転生夢主は救済もコメディ路線で生きたい【完結済み】   作:yako

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諸伏兄弟の救済【最終話】

 

 

 

重い瞼を無理やり押し上げる。目が覚めると、そこは見知らぬ天井だった。

……え?……このフレーズ使うこと本当にあるんだ………

視界を占領しているのは豪華な刺繍と繊細なレースが施された天蓋。それが私の頭上を重々しく覆っている。思考がひどく鈍い。混濁した意識のままムクリと体を起き上がらせると、右足に妙な違和感と重さを感じた。

チャリ……。

体を動かした瞬間、微かな金属音がした。 肌触りの良すぎるシルクの布団を捲る。おそるおそるベッドの下へ目をやると、ベッドの端の支柱と自分の右足首を繋ぐ、無骨な鎖が目に入った。

 

「はは……漫画みたい……」

 

乾いた笑いが漏れる。声はひどく掠れていた。

 

「起きましたか……予定の時間通りです。何か不調はありますか?」

 

部屋の隅、日の光が一切届かない陰の中に、椅子に深く腰掛けた高明くんがいた。いつからそこにいたのか、微動だにせず私を見つめていた彼に気づかず、私の心臓と肩が跳ね上がった。

 

「びっくりした……なんだ…高明くんか……」

 

ホッとして肩の力を抜く。

 

「……………失礼、驚かせるつもりはありませんでした」

 

彼は静かに立ち上がり、影の中から歩み寄ってくる。

 

「……体調は?」

「頭がぼんやりしてて……少し、頭痛がします」

「強い薬でしたので、その反動でしょう。……どうぞ」

 

高明くんはベッドサイドのテーブルに置かれていた水差しからコップに水を注ぎ、私の手元へ差し出した。冷たい水を一口飲むといかに喉がカラカラだったか実感する。潤してから、私は鎖に繋がれた右足を少し持ち上げて見せた。

 

「この鎖ってトイレまで届きます?」

「…はぁ……」

 

高明くんが小さく溜息をついた。

 

「届くようになっていますよ。最低限の人間らしい暮らしは保証します。……他に聞きたいことは?……状況を把握されていますか?」

 

確認するように問いかけてくる。

誘拐監禁、犯人は目の前にいる。私が把握しているのはそれくらいだ。

 

「景光くんはどこに?」

「少しアリバイ作りに動いています」

「警察官がこんなことをするのは良くないと思うんです」

「そうですね……景光も私も、辞職する予定です」

 

警察辞めちゃうのか……原作とどんどん離れていくな………最早全く展開が読めない。空になったコップを見つめていると、彼の静かで低い声が、部屋の空気を震わせた。

 

「……世界の定義から、考えてみたんです」

 

高明くんは、まるで教鞭を執る学者のような、あまりに落ち着き払った態度で独白を始める。

 

「あなたが昔、私に望んだ展望……『世界平和』のために、何が出来るか。私なりにずっと考えていたんです。あなたは何度もその身を危険にさらしてきた。あなたは目についた人間すべてを助けようとする。あなたの『世界』には、守りたい人間が多すぎる。そしてあなたはあまりに無鉄砲だ。いつまでも、きりがありません」

 

彼は私の足元に繋がれた鎖を、まるで愛しいものに触れるかのような慈しみの眼差しで見つめた。

 

「ならば、世界そのものを狭めてしまえばいい。そう考えました。……あなたと私たちだけの、閉じた世界を作ります。ここに居てください。それが、私があなたに捧げる『世界平和』です。いかがでしょうか?」

 

狂気を孕んでいるはずなのに、その言葉はあまりに論理的で、一片の迷いもなく完成されていた。

 

「いかがでしょうと言われましても……」

 

「あなたの安全は私達が守ります。ここにはあなたを害する物はありません。もう魔法少女でいる必要も無い。」

 

戸惑う私の言葉を、彼の長い指が遮る。手の甲でそっと頬を撫でられたかと思うと、その手をひらりと返し、ぐいと顎を強く掴み上げられた。

 

「あなたは選ばなかった…私は選べと言ったはずです。……逃がさないとも。その言葉の意味が、分かりませんでしたか?」

「………ここまでは、行間が読めていませんでした」

 

私の言葉に高明くんはふっと目を細めた。有無を言わせぬ圧を湛えた視線が、私を貫く。抗う隙など一瞬たりとも与えないまま、顔を寄せ、私の唇に自らのそれを落とした。

噛み付くように深く、拒絶を許さない逃げ場のない熱が口内を伝わってくる。

 

 

「……あっ、夢主起きたの!?」

 

不意にドアが開き、景光くんがトレイを持って入ってきた。彼はベッドサイドの光景を見るなり、まるで大事な物を奪われた子供のような、だが芯に冷たい怒りを孕んだ声を上げる。

 

「ねぇ、ずるいよ兄さん! 俺、口にはまだしたことないのに!」

「騒ぐな景光……夢主さんはまだ薬が抜けきっていない。頭痛がするそうだ」

 

高明くんは名残惜しそうに唇を離すと、弟の抗議を柳に風とばかりに受け流しながら、目線だけは私を見つめ続けている。その眼差しは、手に入れた獲物を愛でる蒐集家のそれだ。

 

「え! 頭痛いの? ごめんね? ……何かお腹に入れる? クッキー焼いたんだ。前に夢主がおいしいって言ってくれたヤツ」

 

景光くんがトレイを置き、心配そうに顔を覗き込んでくる。その無邪気な優しさが、足首の鎖の重みと相まって酷くアンバランスで不均等に感じられた。

 

「……お腹はすいてないよ、ありがとう」

「そっか……じゃあコレは後でね…ふふふ」

 

そのまま私の頭に縋り付くようにして、頬や額に何度もチュッチュとキスをしてきた。特に抗わないでいると、その大きな手で包むように私の顔を固定した景光くんが、うっとりとした目で、そっと啄むように唇に触れた。少しずつ深くしながら、唇が何度も重なる度に頭を固定する手に徐々に力がかかり、抗えない強さになる。執着が絡みつき、息切れがする頃にようやく離される。

 

「はぁ…ふふっ……俺、気がついたんだ……宝物は隠しておかないとって。もう何も心配いらないから…安心してここで過ごして」

肩にスリスリと額を擦り付け景光くんが甘えてくる。

私はその様子をぼんやりと眺めながら、サイドボードに手を伸ばし、水差しを傾けコップをさらに満たした。

 

ウ~ン…推しの圧しが強い。監禁かぁ……これはこれで他の転生者から身を隠すって目的は達成出来てる……。この優秀な兄弟ならば完璧に隠してくれそうだ。きっと、もっと色々なことを考えなければいけないのかもしれない。でも、何だかもう色々手遅れな気がする。

 

ごくごくと水を飲む。これレモン水だ。口がさっぱりすると気持ちが落ち着いてきた。

 

「……警察やめて、どうされるんですか?」

「…そうですね。探偵でもしようかと思っています」

「俺と兄さんでね? ここは事務所にするんだ」

「……わぁ! それエモいですね!」

 

諸伏兄弟で探偵事務所を開業かぁ…。なかなか良いんじゃないかな?

 

「エモい? ……?」

「? 夢主? なんて意味?」

 

きょとんとする二人を見て、私はにっこりと笑う。

 

「素敵ですね、って意味です」

 

とにかく、諸伏兄弟が並んでここで生きていてくれる

警察を辞めるのなら、もう彼らの滝壺落ちも潜入も心配しなくて良いのではないだろうか?救済は成功と言って良いだろう。はははっ!やったぁ!ハッピーエンドだ!

………………疲れたぁ…眠い……とにかく眠い

 

目を擦ると、気付いた高明くんに手で目元を閉じるように撫でられる

 

「…薬が抜けきるまで寝てらしてください」

「晩ごはん豪華にするから楽しみにしてて」

 

 

天蓋のカーテンがスルスルと降りてきて、私の視界を閉ざした。

 

魔法少女のお話はここでおしまい。

私はもう、舞台袖で眠るだけ。

 

後の主役は、あの名探偵。

 

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