### 第四十九章:三期生集結と、開戦前の静けさ
ホロライブが誇る黄金世代、3期生(ホロライブファンタジー)。
その日は久々に、宝鐘マリン、兎田ぺこら、不知火フレア、白銀ノエルの4人が揃っての「オフコラボ配信」が予定されていた。
場所は、防音設備が完璧に整った都内某所のレンタルスタジオ。
配信開始時刻の2時間前には全員が集合し、テーブルの上に大量のピザ、ポテト、お菓子、そしてジュースやノンアルコール飲料を並べて、完全に「女子会(宅飲み)」の空気が出来上がっていた。
「いやー、やっぱり3期生で集まると落ち着くぺこね〜。最近みんな個人の仕事とか案件で忙しかったぺこから」
ぺこらが、コーラのグラスを片手にポテトを齧りながら言う。
「本当だねぇ。こうして4人で顔を合わせるの、全体ライブのリハーサル以来じゃない?」
フレアが、買ってきた新作のスイーツを冷蔵庫にしまいながら同意した。
「団長は今日のために昨日から胃袋調整してきたからね! ピザLサイズ2枚はいけるよ!」
ノエルが鼻息を荒くしてピザの箱を開けている。
そんな賑やかな3人の傍らで、ソファの端に深く腰掛けた宝鐘マリンだけが、どことなく疲労の色を濃く滲ませ、虚空を見つめながらため息をついていた。
「……はぁ〜。アンタたちは気楽でいいわよねぇ。船長なんて、毎日が命がけのサバイバルなんだから……」
その言葉に、ピザに手を伸ばそうとしていた3人の動きがピタリと止まった。
ぺこら、フレア、ノエルの3人は、ゆっくりと顔を見合わせる。彼女たちは全員、マリンが「誰」と付き合っていて、その相手がどれほど「ヤバい(愛が重い)」かを知り尽くしている『そらマリ観測委員会』の主要メンバーである。
「……で?」
フレアが、呆れたような、しかし面白がるような声で先を促した。
「今日は何があったの、マリン。配信始まるまでまだ時間あるし、聞いてあげるから吐き出しなよ」
その一言が、限界を迎えていた海賊のダムを決壊させた。
「聞いてよぉぉぉぉ!! もぉぉぉぉぉ、そら先輩の愛が重すぎるのぉぉぉぉ!!」
マリンはクッションを顔に押し当て、ジタバタと足をバタつかせながら、悲痛な(そしてとてつもなく甘ったるい)叫び声を上げた。
ここに、ホロライブ3期生による「宝鐘マリンの愚痴(という名の極上の惚気)を聞く会」が開幕したのである。
### 第五十章:海賊の愚痴(という名の惚気)と、観測者たちの冷ややかな目
「いい!? アンタたち、そら大先輩のこと『優しくて清楚なホロライブの女神』だと思ってるでしょ!? 違うから! あの人、裏じゃ完全に『独占欲の権化』だからね!?」
マリンはクッションを放り投げ、身を乗り出して3人に訴えかけた。
「この前なんてさ! 船長がちょっと寝坊して、朝の『おはよう』のLINEを返すのが1時間遅れたの! そしたら、何が起きたと思う!?」
「何が起きたぺこか?」
ぺこらが、ストローを咥えながら適当に相槌を打つ。
「マネージャー経由で『マリンちゃん倒れてるかもしれないから、今から家の鍵開けて救急車呼ぶ準備して向かいます』って、ガチトーンの連絡が来たのよ!? 慌てて電話したら、『あ、起きてたんだ。よかった。……私のこと放置して、いいご身分だね?』って、氷点下の声で言われたの!!」
「……重い。重すぎる」
ノエルが、ピザを持つ手を止めて震え上がった。
「それで? その後どうなったの?」
フレアがニヤニヤしながら核心を突く。
「……その日の夜、私の家にそら先輩が押し掛けてきて、玄関入った瞬間に壁ドンされて……『LINE返せないくらい疲れてるなら、私がずっと看病(意味深)してあげる』って、朝までベッドから一歩も出してもらえなかったのよ……! 船長、腰が砕けるかと思ったわ!!」
マリンは両手で顔を覆い、「もうお嫁にいけない……」とウジウジと泣き真似を始めた。
「……」
「……」
「……」
3期生の3人は、冷ややかな、それこそゴミでも見るような目でマリンを見下ろしていた。
「……なぁ、フレア、団長。こいつ、ただ自分の彼女のスパダリっぷりと、自分がめちゃくちゃ愛されてて夜の生活も充実してることを自慢したいだけぺこよね?」
ぺこらが、ジト目で呟く。
「うん、100%惚気だね。ピザの味が甘くなりそうで最悪だよ」
フレアが肩をすくめる。
「マリンちゃん、完全に『愛されすぎて困っちゃう悲劇のヒロイン』の顔してる……うらやま……じゃなくて、呆れちゃうなぁ」
ノエルがため息をつく。
「ちょっと!? あんたたち、本当に聞いてる!? これガチの悩みだからね!?」
マリンが涙目で抗議するが、3人の冷ややかな視線は変わらない。
「あーはいはい。で、他には? どうせまだあるんでしょぺこ」
ぺこらが手で先を促すと、マリンは「待ってました」とばかりに再び口を開いた。
### 第五十一章:家族計画の弊害と、監視される日常
「それにね! 最近あくたんがそら先輩のこと『パパ』って呼ぶようになったじゃない!? あれのせいで、そら先輩の【 家長ムーブ 】が加速してるのよ!!」
マリンは、テーブルの上の烏龍茶を一気に飲み干し、ドン!とグラスを置いた。
「この前もさぁ! あくたんが私の家に遊びに来て、二人でゲームしてたの。そしたら、そら先輩から『あくあちゃんと遊ぶのはいいけど、ちゃんと22時には解散してね。ママには夜のお仕事(パパの相手)があるんだから』ってLINEが来て!」
「わぁお……そら先輩、娘の前でも容赦ないねぇ」
フレアが感心したように口笛を吹く。
「あくたんなんて、それ見て『ヒッ!? は、はい! パパのお邪魔はしません!』って、21時55分に光の速さで帰っていったのよ!? あてぃしの可愛い娘が、完全にパパに怯えるチワワになっちゃってるじゃない!!」
「いや、あくあ先輩が怯えてるのは『パパの怒り』じゃなくて、『パパとママの生々しい営みを察してしまう気まずさ』ぺこよ。娘のメンタルを守るためにも、お前らが自重しろぺこ」
ぺこらが、ド正論のツッコミをいれる。
「船長だって自重したいわよ! でも、逆らえないの! あの女神スマイルで『ダメ?』って首を傾げられたら、体が勝手に『はい!』って言うこと聞いちゃうの!
しかも最近は、船長が他のホロメンとコラボするって言うと、事前にその相手のホロメンのスケジュールまで把握して、『終わったらすぐ帰ってくるよね?』って圧かけてくるんだから!」
マリンは、右手にはめられたピンキーリングを無意識に撫でながら、ぶるぶると身震いした。
「船長、このままだと完全に『ときのそらの所有物』になっちゃう! 私だって一人の独立した海賊なのよ!? 自由を愛する女なのよ!? なのに、最近はリスナーにまで『船長、なんか丸くなったね』『最近メスガキじゃなくてただのメスだね』って言われる始末!
私のキャラが崩壊の危機なの!!」
必死に訴えるマリンだが、3期生の反応は相変わらず薄かった。
「……あのさぁ、マリン」
ノエルが、ピザの耳を齧りながら呆れ顔で言った。
「そんなに嫌なら、別れればいいじゃん」
「——ッッッ!!!?!?!」
ノエルのその一言に、マリンは弾かれたように立ち上がり、目を血走らせてノエルに詰め寄った。
「ばっ、ばばばば馬鹿なこと言わないでよ団長!! 別れる!? そら先輩と!? あり得ないわ!! 船長がどれだけあの人のこと愛してると思ってるの!? あの優しさも、ちょっと重たすぎる独占欲も、私だけに見せてくれる裏の顔も、全部ひっくるめて宇宙一愛してるんだからね!!! 船長は一生そら先輩の隣から離れる気はないの!!!」
「はい論破。お疲れ様でしたー」
フレアがパチパチと乾いた拍手を送る。
「……自分で言ってて気づかないぺこか? お前、完全にそら先輩の『沼』の底に沈んでて、自力で這い上がる気なんて微塵もないぺこじゃん。ただの特大の惚気を聞かされた私たちの身にもなれぺこ」
ぺこらが、呆れ果てて額を押さえた。
「うっ……! そ、それは……っ!」
マリンは顔を真っ赤にして、再びソファに崩れ落ちた。
「だってぇ……! 好きになっちゃったんだもん……! そら先輩がかっこよすぎるのが悪いんだもん……!」
ついに海賊のプライドを投げ捨てて、乙女の顔でクネクネと身悶えを始めるマリン。
3期生の控え室は、完全にピンク色のオーラに包まれてしまっていた。
### 第五十二章:反逆の海賊、三秒で散る
「……でもさ、マリン」
ひとしきりマリンの惚気(愚痴)を聞かされた後、フレアが少し真面目な顔で切り出した。
「あんまりそら先輩のペースに飲まれてばかりだと、本当に主導権握られっぱなしになっちゃうよ? 今日はせっかく私たち3期生のオフコラボなんだし、ここで一発、そら先輩に『私は自由な海賊だ!』ってところを見せつけてみたら?」
「見せつけるって……どうやって?」
マリンが涙目で首を傾げる。
「たとえばぺこ……」
ぺこらが、悪戯っ子のような笑みを浮かべて提案した。
「今日の配信中、マリンが私たちにめちゃくちゃセクハラするとか、ベタベタくっつくとか! そら先輩、絶対配信見てるぺこでしょ? 『私には私の仲間(3期生)との絆があるんだ!』って、パパに反抗期を見せつけてやるぺこよ!」
「おっ、いいね! 団長もマリンちゃんに甘えられちゃおっかな〜!」
ノエルが乗っかる。
「……反抗期……」
マリンの目に、ギラリと野心の光が宿った。
そうだ。私は宝鐘マリン。天下の大海賊だ。
そら先輩のことは愛しているが、だからといって完全に首輪をつけられた犬になるつもりはない。
「……やってやるわ! 今日の配信、船長はいつもの『セクハラおじさん』モード全開で行く! ぺこらの胸も揉むし、フレアの太ももも撫で回すし、団長にはお風呂一緒に入ろうって迫ってやる!
そら先輩に『私を縛り付けることなんてできない』って証明してやるんだから!!」
マリンは立ち上がり、拳を高く突き上げた。
その表情は、かつての荒くれ者の海賊のそれに戻っていた。
「よしっ! そうと決まれば、配信の準備よ! アンタたち、覚悟しなさいよ!」
意気揚々と機材のセッティングに向かおうとするマリン。
3期生の絆が、ついに女神の支配を打ち破る——かのように見えた。
『ピコンッ』
その時、スタジオ内の静寂を破って、マリンのスマートフォンが短く鳴った。
LINEの通知音だ。
「あ、ちょっと待って。マネージャーからかも」
マリンは意気揚々とした足取りでテーブルに戻り、スマホの画面を開いた。
「…………」
画面を見た瞬間。
マリンの動きが、まるで動画の再生を一時停止したかのように、完全にピタリと止まった。
「ん? どうしたのマリン。顔真っ青だけど」
フレアが不思議そうに覗き込もうとする。
「あ、あ、あああ……」
マリンの手がカタカタと震え始め、スマホが床に落ちそうになるのを必死に両手で掴んだ。
「マリン? マジでどうしたぺこ?」
ぺこらも異変に気づき、立ち上がる。
マリンは、ギギギ……と錆びた機械のように首を動かし、3人を見た。
その目は、先ほどの「反抗期の海賊」の覇気など微塵もなく、完全に「死を悟った小動物」のそれだった。
「……そ、そら……先輩から……」
「なんて?」
マリンは、震える声で、そのLINEのメッセージを読み上げた。
『マリンちゃん、3期生のみんなとオフコラボ、楽しんでね✨
あ、そうそう。今日は私、お仕事が早く終わったから、配信ずっと見てるね。
マリンちゃんが3期生のみんなにどんな風に接するのか、すっごく楽しみだなぁ
もし、私のマリンちゃんが……他の誰かに「過度なスキンシップ」なんてしたら……
明日のオフ、マリンちゃんがベッドから一歩も出られないくらいの【 特別な愛情表現 】をしてあげるから、覚悟しててね
パパより』
「——ッッッ!!!」
3期生(ぺこら、フレア、ノエル)の背筋に、同時に雷が落ちたような悪寒が走った。
「み、見透かされてる……!?」
「私たちの会話、盗聴されてるレベルのタイミングじゃん……!」
「パパの監視網、怖すぎるぺこ……!!」
マリンは、その場にヘナヘナと座り込んだ。
「お……おわりだ。船長の反抗期、開始前に終わった……。こんなの、セクハラなんてできるわけないじゃない……っ! 明日のオフ、私、本当に殺される(愛で)……!」
「マ、マリン……」
ノエルが、同情に満ちた目でマリンの肩を叩く。
「無理しないで。今日の配信、マリンちゃんはずっと団長たちの背後に隠れて、大人しくしてていいからね」
「うん。私たちも、マリンに近づかないように気をつけるぺこ。そら先輩のヘイトをこれ以上買うのはごめんぺこだから……」
ぺこらも、さっきまでの威勢はどこへやら、完全にビビり散らかしている。
### 第五十三章:不可視の首輪と、配信スタート
そして、迎えた配信開始時刻。
「こんぺこー! 3期生オフコラボ、始まるぺこよー!」
「こんぬい! 久しぶりの4人集合だよー!」
「こんまっする〜! みんなでピザ食べてるよー!」
「あ、Ahoy……宝鐘海賊団船長、宝鐘マリンですぅ……」
画面の向こうのリスナーたちは、すぐに違和感に気づいた。
【コメント欄】
・船長、どうした? テンション低くない?
・なんかマリンが3人の後ろに隠れるように座ってるぞw
・いつものセクハラはどうした!
・声が震えてるwww
ぺこらが、必死にフォローを入れる。
「あー、今日ね! マリンはちょっと、その……お腹痛いぺこ! だから、今日は『清楚なマリン』でお届けするぺこよ!」
「そうそう! マリンちゃん、今日は『誰にも触れない、触れさせない』っていう縛りプレイ中だから!」
フレアも適当な嘘をついて誤魔化す。
「そ、そうなんですぅ! 船長は今日、完全無欠の清楚系アイドルとして、3期生を見守る立ち位置でいきますぅ……!」
マリンは、両手を膝の上でピッタリと揃え、まるで面接中の新入社員のような姿勢でカメラを見つめていた。
その脳裏には、画面の向こうで、完璧な女神の微笑みを浮かべながら自分の挙手一投足を監視しているであろう『パパ』の姿が浮かんでいる。
(そら先輩……船長、いい子にしてます! 誰も触ってません! だから明日のオフは、どうか、どうかお手柔らかに……!!)
マリンの心の叫びは、当然ながらリスナーには届かない。
しかし、その様子を特等席(スマホの画面越し)で眺めていたときのそらは、自室のソファで紅茶を飲みながら、くすくすとご機嫌な笑い声をこぼしていた。
「ふふっ。マリンちゃん、とってもお利口さんだね。偉い偉い」
そらは、マリンから送られてきた『いい子にしてますぅぅぅ!』というLINEのスタンプに、『明日、いっぱいご褒美あげるね 』と返し、満足そうに目を細めた。
ホロライブ3期生の絆すらも、もはや女神の強大すぎる愛の前では無力。
関係を隠したいポンコツ海賊の「自由」への渇望は、不可視の重たい首輪によって完全に制御され、彼女は今日も、リスナー(とホロメン)の目の前で「愛の囚人」としての姿を全世界に晒し続けるのだった。