「夢主さんは今後の展望について何を望まれていますか?」
「世界平和です」
高明くんは私の答えにきょとんとすると、腕を組んで考え込んでしまった。
今日は図書館で高明くんが勉強に付き合ってくれている。最近はパトロールの回数はめっきり減りこうして図書館にこもることが多い。
彼もそろそろ大学受験生と呼ばれる年齢であり、貴重な時間を自称魔法少女のパトロールに付き合わせるのも申し訳ないからだ。一応、何度も別行動を申し出たのだが
「ご両親に頼まれてますから」
とニコニコするだけで聞き入れてくれないので大人しく私が合わせている。
何を言っても柳のようにかわされてしまうので勝てたためしがない、強い。
「実はそろそろ進路希望を提出しなければならず……世界平和を叶える力となれるような職業となると難問ですね。まず世界の定義をどうとるかから考えましょう。」
「魔法少女としての今の目標なんです。できますか?世界平和」
世界平和。具体的に言うと黒の組織を潰してしまうのが望みだ。
景光くんは無事に降谷零くんと仲良くなったらしく、最近の手紙の内容は彼のこと一色である。このまま原作通り公安に進むとして次の景光くん救済を行うとしたら黒の組織を壊滅するか、少なくとも出し抜く必要がある。今はまだ策が思いつかないが権力とお金はあればあるほど助かる。
2人で腕を組んで悩んでいるとフッと影が差した
褐色の肌をした高明と同じ制服の青年が机を挟んでこちらを見下ろしている。眼光の鋭い野性味のあるイケメンだ。何処か覚えのある顔だが…
「………おい。お前が例の魔法少女ってやつか?」
「はい、魔法少女の夢主です。何処かでお会いしましたか?」
誰だろう?首を傾げると、高明くんがぐっと身構え、さりげなくかばうように腕を私の前に出す。
「こんにちは、大和敢助くん。こんなところで何です?」
おぉ!大和敢助!長野の軍師のライバルの登場である
原作登場時の特徴的な怪我も今はまだなく、精悍な青年だ
大和敢助くんが高明くんをギロリと睨んだ………圧が強いように見えるがおそらく悪意はこもっていないのであろう。柄は悪くとも見た目の勢いに反して大和敢助は優しい人であると前世の記憶で知っているから怖くない。
「コウメイ、お前は毎日こいつ連れ回して遊びまわって何考えてんだ?試験期間までそんなで俺に勝とうってのか?」
「僕が時間をどう使おうが敢助くんには関係のないことです」
「ちげぇだろうが。俺はなぁ!そういうこと言ってんじゃねぇよ」
睨みかえす高明くんに大和敢助くんがもどかしそうに頭をかきむしる
「こいつのことだよ!この魔法少女ってヤツにも同年代との付き合いってもんがあるだろうが。お前が連れ回すせいでこいつ、全然友達がいねぇらしいじゃねぇか。」
おぉっと、私にクリティカルヒットである
そう、私は友達が少ない。
幸い学校では自称魔法少女も受け入れてくれる優しいクラスメイトに恵まれてはいるのだが、下校後はみんなと遊ばず自称魔法少女としての活動と訓練に明け暮れている。となるといまいち仲が深まりづらいのである。
「夢主さんの同年代との交流であれば景光との文通も続いていますし、余計なお世話です」
目を細めて高明さんが答える
「由衣が自称魔法少女を心配してんだよ。おい!魔法少女!上原由衣、知ってるか?同じ学校の1年上で話したことはないらしいが、お前と友達になりたいんだとよ。」
高明くんを押しのけて大和くんが私に向かって話しかける。由衣ちゃんとの仲を取り持ってくれるつもりだろうか?ほんとに面倒見のいい人である。
「…あいつは警察目指してて体鍛えてるからよ。トレーニングにでも付き合わせたらいいんじゃねえの?」
「ありがたいです。明日にでも声かけてみます」
次の日の休み時間、1学年上のクラスを回って由衣ちゃんを見つけた。
「魔法少女の夢主です。大和敢助くんから紹介されて」
「上原由衣よ。よろしくね!やっと話せてうれしいわ」
大和くんから話が通っていたのか声をかけると朗らかに迎え入れてくれる。ありがたい。由衣ちゃんと敢助くんの2人と仲良くなっておけば、長野に戻ることになる高明くん情報を手に入れることが出来るだろう。将来的に東都に移る予定の私には願ってもない縁だ。大切にしよう。
こうして私は女友達兼トレーニング仲間をゲットした。
幸先が良い
そう思っていたが、ここで予想外のことが起きた。
「夢主、久しぶり!これからまたよろしくな」
すっかり背の伸びた景光くんがニッコリ笑っている。
高明くんが東都大学に進学するのと入れ替わりに景光君が長野に帰ってきた。高明くんの住んでいた親戚宅にそのまま景光くんが入るらしく同じ町内、同じ学区である。
あれ?何で帰ってきた??
原作通りなら降谷零と共に青春を謳歌しているはずの時期で
「なんでこの時期に帰ってきたんですか?」
「高校もこっちで受けるからさ。今のうちに帰っといた方がいいだろ?」
首をかしげて見つめてくる。とてもかわいい。
しばらく見ない間に随分と男の子らしくなっていてびっくりした。声変わりも終えてちゃんとアニメと同じ景光の声になってる。素晴らしくいい声だ。
「俺、最初から帰って来るって言ってただろ?」
「あちらで仲良しのお友達もできて生活も落ち着いてる様子だったので、これからは高明さんも東都ですし、てっきりあちらで家族水入らずで暮らすと思っていました。零くんとはお別れしてしまって良いんですか?」
「ゼロとは離れてても友達だよ。夢主の時みたいに文通するし....なに?俺帰ってきちゃだめ?俺に会えて嬉しくないの?」
拗ねた顔をした景光くんがせっかく伸びた背を曲げて、下から上目遣いに覗き込んでくる。近いしあざとい。甘えるような末っ子仕草が板についている。にっと笑った景光が、からかう様な声を出す。
「そもそも夢主とだって家族みたいなもんだろ?俺は夢主の弟なんじゃないのか?」
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景光くんは私がパトロールに出る時いつもついてくる。
「夢主は結局進路どうするの?」
「警察になります」
「へぇ…魔法少女じゃなくて?」
「もう今既に魔法少女ですよ」
魔法少女活動でご飯は食べられないから働かなければならない。腹が減っては戦はできない。つまり景光くんも救えない。
「………あのさ、警察になったら魔法少女はやめるの?」
「やめません。魔法少女は無給なので副業禁止の規定にも引っかかりませんし」
魔法少女を自称することは元は平凡な私がこの世界に介入するため大切な「鍵」である。まだ救済を終えていないのに手放すわけにはいかない。
横から深く息を吐く音が聞こえた。呆れているのだろうか?
ちらりと景光を伺うと予想に反して、うれしそうに見つめる目と視線が合う。泣き笑いのような複雑な表情だ。
「……よかった……俺、こうして魔法少女してる夢主といるの結構好きなんだ……まぁ危ないことは止めてほしいけど……」
残念ながら危ないこともガンガンしていくつもりである。なんなら危ないことをするために警察になろうとしている。どう返すべきか迷っていると、ニコッと笑った景光くんに手を掴まれる。
「もう暗くなるから帰ろ。送ってくから」
景光くんが手を引っ張って帰宅を促す。
河川敷に2つの影が伸びていた。
高明くんも含めた3人でここをパトロールしたのはもう何年も前だ。
あれから諸伏家の父は東都で教職に復帰、母もリハビリもかねて仕事に出ているらしいと両親から聞いた。もう長野じゃなくて東都で暮らしの基盤を作ろうとしている。戻ってこないのかなぁ……?この先どうなるんだろう……。
どうか諸伏家に平穏が訪れますように
私はこのマンガの世界のどこかに居るであろう神様にそう祈った。