。何で先延ばしにするんですか?ナタリーさんは魔法少女じゃないのに」
松田さんがぼそりと言ったのに便乗して話を戻す。
「あのなぁ…俺にもタイミングってもんがあるんだよ」
「ナタリーさんにもタイミングがあるんです。今がその時です」
「もう寝ちまってるって…」
伊達さんが煮え切らない。困ったような声だ
「伊達さん、せめてご実家に行く予定を今!立てましょう!新幹線代出しますから!グリーン車で」
「おいおい…なんでそんなに前のめりなんだ?」
「指輪はもう買ったんですよね?ちゃんと箱パカするんですよ?間違っても直渡しは無しです」
「箱なんざ処分しちまったぞ?」
「なんてことしてるんですか!買いにいきましょう!」
「そんな重要かぁ?」
「様式美ですよ!」
「結婚しねぇ宣言してるやつが語るなよ」
松田さんの言葉を無視して、更に畳み掛ける。
「やっぱりお色直しはカラードレスですよね?こだわるならドレス持ち込み可の式場で…」
「お前はなんで詳しいんだ?」
「ゼクシィ買ってきたんです。今月の付録が洗濯ネットで…」
分厚い冊子を鞄から出すと向かいに座った萩原さんが携帯片手に乗り出してきた。
「ほら!夢主ちゃん!引退後に結婚してる魔法少女いるよ!」
「萩原さん…それはフィクションです」
「あぁ~もう!何なのこの子!」
「景光くん次、タレと塩どっちにしますか?」
「塩がいい…」
「ヒロ…自分で食べろ」
結局その飲み会では伊達さんの結婚について、何の進展も無くお開きになった
あーあ、
ササッと結婚させてしまいたかったが
なかなかうまく行かない。ままならない物だ。
せめてもと私は、伊達さんにゼクシィを押し付けて帰った
ーーー
「ほら、焼き鳥あげます。お腹すいてるから寂しくなるんですよ」
「………」
夢主が差し出した焼鳥に無言でかぶりつき噛み切る。
……納得がいかない。
ヤケになって、差し出されるクシを食べながら、掘りごたつ式の座敷を夢主の方に移動してバックハグの状態に落ち着く。
「景光くん次、タレと塩どっちにしますか?」
「塩がいい…」
「ヒロ…自分で食べろ」
………そのまま頭頂部へキスを落とす。これはいつものことだ。なので夢主もスルーして、目の前の焼き鳥をかじっている。
(……もっと)
チュッ、と音を立ててキスする位置を移動させる。頭から髪へ、髪から頬へ、徐々に目標へと近づく。
あと数センチで唇が触れる瞬間、彼女の片手が俺の口をパッと塞いだ。
「手…どけて」
目を見つめて軽く睨む。低い声が出た。
夢主はどこか怪訝な顔で答える
「えぇ…?甘やかすタイプのお姉ちゃんでも弟とは口にキスしないですよ?」
「……普通そんなくっつきもしないけどね?」
正面の萩原が呆れたように突っ込む。
「弟じゃない....同級生だろ」
俺が口を塞がれたまま唸るように訴えるが手はどかない。
夢主は何やらひどく感動したように目を輝かせた。
「手でおさえててもよく声が通りますね、凄い!聞き取りやすい!」
違う、そんな話がしたいんじゃ無いんだ。
じっと睨む。この手が今は邪魔だ。つかんで口元からどかそうと力を込める
「あらら…」
夢主が困ったような声を上げる
「おい、ヒロ…やめろ」
ゼロが即座に反応して声を上げる
「諸伏ちゃん…引きな?」
「…」
萩原が穏やかに牽制してくる。その横では松田が杯を傾けながらも油断なく静観している
「流石にやりすぎだ。しょっぴかれるぞ?」
班長が眉をひそめる。言葉は聞こえている、意味も分かる。だけど今の俺には魔法少女の頑なな態度が憎らしかった。手を引き剥がそうとさらに力を込めると、夢主は空いている手でメニューを取って、俺にも見えるようにして広げた
「ほら…ここの鮭茶漬け、鮭大きいんですよ?丼でくるんです。分けっ子しましょう」
俺に手を掴まれたままの状態で、ごく自然に話しかけ、話題を変えてくる。最早その目は鮭茶漬けに向いていて、俺にはカケラも警戒が向いていない。そのあまりのマイペースさに、俺は力を込めていた手を緩めざるを得なかった。
「あ、じゃあ俺もそれにするわ」
萩原が空気を読んで呼び出しベルを押す
「俺は海苔茶漬け」
「…俺は梅で」
「俺の分、鮭茶漬け追加してくれ」
「明太子も捨てがたいですね…お腹と相談してまた追加しましょう」
口を押さえていた手がメニューをめくるために自然と離れる
(………くそ)
脱力した俺は夢主の肩に額を預ける。
ここには、俺を守った証がのこっているはずだ。覚えている。飛び込んできた力の強さも、頬にかかった血の温かさも…全部…。
傷つけたいわけじゃない....ただ、腹立たしいだけだ。あの夜、兄さんが言っていたことが....それが正解なのかもしれない…兄さんが…兄さんが言っていたように…
こうしていれば誰も手を出せない
俺は言いつけを守るように、夢主に誰も近づかないようギュッと過剰なまでに夢主に縋り付いた