### 第九十三章:偽りの夜明けと、後輩たちの致命的な誤算
「……終わった。ついに、我々の長く苦しかった聖戦(防衛任務)は終わったのだ……!」
ホロライブ本社の広大なラウンジ。
秘密結社holoXの女幹部・鷹嶺ルイは、ソファに深く腰掛け、淹れたてのコーヒーを片手に感無量の涙を流していた。
宝鐘マリンが、全世界のリスナーとホロメンに向けて「ときのそらとの交際」を大々的にカミングアウトしてから数日が経過していた。
それは、これまでマリンの「秘密」を守るために、そらのドロドロの独占欲(監視)に怯えながら命懸けの防衛線を張っていた後輩たちにとって、まさに『解放宣言』に等しかった。
「いやぁ〜、長かったッスねぇ! アタシたち、もうマリン先輩に近づく後輩を、命懸けでスライディングブロックしなくていいんスよね!」
FLOW GLOWの輪堂千速が、バンザイのポーズで歓喜の声を上げる。
「うんうん! だって、もう『秘密』じゃないんだもん。そら先輩がうちらに『マリンちゃんを守れ(隔離しろ)』って理不尽な圧をかけてきたのは、あくまで【 隠し通すため 】だったわけだし!」
沙花叉クロヱが、尻尾(フードの)をパタパタと振りながら満面の笑みを浮かべる。
「その通りです! 論理的に考えて、交際が公になった以上、そら先輩が過剰な嫉妬や防衛網を敷く【 大義名分 】は消滅したのです! むしろ、公式カップルとして余裕のある態度を見せるはず! つまり、今のマリン先輩は『フリー素材』……もとい、普通の先輩に戻ったんです!」
博衣こよりが、ホワイトボードに謎の数式を書きながら高らかに結論づけた。
そう、後輩たちは【 大きな勘違い 】をしていた。
「隠さなくてよくなった」=「そらの束縛が解かれた」と、自分たちに都合のいいように解釈してしまったのである。
「ということは……」
ReGLOSSの音乃瀬奏が、目をキラキラさせて両手を胸の前で組んだ。
「またマリン先輩に、ぎゅーってしたり、お膝に乗ったりしても、怒られないってことですかぁ!?」
「イエッス!! むしろ、公開されたことでパパ(そら先輩)も『うちのマリンがいじられてて可愛いなぁ』って、余裕の笑みで見守ってくれるはずアル!」
桃鈴ねねが、謎の自信満々な顔でサムズアップをする。
そこへ。
「みんな〜! おっはよ〜! 船長、今日も元気いっぱいですよ〜!」
噂の的である宝鐘マリンが、ご機嫌な足取りでラウンジに現れた。
カミングアウトの重圧から解放され、憑き物が落ちたように清々しい表情をしている。首元には、もう忌まわしいタートルネックも分厚いチョーカーもない。
「あっ! マリン先輩!!」
沙花叉、奏、ねねの「スキンシップ大好き三銃士」が、一斉にマリンの元へ駆け寄った。
「えへへ〜! マリン先輩、交際発表おめでとうございますぅ! ぎゅーっ!!」
沙花叉が、一切の躊躇なくマリンの正面から抱きついた。
「わっ!? さ、沙花叉!?」
マリンは一瞬、かつてのトラウマでビクッと身をすくませた。
(だ、だめ! 私に触れたら、沙花叉がパパに消される……!!)
しかし、数秒待っても、ルイからのスライディングタックルは飛んでこない。
それどころか、ルイはコーヒーを飲みながら、菩薩のような穏やかな笑みでこちらを見守っている。
「あれ……? ルイ、止めないの?」
「ふふっ。船長、もう隠す必要はないんですよ。私たちはもう、怯えなくていいんです。存分に、可愛い後輩たちとのスキンシップを楽しんでください!」
ルイが、親指を立てて爽やかに笑う。
「そ、そうか……! そうよね! 私の恋はもう、全世界公認なんだから! パパだって、後輩とのスキンシップくらい、広い心で許してくれるはずよね!」
マリンの脳内でも、後輩たちと全く同じ【 致命的なバグ(希望的観測) 】が引き起こされていた。
「えへへ〜! マリン先輩、奏もぎゅーしたいですぅ!」
「ねねもねねも!! マリン先輩のお膝座るアル!!」
奏がマリンの背中から抱きつき、ねねがマリンの手を握って頬ずりをする。
前回のコラボでは、これの10分の1の接触すら許されなかった。それが今、大っぴらにスキンシップを堪能できている。
「あぁ〜……若いエキス最高ぉ〜……! 船長、このぬくもりをずっと求めていたのよぉ……!! やっぱホロライブはこうでなくちゃねぇ!!」
マリンは、数週間ぶりに味わう【 ハーレムの悦び 】に完全に酔いしれ、デレデレにとろけきった顔で後輩たちを撫で回した。
ラウンジは、完全なる平和と幸福のオーラに包まれていた。
——その扉が、開かれるまでは。
### 第九十四章:見えざる重圧(霊圧)と、凍りつく空間
『……ガチャリ』
ラウンジの扉が、ゆっくりと開いた。
足音はない。
ただ、その扉が開かれた瞬間、ラウンジ内の気温が、物理的に5度は下がったように感じられた。
「……ん?」
最初に異変に気づいたのは、野生の勘を持つ風真いろはだった。
肌を刺すような、ピリピリとした冷気。
それは単なる冷気ではない。空気が極限まで圧縮され、呼吸すら困難になるような、圧倒的な【 威圧感(オーラ) 】だった。
武を嗜むいろはの全身の細胞が「これ以上ここにいたら死ぬ」と警鐘を鳴らしている。
「みんな……なんか、空気が……」
いろはが震える声で呟いた直後。
「——ふふっ。みんな、すっごく楽しそうに何してるのかな?」
透き通った、女神のように美しい声。
しかし、その声には、深淵の底から響き渡るような、底知れぬ【 殺気(独占欲) 】が込められていた。
そこに立っていたのは、ときのそらだった。
「「「「「あ……っ」」」」」
ラウンジにいた十数人のホロメン全員が、一斉に硬直した。
そらは、完璧なアイドルスマイルを浮かべていた。
しかし、その瞳からは一切の光が失われており、漆黒の虚無が広がっている。
彼女の一歩、また一歩と進むヒールの音が、静まり返ったラウンジに『死のカウントダウン』のように響き渡った。
「そ、そら先輩……! お、おはようございます……!」
ルイが、コーヒーカップを持つ手をカタカタと震わせながら挨拶をする。
(だ、大丈夫だ、鷹嶺ルイ! 落ち着け! もう秘密じゃないんだ! そら大先輩も、ただ挨拶に来ただけで……)
ルイが必死に自分に言い聞かせていた、その時だった。
「……沙花叉ちゃん。奏ちゃん。ねねちゃん」
そらの視線が、マリンに抱きついている3人を正確に捉えた。
その瞬間、放たれた【 重圧(霊圧) 】は、もはや目に見えるほどの黒い闘気となって、3人の全身を縛り付けた。
「ひッ……!?」
「あ、ぅ……」
「そ、そら……先輩……?」
3人は、まるで巨大な捕食者に睨まれた小動物のように、身動き一つとれなくなった。
マリンから手を離そうとするのだが、そらの放つ圧倒的なプレッシャーの前に、指先一本動かすことすらできないのだ。
「……おかしいなぁ」
そらは、ゆっくりと、しかし確実に距離を詰めてくる。
その一歩ごとに、ラウンジ内の空気がミシミシと悲鳴を上げているような錯覚に陥る。
「私のマリンちゃん……全世界に向けて、『私とお付き合いしてる』って、ちゃんと言えたのに」
そらは、マリンと後輩たちの目の前で立ち止まり、ふわりと小首を傾げた。
「みんな、知ってるよね? マリンちゃんは、【 私のもの 】だって」
その言葉は、優しく、甘い。
しかし、その奥に潜む狂気は、これまでの比ではなかった。
「えっ……あ、あの、そら先輩……? も、もう秘密じゃないから……少しくらい、スキンシップしても、怒らないかなって……」
沙花叉が、涙目でガタガタと震えながら弁明を試みる。
それは、彼女たちが導き出した「論理的」な希望的観測だった。
しかし、その言葉を聞いた瞬間。
そらの唇から、チロリと、獲物を弄ぶような、底冷えのする笑みがこぼれた。
### 第九十五章:解き放たれた絶対領域(領域展開)
「……ふふっ。あははははっ!」
そらが、突然、口元を押さえて楽しそうに笑い出した。
その笑い声は、ラウンジの壁に反響し、後輩たちの鼓膜を不気味に叩き続ける。
「怒らない? 私が? ……どうして?」
そらは、笑いを収めると、まるでゴミでも見るような……いや、圧倒的な絶対強者としての、冷酷無比な瞳で後輩たちを見下ろした。
「みんな、勘違いしてるみたいだね」
そらの手から、目に見えない巨大な【 刃 】が放たれたかのように。
彼女の放つオーラが、ラウンジ全体をドーム状に包み込み、外界から完全に遮断した(ように感じられた)。
これぞ、ときのそらが展開する絶対領域(テリトリー)。
「私が今まで、マリンちゃんに近づく子たちを遠ざけようとしてたのは……『秘密を守るため』なんかじゃないよ」
「……え?」
ルイが、息を呑む。
「私が我慢してたの。……マリンちゃんが、『ホロライブの象徴であるそら先輩に迷惑をかけたくない』って、泣きそうな顔で隠したがってたから。私は、そのマリンちゃんの【 いじらしい嘘 】に合わせてあげてただけ」
そらは、マリンの顎にスッと指を添え、自分の方を向かせた。
マリンの目は、すでに恐怖と快感(パパの圧倒的な覇気への服従)でトロンと溶けかかっている。
「でも、もう隠さなくてよくなった。マリンちゃんは、自ら『私はときのそらのものです』って、世界中に証明してくれた」
そらの顔が、後輩たち(沙花叉、奏、ねね)の顔のすぐ近くまで迫った。
その瞬間、3人は「あ、これ殺される」と本能で理解した。
「つまりね。これからは……私が【 我慢する理由 】が、1ミリも無くなったってことだよ」
「「「「「——————ッッッ!!!!!」」」」」
その言葉の真意を理解した瞬間。
ラウンジにいた全員の顔面から、一気に血の気が引いた。
「秘密」という枷が外れたことで、そらは「余裕のある先輩」になるのではない。
逆に、「秘密」という唯一のストッパー(リミッター)が外れたことで。
【 このホロライブ全体において、宝鐘マリンに対する一切の接触を許さない、完全無欠の暴君(ヤンデレ魔王) 】として、堂々と君臨することを宣言したのだ。
「公認の恋人なんだから、他の子が触ってたら……私が本気で嫉妬して、本気で排除(お仕置き)しに行っても、誰も文句言えないでしょ?」
そらは、ニコリと笑って、決定的なトドメの一言を放った。
「さぁ。……私のマリンちゃんに、その汚い(?)手を乗せているのは、誰かな?」
「「「ヒィィィィィィィィィッ!!!! 申し訳ありませんでしたァァァァァァ!!!!」」」
沙花叉、奏、ねねの3人は、悲鳴を上げてマリンから弾け飛び、床に頭を擦り付ける勢いで土下座をした。
「パ、パパ……! ごめんなさい……! うちらが間違ってましたぁぁぁ!!」
「調子に乗ってましたぁぁぁ!! マリン先輩はパパのものですぅぅぅ!!」
「うん。わかってくれればいいんだよ 」
そらは、完璧なアイドルスマイルに戻り、優しく3人の頭を撫でた。(3人はその手から放たれるプレッシャーで泡を吹いて気絶しかけていたが)
### 第九十六章:海賊の最期と、永遠の絶対王政
「そ、そら先輩……あの、船長は……」
マリンは、一人ポツンと残され、ガクガクと震えながらそらを見上げた。
「ふふっ。マリンちゃんも……私が怒らないと思って、あんなにデレデレした顔で、他の子に触らせてたんだ?」
そらの声が、再び低く、甘く、そして恐ろしく変化する。
「ち、ちが……っ! これは、後輩たちが勝手に……!」
「嘘つき。さっき、ドアの外から聞こえてたよ? 『若いエキス最高〜!』って、すっごく嬉しそうな声」
「——ッ!!(終わった……!!)」
マリンは、自らの舌を噛み切りたい衝動に駆られた。
「秘密じゃなくなったんだから……これからは、どこでも、誰の前でも、私がマリンちゃんを【 教育 】してあげてもいいんだよね?」
そらは、ラウンジに十数人のホロメンが硬直して見ているそのど真ん中で。
マリンの腰にガッチリと腕を回し、そのまま軽々と(しかし絶対に逃げられない力で)マリンの体を抱え上げた。
「ひゃうっ!? パ、パパ!? みんな見てる……!」
「見せてあげるの。……マリンちゃんが、私以外の誰の手にも負えないくらい、私の愛に溺れてる姿をね」
そらは、マリンの耳たぶに軽く噛みつき、そこから首筋へと、わざと音を立てながら、熱く深いキスを落とした。
「んぁッ……ぁ……っ! だめ、そら先輩……っ、こんなとこで……っ!」
マリンの体から一瞬にして力が抜け、抗うことすらできず、そらの腕の中で甘く溶けた声を上げる。
その圧倒的な【 公開処刑(マウントと愛の暴力) 】を目の当たりにした後輩たちは。
「……アーメン」
「……吾輩たち、とんでもない勘違いをしていたのだな……」
「……これからは、マリン先輩の半径2メートル以内に近づいたら、パパの霊圧で消し飛ばされるッスね……」
ルイ、ラプラス、千速をはじめとするすべての後輩たちが、完全に心を折り、ホロライブにおける『絶対の掟』を魂に刻み込んでいた。
「それじゃあみんな、マリンちゃんは私が【 責任を持って 】お世話するから。お疲れ様 」
そらは、完全に腰を抜かしてとろけきったマリンを抱き抱えたまま、優雅な足取りでラウンジを去っていった。
残されたのは、ただただ平伏し、絶対神の愛の重さに戦慄するだけの後輩たちであった。
カミングアウトという名の「解放」は、彼女たちにとっての光ではなかった。
それは、ときのそらという女神が、一切の制限なくその「独占欲」を全世界に向けて解き放つための、恐るべき【 パンドラの箱 】を開ける行為だったのだ。
宝鐘マリンは、もう永遠に、あの腕の中から逃れることはできない。
そしてホロライブの生態系は、「パパ」の絶対王政の下、今日も平和に、そして底抜けに甘く恐ろしく回っていくのである。