そらマリ   作:raian sinra

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### 第六章:秘密の共有と、甘い共犯関係

あの雨の夜の告白から、二人の関係は確かに変わった。

「先輩と後輩」という強固な壁は崩れ去り、そこには「そら」と「マリン」という、互いを特別に想い合う二人の女性がいた。しかし、ホロライブという大所帯の中で、いきなり関係を公にするわけにもいかない。二人は暗黙の了解で、この甘い関係を「秘密」にすることにした。

「……あ」

全体での収録前、スタジオの廊下で二人はすれ違った。

他のメンバーやスタッフが忙しなく行き交う中、マリンの視線がそらとぶつかる。ほんの一瞬。しかし、その一瞬に、そらはふわりと花が咲くような、マリンにしか見せない特別な微笑みを向けた。

(〜〜〜っ! そら先輩、そういう顔を外でするのはダメですってば……!)

マリンは内心で悲鳴を上げながら、顔が赤くなるのを必死に堪えてペコッと頭を下げ、足早に通り過ぎる。振り返らなくても、そらが楽しそうにくすくすと笑っているのが気配でわかった。

秘密の恋愛。それは、普段の配信で大胆な発言を繰り返す海賊にとって、想像以上に心臓に悪いものだった。

大勢でいるときは、わざと少し距離を置く。けれど、ふとした瞬間に目が合うと、そらは必ず愛おしそうな視線を送ってくる。時には、テーブルの下でこっそり足先をくっつけてきたり、すれ違いざまにマリンの指先にそっと自分の指を絡ませたりするのだ。

「そら先輩って、意外と……いや、かなり小悪魔ですよね」

「そうかな? 好きな人に触れたいって思うのは、普通のことじゃない?」

二人きりの通話中、マリンが文句を言うと、そらは少しも悪びれる様子もなくそう答える。そのまっすぐな好意の言葉に、マリンはまたしてもベッドの上で枕に顔を埋める羽目になるのだった。少しずつ、けれど確実に、そらの愛情はマリンの心の奥深くまで浸透し始めていた。

### 第七章:控え室の特等席

季節は夏を迎え、エアコンの効いたホロライブの控え室は、メンバーたちの憩いの場となっていた。

その日、早めに収録を終えたそらとマリンは、奇跡的に二人きりで控え室の広めのソファに取り残されていた。他のメンバーはまだスタジオの中だ。

「んんっ……船長、ちょっと疲れちゃいました」

マリンがソファの背もたれにぐったりと体を預けると、隣で台本を読んでいたそらが、パタンと冊子を閉じた。

「お疲れ様、マリンちゃん。……こっち、おいで?」

そらが自分の膝をポンポンと叩く。その意味を理解した瞬間、マリンの顔から一気に疲労の色が吹き飛び、代わりに羞恥の朱色が広がった。

「えっ!? ひ、膝枕!? いやいやいや、いつ誰が入ってくるかわからないんですよ!?」

「大丈夫だよ。ドアの音、ここからでも聞こえるから。それに……」

そらは少しだけ身を乗り出し、マリンの耳元に唇を近づけた。

「私がいっぱい撫でてあげるから、少し休んで?」

その甘く、けれど有無を言わさない囁きに、マリンの抵抗はあっけなく崩れ去った。恐る恐るそらの膝に頭を乗せると、ふわりと良い香りが鼻をくすぐる。そらの細くしなやかな指が、マリンの赤い髪をすくように優しく撫で始めた。

「……そら先輩の匂い、落ち着きます」

「ふふっ、よかった。マリンちゃんの髪、柔らかくて好きだな」

頭皮に伝わる優しい体温と、心地よい指の動き。マリンの張り詰めていた緊張が、とろけるように解けていく。完全に甘やかされている。かつては「大先輩」として遠くから見つめるだけだった存在が、今こうして自分だけを愛おしそうに見下ろしている。

(こんなの、絶対他の誰にも見せられない……)

マリンはそらの腰にそっと腕を回し、その温もりを独り占めするように目を閉じた。

### 第八章:鋭い観察者たちと、隠しきれない甘い空気

二人がどれだけ上手く隠しているつもりでも、毎日顔を合わせる仲間たちの目は誤魔化しきれないものだった。

最初に違和感を覚えたのは、マリンと付き合いの長いさくらみこだった。

「なぁなぁ、マリン。最近お前、なんか丸くなったにぇ?」

「えっ!? ま、丸くなった!? 船長太った!? ダイエットしなきゃ……!」

「違うにぇ! 体型じゃなくて、こう……空気がふわふわしてるっていうか。配信でも、前みたいにギラギラしたセクハラおじさんムーブが減った気がするにぇ」

「ギクッ……!!」

みこの鋭い指摘に、マリンはあからさまに動揺した。確かに、そらという「本当の恋人」ができてから、マリンの心は満たされきっており、他へ無差別に矢印を向けるようなテンションにはなれなかったのだ。

一方、そらの変化に気づいていたのは、長年の付き合いである友人・友人A(Aちゃん)と、鋭い観察眼を持つ白上フブキだった。

ある日の打ち合わせ後。フブキは、そらの視線が、遠くで後輩とふざけ合うマリンをじっと追っていることに気づいた。その目は、慈愛に満ちた「女神」のそれではなく、もっと生々しく、熱を帯びたものだった。

「そら先輩」

「ん? なあに、フブキちゃん」

「最近、マリンちゃんのことよく見てますよね」

「……え?」

直球の指摘に、そらは一瞬だけ言葉に詰まった。しかし、すぐにいつもの柔らかい笑顔を取り戻す。

「そうかな? マリンちゃん、いつも元気で可愛いから、つい見つめちゃうんだよね」

「ふぅん……? まあ、船長は可愛いですけどね。でも、そら先輩のあの視線は、ただの『可愛い後輩』を見る目じゃない気がするんですよねぇ。……まるで、宝物を独り占めしたいみたいな」

フブキの言葉に、そらは少しだけ目を丸くし、それから観念したように小さく息を吐いた。

「……フブキちゃんには、敵わないなぁ」

それは、肯定も同然の反応だった。フブキはニヤリと笑い、「安心してください、誰にも言いませんよ。……応援してます」とだけ言い残して去っていった。そらは少しだけ熱くなった頬を両手で包み、「バレちゃってたか」と、困ったように、けれどどこか嬉しそうに呟いた。

### 第九章:決定的な瞬間

周囲が薄々と感づき始める中、その「疑惑」が「確信」に変わる出来事が起きた。

大型ライブの通しリハーサルの日。長時間のダンスレッスンが続き、メンバー全員が疲労困憊で控え室に倒れ込んでいた。

Aちゃんが次のスケジュールの確認のために控え室のドアを開けた瞬間、彼女の目はある光景に釘付けになった。

部屋の隅にある少し陰になったソファ。そこで、マリンがそらの肩に頭を預け、スヤスヤと無防備な寝顔を晒していた。そこまでは、仲の良いホロライブメンバーならよくある光景だ。

しかし、問題はそらの態度だった。

そらは、自分の肩で眠るマリンを起こさないよう、微動だにせず座っていた。そして、マリンの頭を愛おしそうに撫でながら、もう片方の手で、マリンの手を「恋人繋ぎ」でしっかりと握りしめていたのだ。

ドアが開いた音に気づいたそらが、Aちゃんの方を向く。

普通なら慌てて手を離すところだろう。しかし、そらは全く動じなかった。それどころか、唇の前に人差し指を立てて「しーっ」とウインクをし、そのままマリンの寝顔を見つめて、たまらなく幸せそうに微笑んだのだ。

(ああ、なるほど……そういうことですか、そらちゃん)

Aちゃんはすべてを察し、何も言わずに優しく微笑み返すと、静かに控え室のドアを閉めた。

その日を境に、Aちゃんをはじめとする一部のスタッフやメンバーたちは、二人の周りに「見えない結界」を張り、そっと見守る体制に入ったのである。

### 第十章:世界で一番優しい場所

「なんか最近、みこ先輩とかフブキ先輩、私たちが一緒にいるとニヤニヤしながら席を外すんですよね……」

仕事を終えた帰り道。すっかり日が落ちた夜の散歩道を歩きながら、マリンが不思議そうに首を傾げた。

「ふふっ、そう? 気のせいじゃない?」

「うーん……でも、Aちゃんも、この前私とそら先輩のスケジュールの空き時間を、わざわざ被せてくれたような気がするんです」

「それは、Aちゃんが気を利かせてくれたんだよ。ありがたいね」

そらは知らん顔をして笑う。周囲の優しい気遣いに、マリンはまだ完全に気づいていないらしい。その鈍感さもまた、そらにとっては愛おしいポイントだった。

「……マリンちゃん」

「はい?」

人通りの途絶えた公園の横を通りかかったとき、そらは立ち止まり、マリンの方へと向き直った。

「あのね、もし、私たちの関係がみんなにバレちゃったとしても……マリンちゃんは、私のそばにいてくれる?」

「……! 何言ってるんですか、そら先輩」

マリンは少しだけ呆れたような、けれどとても優しい顔をして、自分から一歩、そらとの距離を詰めた。

そして、今度は自分の方から、そらの手に自分の手を重ね、指を絡ませた。

「言ったじゃないですか。一度好きになったら、絶対に離れないって。……周りにバレようが、世界中を敵に回そうが、船長はそら先輩の隣から一歩も動きませんからね」

「……うんっ」

その力強い言葉に、そらの瞳にじんわりと涙が滲む。

かつては遠くから見つめることしかできなかった背中は、今、自分の目の前で、自分だけのために一番安心できる場所を作ってくれている。

「……ねえ、マリンちゃん」

「はい」

「好き。……だーい好き」

「……っ! もー、そら先輩は本当に……! 私も、大好きですよ」

赤くなった顔を誤魔化すように、マリンはそらの手を引いて歩き出す。そらはその後ろ姿を見つめながら、繋いだ手から伝わってくる熱を、しっかりと握り返した。

少しずつ距離を詰め、愛を育んできた二人の関係は、温かい仲間たちの見守る中で、確かな絆へと変わっていた。

夜風に揺れる木々が、二人を祝福するように優しくざわめいていた。

 

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