### 第八十五章:新たなる盾の覚醒と、受け継がれる防衛線(ホーリー・シールド)
ホロライブ公式3Dスタジオ。
今日の配信は、宝鐘マリン、6期生(秘密結社holoX)の5人、そしてhololive DEV_ISからReGLOSSの5人と、FLOW GLOWの5人が一堂に会する、総勢16名による超特大コラボレーション企画であった。
スタジオの隅で、鷹嶺ルイは一人、胃を抑えてうずくまっていた。
「……無理よ。16人なんて、どうやって船長をお守りすればいいのよ……」
ルイの脳裏には、前回のReGLOSSコラボでの惨劇がフラッシュバックしていた。
あの時、holoXの5人は必死にマリンをReGLOSSから隔離しようとしたが、マリン自身の「後輩とイチャイチャしたい」という欲求によって防衛線は崩壊。結果、画面の向こうの【 絶対神(ときのそら) 】の逆鱗に触れ、マリンは翌日のオフを地獄(極上のご褒美)の中で過ごす羽目になったのだ。
今日のコラボにも、ときのそらは出演していない。
しかし、だからといって監視の目が緩むわけではない。むしろ、前回のお仕置きを経て、そらのマリンに対する独占欲(パパみ)はさらに凶悪さを増しているはずだ。
「ルイ姉、顔色悪いよぉ。大丈夫?」
沙花叉クロヱが心配そうに覗き込んでくる。
「沙花叉……あんたたち、今日も絶対に船長から目を離さないでよ。ReGLOSSの子たちは、あの【 恐ろしい裏の真実 】をまだ何も知らない。無自覚に船長にスキンシップを取りにいくはずよ。それを全力で阻止するのよ……!」
「う、うん……! でも、うちら5人だけで10人の後輩を止めるなんて、物理的に厳しくない?」
沙花叉の言葉は正論だった。
ルイが絶望に包まれかけた、その時。
「——鷹嶺先輩。お疲れ様です」
スッ、とルイの目の前に、一本のスポーツドリンクが差し出された。
顔を上げると、そこにはFLOW GLOWのリーダー、響咲リオナが立っていた。彼女の背後には、ニコ、すう、千速、ヴィヴィの4人が、まるで特殊部隊のように隙のないフォーメーションで控えている。
「あ、響咲さん……お疲れ様。ありがとう」
ルイがドリンクを受け取ると、リオナはスッとサングラスを押し上げ、ルイの目を見て、低く、静かな声で言った。
「鷹嶺先輩。……今日のマリン先輩の護衛(バックアップ)、我々FLOW GLOWにもお手伝いさせてください」
「……えっ?」
ルイは、我が耳を疑った。
護衛? どうしてこの子たちが、そんな言葉を?
「……私たち、先日【 見て 】しまったんです。あの、圧倒的なマウントと……逆らえば音楽の道を絶たれかねない、絶対的な覇気を」
「まさか……!」
ルイの目が大きく見開かれた。
リオナの瞳の奥に宿る、決して消えることのない【 トラウマ(恐怖) 】の光。
それは、ルイ自身が鏡でよく見る目と同じ——『そらマリ』の深淵を覗き込み、女神の独占欲の前にひれ伏した【 観測者 】の目であった。
「リオナちゃん……あなたたち、もしかして……パパに会ったの?」
ルイが震える声で尋ねると、FLOW GLOWの5人は一斉に、無言で深く頷いた。
「——同志よ!!」
ルイは、思わずリオナの手を両手でガシッと握りしめた。
「なんてこと……あなたたちみたいな新人まで、あの魔王の毒牙(マウント)の犠牲になるなんて……! でも、心強いわ! あなたたちが味方になってくれるなら、今日の防衛線は鉄壁よ!」
「はい。我々FLOW GLOWは、音楽だけでなく、マリン先輩の貞操(とパパの機嫌)を守る盾となります!」
リオナが力強く宣言する。
その傍らで、何も知らないReGLOSSの5人が、「マリン先輩〜! 今日はよろしくお願いします!」と無邪気にマリンに群がっていた。
マリンも「えへへ〜! 青くん今日もイケメンだねぇ〜! 奏ちゃんも可愛いねぇ〜!」と、前回の反省を全く活かさずに鼻の下を伸ばしている。
「……総員、配置につけ!」
ルイの号令と共に、holoXの5人とFLOW GLOWの5人——計10名による、ホロライブ史上最大規模の【 宝鐘マリン絶対防衛戦線(ホーリー・シールド) 】が形成された。
### 第八十六章:開戦、完璧なる迎撃(ブロック)
「こんこよ〜! 始まりました、DEV_IS&holoX&船長の特大コラボ〜!」
博衣こよりの元気なMCで、配信がスタートした。
「イェーイ! マリン先輩、今日も隣行きますね!」
ReGLOSSの音乃瀬奏が、配信開始と同時にマリンの腕に抱きつこうと突進してきた。
(来たわね、第一の刺客!!)
ルイが動こうとした、その瞬間。
「奏先輩〜〜〜っ!! すう、奏先輩のことめっちゃリスペクトしてるんです〜〜っ!!」
シュバッ!!
と、FLOW GLOWの水宮枢(すう)と綺々羅々ヴィヴィが、左右から完璧なタイミングで奏に飛びついた。
「えっ!? わっ!? す、すうちゃん!? ヴィヴィちゃん!?」
「奏先輩、めっちゃいい匂いする〜! ぎゅーってしていいですかぁ!?」
「うちも奏先輩とハグしたい〜!!」
二人は、奏がマリンに触れる数センチ手前で奏を完全にホールドし、そのまま「キャッキャッ」と騒ぎながら、マリンから3メートルほど離れた画面の端へと奏を引きずっていった。
「え? あ、うん! 後輩に好かれるのは嬉しいけど……マリン先輩〜〜!」
奏が助けを求めるように手を伸ばすが、すうとヴィヴィの強固なホールドにより、マリンには指一本触れることができない。
(……す、すごい!!)
ルイは、思わず息を呑んだ。
前回、ルイが力技(スライディングタックル)で防いだため、空気が一瞬ピリついたが、すうとヴィヴィは【 後輩からの無邪気なスキンシップ 】という大義名分を使って、極めて自然に、かつ完璧にターゲットを隔離したのだ。
これなら、画面の向こうのリスナーにも「仲良しなDEV_ISの先輩後輩」としてしか映らない。
「お、おい! 奏ばかりズルいぞ! 僕もマリン先輩のエスコートを……」
火威青が、持ち前のイケメンムーブを発動させ、マリンに甘い視線を送ろうとした。
「火威先輩!!」
ドンッ!!
輪堂千速が、強烈なステップで青の目の前に割り込んだ。
「えっ? ち、千速ちゃん?」
「アタシ、火威先輩のイケメンっぷり、マジで尊敬してるッス!! どうかアタシに、そのイケメンなポージングの極意を教えてほしいッス!!」
千速は、青の視界を自らの体で完全に塞ぎ、青の両手をガシッと握りしめた。
「ええっ!? い、いや、ポージングって言われても……僕、今はマリン先輩と……」
「お願いしますッス!! 火威先輩の指導がないと、アタシ、FLOW GLOWのイケメン枠としてやっていけないッス!!」
千速の熱すぎる(そして物理的に逃げられない)圧に押され、青は「そ、そこまで言うなら……」と、完全にマリンへの意識を断ち切らされてしまった。
(完璧だ……! 物理ブロックだけじゃない、相手の自尊心をくすぐって意識を逸らす高度な誘導テクニック……!)
ラプラス・ダークネスが、腕を組みながらFLOW GLOWの鮮やかな手際に感嘆の声を漏らす。
「ちょっとぉ! なんでみんな船長から離れていくのよぉ!」
マリンが、次々と後輩たちが別の場所へ連れて行かれるのを見て、不満げに頬を膨らませる。
「じゃ、じゃあ、私がマリン先輩と……」
一条莉々華が、社長らしく空気を読んでマリンに近づこうとした。
しかし。
「イェーーーーイ!!! リオナちゃん、ここらで一発、極上のギャグかましたるでぇぇぇ!!!」
ドッダァァァァァン!!!
笑虎(ニコ)が、画面の中央、まさに莉々華とマリンの間のスペースに、猛烈な勢いでスライディング土下座からのブレイクダンスを繰り出した。
「わわっ!? ニコちゃん、急にどうしたの!?」
莉々華が驚いて足を止める。
「マリン先輩も莉々華先輩も見ててや!! これがFLOW GLOWの最終兵器やぁぁぁ!!」
ニコは、全身を使って意味不明なダンスと顔芸を披露し、カメラの視線とReGLOSS全員の注意を完全に自分へと釘付けにした。
その隙に、リオナがサッとマリンの背後に立ち、マリンがReGLOSSのメンバーに近づけないよう、さりげなく(しかし鉄壁の)ディフェンスラインを構築した。
「……(コクッ)」
リオナが、カメラの死角でルイに向けて力強く頷いた。
「……(コクッ)」
ルイもまた、涙ぐみながら深く頷き返した。
(素晴らしい……! これが、パパの恐怖を知った者たちの防衛力……! FLOW GLOW、なんて恐ろしい子たちなの……!)
### 第八十七章:女神の査定と、完全なる無接触
配信は、かつてないほど「安全」に進行していった。
ReGLOSSのメンバーがマリンに近づこうとするたびに、FLOW GLOWの5人が、時にはスキンシップで、時にはギャグで、時にはリスペクトという名の壁で、完璧に迎撃(ブロック)していく。
マリンは「後輩とイチャイチャしたい」という欲求を全く満たせず、「なんで今日、船長こんなに孤立してるのぉ……?」と泣きそうになっていたが、holoXとFLOW GLOWからすれば、それこそが【 最大の成功 】であった。
「……そろそろ、エンディングでござるな」
いろはが、時計を見てホッと息をつく。
「ええ。今日は、一度たりとも船長にReGLOSSを触れさせなかった。……完全勝利よ」
ルイは、額の汗を拭いながら、やり遂げた達成感に震えていた。
その時である。
スタジオの片隅に置かれた、スタッフ用のコメント確認モニター。
そこに、あの【 青いスパナ 】が投下された。
『ときのそら : みんなコラボお疲れ様! FLOW GLOWのみんな、とってもいい動きしてたね✨ マリンちゃんも、今日はお利口さんで偉かったよ 』
「——ッ!!!」
そのコメントを見た瞬間、マリン、holoX、FLOW GLOWの全11人の背筋に、バチバチッと強烈な電撃(恐怖と畏敬)が走った。
「パ、パパ……!」
マリンが、小さな悲鳴を上げて直立不動になる。
「……見られてた。私たちの防衛線、全てパパの査定対象だったんだ……!」
こよりが青ざめる。
「でも、褒められたッス……! うちらのディフェンス、パパに認められたッス!!」
千速が、涙ぐみながら拳を握りしめる。
ReGLOSSの5人だけが、「あ、そら先輩だー! 見ててくれたんですねー!」と無邪気に手を振っている。その無垢な姿が、裏事情を知る者たちにとってはあまりにも眩しく、そして恐ろしかった。
「それではみなさん、本日はここまで! ありがとうございましたー!!」
こよりの締めの言葉で、無事に配信は終了した。
カメラのランプが消えた瞬間。
「「「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ……!!!!!」」」」」
holoXの5人とFLOW GLOWの5人が、まるで厳しい軍事訓練を終えた兵士のように、一斉に床にへたり込んだ。
「終わった……終わったわ……! 誰も死なずに済んだ……!」
ルイが、床に大の字になって天を仰ぐ。
「ニコたん、もうギャグのストック空っぽやで……。パパの監視のプレッシャーで、寿命5年縮んだわ……」
ニコが白目を剥いている。
「ちょっとぉ! あんたたち、今日なんなのよぉ! 船長、ReGLOSSちゃんたちに一回もハグできなかったじゃない!!」
マリンが、プンプンと怒りながら文句を言ってくる。
「……船長」
ルイが、ゆっくりと身を起こし、マリンの肩をガシッと掴んだ。
「船長は、わかってないんです。今日の私たちが、どれだけの【 犠牲 】と【 覚悟 】を持って、あなたの貞操(と腰の安全)を守り抜いたかを……!」
「えっ? な、なにルイ、急にマジトーン……」
「もし今日、あなたが青くんに抱きついたり、奏ちゃんに触ったりしていたら……今頃、このスタジオのドアが開いて、そら先輩が『お迎え 』に来ていたんですよ!!」
「ヒッ!?」
マリンは、その具体的な情景(前回のトラウマ)を想像し、顔面を真っ青にして首を横に振った。
「あなたを守るために、FLOW GLOWのみんなは泥を被ってくれたんです! 彼女たちに、感謝しなさい!」
ルイの熱い説教に、マリンはタジタジになりながら、FLOW GLOWの5人に向かって深く頭を下げた。
「ふ、FLOW GLOWのみんな……! 今日は船長の命(腰)を守ってくれて、本当にありがとう……!」
「……いえ。我々も、パパの怒り(連帯責任)が恐ろしかっただけですから。でも、マリン先輩が無事で何よりです」
リオナが、サングラスの奥で優しく微笑んだ。
### 第八十八章:同志たちの絆と、受け継がれる『パパの恐怖』
何も知らないReGLOSSの5人が、「先輩たち、なんか青春ドラマみたいになってるねー? お疲れ様でしたー!」と元気に帰っていった後。
広大なスタジオの控え室には、holoXとFLOW GLOW、そしてマリンだけが残された。
ルイは、ゆっくりと歩み寄り、リオナの前に手を差し出した。
「響咲さん。……今日のあなたたちのフォーメーション、完璧だったわ。特に、あの奏ちゃんへのインターセプトからの隔離。見事としか言いようがないわ」
「鷹嶺先輩……。恐縮です。先輩方が前回のコラボで見せてくださった、身を呈したディフェンスのアーカイブを、我々FLOW GLOWは全員で穴のあくほど研究しました。すべては、先輩方のおかげです」
リオナが、ルイの手を力強く握り返した。
「あなたたちなら、これからのホロライブを任せられるわ。……あの、絶対神(パパ)の監視網を掻い潜り、マリン船長を守り抜くという、過酷な防衛任務をね」
「はい。我々FLOW GLOW、holoXの先輩方の意志を継ぎ、立派な『そらマリ観測委員会(防衛隊)』として、命の限り戦い抜きます!」
ルイとリオナの間に、世代を超えた【 戦友(同志) 】としての熱い絆が結ばれた瞬間だった。
「うおぉぉぉん! ルイ姉ぇぇぇ! うちら、ようやく分かり合える後輩ができたよぉぉぉ!」
沙花叉が、すうとヴィヴィに抱きついて号泣している。
「先輩……! アタシたち、これからも一緒にパパの監視から生き延びましょうね!」
千速が、いろはと固い握手を交わしている。
「……ねえ。なんか私、完全に蚊帳の外っていうか……守られるだけのお姫様(厄介者)扱いされてない?」
マリンが、一人ポツンと取り残されて呟く。
「船長は黙っててください。あなたが一番の【 トラブルメーカー 】なんですから」
こよりが、冷たい目でピシャリと言い放つ。
「ホントだよ! マリン先輩がそら先輩に愛されすぎてるから、うちらがこんな軍隊みたいな防衛線張らなきゃいけなくなってるんだからね!」
ニコが涙声でツッコミを入れる。
「うぅ……ごめんなさい……パパの愛が重すぎて……」
マリンは、反省したようにシュンと肩を落とした。
その時である。
マリンのスマートフォンが、ピロンと鳴った。
全員の視線が、一斉にそのスマホに突き刺さる。
マリンは震える手で画面を開き、そこに表示されたメッセージを読み上げた。
『パパ(そら先輩):
マリンちゃん、今日はお疲れ様。誰にも触らなくて、すっごくお利口さんだったね
holoXのみんなも、FLOW GLOWのみんなも、マリンちゃんのことしっかり守ってくれて、パパ、感動しちゃった。
——でもね。
マリンちゃんが、後輩の子たちに守られて、ちょっとホッとしてる顔……すっごく可愛くて。
私以外の前で、あんな安心しきった顔を見せるなんて……やっぱり、私がお仕置きしてあげないとダメみたいだね?
今から、お迎えに行くね。
鍵、開けて待っててね 』
「「「「「「「「「「————————ッッッ!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」
スタジオに、10人の防衛隊員と1人の海賊の、絶望の絶叫が響き渡った。
「理不尽ァァァァァァァ!! 完璧に守り切ったのに!! 理由つけてお持ち帰りされる確定演出じゃないですかァァァ!!」
ルイが頭を抱えて発狂する。
「パパの独占欲にルールなんてなかった……!! 結局、マリン先輩が可愛すぎるのが全ての原因だぁぁぁ!!」
リオナがサングラスを叩き割る勢いで崩れ落ちる。
「ヒィィィィィ! 助けてぇぇぇ! 誰か船長を匿ってぇぇぇ!!」
マリンが逃げ惑うが、holoXもFLOW GLOWも「無理です!! 私たちまで消されます!!」と蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
結局。
どんなに強固な防衛線を築こうとも、ホロライブの生態系を束ねる絶対神・ときのそらの【 圧倒的な愛(マウント) 】の前には、すべてが無力なのだ。
数十分後、スタジオに現れたそらによって、腰を抜かしたマリンが無事に(?)お持ち帰りされ、翌日のオフが完全に消滅したことは言うまでもない。
そして、holoXとFLOW GLOWの間には、「パパには絶対に逆らってはいけない」という血の掟と、深すぎる戦友の絆が永遠に刻み込まれるのであった。