### 第六十五章:結成、宝鐘マリン防衛線(ホーリー・シールド)
ホロライブの公式3Dスタジオの控え室。
全体コラボ配信の開始を1時間後に控えたその部屋の片隅で、三人の女性が円陣を組むようにして深刻な顔で頭を寄せ合っていた。
宝鐘マリン、AZKi、そして鷹嶺ルイの三人である。
「……いいですか、AZKi先輩、ルイ。今日のコラボ、船長は本気で命の危機を感じています」
マリンは、まるで戦地に赴く兵士のような悲壮な顔で、二人の手をガシッと握りしめた。
「わかってるよ、マリンちゃん」
AZKiが、力強く頷く。
「最近のそらちゃんの愛情表現、いくらなんでも過激すぎる。ホロライブの配信は【 健全(ピュア) 】であるべきなのに、あの子、カメラの前でも平気でマーキングしようとするからね。0期生として、私がそらちゃんの暴走を食い止めるよ!」
「私もです、船長!」
ルイが、忠誠を誓う騎士のように胸に手を当てた。
「私は船長の大ファンであり、ホロライブの風紀を守る秘密結社holoXの幹部! あの女神のドロドロの独占欲から、今日こそは絶対に船長をお守りします! 私が盾になりますから!」
「二人ともぉぉぉ……っ! ありがとう、ありがとう……っ!!」
マリンは涙ぐみながら二人を抱きしめた。
今日のコラボ配信は、ときのそら、宝鐘マリン、AZKi、鷹嶺ルイ、そして5期生の獅白ぼたん、尾丸ポルカ、桃鈴ねねの7人による大型バラエティ企画である。(※雪花ラミィは別件の収録で欠席となっていた)
マリンとそらの交際を知る者は、この中でAZKiとルイのみ。
残りの5期生トリオ(ぼたん、ポルカ、ねね)は、二人の関係を1ミリも知らない【 完全なる無自覚・無垢な存在 】である。
「5期生のみんなはピュアだから、もしそら先輩がカメラの死角でセクハラしてきても、絶対に気づかない……。むしろ『そら先輩とマリン先輩、仲良しですねー!』って煽りかねないのよ!」
マリンは前回の4期生コラボでのトラウマ(心拍数165事件)を思い出し、ブルブルと震えた。
「任せてください。私がそら先輩と船長の間に物理的に割り込みます!」
「私はトークでそらちゃんを牽制する! もしヤバい匂わせ発言が出そうになったら、私が大声で健全な話題にすり替えるから!」
「頼もしい……! これならいける! 今日の船長は、パパ(そら先輩)の魔の手から逃げ切って、無事に家に帰れるのね!」
三人の間に、固い結束の絆が生まれた。
『ガチャリ』
「あ、三人ともこんなところにいた。何のお話ししてるの?」
ドアが開き、ふわりとしたお花の香りと共に、ときのそらが控え室に入ってきた。
完璧なアイドルスマイル。しかし、その瞳の奥には、獲物を逃さない捕食者のような艶やかな光が宿っている。
「「「ヒッ!?」」」
三人は弾かれたように距離を取り、「な、何でもないですよぉ〜!」「きょ、今日のゲーム楽しみだねって!」「ははは、健全第一!」と不自然極まりない笑顔を取り繕った。
そらは、三人の不審な様子をジッと見つめた後、クスッと笑ってマリンに近づいた。
「ふふっ、そう。……マリンちゃん、今日は長丁場だけど、頑張ろうね? 終わったら……私のお家、来るでしょ?」
「ひゃいっ! い、行きますぅ……!」
「いい子。じゃあ、配信中も……私から、目、離さないでね?」
そらはマリンの髪を優しく撫で、そのまま自分の席へと戻っていった。
「……ルイ。今の一瞬で、船長のHPが半分削られたわ……」
「耐えてください船長! 配信が始まれば、私たちが全力でガードしますから!」
かくして、何も知らない5期生を巻き込んだ、熾烈な【 宝鐘マリン防衛戦 】の幕が切って落とされた。
### 第六十六章:第一の盾(鷹嶺ルイ)の身を呈した防御
「こんそめー! ときのそらです!」
「Ahoy! 宝鐘マリンですぅ〜!」
「開拓〜! AZKiです!」
「待たせたな! 鷹嶺ルイだ!」
「らみ〜まず〜! 桃鈴ねねアル!」
「おるよ〜! 尾丸ポルカおるよ〜!」
「いらっしゃーい、獅白ぼたんです」
賑やかな挨拶と共に、公式3D配信がスタートした。
今日の企画は『ホロライブ・以心伝心ペアチャレンジ!』。様々なミニゲームを2人1組のペアで行うという、スキンシップが避けられない企画である。
(ペア決め……ここが最初の難関よ!)
マリンは内心で冷や汗を流していた。
「じゃあ、最初のゲーム『密着! 風船割り競争』のペアを決めるよ〜!」
MCのポルカが高らかに宣言する。
「2人で抱き合って、間にある風船を割るゲームね! 誰と誰がペアになる〜?」
「はいはいはいっ! ねね、ぼたんと組むー!」
ねねが早速ぼたんに抱きつく。
「おー、いいよ。じゃあ私たちペアね」ぼたんが笑いながら受け入れる。
残るは、そら、マリン、AZKi、ルイ、ポルカの5人。(※MCのポルカもゲームに参加する形式)
「……じゃあ、私は」
そらが、一切の迷いなく、スッとマリンの方へ歩み寄った。
「マリンちゃん。私と——」
「そら大先輩!! お待ちください!!」
ダンッ!! と、鷹嶺ルイがそらとマリンの間に滑り込んだ。
両手を広げ、完全にマリンを庇うポーズである。
「え……?」
そらが、目を丸くしてルイを見る。
「そ、そら大先輩のような神聖な御方に、激しい風船割りゲームで負担をかけるわけにはいきません! ここは、この鷹嶺ルイが、マリン船長のペアを務めさせていただきます!!」
ルイは、顔を引きつらせながらも必死に声を張り上げた。
「おーっ! ルイ、マリン先輩のこと好きだもんね〜! ガチ恋勢の鑑!」
ポルカが何も知らずに囃し立てる。
「ルイちゃん、カッコいいアル! マリン先輩を守るナイトみたい!」
ねねも無邪気に拍手をしている。
そらは、目の前に立ち塞がるルイをジッと見つめた。
その瞬間、ルイの視界にだけ映るそらの瞳が、スッと細められ、絶対零度の冷気を放った。
(……邪魔しないで、ルイちゃん)
声には出さないが、その瞳がハッキリとそう告げていた。ルイの背筋を滝のような冷や汗が流れる。
しかし、ここで退くわけにはいかない。防衛線第一陣として、体を張ると決めたのだ。
「ルイちゃん……そっか。マリンちゃんと、ペアになりたいんだね?」
そらが、静かな、底冷えのする声で問う。
「は、はいっ! 船長は私の推しですから!」
「……わかった。じゃあ、私はAZKiちゃんと組むね。ルイちゃん、マリンちゃんのこと……【 大切に 】扱ってね?」
「ヒィッ! は、はいぃぃ!」
こうして、第一の攻防はルイの決死の特攻により、見事にマリンの身の安全(そらとの密着回避)が守られた。
「ルイ……あんた、命の恩人よ……!」
マリンは、震えるルイの背中に隠れながら、小さな声で感謝を捧げた。
### 第六十七章:第二の盾(AZKi)の健全なる介入
続いてのコーナーは、ペアを入れ替えての『協力してお絵かき!』ゲーム。
しかし、ここでもそらは当然のようにマリンの隣をキープしようと動いた。
「マリンちゃん、今度は私と——」
「そらちゃん!! 私たち0期生ペアで組もう!!」
今度はAZKiが、そらの腕をガシッと掴んで引き留めた。
「えっ? AZKiちゃん?」
「私たち、長い付き合いだけど、こういうバラエティでガッツリ組むこと少ないじゃない? だから今日は、0期生の絆を5期生に見せつけようよ! ねっ!!」
AZKiは、そらの目を真っ直ぐに見つめ、有無を言わさぬ圧(健全オーラ)を放った。
「あー、確かに! そら先輩とAZKi先輩のペアって激レアかも!」
ぼたんが感心したように言う。
「AZKi先輩、気合い入ってるね〜! マリン先輩は誰と組む〜?」
ポルカが進行を進める。
「あ、じゃあ船長はねねちと組むわ!」
マリンは、そそくさとねねの背後に避難した。
そらは、自分の腕を掴んで離さないAZKiを見て、小さくため息をついた。
「……AZKiちゃん。今日、なんか変だよ?」
「変じゃないよ! 私はただ、この配信を【 健全に 】進行させたいだけだから!」
「健全って……私、何もしてないよ?」
「しようとしてるでしょ! さっきから隙あらばマリンちゃんに触ろうとして! 今日は私が徹底マークするからね!」
AZKiは小声でそらに釘を刺した。
そのAZKiの奮闘により、中盤までのゲームは、そらとマリンが物理的に接触することなく、驚くほど平和に(5期生のわちゃわちゃとした笑い声と共に)進行していった。
「やった……! AZKi先輩もルイも凄すぎる……! パパ(そら先輩)の攻撃を完全にシャットアウトしてるわ!」
マリンは、久しぶりに感じた「普通の公式配信」の空気に、感動すら覚えていた。
しかし。
ホロライブの頂点に君臨する女神が、このまま大人しく引き下がるはずがなかった。
物理的な接触がダメなら、彼女には【 言葉 】という最強の武器があったのだ。
### 第六十八章:女神の反撃と、言葉の刃
トークコーナー『サイコロトーク!』の時間。
ポルカがサイコロを振り、出たお題について全員で語り合うという平和なコーナーだ。
「おっ! 出たお題は『最近の休日の過ごし方』! 誰から話す〜?」
ポルカがサイコロを掲げる。
「はいはい! ねねね、最近ぼたんと一緒に焼肉行ったアル! いっぱい食べた!」
「ねねち、肉ばっかり食べるからなぁw」
5期生たちの微笑ましいエピソードが続く。
「じゃあ、次はマリン先輩! 最近の休日はどう過ごしてますか?」
ポルカがマリンに話を振った。
「あ、船長? 船長はねぇ、やっぱりお家でゆっくりアニメ見たり、イラスト描いたりしてることが多いかなぁ! インドア派だからね!」
マリンは、無難で完璧なアイドルらしい回答をした。
その時だった。
「……あれ? おかしいなぁ」
そらが、コテッと首を傾げて、マイクに乗る声で呟いた。
「えっ?」
マリンの心臓が嫌な音を立てた。
「マリンちゃん、この前の休日、アニメ見たりイラスト描いたりしてたっけ?
だって……金曜日の夜から、ずっと私の家のベッドで、一緒に【 過ごしてた 】よね?」
「——————ッッッ!?!?!?」
スタジオの空気が、一瞬にして凍りついた。
マリンの顔面から一気に血の気が引き、ルイは白目を剥き、AZKiは「言いやがった!!」と頭を抱えた。
「え? そら先輩のお家に? マリン先輩お泊まりしたんですか?」
何も知らないぼたんが、純粋な疑問として尋ねる。
「う、ううううん! 違うの! それは! あの!」
マリンがパニックになって両手を振り回す。
そらは、悪びれる様子もなく、さらに爆弾を投下し続けた。
「そうだよ。マリンちゃんね、休日はいつも私の家に来てくれるの。この前なんて、私に【 甘えっぱなし 】で、朝から晩までずっと私にくっついて離れなくて……『そら先輩がいないと生きていけない』って泣き言まで言って——」
「ストォォォォォォォォォップ!!!!!!」
AZKiが、カメラに背を向けるほどの勢いでそらに飛びつき、その口を手で塞いだ。
「あ、AZKiちゃん!?」
「だーめー! そらちゃん、それ以上は言っちゃダメ! 健全! 健全第一!!」
「えーっ? AZKi先輩どうしたのー? マリン先輩がそら先輩に甘えてる話、もっと聞きたいアル!」
ねねが無邪気に食いつく。
「ダメダメダメ! マリンちゃんはね、そらちゃんの家で……そう! ホラーゲーム! ホラーゲームやって怖くて泣いてただけだから! ねっ、マリンちゃん!?」
AZKiが必死にフォローを投げる。
「そ、そうですぅ!! バイオハザードやって! ゾンビが怖くてそら大先輩にしがみついてただけなんですぅ!!」
マリンが滝のような汗を流しながら肯定する。
「あー、なるほど。マリン先輩ビビリだからなぁ〜。そら先輩はホラー平気だもんね、頼りになる〜!」
ポルカが、あっさりとその言い訳を飲み込んでくれた。
(あぶなっっっっっっっかしい!!!)
ルイは心臓を抑えながらその場にへたり込みそうだった。
物理的な盾になれても、マイクを通した【 公開惚気(マウント) 】までは防ぎきれない。そらのドSパパっぷりは、防衛線の隙間を縫って確実にマリンの精神を削りにきていた。
### 第六十九章:5期生という名の死角、そして陥落
そして、配信は最後のコーナー『全員で協力! ポーズ合わせゲーム』に差し掛かった。
お題に合わせて、7人全員が同じポーズを取れたらクリア、というゲームだ。
(あと少し……! このコーナーが終われば、配信終了よ! 私たちの勝ちだわ!)
AZKiは、疲労困憊になりながらも、勝利を確信していた。
ここまで、そらとマリンを完全に分断し、ギリギリで匂わせ発言も防いできた。
「じゃあ最後のお題! 『恋人同士のポーズ』!」
ポルカが読み上げる。
「恋人同士ー!? 定番はやっぱりハグとか腕組みじゃない?」
ぼたんが言う。
「じゃあ、みんなで隣の人とペアになってポーズ作ろっか!」
その瞬間、そらが動いた。
「じゃあ、私は——」
そらがマリンの方へ向かおうとする。
「させません!! 船長は私が!!」
ルイが、最後の力を振り絞ってマリンとそらの間に割って入ろうとした。
——しかし。
「マリン先輩〜〜っ! 恋人ポーズ、ねねとやろ〜アル!!」
「えっ!?」
全く予想外の方向から、桃鈴ねねが飛び込んできた。
ねねは、ルイをすり抜け、マリンに正面からギュッ!と抱きついたのだ。
「ひゃうっ!? ね、ねねち!?」
「えへへ〜! マリン先輩大好き〜! これで恋人ポーズ完成アル!」
ねねの、悪意ゼロ、純度100%の無邪気なスキンシップ。
ルイは「あっ」と声を上げ、AZKiは「しまった!」と顔を青ざめさせた。
5期生という【 無自覚な存在 】は、時に防衛線にとって最大のイレギュラーとなる。ねねのこの行動は、完全にAZKiたちの計算外だった。
そして、その光景を見た、ときのそらの反応は——。
「…………へぇ」
スタジオの気温が、体感で5度は下がった。
そらの瞳から、完全に光が消えた。
「あ……」
マリンは、ねねに抱きつかれたまま、そらのその顔を見て、自らの死(お仕置き確定)を悟った。
「ねねちゃん。……マリンちゃんのこと、大好きなんだね?」
そらが、極上の(そして背筋が凍るほど冷たい)笑顔でねねに近づく。
「うん! マリン先輩優しくて大好きアル!」
「そっかぁ。……でもね、ねねちゃん」
そらは、ねねの背後から、マリンを包み込むようにして、自らの腕を回した。
つまり、手前から【 ねね 】【 マリン 】【 そら 】という、謎の三層サンドイッチ状態になったのだ。
「えっ? そら先輩?」
「3人でハグも、いいでしょ? ……それに、マリンちゃんは【 誰のもの 】か、ちゃんと教えてあげないとね」
そらは、カメラには見えない角度で、マリンの後ろ首(うなじ)に、自分の唇をピタリと押し当てた。
「ひゃんッッッ!!!」
マリンの口から、今日一番の、そして配信に乗せてはいけないレベルの甘い悲鳴が漏れた。
首筋に感じる、そらの熱い吐息と、軽く吸い上げられる感覚。
完全に、カメラの死角を利用した【 キスマーク(マーキング) 】の付与だった。
「ちょ、そ、そら大先輩ッ!? 今、配信中ッ!」
「いいの。……今日ずっと、私から逃げてた罰。それに、他の子に抱きつかれて喜んでるマリンちゃんへのお仕置き」
そらは、マリンの耳元で、甘く、ドス黒い声で囁いた。
「わぁー! そら先輩も抱きついてきた! サンドイッチだ〜!」
ねねは、自分がそらに利用されていることも、目の前のマリンが腰を砕かれかけていることも知らず、無邪気に喜んでいる。
「おっ、なんか真ん中のマリン先輩、すげー幸せそうじゃん!」
ぼたんが笑いながら言う。
「マリン先輩、顔真っ赤だぞ〜! そら先輩とねねちの両手に花で照れてる〜!」
ポルカが囃し立てる。
「ち、ちが……っ、ひゃぁ……っ!」
マリンは、首筋を吸われる感覚に抗えず、足の力が抜けてねねの肩に崩れ落ちそうになっていた。
それを見ていたAZKiとルイは——。
「……終わった」
「……防衛線、突破されました……」
二人は、その場に膝をつき、白旗を揚げた。
どんなに物理的に守ろうと、どんなにトークで誤魔化そうと。
5期生という無自覚な駒を使い、最終的にカメラの死角で決定的なマーキングを刻み込む女神の【 圧倒的な捕食力 】の前には、手も足も出なかったのだ。
### 第七十章:終演、そして敗北者たちの反省会
「お疲れ様でしたー!」
「そら先輩、マリン先輩、AZKi先輩、ルイ先輩! ありがとうございましたー!」
「楽しかったアルー!」
配信が終わり、5期生の3人は元気にスタジオを後にしていった。
後に残されたのは、首元を手で押さえて床にへたり込むマリンと、それを満足そうに見下ろすそら。そして、敗北感に打ちひしがれるAZKiとルイだった。
「……はぁ。やっぱり、そらちゃんには敵わないや」
AZKiが、大きなため息をつきながら立ち上がった。
「まさか、ねねちゃんを利用してマリンちゃんを追い詰めるなんて。そらちゃん、どんどん手口が悪質(高度)になってない?」
「ふふっ。だって、AZKiちゃんとルイちゃんが、あんまりにも頑なに私とマリンちゃんを引き剥がそうとするから。ちょっとムキになっちゃった」
そらは、悪びれる様子もなく、ニコリと笑った。
「ルイ……ごめんね……。船長、最後の最後でパパに食われちゃった……」
マリンが、涙目でルイに謝る。
うなじには、くっきりと赤い痕が残っていた。
「いえ……船長は悪くありません。すべては、私の力不足……! 女神の独占欲を甘く見ていた私の責任です……!」
ルイは悔しそうに拳を握りしめた。
「マリンちゃん」
そらが、床にへたり込むマリンの前にしゃがみ込み、その手を優しく握った。
「今日は、ずっと私から逃げて……寂しかったよ?
家に帰ったら、今日の分もたっぷり……私に甘えてね?」
「……ひゃい……」
マリンは、逆らう気力も残っておらず、ただただ首を縦に振るしかなかった。
「それじゃあAZKiちゃん、ルイちゃん、お疲れ様! 私たちはこれで帰るね!」
そらは、腰の抜けたマリンを抱き抱えるようにして立たせ、満面の笑みでスタジオを出て行った。
残されたAZKiとルイは、静まり返った控え室で顔を見合わせた。
「……ルイちゃん」
「はい、AZKi先輩」
「次回のコラボは、絶対に……【 鉄の貞操帯 】を用意して挑もうね」
「はい……! この敗北を糧に、次こそは必ず船長をお守りします……!」
秘密を知る者たちの涙ぐましい努力と、それをいとも容易く蹂躙していく女神の愛。
何も知らない5期生たちの純粋な笑顔の裏で、ホロライブの真のヒエラルキー(そら>>>超えられない壁>>>マリン)は、今日も確固たるものとして刻み込まれていくのだった。