転生夢主は救済もコメディ路線で生きたい【完結済み】 作:yako
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警察庁警備局のフロア、私は高明くんに面談の希望を出した。会議室、私は目の前に座る高明くんの目を見て切り出した。
「……一身上の都合で退職を希望します。」
「退職ですか………」
決意を口にすると、何故か一瞬、鼓動がうるさいほどに跳ねた。落ち着かない…なんだろう?不思議に思って胸元に手を置く。
「……どうかされましたか?」
「あ、いえ……暫く魔法少女に専念しようと思いまして。体調を見ながら各地を転々とする予定なので、落ち着くまで連絡も取りにくくなると思います」
高明くんは細い指を組み、私の言葉を吟味するように顎に手を当てた。その瞳は全てを見透かすように冷ややかで、深い。沈黙が長い。
「……それが、先日の私の提案に対する答えですか?」
静かな、だが確固たる圧を秘めた声。
「あなたが熱烈に語っていた……『世界平和』は、もういいのですか?」
「いえ……懐かしいですね。世界平和は諦めていませんが、今はこれが必要なことなんです」
「次の仕事が決まっているのですか?」
「ウ~ン……とりあえず『何でも屋』ですかね?魔法少女なので」
なるべく軽く答えたつもりだったが、高明くんの表情は変わらない。
「……そうですか」
彼は深く息を吐きだした。
「ここの退職手続きは大変ですよ。……色々と……忙しくなるでしょう。出発の日には、私が車を出します。せめて、あなたの最後、お手伝いさせてください」
意外なほどのあっさりとした承諾に、肩の荷が下りた。分かってくれた。その安堵感で少しだけ表情が緩む。
「……ありがとうございます」
「挨拶回りはきちんと済ませてくださいね。皆さん心配されますから」
そう言ってニッコリ笑ったその表情はどこか深く慈愛に満ちて見えた
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最終日
私は高明くんの車に乗り込み、新幹線が止まる駅へと向かっていた。後部座席には、私と一緒に景光くんが座り、荷物を支えてくれている。
「……暫く連絡も取れないと説明して、皆さん納得していましたか?」
ハンドルを握る高明くんがバックミラー越しに問いかける。
「ウ~ン…全然納得頂けなかったです。結構怒られました…特に零くんと松田さんは激怒していましたが、落ち着いたら連絡する、とだけ伝えて逃げました。なんであんなに怒るんですかね?」
ほんとすごい怖かった
言葉を区切り、窓の外の流れる景色を見つめた。
「今までありがとうございます。最後まですみません」
「……こちらこそ…お手伝いが出来て光栄です」
高明くんの声はいつも通り穏やかだ。
景光くんが続く
「夢主…新生活の予定は?君は変なとこでうっかりしているから心配なんだよ。教えて?」
「そうですね…妙なことに首を突っ込みがちですし…本当に何も決めていないのですか?」
「大まかに予定はあるのですが、全然変わることもあると思うので」
「成宮君は最後に何を言っていたのですか?」
「また戻るならいつでも事務所に泊めてくれるって。最悪、行った先が気に入ったなら帰ってこなくて大丈夫とか、そんな話です」
最早生きていてくれたら何でも良いと呆れた顔で言われた。戦力として期待されていないのだろう。本当に申し訳ない。
「へぇ~ふふっ」と景光くんが笑った。でも本当に帰ってこないままでは申し訳ない。どこかの映画の大きな事件の時は助けに来てあげよう――そんなことを思案する。
「あなた…成宮君の事を想ってらっしゃるのでは?良いのですか?」
高明くんの不意を突く質問に、私は不思議に思った。
「想って?…心配は心配ですけど、困ったら連絡くれると思いますよ?あの人」
「…夢主って成宮には割と頼ったり、口調も崩れて遠慮が無いよね?どうして?」
隣の景光くんが悲しげな声を出す。
「…ウ~ン…つい…ですかね」
「………そうですか…」
「……つい……ねぇ……」
駅が近くなる。
「……今からでも考え直してはいただけませんか?」
「行ってほしくない……愛してるんだ……夢主……せめて行き先を教えて?」
景光くんが私の肩にすがりついてくる。その力は熱く、震えていた。
シリアス。実はちょこちょこ帰るつもりでいる私としてはちょっと気まずい。
「すみません、私は目立ちすぎたんです。今言えるのは私は何も覚悟がないから、ここにいてはいけないということだけです。行き先は……そうだな?北海道とかどうです?」
「……覚悟…ですか………」
「…行き先、適当に言ってるでしょ……はぁ……何で…何しに行くの?」
「魔法少女の修行ですって」
バックミラー越しに、高明くんと目が合う。
車が駅の駐車場に入り、生け垣に囲まれた隅に静かに停車する。
「夢主さん、私から一点……忠告させていただきます」
エンジンを切る前に、高明くんが静かに告げた。
「あなたは一つ……思い違いをしています」
「思い違い……?」
私は聞き返した。
「……我々はあなたに、覚悟は求めていないんですよ」
その言葉の意味を理解しようとした瞬間、背後の景光くんが動いた。
「…え……んんっ!?」
後ろから口を布で塞がれる。
甘い、だが強烈な薬品の臭い。
「ごめんね?」
悲しげな声。
骨が軋むほどの力で押し当てられ、抗えない。怪我をさせたくないから暴れるわけにもいかず、力の入った硬い腕にそっと手を触れるとピクリと筋肉が小さく跳ねた。
視界が急速に霞んでいく。ゆっくりと、意識が闇に落ちていく。
バックミラー越しに高明くんの冷たい視線が絡む。
「……逃さないと言ったはずです」
そこで私の意識は完全に途絶えた。