転生夢主は救済もコメディ路線で生きたい【完結済み】 作:yako
私は成宮くんの探偵事務所の前に立つと1つ息をついた
初めて1人でここに来ることが出来た。
ドアをノックすると、どうぞとすっかり聞き慣れた声がした。成宮くんと出会ってから既に数ヶ月たっている
事務所に入ったところで目で合図を送る
腕を上げて軽く振る、次に肩を触るふりをして首を指さした。
「成宮くん飲み物貰える?…運動がてら歩きで来たの…正直後悔してる…『これでよく公安が務まるな』って自分でも思うけどさ」
「……夢主さん盗聴器を持ち込んでますね?」
「……」
押し黙る演技をする。伝わって良かった。わざとらしくなっていないだろうか。
成宮くんも冷たい声の演技を続ける
「……外してください。事務所にもいくつかあったんでお返ししますね。不法侵入ですよ?……続くようでしたら対応を変えます」
「………ははは」
成宮くんが服に付けられた盗聴器と各所の機械を手際よく剥がして電波遮断の箱に詰める。
「(……まだ駄目ですよ?)」
耳元で囁かれる
「今日はもう、それ持って帰って貰えますか?」
「…話がしたかったんだけど」
「………………そういう気分じゃないんで」
「わかった………ごめん。出直すね」
わたしは盗聴器の箱を受け取ると少し肩を落としてドアを出る。
携帯を取りだし、コールする。
プルルル……プルルル……………
『……はい』
「風見さん近くに居ますよね?車で来てます?」
『……車ですが』
「あぁ~助かります!乗せてください」
「……はい」
「車、事務所前に着けて貰えます?」
風見さんは黒田さんが私に付けたペアだ。
でも実際は監視役に近い。絶対付いてきてると思ったんだよね。
降谷さんの部下じゃなくて私の部下になっちゃった。かわいそうな人だ。
事務所を出て、車に近づくと中からドアを開けてくれる。
「お疲れ様です。怒られて今日は追い出されちゃいましたよ。コレのせいで」
盗聴器の入った箱をガラガラと鳴らしてみせる。
「警戒されるだけなのでやめてください。…伝えて貰えます?」
「……私を通さなくてもご自分で伝えては…?」
「でも風見さんのが頻繁に報告に呼ばれてるんじゃないですか?」
「……」
「やりづらいですよね?ごめんなさいね?」
「……庁舎に戻ればよろしいですか?」
「いえ、宮野姉妹のところに行きたいです。他に仕事ないので。目隠しと耳栓ありますよね?」
宮野姉妹は今は成宮くんから離れ、公安の用意した施設で暮らしている。外出禁止であり、交代で公安の監視が常に張り付く厳戒態勢。私は定期的に宮野姉妹の様子伺いに連れて行かれる。ただし移動は目隠しに耳栓をした状態…やっぱり信用されてない。
宮野姉妹にはいずれは別の名前と経歴の戸籍を用意して、市井に馴染んでひっそり目立たないように暮らしてもらう予定でいると聞いているがどうかなぁ。一応シェリーになる前に救助してるらしいけど、ジンさんどれぐらい執着してるんだろう……。コナンくん早く組織解体しないかなぁ。
「……分かりました。上に確認を取ります。あの…後ろにアイマスクと毛布用意してるんで、今後目隠しで移動中は寝たふりして貰えます?…助手席に布で目元を縛られた女性がいると…絵面が完全に事案なので………」
「えぇ…今更ですか?…この前止められた時、私が咄嗟に『彼の趣味です』って押し通したアレ、怒ってます?でも被害者は私ですからね?…まぁいいですけど…え?これ私悪くないですよね?」
私は風見さんの押し殺したため息を感じながら、助手席から後部座席に移った。
ーーーー
夜の街中に目的の人物を見つける
尾行は2人か…………
私には1人と車が1台
「あ、成宮くん!」
「………………」
「昼間はごめんね……」
「いえ………色々立場もあるでしょう」
「あのさ、やっぱり少し話せないかな?そこのカラオケ行かない?」
「……また盗聴器付いてないですか?」
「外してる。きちんと謝りたいから、お願い」
連れだってカラオケ店のルームに入ったところでソファーに座って
2人でやっと深く深く息を吐いた
「僕、尾行が2人付いてましたけど流石にカラオケルームまでは……」
「付いて来られないね。事前の盗聴器設置もなし。防音だから小声で話せば大丈夫かな」
ずっと演技をしていたが、ようやく気を抜いて言葉を交わせる。
「すみません、電波の出ない録音タイプの盗聴器が怖かったんで。後から回収に来るヤツ」
「部屋にも仕込んでたんだね、警戒されて大変だったからやめてくれって言っといたから」
「はい……やっと2人で話せますね」
盗聴器と共に渡されたレシートのカラオケ店。指で22時にと指示を出されていたので、終業後、外泊届けを出してふらふらとここまで来た
「僕、2時から浮気調査の張り込み装ってずっと周辺うろついて待ってたんですけど…」
「…ごめん読み間違えた。」
違ったらしい。申し訳ない。
「チャンスが来るまで長かったぁ…やっと聞ける……ねぇ松田さんの時のって成宮くん?」
「えぇ、病院の爆弾を見つけました。萩原さんの時はニュースが出るまで場所がわからなくて……行っても入れなかったんです。そこで誰か動いてるって気がついて……警察学校組を助けてるんですか?」
「諸伏兄弟が推しでそこを中心に…手が届いてない所が多いから、成宮くんみたいな救済仲間が居てくれてよかったよ」
「長野の軍師が東都に居るのには驚きました。長野であなたを調べていて大和さんと顔見知りになったんですが、啄木鳥会の件で銃乱射して亡くなる予定だった大和さんの親友が諸伏高明のポジションに入っての3人組になってて……甲斐さんも交番に居るし。色々変えましたね」
「いや成宮くんも結構変えてるでしょ?成実先生に宮野姉妹の保護!すごいね!」
「次は伊達さんですか?」
「そうなんだよ。伊達さんの命日ってわかる?」
「日にちまでは僕もわからないです。原作1年前……原作で18才の志保ちゃんが今16才なので1年後ですね。何か考えがありますか?」
「一応お守りとしてエアバックを持ってもらってるんだけど…後、魔法少女的にはこれかなぁ……」
私は手のひらに、キラキラした物体を転がして見せた。
「なんです、そのハートの物体」
「ケルベロスマキビシ。どうぞ踏んでみて」
「?棘がないですが……こうですか?」
プチッ、ビチャッ
小気味いい音を立てて成宮くんの靴の裏でハートが潰れる。
「強力な粘着ジェルがでます」
「……最初に忠告して貰えます?…あ~もう、動けないじゃないですか!」
「これで車、止まるかなって」
「万が一、伊達さんに当たったらどうするんですか、死亡率上がりますよ」
「だよねぇ…あ、それ、お酢掛けたら取れるよ」
靴を脱いだ成宮くんは私の飲んでいたドリンクバーのレモネードを使い、憮然とした表情で床掃除をはじめた。店員さんに声を掛け、掃除道具を借りて手伝う。ジロリと睨まれた。
「そもそも……なんであなた魔法少女なんてしてるんですか?」
「コメディ回って人が死なないから?だから事件を面白くしようと思って」
「……事件を面白く?……はぁ……あなたもけして正気ではないって事ですね……」
「……正気だけど?成宮くんみたいに取り乱したりしてないよ?」
「……忘れてください。僕もいっぱいいっぱいだったんです」
目をそらした成宮くんが誤魔化すようにゴシゴシと床を擦る。
「宮野姉妹も心配してたよ?成宮くん過食嘔吐してるって」
「……あれは家に買い込む食品の量を誤魔化すために……外で大食いメニュー食べきって買い物して家で吐くのがルーティンで……」
「ああ!大食いだから3人分買っててもおかしくないって事ね!賢いね!体壊すよ?」
「はぁ……仕方ないじゃないですか……」
成宮くんは床を拭き終わった道具を纏めると、私に背を向けて部屋の隅に置きに立ち上がる。
「志保ちゃんに聞かれちゃったよ『あなたあの馬鹿の身内なんでしょ?言っても聞かないのは昔からなの?』って」
「……………」
「血縁だと思ってるみたい。私達、DNA鑑定の結果は赤の他人だったらしいけど?」
「……親の名誉が守れて良かったです。神様って結構、適当なんですね」
成宮くんが食事メニューを手に取ったので私も覗き込む
ハニートーストとカレー、揚げ物盛り合わせを注文した
分けっこ分けっこ
「成宮くん調書取るとき黙秘したんだって?」
「夢主さん通すって最初に言ったので引くに引けなくて」
「私、架空の女幹部を作って、その人におもしれー女ムーブで気に入られて?組織のこと色々聞いちゃったぁ!ってストーリーを捏造して、ラムとか幹部の情報色々流した。詳しく聞く?」
「……何でそんな大胆なことしたんですか……?」
「潜入捜査してないのよ、景光くんも零くんも。だから穴埋め」
「ラムのことまで知ってる架空の女幹部って……組織解体後にあちら側と証言が合わなくなりません?」
「幹部も知らない超大物幹部って事で良いんじゃないかな?情報が正確で、こっちの証言が一貫してれば、頭が回る人たちが勝手にストーリー作ってくれるよ」
「……じゃぁ僕は引き続き、『辻褄合わせ』せずに証言を続けて良いんですね?」
「うん、それで大丈夫」
今のところ私が取り調べを担当する形で成宮くんが宮野姉妹を保護した経緯や組織との関係は公安に渡っている。形の上では『善意の協力者』である成宮くんは既に自由の身だ。
「でも本当!伊達さんの件、仲間が居るの助かるわぁ~。まだ一年あるからじっくり作戦考えられるね。とりあえず今は私、成宮くんと宮野姉妹の懐柔が仕事だから。それ以外の事案、全部外されちゃったから時間はたっぷりあるんだ」
「懐柔が仕事…………」
「成宮くんと警察仲良し作戦!って感じでお友達として伊達さん紹介するのはどう?警察の信用を取り戻すために色々紹介します~って上には言っとくからさ!」
「とりあえず……まぁ…あなたの領分なので……お任せします」
なんだか色々飲み込みづらいものを飲み込んだような顔をして成宮くんが頷いた。
ーーーー
―――
カラオケボックスの重い扉が閉まり、彼女の軽やかな足音が廊下に消えていく。 部屋に残されたのは、壁越しの喧噪と不自然なほどの静寂だけだった。
僕は手元のスプーンでカレーのルーを無造作に掬い、口に運ぶ。 ……味がする。 もうとっくに冷めているのに。今まで、胃に押し込んできた「偽装用の食事」とは、明らかに違う感覚だった。
自分を追い込み、身体を壊してまで宮野姉妹を隠し通していた僕の「狂気」を、彼女は「賢いね」と笑い飛ばし、あろうことか公安に対して「捏造した女幹部」というデタラメな物語をでっち上げてしまった。その上で彼女は自分は「正気」であると言い切った。
「……はは、本当……どうかしてる」
独り言が、防音の壁に吸い込まれる。 この十数年、誰にも頼れず、一歩間違えれば組織に消されるか警察に捕まるかの綱渡りを一人で続けてきた。志保ちゃんにさえ本心を明かせず、大食いの探偵を演じ続けてきた日々。
一人じゃない……
同じ「原作」という呪いを知り、絶望的な未来を「面白く」書き換えようとする共犯者。 彼女が去り際に残した「仲良し作戦」という、あまりにも緊張感のない言葉が、今の僕にはどんな綿密な作戦計画よりも頼もしく感じられた。
カレーを飲み込み、次はハニートーストに手を伸ばす。 明日からは、また盗聴と組織の影に怯える日々が始まるだろう。大食いのフリも、もう少しは続けなくてはいけない。 けれど、もう…
「吐き出すための食事」はもう必要ないな…
そんな気がした