転生夢主は救済もコメディ路線で生きたい【完結済み】 作:yako
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結局静かな時間を過ごせたのは成宮くんと話したあの時間だけだった。次に気がついたときには両親が来ており。怒濤のお説教やら調書やら手続きやら。
あの時、それっぽい呪文を叫ばなかったから…多分魔法少女っぽくなかったからこんな目に遭ってるんだ....
コナン世界のルール怖い…
伊達さんの件は、成宮くんの証言で、「いち早く車の異常な音に気がついた私と成宮くんが、伊達さんを車道から離そうとした行動」として私の怪我は捜査官の誤認による公務災害として処理された。休職の条件や期間がかなり待遇良かったので助かる。
正直全て煩わしかった。
やっと、やっと一山越えたのだ。
今は少しゆっくりしたい。
毎日、誰かしらやってくる怒濤のお見舞いの嵐を通り抜け、リハビリやら何やらでやっと退院したときには季節が変わっていた。
今は通院でリハビリに励んでいる。
そんなある日、唐突に短いメッセージが届いた。
『少しお時間をいただけますか。』
指定されたのは静かな料亭だった。
個室に通され座布団に腰を下ろすが落ち着かない。
突然こんな場所に呼び出されたのは何故だろうか?
ふすまが静かに開き、高明くんが入ってくる。
時間通り、いつもの通り整った姿
「まずは食事を」とニッコリ笑った高明くんの合図で次々と運ばれてくる繊細で美しい料理を前に、リハビリのことや、当たり障りの無い世間話をしながら穏やかに箸を進める。
なんだろ?慰労会?退院祝いかな?
頭に疑問符が浮かびながらも、お出汁のよく染みた里芋や、角の立った新鮮なお刺身に心がほぐれてくる。どれもおいしい。ご飯物までしっかり食べきったところで、最後に香りの良いお茶が出される。会話が途切れ、お茶に手を付ける直前…
「あなた、景光の求婚を断り続けているそうですね?」
高明くんは唐突にそうきり出した。
「魔法少女だからと言われているそうで…独身主義なのですか?」
穏やかな眼差しが私を見つめる。しかしその瞳の奥は彼特有の、全てを見通すような冷やかな知性が宿っている。観察されている。
「はい、実質的にはそうなりますね?」
私自身は別に独身主義ではないが、現状そう言っておくのが角が立たないだろう。
「それは今後変わることがないと保証がありますか?」
「保証…ですか?」
ずいぶん硬い言葉が出たことに首を傾げる
「今後あなたが、我々以外の誰の手も取らない……どなたとも結婚をしないという保証です」
「う~ん……人生に保障ってあるんでしょうか?」
一体何を求められているのだろうか?
話の先が見えない。
「どうか……私か景光、どちらかと籍を入れて、諸伏の家に入って頂けないでしょうか」
「…ん?」
どちらかと?籍を入れる?
「今後どなたとも結婚する気がおありでないなら問題ないはずです。……出来ますよね?…私も一度は断られた身ではありますが、改めて婚約を申し込みます」
ニコッと笑われる
「結婚はしないって話だったのでは……?」
「えぇ、我々のどちらかと結婚してしまえば、それが今後の『結婚しない保障』になります。この国では重婚は出来ませんから。…何か不都合でもあるのですか?」
「…搦め手ではないでしょうか?屁理屈です…どうしたんですか?断りたい変な縁談でもあるんですか?」
「私は....」
そこで言葉を留めた高明くんが、ジッと私を見つめた。
「....私は、あなたのその一生を側で見ていたいと強く考えています。できる限り近くで...社会上の枠組みや法に阻まれることなく」
見つめたまま少し目を細めると、湯飲みを揺らしながら静かに続ける。
「…私を選んでいただければそれは僥倖。私ではなく景光の手を取ったとしても、少なくとも同じ姓を名乗り、義兄としてでも側にいられるのなら…それでもいいと思っています」
圧のあるその視線から目が離せない。
「不自由はさせません。感情が伴わないならば、せめて形式だけでも…どんな形でもいいので、あなたのそばに居る権利が…あなたが一生涯、私の…いえ、我々の側を離れないという保証が欲しいのです」
ふと目線を外した高明くんが横の鞄から書類を取り出した。机を滑る小さな音と共に差し出されたのは2枚の婚姻届。それぞれ景光くんの署名と高明くんの署名がすでに書き込まれている。
「…これ……え?……あ……」
あまりのことに動揺し、確認するのに伸ばした手を流れるように取られ、ぐいと引かれる。
机に身を乗り出す形で高明くんとの距離が縮まった。
「景光ともよく話し合ったうえで提案しています。我々2人、選択肢を呈示したのはせめてもの誠意です。どちらか………選んでください。これに関しては、逃げないでいただきたい…愛しているんです………逃がすつもりもありません。どうか色よい返事を期待しています」
引いた指先にそっと長く口付けられる。
「では…失礼します」
何事も無かったかのように手を離し、スッと衣擦れの音と共に立ち上がると、高明くんは振り返ることなく去っていった。
ふすまの閉まる音と共に残されたのは
唖然として動けない私と
署名済みの未来の選択肢だった。
ーーーー
私は手で鞄を握りしめ、転生者仲間の成宮くんの事務所を訪ねていた。 ドアベルを鳴らしドアが開くやいなや、私は中へ滑り込む。
「カラオケ行かない?」
「最近大掃除したので盗聴器は大丈夫ですよ?どうしました?」
震える指で高明くんから渡されたものを見せる。
「推しの署名入り婚姻届…グッズででるかな?」
成宮くんは一瞬驚いた顔で婚姻届をチラリと見て、困ったように笑った。
「…出るとしたら多分なにかのフェアの限定グッズでしょうねぇ…競争率高そうだ....神棚に飾っときます?」
キッチンでコーヒーを淹れてくれる。最後に飲んだ折角の『良いお茶』は味がしなかった。砂糖をドバドバ入れて混ぜる。
「これどっち出します?両方いきますか?同時に出したらどっちが受理されますかね?」
「いや…出せないって…原作どう変わるかわかんなくて怖いよ」
「すでに結構原作変えちゃってますよ?何を今更……あなた人生設計どう考えてます?」
「人生設計?」
「やりたいことは全部出来たんでしょ?この後どうするんですか?」
コーヒーを啜りながら成宮くんが婚姻届を返してくる。
「僕はとりあえず宮野姉妹の保護が叶ったので、あとはぼちぼち…黒の組織解体の手助けができたら。そこからは自分の人生を生きるつもりでいるんで…」
「組織解体かぁ……」
「悲願では無いですか?」
怪訝そうな顔で返される。私はカップの縁を見つめた。
「えーでもさ…もし向こうにも転生者がいたらどうする?私、もう後は細かいとこ覚えてない…基本的な原作知識しかないよ?推理はできないんだから…」
「僕は原作知識はそこそこですけど、他の転生者に罠とか張られたら自信ないです…」
「ジンガチ勢とか来たらどうしよう…」
「頑張って、警察官さん」
「いや、この世界、探偵のが強いって…頑張って探偵さん!」
お互いに責任を押しつけ合う。
ふと成宮くんが真面目な顔をする。
「でも僕達が同時にここにいる以上、他にもいる可能性はもちろんありますし、それが殺意マシマシの転生者である可能性は捨てきれないですよねぇ…」
「もう私、映画限定キャラになる....生存率上がりそう。映画だけ助けに来る…」
「....どうやって?」
「全国を修行に回るとかの設定でどうかな?……ははは」
「警察やめるんですか?」
私は少し沈黙した後、俯いて言った。
「…正直もうやめようかなとは思ってる。なんだか疲れちゃって…。色々あって上層部からの信用がないから警察側から役に立とうにも、成宮くんと宮野姉妹関係以外は黒の組織情報どころか案件全てに関わらせて貰えてないから....警察にいても役立たずで心苦しいんだよね…」
「すみません、それに関しては僕にも責任が…」
「いやいや…元から私の立ち回りの悪さが原因なのは何となくわかってる。なんかみんな怒ってるし、何やっても疑われるし…向いてないみたい。いっそ警察外に出て魔法少女としてかき回すほうが成宮君の助けになれる気がする」
「…助けですか…その、魔法少女のコメディの力って、ホントに有効なんでしょうか?」
「?実際、警察組は今のとこ助けられてるし…?」
「…そうですか?伊達さんの時あなた死にかけてるじゃないですか。結果的に伊達さんもあなたも助かってますが、実際コメディとして面白かったですか?あの時の状況……怒られますよ?」
「....前提から間違ってるってこと?」
「僕から見たら面白くなんかなかったですし、ただ無茶をしただけに見えました。…少なくとも…僕は結構リアルで危ない目にあってきてます。人だってバンバン死ぬし…実際、夢主さんも警察で立場悪いんですよね?漫画的補正…ほんとに信用できますか?」
考えながらコップの中をなんとなく眺める
砂糖入れすぎたな…全然溶けない
「最悪コナンくんが来てくれたら解決するのでは?」
「コナンくん…誕生するんですかねぇ…?」
「え?」
「志保ちゃん助けちゃいましたし?」
「いや、でもそこは原作補正かなにかで別のチームとかが…」
「仮にアポトキシンが完成していたとして、誰か転生者がコナンくんを誕生させなかったらどうです?…夢主さん…コナンくんに期待しすぎてませんか?」
背筋に冷たいものが走った。コナンくんがいない世界。それは原作知識が全く役に立たない、完全な死地だ。
「………そんな可能性ある?」
「どうでしょう…いるかもしれませんよ?愉快犯でも善意でも。……もし目的の異なる転生者同士の戦いになったら最早、泥臭い騙し合いです。転生者だってバレただけで命を狙われかねない。助けた原作キャラだって巻き込むかもしれない」
「私がジン側で、他にも転生者が居ると分かったら…ウ~ン、コナンくんと哀ちゃんを確保してノックと転生者は都合悪いから全員始末する方針でいくとして…まず転生者を割り出したら、その推しキャラを始末してやる気を削ぐとこからはじめようかなぁ…わぁ!ジン側なら倫理を無視できてシンプル!人員も確保できそう!便利!」
「なかなかエグい事考えますね……」
「しないよ?仮定の話だよ?」
成宮くんが引きつった顔で見てくる
「そう考えると私の存在ってリスクだなぁ…原作にいないのに目立ってて…主要人気キャラに近くて....転生者です狙ってくださいって宣伝して歩いてるのと変わらない…もうたいした知識も無いのに……」
「まぁ…松田さんの件で注目されたのもありますし。警察学校組を調べたらすぐたどり着きますね…」
「よし、ごめん成宮くん、逃げるわ....私」
「……え?」
「もう原作知識で私が助けてあげられる段階は過ぎた。もし漫画補正が効くならコナンくんと知り合いの警官枠なら後は皆、死なないんじゃ無いかな?だとしたら私がわざわざそばに居る意味ないし、巻き込むリスクの方が高い。出来るだけリスクは回避したい。成宮くんも逃げる?」
「....いえ、僕は見届けたいんで....巻き込まれないように」
「あらら!勇ましい!まぁ成宮くんはここまで慎重にやってきてるもんね」
「……あなたは良いんですか?」
「なにが?」
「………それ」
カップを持った手を軽く上げて、婚姻届を示される。
「ちゃんと断れます?…なんだか嫌な予感がしますが…」
「逃げるんだから断るよ。私には原作キャラと結婚して、ここに根を張って転生者達と戦うだけの覚悟が無い。これは……記念に取っておこうかな?…推しのサイン…尊い」
「思い切り良いですよね…良くも悪くも」
成宮くんはため息をつきカップを置いた。
「…ちゃんと誠実に断るんですよ?痛い目見ますからね?」
「はーい」
推しグッズを大事に鞄に収め、少し冷めたコーヒーを啜る。
甘い甘いコーヒーが喉を滑っていった。