転生夢主は救済もコメディ路線で生きたい【完結済み】   作:yako

19 / 30
来訪者

 

―――

 

その男は、あまりに突然に現れた

 

平穏なランチ休憩の時間。警察庁舎の周辺を、隣を歩く夢主の体温を感じながら歩いていた、その時だった

 

 

「あの…長野の魔法少女さんじゃないですか?」

 

 

背後から掛けられた、どこか縋るような、それでいて確信に満ちた声。突然のことに俺達は2人同時に立ち止まった。

 

「…知ってる人?」

 

夢主にそっと尋ねるが、覚えがないのか、微かに首をかしげる。声を掛けてきた男は、嫌でも目を引く整った容姿をしていた。だが、それ以上に俺を硬直させたのは、その男の面差しが、どことなく夢主に似ている事だった。

 

血縁か?

 

そう思ったため一瞬思考の歯車がかみ合うのが遅れた。相手の男は迷い無い足取りで遠慮なく距離を詰め近寄ってきた。顔にはどこか歪で無理矢理作ったような不自然な笑みを浮かべ、目の奥には隠しきれない激情が渦巻いている。

 

視界の隅で男の指先が小刻みに振動しているのが見えた。

 

「やぁ~やっぱりそうですよね!一度お会いしたかったんです!聞いてみたいことがありまして…実は僕以前、東京タワーの近くに住んでたんですけど....そこでトラックにひかれちゃいまして!気がついたらここにいたんです。まぁそんな夢をよく見るんですよね~小さな頃から……ははは……探偵をしてまして成宮夢斗っていうんですけど、もしかして僕のことご存知じゃないですか?」

 

「…夢主下がって」

 

俺は即座に一歩前に出た

 

東京タワー?トラックに跳ねられた?。支離滅裂で脈絡の無い話し方……何か薬物でもやっているのか?男を制圧できるよう瞬時に間合いを計算し重心を整える。

 

その時だった

 

「た!…たぶん知ってます!」

「夢主?」

 

思わず振り返る。夢主は俺の背中から背を伸ばし、驚愕を表すかのように見開いた目で食い入るように男を見つめていた。

 

 

「お話しましょう!是非!…漫画とかアニメの話とかお好きですか?私は両方好きだけどそんなに見られて無くて……でも引っ越し先に推しがいるって夢を見ちゃって....!」

「推し…僕は両方そこそこ…哀ちゃん…が好きです…ご存知ですか?」

「はい知ってます。ジェットコースターにはまだ早いですよね」

「…あぁ…よかった…良かった」

 

男は糸が切れた人形のように崩れ落ち、地面に膝をついた。慌てた夢主が俺を振り切って駆け寄り、あろうことかその男の肩を抱き寄せ優しく、慈しむよう擦る。

何なんだ今の会話は。

全く意味が分からなかった。何かの暗号か?何故夢主が?

 

「…夢主…その人…」

俺は男を睨み付けたまま目を細める

怒りと困惑が、どろりと胃の奥を焼く。

 

「あ~…恐らくですが昔の友人です…成宮くん…少し落ち着きましょう....立てますか?」

「大…大丈夫です....相談したいことが山ほどあるんです……連絡先…これ…」

男は未だに震える手で何枚か零し、握り潰しながら必死に名刺を夢主に差し出している。

 

「スマホでいい?」

「ガラケーもスマホもポケベルも持ってます....すみません、僕ポケベル世代じゃないんで表がないと打てないから遅いんですけど…」

「そっかそっか…私もスマホないと生きてけないタイプ」

「あ…あはは」

 

知り合い……?この怪しげな男と夢主が?

顔が似ている………親類か?いや、ならそう言うはずだ

少なくとも俺はこんな男は知らない………

 

「…昔の知り合いって?どういうこと?」

 

得体の知れない焦燥に駆られて彼女の腕をつかむ。

 

「夢主…長野に越したのは3歳の頃だろ?それに東京タワーって夢主は昔からよく間違えてたけど…東京は地名で、実際あるのは東都タワーだろ…」

 

彼女の目を覗き込むが男の方を見ていて目線が合うことが無かった

 

「……そう…昔よく地名間違えてた…成宮くんはそれを覚えててくれたんだよね?懐かしいねぇ」

「そう…そうです…だからそれをヒントに探していて…僕、昔のことは誰にも話してなくて…」

「そうだね、私も誰にも話してないんだ…。会えてよかった。探してくれてありがとう。昔話とかできるといいんだけど…時間ある?」

 

子供の言い間違いを頼りに大人になった探偵が人捜し……?そんなことがあり得るのか?

 

夢主の手が男の震える肩を温めるように擦る。

ただその光景が、俺には狂おしいほど不愉快でたまらなかった。

 

 

ーーーー

 

 

 

まずいなぁ………

 

私は焦っていた。捕まれた腕にとてつもない圧を感じる

この成宮夢斗くん…間違いなく転生者だ。お話ししたい。切実に。でもその前にこの腕をつかんでいる景光くんをなんとかしないといけない。2人きりにならないと細かい話が出来ない。

 

「夢主……長野に越したのは3歳の頃だろ?それに東京タワーって夢主は昔からよく間違えてたけど…東京は地名で、実際あるのは東都タワーだろ…」

 

「……そう…昔よく地名を間違えてた…成宮くんはそれを覚えててくれたんだよね?懐かしいねぇ」

 

嘘では無いけどそればっかりじゃないからなぁ…さっきのやり取りなんて誤魔化そう…成宮くんのスタンスもわからない。

 

「そう…そうです…だからそれをヒントに探していて…僕、昔のことは誰にも話してなくて…。」

 

よっし!私と同じ、不用意に前世の事を話さないタイプの転生者だ。しかも話合わせてくれるつもりがあるようだ。空気が読める人で良かった。

 

「そうだね、私も誰にも話してないんだ…。会えてよかった。探してくれてありがとう。昔話とかできるといいんだけど…時間ある?」

「はい…今はお昼休みですか?」

「うん、そこの喫茶店でいいかな?…ごめん景光くん私ちょっと成宮くんと2人で…」

 

「俺も同席する…2人きりには出来ない」

表情を険しくした景光くんは一歩も引かないという姿勢だ。

 

………ですよねぇ

 

冷え切った空気のなか、3人で黙ったまま喫茶店へと向かった。

 

 

―――

 

官庁街の喧噪から一歩入った、静かな喫茶店。

カチャっとティーカップが置かれる音が妙に大きく響く。ボックス席に座った私の隣には、無言でじっと向かいの成宮くんを見つめる景光くんがいる。

 

「取り乱してすみません。改めて、僕は成宮夢斗です。探偵をしています」

成宮くんが名刺をそっと机に置いた。景光くんの視線が射抜くようにその名刺を睨む。

 

「最近、ネットで『長野の魔法少女』を知りまして……。もしかしたら昔の友人では無いかと思い、長野から情報を辿って、ようやくここにたどり着きました」

 

私は笑顔を作ると声に懐かしむような響きを乗せて成宮くんに話しかけた。

 

「昔、一緒にお話を作って遊んだね!…あれは旅行先?とにかく家では無かったよね?どこで会ったんだっけ?どこだったかなぁ…」

 

成宮くんの来歴が全く分からない以上、私から確定情報を出すのは自殺行為だ。後々何かしらの証拠が出てきて詰む可能性が高い。小さな頃の記憶としてぼかせるだけぼかして成宮くんにパスする。

 

「僕もそこまでは覚えていないです…両親を亡くしているので聞くことも出来ず…ずっと東都に住んでいたので旅行中だったのかもしれないですね…」

 

成宮くんがうまくパーソナルな情報を載せてくれた…助かる。

 

「子供の頃、旅行中に会っただけの人間を大人になって探す…?何のために?」

 

景光くんの声が低く響く。疑いの色が濃くのっている。

ですよね…でもこれで行くしかない。

 

「お話のこと覚えていてくれて嬉しいなぁ。トラックにはねられた人の夢の世界で哀ちゃんって女の子が出てきて…まだ小さいからジェットコースターに乗れないってお話。ね?さっきもそれで思い出せて…」

「それがさっきの符丁…?何故そんなしっかり覚えて?」

 

景光くんの視線が私の横顔に刺さる。

 

「符丁って程では…ほら私、小さな頃、年齢の割に言葉の発達が早かったから?記憶に残ってて…成宮くんもそうだよね?」

「えぇ…。僕も周囲からは、少し変わった子供だと言われていました。僕…「昔の記憶」は、全部妄想なんじゃ無いかって怖くて…確認をしたくて声を掛けました……緊張した…でも…空想じゃ無かったんだ…」

 

あらら……声が震えている、この人だいぶ参ってるなぁ…

ずっとこの異質な世界で自分の正気を疑いながら生きてきたのか…それはつらい。

 

「大丈夫大丈夫、私も覚えてるよ?」

 

そっとテーブルの上の手を取る。包み込むととても冷たかったので、少しでも温めるために両手で擦った。

 

 

「落ち着け、ヒロ」

 

突然、声がして背後から伸びてきた手がガシッと横にいた景光くんの肩を掴んだ。

ビックリして振り返ると、そこには零くんが立っていた。

 

「えっ、零くん…!?」

「ヒロに呼ばれた…魔女……説明しろ」

 

零くんの視線が私からテーブル、そして成宮くんに移る。

 

不意に成宮くんが、握っている手をぐいと自分の方へ強く引き寄せた。私はテーブルに身を乗り出すカタチになりソファーから腰が浮く。反射的に景光くんが立ち上がろうとするが、それよりも早く、成宮くんは私の耳元へ顔を寄せた。

 

「(…宮野姉妹を、保護しています)」

 

微かに届いた成宮くんの切迫した囁きに驚く。おぉ…宮野姉妹の保護……ただ者じゃ無いな成宮くん。そうだよね、推しだって言ってもんね。

 

「……っ!」

 

景光くんに引き戻され、浮いた腰がソファーにもどる。

サッと動いた零くんが逃げ道を塞ぐように成宮くんの横に座った。足を組んでテーブルに肘をつき、睨め付けるように下から挑発的に問う

 

「………今そいつに何を言った……答えろ」

「……夢主さん以外は信用していないので」

 

私の手を掴みテーブルにのりだした姿勢のまま成宮くんは零くんを鋭く警戒した視線で睨んでいる。シリアスだ。重い。空気が重い。

あぁ、哀ちゃん推しから見たら零くんはミステリートレインの件があるから信用できないですよね。そうだよね。せめてこの零くんは潜入捜査して無いよって伝えたい。もどかしい。

とりあえず仕切り直す。

 

「…零くん、こちら成宮夢斗くん。昔の友人です」

「昔の友人…?…お前、自分の所属と立場分かってるのか?……顔立ちが似ているが親類か?……彼女に近づいた目的は何だ」

 

う~ん、多い、質問が多い。

成宮くんは無言で椅子に座り直し、目を伏せた。先ほどまでの取り乱した表情はなりを潜め、手の震えも収まっている。

 

「……公安、もしくはそれに近い場所……ですよね……夢主さんの所属は」

 

成宮くんがコーヒーカップを揺らしながらぽつりと言った。

空気が一気に凍り付く。景光くんの体にグッと力が入るのが私の腰を掴んだ手から伝わる。

 

「僕…夢主さんのことはよく調べさせて頂きました。その『善性』を信じてお願いがあります」

「…何?成宮くん」

 

「確実に保護して頂ける信用できる方を紹介してください」

 

当然「黒の組織関係から」と枕詞がつくだろう。とんでもない爆弾を投げ入れられた私は、即座に携帯を取りだす。3コールで相手が出た。聞き慣れた低く落ち着いた声が耳に届く。

 

「もしもし、高明くん?ちょっと助けて欲しい事柄がありまして……」

 

シリアス。しかも計画に無かった物だ。

準備が圧倒的に足りない、打ち合わせも出来ていない。

でもうまく繋げないと

高明くんに喫茶店の場所を告げ電話を切る。

 

私が即、高明くんに電話するのを横で聞いていた景光くんが驚愕と困惑の混ざったような顔をしている。

 

「夢主…何を言われた?兄さんを引き合わせる気か?こいつに?」

「はい、すぐ来てくれるそうです」

 

携帯をしまって、手持ち無沙汰になったので、なんとなくまたテーブルの上の成宮くんの手を握った。

 

さて……私は黒の組織についてどういうスタンスを取るべきか。

私はまだ警備企画課の職員としては、黒の組織の情報に触れてはいない。このまま全く知らないというスタンスを貫くべきか?でもうっかりぽろっと知ってる事が出ちゃうかもしれないしなぁ……

そもそも潜入捜査が無くなったのもあって、誰がどの程度知識を持っているのかさっぱり分からない。魔法少女としての活動中に、少し噂として耳にした…っていう設定で逃げ道を確保しておくのが無難かなぁ…

 

フル回転で思考する横で、成宮くんに向き直った景光くんが低く唸るような声を漏らした。

 

 

「………成宮夢斗……お前…何者だ」

「ですから探偵です。仕事で大きかったのは月影島の麻薬密売事件ですね。ピアニストである麻生圭二の一家惨殺未遂事件を発端とした…警察の方にも記録が残っているはずですよ」

 

月影島…未遂…成実先生まで助けてる……

え?すごい、優秀。

 

「…魔女に何を保護させるつもりだ?」

 

零くんが鋭い目で睨む。冷徹な捜査官の目だ。

成宮くんは背筋を伸ばしたまま目を伏せ、片手でゆっくりとコーヒーを口にする。

 

「夢主さんの呼んだ方がいらしたらお話しします。外で何度も口にしたくないので…」

 

最初に話しかけて来た時のトーンとは違う、静かで落ち着いた声。いかにもミステリアスな探偵といった印象だ。私が魔法少女を演じているように、彼もまた、何か本来の自分とは違う『役割』を演じる事でこの世界と整合性を取って生きていると言うことかな?

というか見れば見るほど私と似てる。確実に製造元は一緒だ。親に合わせたらもめ事が起きそうなレベル。やはりこの美貌は転生特典だったのか。

 

場を沈黙が支配する。お腹すいたなぁ…。

コーヒーに全力を注いでいて軽食メニューのほぼ無いこの店舗では、お昼時の客は疎らだ。せめてケーキか何か頼みたいけどピリピリした空気でとても注文できない....

 

そこへドアベルが澄んだ音を立てた。

規則正しく、迷いの無い足音。

 

「……お待たせしました………そちらの方は?」

 

高明くんは一同を見回すと静かにテーブル上を一瞥し、名刺に目をとめた。そして最後にゆっくりと成宮くんの方に目を向けると、場を支配するような独特のゆったりとした声を発する。

 

「………成宮、夢斗さん……で、よろしかったですか?…なるほど…探偵でらっしゃる……」

 

 

その理知的な目をすうっと細めると、口元に微かな

どこか冷えた笑みを浮かべた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。