転生夢主は救済もコメディ路線で生きたい【完結済み】   作:yako

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ターゲット

 

 

 

『高木さん、今どちらですか?』

 

 

電話の相手は、先日教育係の伊達さんに紹介された成宮くんだった。僕は、何故か少し冷や汗が出るのを感じながら答える。

 

「あぁ、成宮くん…今は、ちょっとした事件の聞き込みで外を回ってまして…」

 

『そうですか。終わったらお昼ですよね?何時になっても待つので、終わったら連絡ください。いいお店を見つけてあるんです。高木さんと行きたくて……』

 

成宮くんの丁寧で涼やかな声がスピーカーから流れる。声まで整ってるんだよなぁこの人。まるで熱烈なアプローチを仕掛ける恋人のような熱量で昼食の誘いを掛けられている。彼の言葉には拒絶しがたい謎の圧があってなんとなく断れず、最近では毎日こんな感じで誘い出されている。今日は断ろうと思ってたのに………。

 

「…うん、分かったよ。その…大分待たせることになるけど…」

『かまいません。また夜になっても待ってますので…』

「ははは…今日はそこまでは…」

『必ず連絡ください…では』

 

電話を切って、一度聞き込みの内容を纏めるべく庁舎に戻り、フロアへ急ぐ。

せめてあの書類を片付けないと……

 

「高木くーん!」

 

思わずびくりと肩が跳ねた。

しまった、反応してしまった。今更気付かなかったフリも出来ず。後ろから呼び止めた声に振り返る。

 

「書類仕事ですか?何か困ってることあります?」

「夢主警部………あの、ほんとに…警察庁の方がどうしてわざわざ僕に……分からないことがあれば伊達さんに聞くので、その………大丈夫ですよ?」

 

反射的に一歩後ずさってしまう。

成宮くんと一緒に紹介された夢主さんは、警察官とぼかして自己紹介をされたが、後から警察庁所属のキャリア組と判明した。僕よりずっと階級も上で立場のある人の筈だ。それが出向してきてるわけでもない警視庁まで赴き、わざわざ用のない捜査一課のフロア付近をこんなに頻繁にうろついて良いのだろうか…。

 

いつ何処から現れるのか、普段何の仕事をしているのか全く分からないが、僕を見つけては親切にあれこれと世話を焼いてくれようとする。上司でもなければ教育係でもないのに....。

 

他部署の人間が頻繁に出入りする状況に、目暮警部が抗議と探りを入れると言って動いたが「本人はのらりくらりとしていて、よく分からんが……内容を報告するようにとの上からのお達しだ…」と言って会話の内容や何の資料に触れたのか度々聞かれるようになった。

たまに成宮くんと夢主さんで事件を解決することもあるので無下にも出来ない微妙な均整を保っている。

 

どちらにせよ警部という立場を持つ人の貴重な時間を使わせて基本的な書類の書き方のアドバイスを受けるなど恐れ多い。

しかもこの人は成宮くんと同じく、ものすごく顔がいい。喋っていると注目を集めて仕方ないのだ。

 

「そうですか?飴ちゃんいります?聞き込みお疲れ様」

「あ、ありがとうございます…………」

「コーヒー奢りましょうか?近くにコーヒーに全力注いでるカフェがあるんですけど…」

「いえ、今朝頂いた缶コーヒーがまだ残ってますので……お気遣いなく……!」

 

自分の笑顔が引きつっているのを感じながら、逃げるようにその場を去る。

「またねー」という声を背に捜査一課の自席に辿り着き、ようやく戻ってきた伊達さんの姿を見つけたときは、地獄で仏に会った気分だった。

 

「……伊達さん。あの人たち、一体何が目的なんでしょうか………」

 

僕の手には、夢主さんにいつの間にか握らされていた色とりどりの飴玉。ポケットのスマホには、成宮くんからの着信履歴。 伊達さんは、僕の惨状を見て豪快に笑いながら肩を叩きました。

 

「さぁなぁ……お前の何かが、あいつらの琴線に触れたんだろうけどなぁ。ま、悪い奴らじゃねぇよ。一応嫌がりゃ引くだろ?大人しく可愛がられておけ、高木」

「………僕、美人に弱いのかもしれません…あの人達、眩しいんです…全然断れない……」

 

僕の溜息は、庁舎の空気に溶けて消えた。

恐らく明日も逃げられない。

 

僕は早く成宮くんとのランチの約束を消化すべく、書類に取りかかった。

 

 

ーーーー

 

 

 

冷え込みが厳しくなり始めた警視庁前。私たちは街路樹を眺めながら寒さを凌ぎ合うかのように密着していた。

 

「やっと高木くんに監視が付いたねぇ。ちょっと困らせてるし、一回休憩する?」

「………やるなら、徹底的にやりましょう。妥協は命取りです」

成宮くんが、マフラーに顔を埋めたまま、地を這うような小声で囁く。

 

「ちゃんと私達が居ない時も付いてるのかなぁ……もっと無駄にメモ渡したりとか、怪しげに見せる?」

「……性格悪いですね。お互い。正義の味方とは思えない発想だ」

成宮くんが、ふっと自嘲気味に口角を上げた。

 

「僕ら2人でいちゃいちゃしてると思ったら今度は2人して高木刑事に執着して…意味が分からないでしょうね…あっちからしたら」

「いちゃいちゃしてたっけ?あぁ~、内緒話するからねぇ」

「…言っておきますけど、あなた耳打ち以外でも距離近いですからね。僕に対して」

「まぁまぁ、意味分からないから監視が付くんじゃないかな?」

 

私の言葉に、彼は短く息を吐いた。 この不自然極まりない「執着」こそが、警察組織という巨大な歯車を動かし、結果的に彼らを守る最強の盾となる。

 

「……来ましたよ。切り替えましょう」

彼の合図とともに、立ち上がり、庁舎の階段を下りてくる2人組に向かって満面の笑みで駆け寄る。

「高木くん! お疲れ様です!」

「高木さん! 終わるの待ってましたよ!」

勢いよく左右から挟み撃ちにする私たちに、高木くんが「ひえっ」と情けない声を上げて飛び上がった。

 

「伊達さんも! お疲れ様です!」

 

手を振ると、隣で爪楊枝をくわえていた伊達航さんが、呆れたように眉を上げた。

 

「おうおう、俺はついでか? いつかのカツ丼の恩はどこへ行ったんだよ、全く」

「そんなことないですよ、伊達さんも一緒のお誘いです。高木さん、創作居酒屋の安くておいしいお店見つけたんで、これから一緒に飲みに行きましょう?」

「ええっ、でも僕、この後、資料の整理が……」

 

眉を下げ、遠慮がちに辞退しようとする高木くんに、成宮くんが持っていた分厚いファイルを押しつける。

 

「コレ、先日取り組んでらっしゃった事件について、僕なりに纏めた資料です。市民からの情報提供としてお役に立てば…」

「え、え?あ…ありがとうございます……」

 

隙が出来たところに畳み掛けるように横から声をかける。

 

「資料整理なら私も後で手伝います。ほら、4人で行きましょう」

 

戸惑う高木くんの腕を引き、苦笑いの伊達さんの背中を押して、私たちは賑やかに歩き出す。

 

 

今日も「警護」は万全だ。

 

 

ーーーー

 

 

デスクの端に置かれた端末に目をやると、暗い画面がぼんやりと俺の顔を反射する。

 

既に深夜も過ぎ明け方に近い時間、フロアには人影はない。俺は改めて夢主についての情報を整理していた。勿論、公務としてだ。幼馴染みで元ペアである俺にわざわざコレを振った上の意図はなんだろうか…。

兄さんからの話では、夢主は今仕事を干されている。成宮が持ってきた内通者の話についても、積極的に担当を取りにいった夢主が疑われ、情報を遮断した上でどう動くか泳がされている状態らしい。夢主が内通者だなんてまず無いだろうに…。コレが俺に回ってきたのも捜査が行き詰まっているからか。

 

俺も夢主と距離が近いこともあって、今は夢主からも、例の組織関連の捜査からも離されている。…この調査で何らかの成果を上げて、なんとか夢主との関わりに繋げたい。監視役でも何でもいいから、また仕事上で横に立つ権利が欲しい。そんな打算もあって、幼馴染みであり公安に所属する諸伏景光としての意地とプライドをかけて集めた個人情報を精査しているが、めぼしい情報は上がってこない。

 

 

「そもそも成宮だ…………全く接点が見えない」

 

俺は椅子の背もたれに深く体を預け、無機質な天井を仰いだ。成宮夢斗の過去を洗ってはみたが親族も含め、出身地から交友関係、大学に至るまで夢主との接点を示す形跡はどこにもない。

成宮は両親を亡くし、親戚も付き合いのあるものは無し。天涯孤独の身で、遺産を使いビルを購入。そこで探偵事務所を開いている。フットワークは軽く、情報源をどこに持つのか不明だが東都に限らず全国をふらりと回って事件を解決している。

 

「小さな頃の旅行先での友人……」

 

印象に残った可能性は確かにある。あのあまりに似通った容姿。男女の差が少ない幼少期ならば、より双子のように瓜二つだったに違いない。…何よりあの『気の合いよう』だ。思わず眉間にしわが寄る。

 

「ずっと一緒にいたのは俺なのに………………」

 

吐き出した独り言が、冷えた室内を虚しく漂う。

 

俺は、あの魔法少女を一番近くで見守ってきた自負があった。周囲から見れば異常とも言える距離感も、あいつの前で見せつけて牽制してやったつもりだった。あの距離は俺だけが許されたものだったのに、今は夢主がその『異常な距離』で成宮と寄り添っているのを度々見かける。そのたびに頭は熱を持って波打つように痛み、ぞわりとした冷えた何かが、背中から体の内側を撫でる。

 

夢主は悪くない……そう………

アレは俺が…俺が慣らした距離感で…俺は今、自分が行ってきた卑怯な牽制と依存のツケを払わされている。そう……それだけだ……あの距離感に特別な意味なんてない…そう自分に言い聞かせなければ壊れそうだった。

腹の中の温度を呼吸に混ぜてゆっくりと吐き出す。

 

 

「高木渉…」

 

最近、彼女の関心は、この一課の若手刑事に向けられている。

正確には夢主と成宮が、同時にこの男に執着しだした。何らかの戦略的な意図があるのか、それとも情緒的な理由なのか……書類上の文字を小指の爪でギギッと引っ掻くと重なった紙がみしりと音を立てた。

 

俺の知らない夢主がいる。

 

聞けば良いのかもしれない。でも怖かった。

相手のことが好きだとでも言われたらどうする?

成宮でも、高木渉でも。今度こそ俺は側にいられなくなる。

それを想像しただけで手が震えた。米神がドクドクと五月蠅い。

目を閉じ、グッと圧迫することで耐える。

 

吐きそうだ。

 

さっきから指が滑って何度も打ち直しているのもあって、思ったように進まない。

答えが欲しい…こいつらを排除する方法……俺が側にいる方法……それがあれば…少しは安心できる……調べて、知っておけば落ち着けるはずだ……正面からのプロポーズは断られ続けている。立ち位置も変わってしまった。やり直さないと……戦略を練って立て直さないと…

 

他にも、ここに…夢主の側に居続けるためにも公安として振られた仕事もきっちりこなさなければならない。今はまだ……会いに行けない……聞きに行けない……

 

指先は冷え切っていたが、俺は執着を込めて目の前のキーを叩いた。

 

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