転生夢主は救済もコメディ路線で生きたい【完結済み】   作:yako

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再開の夜

 

 

夜の居酒屋、奥まった個室には、それぞれの所属に散った同期が久々に顔を揃えていた。でもその場の雰囲気はいつもの快活な飲み会とはほど遠く、どんよりとした空気が漂っている。

 

「で?魔女っ子と何があったんだよ」

 

沈黙を破ったのはしびれを切らした陣平ちゃんだった。

ピクリと諸伏ちゃんが反応する。

 

 

「陣平ちゃん!オブラート!…あ~…なんかさ?色々話せない事情もあるかもしれないけどさ。俺らも心配してんのよ」

 

俺は気を遣いながら、まるで割れたグラスの破片を集めるような気持ちで慎重にフォローを入れる。今日集まった理由はこの諸伏ちゃんに事情を聞きたいがため。突然連絡のなくなった魔法少女と様子のおかしい諸伏ちゃんに何があったのか。

 

「…ペアを解消することになったんだ…それだけだ…」

 

答えたのは諸伏ちゃんではなく、横でジョッキを傾けていた降谷ちゃんだった。

 

「『それだけ』で済むツラかよ、景光の旦那」

 

陣平ちゃんが呆れたように鼻を鳴らして続ける

 

「あいつ署内で全然見かけなくなったんだけど?前はなんだかんだで、うろちょろしてやがったのに」

「連絡も全然取れないし…魔法少女ちゃんなんかトラブル?大丈夫なの?」

 

陣平ちゃんの言葉に続けて心配を口にすると諸伏ちゃんがようやくその重い口を開いた。

その声は掠れ、今にも消え入りそうに覇気がない。

 

「俺も…喧嘩別れみたいになったまま…もう半年近く会えてないんだ…」

 

「誰と喧嘩別れしたんですか?景光くんが喧嘩なんて珍しい」

 

唐突にそこになかった声がいきなり会話に入ってきてギョッとする。間髪入れず個室の引き戸がガラリと開き、そこには半年間音信不通だった魔法少女が立っていた。しかもその手は見慣れない若い男の手を、さも当然のように引いている。

 

あまりのタイミングに一瞬、状況を読むのが遅れた。呆然とする俺達を余所に首をかしげた魔法少女が座敷に上がりながら恨みがましそうな声を出す。

 

「えぇ....みんなで集まってる。なんで呼んでくれないんですか?男子会ですか?」

 

「……っ呼べるわけないでしょ!?送ったメールも返さないでおいて!こっちは諸伏ちゃんが本格的に捨てられたと思って…待って?…その男誰?お兄ちゃん?弟さん?…誰?そもそも誰がこの魔法少女呼んだの!?」

 

なかばパニックになって捲し立てると、奥に座る班長が手を挙げた。

 

「すまん俺だ」

 

「「「「班長!?」」」」

 

男4人の声が重なる。なんで班長なんだ?

 

「伊達さんに成宮君を紹介したくてご連絡したら、こちらで飲んでるので来るようにと。彼が成宮くんです。成宮君こちら伊達航さん」

 

魔法少女が手を引いて連れてきた男をさらっと紹介する

 

「....成宮…夢斗です。探偵を、しています」

 

紹介された成宮夢斗と名乗る男が諸伏ちゃんと降谷ちゃんの公安2人をちらりと見て居心地悪そうに、戸惑いの乗った声で挨拶した。

 

魔法少女ちゃんが成宮の肩をポンポンと叩いて妙に上機嫌で続ける。

 

「彼、警察不信気味なので仲良くしてもらえたらいいなと思いまして」

「言い方....」

 

それをジロリと睨んだ成宮がボソリと不満げに呟く。随分親しげだ

 

「なんで班長なの?」

「面倒見が良いからですかね?」

 

俺のつぶやきにいかにも適当な答えが返ってくる。

 

「魔女…ちょっと来い....」

「何ですか?…いた!いったたたた」

 

降谷ちゃんが鬼の形相で立ち上がると、問答無用で魔法少女の首根っこを掴んでその顔を至近距離まで引き寄せた。

 

 

「どこの....世界に…公安の....協力者を…自分のプライベートな交友関係に引き込む職員が....いるん…だっ…!?」

 

「う…上の…許可はもらってます....いった!やめてください!…久々に会ってなぜこんな目に?」

 

「久々すぎるんだよ!あんな別れ方しておいてなんだその登場は!?お前は情緒が死んでるのか!?」

 

「しょうがないじゃないですか!お仕事でほぼ軟禁状態だったんですから。携帯も解析にまわすって没収されるし」

 

 

へぇ……公安の協力者……なんだかまた面倒なことに巻き込まれていそうだ。2人が攻防を続ける中、ようやく思考が追いついたらしい諸伏ちゃんが、呆然としながらも、その瞳に少しずつ光を取り戻していく。

 

 

「軟禁……没収………?……じゃあ、夢主は俺のこと嫌いになったわけじゃ、ないのか?」

 

その弱々しい呟きは、2人の喧噪にかき消されそうなぐらい小さなものだったが、その表情には半年ぶりに、柔らかな色が差していた。

 

「景光くんを嫌いになんてなりませんよ?何でそんな話になってるんですか?」

 

当たり前のことのように言い放った魔法少女に場の空気が緩んだ。俺は深い深い脱力感に包まれる。ほんと何なのこの女は……散々心配させてあっけらかんと。

諸伏ちゃんの様子を伺うと、毒気を抜かれたように呆然と彼女を見つめている。この半年じゅくじゅくと煮詰まっていくようだった淀みのような空気が実にあっけなく霧散している。

 

「……夢主。あの…今まで……いや……」

 

言葉を探すように視線を彷徨わせた諸伏ちゃんが、ふらりと立ち上がると魔法少女の背後に近寄り、その肩を包み込むように抱きしめた。成宮夢斗がギョッとした表情を一瞬浮かべるが、それに気付いた魔法少女が成宮に向き直る。

 

「成宮くんも半年ぶりだよね?諸伏景光くんと降谷零くん。景光くん達も改めて、こちら成宮夢斗くん」

「……………降谷零だ。」

「………………あの時は名乗らなくて申し訳ない。諸伏景光です。……彼女が、お世話になっているようで」

 

紹介された降谷ちゃんは無愛想に、諸伏ちゃんは抱きしめた体勢のまま穏やかな、どこか貼り付けたような複雑な笑顔で名乗った。どうやら会ったことがあるらしい。

 

「いえ、お世話になってるのは僕の方で……以前は失礼な態度を取りました。申し訳ありません」

成宮が頭を下げ、なんとも言えない微妙な距離感で対峙する。

 

「あちらは萩原研二さんと松田陣平さん。こちらの成宮くんは私の古いお友達です」

「あぁ?お前ら血縁かなんかじゃねぇのかよ?」

「赤の他人なんですよ。ビックリですよね」

「言い方……わっ!ちょっと!」

 

魔法少女が成宮の肩を押して班長の隣に押し込む。

 

「成宮くん伊達さんの隣ね」

「おうよ。成宮でいいか?よろしくな」

 

そして彼女はそのまま成宮の横に座ろうとして、背後の諸伏ちゃんにズルズルと引きずられ、成宮の対面に強引に座らされるとバックハグの体勢で固定された。

 

「夢主はこっち」

「あらら」

 

戸惑った表情の成宮を見て、『そうだよなぁ、変だよな』とは思いつつも、その見慣れた光景に安堵を覚える自分がいた。

 

「景光くん寂しかったんですか?零くんが居たじゃないですか」

魔法少女がそう言うと、降谷ちゃんは忌々しげにジョッキをテーブルに置いた。

「………俺に投げるな」

 

降谷ちゃんの視線は鋭いままだが、どこか諦めの色が混じっている。

 

「零くん、景光くんは新しいペアの方とはうまくいってます?」

「…まあまあだな。実務上、大きな問題は起こしていない」

「私もペアの方つけてもらったんですけど、実質監視役なので…苦労かけてしまってるんですよね」

 

その言葉に陣平ちゃんが眉をひそめて身を乗り出した。

 

「あぁ?監視だぁ?…警察が身内を監視するってのは、よっぽどのことだぞ。お前ほんとに大丈夫か?」

「今度は何したの?…話せない?」

 

俺も身を乗り出す。真剣な目を向けると、魔法少女は悩ましげに顔をしかめた。

 

「ウ~ン…重要参考人の保護と情報提供をしただけなんです。公安の通常業務じゃないですか?なのに、私なんでこんなに警戒されてるんでしょうか?」

 

「…………もうちょっと使いやすい人間を演じろ」

 

降谷ちゃんが冷淡に言い放った。

 

「お前は上層部にとって人物像が掴みにくいんだ。動機も背景も不透明すぎる。……得体の知れない爆弾を野放しにする組織はない」

 

「よく分かりませんねぇ…風見さんに聞いてみましょうか」

 

魔法少女はそう呟くと、思い立ったようにスマートフォンを取り出し、迷わずコールボタンを押した。

 

「おい!」

 

降谷ちゃんが止めようとするが間に合わない。

 

プルルル……プルルル……。

スピーカーから漏れる呼び出し音に、個室の全員が静かになる。

 

『……はい』

「風見さん今近くに―――」

『……いません。庁舎です』

 

食い気味に否定の言葉が返ってくる。

 

「私も庁舎にいるかもしれないじゃないですか?」

『………何かありましたか?』

 

電話先の相手、風見の声には、隠しきれない疲労が滲んでいる。さっき話に出た監視役のペアの人間だろうか?相当この魔法少女に手こずっていると感じられ、心から同情した。

 

「今日の監視役の人って茶髪につり目の人と黒髪キャップにヒゲ面の変装した人ですか?見たことない方達ですねぇ。居酒屋で気配消し過ぎだからもうちょっと周囲に馴染むように言ったほうがいいです。私が言ってたってのは内緒で。恨まれると嫌ですから」

『……………何のことでしょうか』

 

その言葉を聞いた魔法少女ちゃんが盛大に眉を寄せる。

 

「えぇ…監視じゃないんですか?じゃあ怪しい2人組にすっごく敵意向けられて監視されてます。敵対組織だったらどうしよう…警察呼んだほうがいいですか?」

 

焦ったような声色でそんなことを宣うが、お巡りさんなら呼ばなくても揃っている。

 

「……はぁ…分かってらっしゃるなら、やめてください。穏便に....願います」

「あ!冗談でした?ですよね〜…あぁ安心しました。お疲れさまです。本題なんですけど、私ってなんでこんなに疑われるんですか?」

「…ご自分の言動に自覚があっておっしゃってます?」

「報告、連絡、相談を心掛けてますが?この電話だってそうです。反意がないのにどうして信じてくれないんですか?」

『…………』

「何かアドバイスとかあったら今度教えてください。お疲れさまです。では…」

 

通話が切れると、個室の中には奇妙な沈黙が流れていた。

諸伏ちゃんは彼女を抱きしめたまま、苦笑している。

 

「……意外と、公安らしいところもあるんだね。魔法少女ちゃん」

 

これは…この風見さんという人物は苦労をしていそうだ

俺が感心と呆れが混ざった声で呟くと

それを降谷ちゃんが拾った。

 

「そうだな」

 

ジョッキに残ったビールを飲み干す。

 

「そうでなかったら、とっくにクビにするか、出向という形でどこかの施設に放り込んで終わりだったろうにな」

 

その言葉は降谷ちゃんなりの同僚への不器用な評価であると同時に。魔法少女がいかにギリギリの綱渡りをしているのかを示すものでもあった。

 

「とにかく!無事でよかった」

 

俺は明るい声を出して場を盛り上げるに努めた

 

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