### 第八十一章:海賊の絶対防衛戦(自己管理編)と、完璧なる『清楚』の体現
「……よし。今日の私は、完璧な『清楚な先輩』よ。絶対に、絶対にスキは見せないんだから」
ホロライブの公式3Dスタジオの控え室。
鏡の前で自身の身だしなみを整えながら、宝鐘マリンは強く、深く、自分自身に言い聞かせていた。
今日の配信は、hololive DEV_ISの期待の新人ユニット『FLOW GLOW』——響咲リオナ、虎金妃笑虎、水宮枢、輪堂千速、綺々羅々ヴィヴィの5人——とのコラボレーション企画である。
前回、ReGLOSSとのコラボで「後輩の温もりが欲しいのぉ!」と欲望を爆発させた結果、ときのそら(パパ)の逆鱗に触れ、翌日のオフを【 完全にベッドの上で骨抜きにされる(物理的・精神的にわからせられる) 】という地獄(極上のご褒美)を味わったマリン。
あの時の腰の痛みと、そらの底知れぬ独占欲の恐ろしさを、マリンの体は痛いほど覚えていた。
(もう、二度とあんなヘマはしない! 今日の私は、ホロライブ3期生として、威厳と品格に満ちた、一切の接触を避ける『ATフィールド展開型・大先輩』として振る舞うのよ!)
前回のような、holoXの防衛隊(盾)は今日はない。
己の身(と腰の安全)は、己の自制心で守るしかないのだ。
「マリン先輩、おはようございまーす!」
「うおー! マリン先輩だー! 今日はよろしくお願いします!」
「マリン先輩、お肌とぅるとぅるやん! 後で使ってるコスメ教えてぇな!」
控え室に、賑やかなFLOW GLOWの5人が入ってきた。
リーダーのリオナが礼儀正しくお辞儀をし、お笑い担当の笑虎(ニコ)が元気いっぱいに手を振り、メイク担当のヴィヴィが距離感ゼロで近づいてくる。
「っ……!」
普段のマリンであれば、「えへへ〜、ヴィヴィちゃん距離近いねぇ〜! 船長が直々にスキンケア教えてあげるよぉ〜!」と鼻の下を伸ばして抱きつきに行くだろう。
しかし、今日の海賊は違った。
「あ、おはようございます、FLOW GLOWのみなさん。本日はよろしくお願いいたします」
マリンは、両手を体の前で上品に重ね、ヴィヴィが近づいてきた瞬間に【 スッ 】と華麗なステップで後ずさり、完璧なソーシャルディスタンス(約1.5メートル)を維持した。
「……えっ?」
ヴィヴィが、空を切った自分の手を見てポカンとする。
「すっごーい! マリン先輩、めっちゃ礼儀正しいし、なんか大人の余裕って感じがする!」
宣伝担当の枢(すう)が、目をキラキラさせてマリンを見上げる。
「いやぁ〜、さすが先輩ッスね! アタシもその落ち着き、見習いたいッス!」
DJ担当の千速が、ブンブンと腕を振り回しながら感心している。
「当然です。ホロライブの先輩として、あなたたちのお手本にならなければいけませんからね。さあ、時間も迫っていますし、スタジオへ向かいましょう」
マリンは、心臓をバクバクさせながらも、涼しい顔でスタジオへと歩き出した。
(いける……! 今日の私は、そら大先輩にも負けないくらいの【 完璧な清楚 】よ!! これなら、画面の向こうで監視しているパパも、絶対に文句は言えないはず!!)
### 第八十二章:鉄壁の海賊と、空回りする新人たち
「Ahoy! 宝鐘海賊団船長、宝鐘マリンですぅ〜! 本日は、FLOW GLOWのみなさんとコラボでお届けしますよ〜!」
配信がスタートし、マリンは終始『安全運転』を徹底した。
「マリン先輩! ニコたんのこの一発ギャグ、見て見てー!!」
笑虎が、マリンの目の前でドタバタと大きな動きでギャグを披露し、そのまま勢い余ってマリンに抱きつこうとする。
「おっと!」
マリンは、闘牛士のような華麗な身のこなしで笑虎をヒラリと躱した。
「ふふっ、ニコちゃんは元気いっぱいですね。でも、スタジオは機材が多いので、あまり走り回ると危ないですよ?」
「えぇっ!? マリン先輩、ツッコミじゃなくてガチの注意!? なんかオカンみたい!」
「マリン先輩、すうの頭撫でて〜! 褒めて褒めて〜!」
枢が、あざとくマリンの足元にしゃがみ込み、上目遣いでおねだりをしてくる。
(くっ……可愛い! 撫で回したい! ……いや、ダメよ!)
マリンは、伸ばしかけた手をグッと堪え、枢の頭から3センチほど浮かせた状態(非接触)で、エア撫でをした。
「はいはい、すうちゃん偉いですね〜。SNSの告知もバッチリでしたよ〜」
「えっ、触ってない!? マリン先輩のエア撫で、高度すぎる……!」
「ねえねえマリン先輩! テンション上げてこーぜ! イェーイ!!」
千速が、ハイタッチを求めてバンッと両手を突き出してくる。
「イェーイ!」
マリンは、千速の手には触れず、自分の両手を合わせて「パンッ!」と音を鳴らすだけの『エアハイタッチ』で応じた。
「……マリン先輩、ガード固すぎん?」
ヴィヴィが、呆れたようにツッコミを入れる。
「もしかして、うちら避けられてるんちゃう?」
「い、いえいえ! そんなことありませんよ! 船長はただ、後輩のみなさんを【 適切な距離感 】で見守りたいだけなんですぅ!」
マリンは、額に薄っすらと汗をかきながら必死に弁明した。
リーダーのリオナは、腕を組みながらマリンの様子をジッと観察していた。
「……なるほど。これがホロライブの先輩の『威厳』というやつか。気安く触れ合うのではなく、あえて一定の距離を保つことで、後輩に緊張感とプロ意識を芽生えさせる……。さすがはマリン先輩、ストイックですね!」
「そ、そうです! リオナちゃん、わかってますね! そのストイックさが大事なんですよ!!(助かった……!)」
リオナのストイックな解釈(勘違い)に助けられ、マリンはなんとかその場を凌ぐことに成功した。
その後も、マリンは「過度な接触を避ける」「過剰なリアクション(デレデレ)をしない」「常に品行方正な言葉遣いを心がける」という【 誓約 】を完璧に守り通した。
画面の向こうのリスナーたちは「今日の船長、どうした?」「よそ行きモードすぎるw」「パパ(そら先輩)の監視に怯えてるなこれ」とコメント欄で大いに草を生やしていたが、FLOW GLOWの5人にはその裏事情は全く伝わっていない。
「それではみなさん、本日のコラボはここまで! FLOW GLOWの応援、よろしくお願いしますね〜!」
「ありがとうございましたー!!」
無事に配信終了の合図が鳴り、カメラのランプが消えた。
「はぁぁぁぁぁぁぁっ……!」
マリンは、その場にへたり込み、これまでにないほどの特大の安堵のため息をついた。
(やった……! やり切った……! 一回も、誰にも触れなかったし、誰にも触らせなかった! 今日の私は、ホロライブ史上最も『クリーン』な宝鐘マリンよ!!)
マリンは、勝利のガッツポーズを心の中でキメた。
これなら、嫉妬深いパパも絶対に文句のつけようがない。明日のオフは、腰の痛みに怯えることなく、平和に過ごせるはずだ。
「マリン先輩、お疲れ様でした! すっごく勉強になりました!」
リオナが、タオルを差し出しながら尊敬の眼差しで言ってくる。
「あはは、リオナちゃんたちも元気いっぱいでよかったよぉ。船長、今日はちょっと緊張しちゃったかも!」
マリンが、リラックスした笑顔でFLOW GLOWの5人と談笑していた、その時だった。
『ガチャリ』
スタジオの重厚な防音扉が、静かに開いた。
### 第八十三章:降臨する絶対神と、見せつけられる圧倒的『格』
「——みんな、配信お疲れ様」
スタジオに響き渡ったのは、鈴を転がすような、透き通った美しい声。
しかし、その声を聞いた瞬間、宝鐘マリンの全身の毛穴がブワッと開き、心臓が「ドゥンッ!!」とありえない音を立てた。
そこに立っていたのは、私服姿のときのそらだった。
彼女は、完璧なアイドルスマイルを浮かべながら、ゆっくりとした足取りでスタジオの中へと入ってきた。
「そ、そそそそ、そら大先輩!?」
FLOW GLOWの5人が、一斉に背筋を伸ばし、直立不動になる。
彼女たちにとって、ときのそらは雲の上の存在、ホロライブの始祖たる絶対的な大先輩である。
「うふふ、FLOW GLOWのみんな、初めましてだね。いつも頑張ってるの、見てるよ」
そらは、後輩たちに向けて慈愛に満ちた女神の微笑みを向けた。
「は、初めまして!! 響咲リオナです! 本日はわざわざスタジオまで足を運んでいただき、ありがとうございます!!」
リオナが、最敬礼で挨拶をする。他の4人も慌ててそれに倣う。
「ふふっ、そんなに硬くならないで。今日はね……ちょっと、お迎えに来ただけだから」
そらはそう言うと、FLOW GLOWの5人の前を通り過ぎ——
へたり込んだまま硬直している、宝鐘マリンの目の前に歩み寄った。
「パ、パパ……じゃなくて、そ、そら先輩……!?」
マリンの声が、情けなくひっくり返る。
(なんで!? 今日の私は完璧だったじゃない! 誰にも触ってないし、デレデレもしてないのに! どうしてお迎え(処刑)に来るの!?)
そらは、マリンを見下ろしたまま、ふぅと小さく息を吐いた。
「マリンちゃん。……今日の配信、ちゃーんと見てたよ」
「ひゃいっ……! あ、あの、船長、今日はすっごく……」
「うん。誰にも触らなかったし、とっても『お利口さん』だったね」
そらは、マリンの前にしゃがみ込み、その頬を両手で優しく包み込んだ。
「えっ……?」
次の瞬間。
「でもね。……私以外の前で、あんなに『清楚で可愛いマリンちゃん』を見せてたこと……パパ、ちょっとだけ嫉妬しちゃった」
そらは、FLOW GLOWの5人が見ている(ガン見している)目の前で。
マリンの額に、チュッ、と音を立ててキスをした。
「——ッッッ!?!?!?」
マリンの顔面が、瞬時に茹でダコのように真っ赤に爆発した。
「そ、そら先ぱッ!? 後輩! 後輩が、見てッ!!」
マリンがパニックになって抵抗しようとするが、そらの腕の力(ホールド)は、華奢な見た目に反して信じられないほど強靭であり、ビクともしない。
「えっ……?」
「あ、あれ……?」
「そら大先輩が、マリン先輩に、キス……?」
FLOW GLOWの5人は、目の前で繰り広げられた光景に、完全に脳の処理が追いつかず、石像のように固まっていた。
「マリンちゃん、頑張って我慢したご褒美……欲しいんでしょ?」
そらは、マリンの耳元に唇を寄せ、あえてスタジオ中に響くような、艶やかでドス黒い声で囁いた。
「ひゃんッ……! だ、だめ、そら先輩、恥ずかし……!」
「恥ずかしくないよ。……マリンちゃんが【 誰のもの 】か、可愛い後輩ちゃんたちにも、ちゃんと教えてあげないとね」
そらは、マリンを抱き起こすようにして立たせると、そのままマリンの腰にガッチリと腕を回し、自分の体に密着させた。
そして、唖然としているFLOW GLOWの5人に向かって、これ以上ないほど美しく、そして【 圧倒的なマウント(所有権の主張) 】に満ちた笑顔を向けた。
「FLOW GLOWのみんな。今日は、私のマリンちゃんと遊んでくれてありがとうね」
「わ、私の……マリンちゃん……?」
すうが、目を白黒させながらオウム返しに呟く。
「うん。マリンちゃんはね、私の大切な【 恋人 】なの」
ドッッカーーーーーン!!!
スタジオに、物理的な爆発音すら聞こえそうなほどの衝撃波が吹き荒れた。
「こ、恋人ォォォォォォォォ!?」
ニコが、目玉が飛び出んばかりの顔で絶叫する。
「そ、そら大先輩と、マリン先輩が!? ガ、ガチでござるか!?」
千速が、パニックになって謎の武士口調になる。
「うそやん……! あの完璧な大先輩同士が……そういう関係!?」
ヴィヴィが、頭を抱えてしゃがみ込む。
「だから……マリン先輩、あんなにガードが固かったのか……。全ては、そら先輩への『操』を立てるため……!」
リオナが、一人だけ謎のストイックな納得(明後日の方向)をしている。
「そ、そら先輩! なんで言っちゃうんですかぁぁぁ! リスナーには秘密にしてるのに、後輩の純粋な脳みそを破壊しないでぇぇぇ!」
マリンが、そらの腕の中でジタバタと暴れながら涙目で抗議する。
「ふふっ。だって、後輩ちゃんたち、マリンちゃんのことすっごく慕ってくれてたから。……これ以上マリンちゃんが『私のもの』だって隠しとくの、嫌になっちゃった」
そらは、マリンの頭をポンポンと撫でながら、悪びれる様子もなく言った。
「それに……」
そらは、再びFLOW GLOWの5人へと視線を移した。
その瞳には、「優しい大先輩」の影など微塵もなく、絶対的な支配者としての冷たい光が宿っていた。
「私のマリンちゃんに、あんまり気安く触ろうとしたら……パパが、許さないからね? 」
「「「「「ヒィィィィィィィィッ!!!」」」」」
FLOW GLOWの5人は、その一言に込められた【 ガチの殺気(独占欲) 】を肌で感じ取り、一斉に後ずさって壁際に固まった。
ホロライブの頂点に君臨する女神が放つプレッシャーは、デビューしたての新人たちにとっては、まさにドラゴンに睨まれたスライムのような絶望感であった。
### 第八十四章:捕食者の連行と、新たな【観測者】の誕生
「さて、マリンちゃん。お家に帰ろっか? 明日は一日中、オフだもんね」
そらは、壁際に固まる後輩たちにはもう目もくれず、マリンを促した。
「は、はいぃぃ……。帰りますぅぅ……」
マリンは、すっかり毒気を抜かれ、腰から力が抜けたような状態でそらに寄りかかった。
(今日の私、完璧だったのに……。結局、パパの気まぐれ(独占欲の爆発)で、こうなっちゃうのね……。明日のオフ、絶対ベッドから出してもらえないやつだ……)
「FLOW GLOWのみんな、これからも配信頑張ってね。応援してるから」
そらは、最後に完璧なアイドルスマイルを後輩たちに向け、マリンの腰を抱いたまま、スタジオの扉を開けて去っていった。
バタン、と重厚な扉が閉まる。
残されたスタジオの静寂の中。
FLOW GLOWの5人は、しばらくの間、誰一人として言葉を発することができなかった。
「……なぁ、うちら、とんでもないもん見てもうたんとちゃうか?」
ヴィヴィが、震える声で沈黙を破った。
「あ、あのアットホームなホロライブの裏側に、あんなドロドロの……いや、美しすぎる絶対的な百合(支配)関係が隠されていたなんて……」
すうが、顔を真っ赤にしながらへたり込む。
「マリン先輩……あんなに怯えて……いや、メロメロになってた……。そら先輩のスパダリ力、エグすぎる……!」
千速が、なぜか少し興奮気味に息を荒くしている。
「ニコたん、笑い取れなかった……。あの圧倒的なてぇてぇ空間の前では、どんなギャグも無力……!」
ニコが、お笑い担当としての敗北を噛み締めている。
「みんな、聞け!」
リーダーのリオナが、立ち上がり、残りの4人に向けてキリッとした顔で言った。
「我々は今日、ホロライブの【 深淵(最高機密) 】に触れてしまった。
そら先輩のあの瞳……あれは本気だ。もし我々が、マリン先輩に少しでも手を出そうものなら、我々FLOW GLOWは音楽の道を絶たれることになるだろう」
「「「「ゴクリ……」」」」
「今日から、我々の掟に新たな一条を加える!
『宝鐘マリン先輩には、絶対服従の敬意を払い、かつ物理的距離を保つこと。そして、ときのそら先輩の逆鱗には絶対に触れないこと』!!
わかったな!?」
「「「「イエッサー!!!」」」」
こうして、宝鐘マリンの「安全運転」の努力は、ときのそらの圧倒的な独占欲(マウント)によって木端微塵に粉砕され、ホロライブにまた新たな【 そらマリ観測委員会(恐怖で縛られた後輩たち) 】が誕生することとなった。
関係を隠したい海賊のささやかな抵抗は、常に女神の圧倒的な力(愛)の前にひれ伏す運命にある。
ホロライブの裏側で繰り広げられる、甘く恐ろしい独占と服従のラブコメディは、これからも新世代を巻き込みながら、終わりなく続いていくのであった。