そらマリ   作:raian sinra

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### 第八十九章:絶望の朝と、世界一重い足取り

「……終わった。私のアイドル人生、完全に終わった……」

都内某所、高級マンションの一室。

宝鐘マリンは、朝日が差し込むベッドの上で、シーツを頭からすっぽりと被り、死に絶えたセミのような声で呟いた。

昨夜の配信。

あくあの不用意な発言、そしてチャット欄に降臨した「パパ(ときのそら)」の圧倒的なプレッシャーとマウントの前に、マリンはついに陥落した。

『そら先輩とお付き合いさせてもらってます』

その一言を全世界に向けて発信してしまったのだ。

リスナーたちの反応は、マリンの予想を遥かに超えるものだった。

炎上するどころか、チャット欄は「知ってた」「おめでとう」「やっと言えたね」という、生温かくも狂気に満ちた祝福の弾幕で埋め尽くされたのだ。

どうやら、自分以外の全人類は、とっくの昔にこの関係に気づいていたらしい。

「あんなに……あんなに必死に隠蔽工作してきたのに……! ルイやFLOW GLOWのみんなに命懸けの盾になってもらってまで、守り抜こうとした【 秘密 】だったのに……! 全部、最初から筒抜けだったなんて……!!」

マリンは、ベッドの上でゴロゴロと身悶えした。

だが、すぐに「イタタタッ!!」と腰を押さえて顔を歪める。

昨夜の配信終了後。

宣言通り、そらはマリンの部屋に「ご褒美(という名の徹底的な所有権の再確認)」を与えにやってきた。

『マリンちゃん、よく言えました。……これで、もう誰にも遠慮せずに、マリンちゃんを抱きしめられるね』

そう言って、耳元で甘く囁かれた瞬間からの記憶は、快感と疲労でドロドロに溶けてしまっている。

「……そら先輩のバカ。ドS。歩く独占欲……!」

マリンは、隣でスヤスヤと天使のような寝顔で眠るそらの頬を、ツンツンと指で突いた。

「んぅ……マリンちゃん、おはよう……。ちゅっ」

そらは寝ぼけ眼のまま、マリンの指先にキスを落とし、さらにマリンの体をギュッと抱き寄せてきた。

「ひゃうっ……! もう、朝ですよパパ……船長、今日は午後から本社で全体ミーティングがあるんですから……」

「そうなんだ……。いってらっしゃい。私は午後からレッスンだから、夜、またお家で待ってるね」

そらは、マリンの首筋に顔を埋めながら、とろけるように甘い声で言った。

「夜も……。はぁ、そうですか。わかりましたよ……」

マリンは完全に毒気を抜かれ、そっとベッドから抜け出した。

(今日から、私は『全世界公認の、ときのそらの恋人』として、ホロライブのスタジオを歩かなきゃいけないのね……)

その事実が、マリンの肩にズシリと重くのしかかっていた。

### 第九十章:祝福の嵐と、いたたまれない海賊

午後。ホロライブ本社。

マリンは、帽子を目深に被り、サングラスとマスクで完全に顔を隠した不審者スタイルで、オフィスのエントランスを潜った。

「あ、マリンさん! おはようございます! 昨日の配信、見ましたよ! おめでとうございます!」

すれ違ったスタッフが、満面の笑みで頭を下げてきた。

「ひぃッ!? あ、ありがとうございますぅ……!」

マリンはビクッと肩を震わせ、早足で逃げるように奥へと進む。

「宝鐘さん、ご交際おめでとうございます! 今度、そらさんとお二人でのペアグッズ企画、進めさせてくださいね!」

グッズ担当のスタッフが、企画書を振りかざしながら声をかけてくる。

「ペ、ペアグッズ!? 公式でそんなの出すの!? 事務所は許可出してるの!?」

「ええ! YAGOOも『二人が幸せならそれが一番だね』って笑顔でハンコ押してましたよ!」

「YAGOOォォォォォ!! あんたのその寛大さが逆に船長を追い詰めるのよォォォ!!」

マリンは、泣きそうになりながら廊下を駆け抜けた。

どこへ行っても「おめでとう」「お幸せに」の嵐。

祝福されるのは嬉しい。嬉しいが、これまでの「必死に隠してきた(つもりの)苦労」と「パパに怯えていた姿」を全員に知られていたと思うと、羞恥心で今すぐ東京湾に身を投げたくなる。

「……早く、みんなのいる控え室に……」

マリンは、逃げ込むようにして大型ミーティングルームの扉を開けた。

「……おはようございますぅ……」

死にそうな声で入室したマリンの目に飛び込んできたのは。

「「「「「おめでとう!!!!!(クラッカーの音)」」」」」

パーンッ!! という派手な音と共に、部屋にいた十数人のホロメンから、一斉に紙吹雪を浴びせられる光景だった。

「ひゃああああっ!?」

マリンが腰を抜かしてその場にへたり込む。

「あはははは! マリン、おせーぺこよ! 今日の主役が最後に登場なんて、大物になったぺこね!」

兎田ぺこらが、クラッカーの残骸を持ちながら大爆笑している。

そこには、3期生の面々をはじめ、holoX、ReGLOSS、FLOW GLOW、そしてあくあやAZKiなど、これまでの【 防衛戦 】に関わってきた全メンバーが集結していた。

テーブルの上には、なぜか『祝・公開交際!』と書かれた豪華なケーキまで用意されている。

「な、なんなのよこれぇ……!? みんなして、船長をからかってるの!?」

マリンが涙目で抗議する。

「からかってなんかいませんよ、船長! 私たちは、心の底から歓喜しているんです!!」

鷹嶺ルイが、マリンの前に歩み寄り、ガシッと両手を握りしめた。その目には、本気の涙が浮かんでいる。

「か、歓喜……? ルイ、あんた昨日まで『船長の貞操を守る』って命懸けで戦ってくれてたじゃない……」

「ええ。でも、もうその必要はなくなったんです! 船長が公にそら先輩の『所有物』だと認めたことで、私たちが【 パパの理不尽なお仕置きの標的 】になるリスクはゼロになったんですから!!」

「えっ……」

「そうッス!! これからは、後輩が船長にちょっと触ったくらいじゃ、そら先輩も『余裕のあるパパ』として見逃してくれるはずッス!! アタシたち、解放されたんスよ!!」

FLOW GLOWの千速が、バンザイのポーズで叫ぶ。

「うおおおおおおん! よかったよぉぉ! これでようやく、普通にホロライブの活動ができるよぉぉ!」

こよりも沙花叉も、抱き合って喜んでいる。

「ま、待って……! あんたたち、私が公開告白したことで、自分たちが防衛任務(パパの脅威)から解放されたことを喜んでるだけじゃないのォォォ!?」

マリンは、後輩たちの現金すぎる反応に絶句した。

「当たり前ぺこ! 誰が好き好んで、あの圧倒的魔王(そら先輩)の逆鱗に触れるような防衛ゲームをやりたがるぺこか! これからは、マリンが一人でパパの愛(重圧)を受け止めるぺこよ!」

ぺこらが、ニシシと悪魔のように笑う。

「そんなぁぁぁ……! 船長は見捨てられたのね……!」

マリンは床に崩れ落ちた。

### 第九十一章:娘の小遣いと、解き放たれた『神の束縛』

「ママ、元気出して」

そこへ、湊あくあがトコトコと近づいてきて、マリンの頭をポンポンと撫でた。

「あ、あくたん……! あんただけよ、ママの味方は……! 昨日はチャット欄でトドメ刺してくれたけど、今なら許してあげる……!」

マリンがすがりつこうとすると、あくあはニコニコしながらスマートフォンの画面を見せてきた。

「見てママ! 今朝、パパからPayPayで5万円送られてきたの!」

「……は?」

「『あくあちゃんのおかげで、ママが素直になってくれました。パパとママの愛のキューピッドに、お小遣いあげるね 』だって! パパ、最高! あてぃし、一生パパについていく!」

「娘ェェェェェェェェ!!!! 金で買収されてるじゃないのォォォォ!!」

マリンは、あくあの肩を揺さぶって発狂した。

信じていた娘(チワワ)は、パパの圧倒的な財力と余裕の前に、完全に忠犬へと成り下がっていた。

「マリンちゃん、諦めなよ。……そらちゃんの愛の重さは、隠している時よりも、公開された後の方が、何倍も質(タチ)が悪いんだから」

AZKiが、哀れみの目を向けながら、温かい紅茶を差し出してきた。

「AZKi先輩……タチが悪いって、どういうことですか……?」

マリンが震えながら紅茶を受け取る。

「だって、考えてもみて。今までそらちゃんは、『マリンちゃんがリスナーに隠したがってるから』っていう理由で、外ではギリギリ自制してたんだよ?

でも、もう隠す必要がなくなった。……つまり、これからは【 表の配信でも、スタジオでも、いつでもどこでも、堂々とマウント(独占欲)を剥き出しにしてくる 】ってことだよ」

「——ッッッ!!!」

マリンの背筋に、氷を流し込まれたような悪寒が走った。

「そうか……! パパは、もう『カメラの死角』でセクハラする必要がないんだ……! 堂々と、正面から、全世界に向けて【 私の女ですが何か? 】ってやってくるってこと!?」

「その通りでござる。拙者たちも、これからは清々しい気持ちで、パパとママの公開イチャイチャを拝見させていただくでござるよ」

いろはが、ウンウンと頷いている。

「嫌ぁぁぁぁぁ!! そんなの、船長のメスガキ海賊の威厳が完全に消え去っちゃうぅぅぅ!!」

マリンが頭を抱えて叫んだ、まさにその時。

『ガチャリ』

ミーティングルームの重厚な扉が、音もなく開いた。

「——みんな、集まってるね。おはよう」

そこに現れたのは。

先ほどまでレッスンに向かっていたはずの、私服姿のときのそらであった。

「「「「「パ、パパ(そら大先輩)!!」」」」」

部屋にいた全員が、一斉に背筋を伸ばし、道を開けるようにして後ずさった。

モーセの十戒のように開かれた道の先に、へたり込んだ宝鐘マリンがポツンと残される。

「そ、そら先輩!? 午後からレッスンだって……!」

マリンが驚いて顔を上げる。

「うん。でも、マリンちゃんが一人で本社に向かって、みんなにからかわれて泣いてるんじゃないかなって思ったら、心配になっちゃって。……レッスンは明日に変更してもらったの」

そらは、一切の悪びれる様子もなく、完璧な女神の微笑みを浮かべて歩み寄ってきた。

「レ、レッスンを飛ばしてまで!? 船長のために!?」

「当たり前でしょ。……マリンちゃんは、私の大切な『恋人』なんだから」

そらは、十数人のホロメンがガン見しているそのど真ん中で。

マリンの前にひざまずき、マリンの右手をそっと持ち上げると、その手の甲に、チュッ、と甘いキスを落とした。

「ひゃうッッ!!??」

「よく頑張ったね、マリンちゃん。……これでやっと、本当の意味で、マリンちゃんは私のものだね」

そらのその仕草は、まさに姫に忠誠を誓う王子……いや、すべてを支配する【 魔王 】のそれであった。

隠す必要がなくなったそらの『公開スパダリムーブ』は、これまでの比ではないほどの破壊力を持っていたのだ。

### 第九十二章:公開宣言と、海賊の陥落

「キャーーーーッ!! そら先輩イケメン!!!」

「てぇてぇぇぇ!! ガチのてぇてぇが見れたぁぁぁ!!」

「パパー!! ママをよろしくお願いしまーす!!」

周囲を取り囲むホロメンたち(ぺこら、ルイ、あくあ等)から、割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こる。

もはや誰も、二人の間を引き裂こうとする防衛隊などいない。ここにいる全員が、そらマリの愛を祝福し、面白がる【 観測者 】なのだ。

「そ、そら先輩……みんな、見てます……! 恥ずかしいですぅ……!」

マリンは顔を真っ赤にして、そらの手から逃れようとする。

しかし、そらはその手を離すどころか、そのままマリンを引き寄せ、自分の膝の上にちょこんと座らせた。

「ひゃっ!? ちょ、パパ!?」

「いいの。……みんな、私たちの関係を知ってるんだから。これからは、控え室でもずっとこうしてていいんだよ?」

そらは、マリンの腰にしっかりと腕を回し、マリンの肩に顎を乗せた。

完全に、ホロライブの絶対神の【 玉座 】に収まった海賊の図である。

「うぅぅ……船長の尊厳が……」

「尊厳なんていらないでしょ? 私がいーっぱい愛してあげるんだから。……それとも、マリンちゃんは私が彼氏(彼女)なのは、不満?」

そらが、少しだけ悲しそうな上目遣いで、マリンの顔を下から覗き込む。

この【 ズルすぎる顔 】を出されたら、マリンに抗う術はない。

「ふ、不満なわけないじゃないですかぁ……っ! 船長だって、そら先輩のこと、宇宙一愛してるんですからぁ……っ!」

ついに、マリンは自ら白旗を揚げ、そらの首に両腕を回してギュッと抱きついた。

「ふふっ、知ってる。……ありがとう、マリンちゃん。私も、だーい好きだよ」

そらは、マリンの髪を優しく撫でながら、周囲のホロメンたちに向けて、これ以上ないほど輝く、勝利の女神の笑顔を向けた。

「みんな。今まで、マリンちゃんのこと見守ってくれて(私のお願いを聞いてくれて)ありがとう。

これからは、公認のカップルとして、ホロライブをもーっと盛り上げていくから、よろしくね✨」

「「「「「おめでとうございまーーーーす!!!」」」」」

再びクラッカーが鳴らされ、部屋は完全な祝福の渦に包まれた。

絶望しながら本社に出向いた宝鐘マリンだったが。

結局のところ、彼女は「隠し通す」というスリルを失った代わりに、どんな時でも、どんな場所でも、誰の目を気にすることもなく、大好きなそら大先輩の【 圧倒的な愛と包容力 】を全力で浴びることができるという、究極の幸せ(沼)を手に入れたのだ。

「……まぁ、いっか。……パパの腕の中、すごく落ち着くし……」

マリンは、そらの温かい胸に顔を埋めながら、小さく呟いた。

もう逃げる必要はない。

これからは、ホロライブ全体を巻き込んだ、堂々たる『公開バカップル』として、存分にイチャイチャを見せつけてやればいいのだ。

かくして、秘密の恋に怯えていた海賊は、女神の完璧な愛の前に完全に陥落し。

ホロライブの生態系は、そらパパ、マリンママ、あくあ娘、そしてそれをニヤニヤ見守る観測者たちという、新たなフェーズ(狂気とてぇてぇの家族計画)へと突入していくのであった。

(了)

 

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