ゼイユの幼馴染 作:一人っ子です
群青のイッシュの海。その大海原に浮かぶ人工島──ブルーベリー学園。
夏の日差しに揺らぐ空の下、そのバトルフィールドで、少年と少女の声が交錯する。
「クワガノン! “ネバネバネット”をばらまけ!」
少年の指示で空色のフィールドを縦横無尽に飛び回り、粘着性の糸の網を絨毯爆撃さながらに発射するクワガノン。
「絶対に当たっちゃダメよ! ヤバソチャ! 避けらんないのは“シャカシャカほう”で撃ち落として! キュウコンは“おにび”で燃やして!」
少女の指示でヤバソチャは熱っつい茶で溶かし、キュウコンは体の周りで紫炎を纏って糸の豪雨を凌ぐ。
「上ばっか気にしてて良いのかゼイユ! ウインディ、“ニトロチャージ”!」
炎を纏い、降り注ぐ糸を焼き払って突き進むウインディを見て、ゼイユと呼ばれた少女が一瞬の逡巡の後叫ぶ。
「キュウコンは“じんつうりき”で動きを止めて! ヤバソチャは“ねっとう”!」
目に見えない衝撃を受け怯んだウインディにヤバソチャの“ねっとう”が突き刺さる。
“ねっとう”と直撃したウインディの体温によって生じた水蒸気が、フィールドの一角を白く染める──。
「これが、ブルーベリー学園で主流とされるダブルバトル、ですか」
観客席の最前列で1人の老紳士が感嘆の息をついた。
緋色のジャケットに、年齢を感じさせないその伸びた背筋。オレンジアカデミー校長、クラベルである。
彼は今回、姉妹校の協定を結んであるであるここ、ブルーベリー学園との合同林間学校や、交換留学の打ち合わせに来ていた。
「そうそう。パルデアじゃ中々見れないからね〜。どう? 派手デショ!」
クラベルの隣で誇らしげに笑うのはここブルーベリー学園の校長、シアノ。
「ええ、確かに派手なのですが、それよりも──」
クラベルは目の前で行われているバトルを思い返してみる。
クラベルが校長を務めるオレンジアカデミーのあるパルデア地方のみならず、その他の地方でも主流となっているのは一対一のシングルバトルだ。
アカデミーの生徒も、ジムバトルもリーグもシングルが主流なのは言うまでもなく、それは一対一では純粋な個の力が求められる。すなわち、ポケモンの育成力と、トレーナーとの信頼関係。
「シングルバトルと比べ、トレーナーに求められるモノがまるで違う」
しかし実際にダブルバトルを見てみると、そこには想像以上に情報があった。
単純に指示を出すポケモンが2体に増えるのもそうだが、天候、フィールドの使い方、トレーナーとポケモンのコンビネーションだけでなく、ポケモン同士のコンビネーション、2対1や1対2のシチュエーションでの立ち回り。
シングルバトルを主とするトレーナーは、ポケモンと一対一でバトルに望むので、確かにトレーナーと呼ぶのが相応しいだろう。
ダブルバトルを主とするならば、マルチタスク、俯瞰的視野、個よりも群を率いるという点で、トレーナーと言うよりもマネージャーやコマンダーと言った言葉の方が相応しくも思えてしまう。
「トレーナーに要求される要素が多い分、普遍性は確かにシングルバトルに劣るでしょう。しかし、トレーナーの育成、という分野で活用するならば」
理にかなっている。
クラベルはそう考えた。
目の前でバトルをする彼ら以外にも、地方の四天王クラスのトレーナーが育っている、という情報もある。
新進気鋭、オレンジアカデミーに比べ歴史は遥かに浅いものの、その分最先端の技術が取り込まれたブルーベリー学園では、教育法も学べる点が多いと感じられた。
と、クラベルが思考を巡らせている間にも、バトルは進む。
未だ水蒸気の爆心地にいて姿が見えないウインディ。ヤバソチャに効果抜群であるほのおタイプの技を止め、一瞬だけ息をついた──瞬間、嫌な予感がゼイユの背筋を走った。
「……! 気を緩めないで! すぐに糸をっ!!」
「クワガノン──」
ゼイユの目に映ったのは、糸よりもウインディの対処を優先してしまったがために、糸に絡め取られ身動きができなくなっているヤバソチャとキュウコンの姿。
そして──。
「──“でんじほう”」
まるで全てが想定内とでも言いたげな、はたまた悪戯が成功した幼子の様な少年の顔が見えると同時。
少しずつ晴れていく水蒸気の向こう、特徴的な二対の長い前顎の間に溜められた暴力的なまでの電気エネルギーが、キュウコンとヤバソチャを一直線上に捉え、穿つ。
「ッ! キュウコン! “かえんほうしゃ”!!」
回避は間に合わないと判断して、すぐさまヤバソチャの手前にいるキュウコンの“かえんほうしゃ”で相殺を図るが、電撃は無情にも炎を貫き、キュウコンを貫き、後ろにいるヤバソチャをも貫く。
「キュウコン! ヤバソチャ!」
ゼイユの掠れた叫び声。確かに、二対一の状況でウインディに対応したゼイユの判断は間違いではない。“ニトロチャージ”で素早さを上げながら突っ込んでくるウインディにヤバソチャを落とされる前に指示を出せたのも、それにすぐに反応して技を繰り出せたのも日々のポケモンとのコミュニケーションにより信頼関係が築けているが故。
ゼイユの実力は決して低くない。むしろここブルーベリー学園で上から五指に入る程には高い。
しかし、ゼイユはあの一瞬に緊張が解けてしまった。目の前に迫るウインディという脅威への対処は完璧と言っていい。が、これはダブルバトル。クワガノンへの警戒を解いていい理由にはならない。その点で、ユズキの方が一枚上手だった。
ゼイユは正しい選択を取ったように思えるがその実、その選択を取らされたのだ。
「キュウコン、戦闘不能!」
「ヤバソチャ、まだいける!?」
審判が戦闘不能を宣告したのはキュウコンのみ。ヤバソチャはまだ動けるようだが、その体はまひしているのか動きは鈍い。
勝ち目は薄いがしかし、クワガノンは“でんじほう”という高火力故に消耗も激しい技を使った直後で同じく動きが鈍い。効果的な技は少ないが、“シャカシャカほう”で“やけど”にさせて“たたりめ”を決めれば或いは──とゼイユを含めギャラリーのトレーナーも考えていた所で。
「ウ・イ・ン・デ・ィ・、“ニトロチャージ”」
未だ水蒸気が覆っていたフィールドの一角。爆心地を炎を纏って一直線にヤバソチャに突っ込む影。
「ッ! ヤバソチャ! “ねっ──」
指示が飛ぶよりも早く、ヤバソチャにウインディの技が届く。効果は抜群。既に“でんじほう”でその体力を大きく削られていたヤバソチャは、なす術なくフィールドに沈む。
「ヤバソチャ、戦闘不能! よって──」
この時点で、ゼイユの手持ちはゼロ。
悔しさから唇を噛み締め、両腕をワナワナと震えさせるゼイユ。
「勝者! トレーナー、ユズキ!」
ウインディとクワガノンのトレーナー、ユズキと呼ばれた少年の勝利で、バトルは幕を下ろした──。
「感心しました。よもやこれ程までに腕の立つトレーナーが育っているとは」
クラベルは心の底からそう思った。
バトルに勝利したユズキと呼ばれた少年は勿論だが、ゼイユと呼ばれた少女の方もまた、状況判断力や指示の的確は勿論、1番重要なポケモンの育成も、先程のバトルを通じて然と理解できた。
「でしょでしょ〜。まぁ彼らはウチの学園でもトップクラスに強い子たちだからね。それでも他の子達も見劣りしないくらいには育って欲しいねぇ」
「そうですか……そういえば彼らは、次回の林間学校の……」
「そうそう。キタカミの里出身の2人だよ。あの子たちも楽しみにしてくれてるんだ……楽しみにしてるといえば、ブライア先生もそうだね。早く研究したくてウズウズしてるみたい」
キタカミの里──。
次回の林間学校の行き先がそこに決まったのは、彼らの生まれ故郷だと言うのもあるが、それよりもパルデア地方とここ、ブルーベリー学園のテラリウムドームでしか確認されていない現象、テラスタルが、キタカミの里でも確認されたとの情報が入ったからだ。
「テラスタルしたポケモンは強くて危険だからねー、安全を期す意味も込めて、ウチからはあの二人と、あとゼイユちゃんの弟くんも一緒に同行させるよ」
確かに、何か問題が起きても、先程のバトルで実力はしかと見させてもらった。
クラベルは最初、シアノがウチの生徒のバトルを見てってよ等と言い出した理由が分からなかったが、生徒自慢の他にクラベルに納得させるというのもあったのだろう。
「そうですね……オレンジアカデミーからも、1人はチャンピオンクラスの子を参加させようと考えていたのですが、より安心ができて良かったです」
「うんうん。じゃあ詳しい日程はまた後で詰めるとして、あの子らに挨拶していくかい?」
「ええ、是非」
クラベルは快く了承し、バトルを終えてフィールドの真ん中で他の生徒に囲まれながら談笑? している2人に歩み寄っていくと──。
「ムキ──ー!! また思うようにしてやられた!! ていうかアンタズルいわよ! むしタイプがあんなひこうタイプみたいに空から技降らしてくるとかヒキョーよヒキョー!!」
「いやいやゼイユよぉ、それをいうならひこうタイプのドデカバシを先に落とされたからキョーダイのクワガノンに好き放題されたんじゃねぇの? ドデカバシ以外に空を飛べる相手に対応できる技が少ないのが今回の敗因だったと思うぜぃ」
「うっさいカキツバタ! そーいうアンタだってこの前ナツキにボッコボコにされてたじゃない!」
「いやぁ〜今日のゼイユよりかは粘った方だと思うけどねぃ」
ユズキに文字通りムキになって突っかかるゼイユに横槍を入れる、歯磨き粉を頭に乗せたような独特なヘアスタイルが目立つ、現在のリーグ部1位であるカキツバタ。
「バトルお疲れ様でした! ユズキ先輩今日もかっこよかったです〜!! あ、喉乾いてませんか? よければおいしい水どうぞ〜!」
「先輩のウインディやっぱりタフですね! ねっとうが直撃してもピンピンしてて、普段どんなトレーニングしてるかとかどんなフード食べてるか教えて欲しいっす! てかこの後俺とバトルしませんか!!」
「あっ! アカマツくんずるい! ユズキ先輩、私ともバトルしましょ? 今日こそ私のポケモンの可愛いとこ、見せつけちゃうんですから!」
労いの言葉と共に、さり気ないボディタッチをしながら上目遣いで話す桃色の髪の少女──リーグ部2位のタロと、ギラギラとした目で次の相手は俺と言わんばかりに詰め寄っていく赤髪の少年──、リーグ部4位、アカマツ。
「うへ〜……ねーちゃん、今日もユズ兄に負けてキレてる……わやじゃ」
「お二人共に素晴らしいバトルでしたが、ゼイユがユズキに勝つ日が来るのはまだまだ当分先になりそうですね」
輪から少し離れたところで感想をこぼす、幼さの残る少年──ゼイユの弟、スグリと、本人にはそのつもりがなくとも、ゼイユが聞いたらさらにブチ切れるだろう毒を吐く眼鏡をかけた褐色肌の少女──リーグ部3位、ネリネ。
そして、この喧騒の輪の中心にいる男子生徒。ユズキと呼ばれた、ゼイユと同じかそれ以上ありそうな長身の男子は。
「お疲れゼイユ。今日も楽しかったよ」
と、バトル後で上気した頬を緩ませながら、そう言って幸せそうに笑う。
「また余裕ぶって! 見てなさい!! 次こそはボッコボコにしてやるんだから!!!」
「うん! また明日もやろう」
「今日の内容見てたらボッコボコは夢のまた夢だと思うがねぃ」
「カキツバタ!! アンタから手始めにボッコボコにするわよ!!?」
「お〜っとっと〜、怖いねぃ〜」
「カキツバタ、あまりゼイユを煽らないで。ゼイユも、怒った顔も可愛いけど、笑ってる顔の方が俺は好きだよ」
「ッ──!!」
「先輩! ポケモンちゃんの回復は私がやりますので、すぐにでもバトルしましょう! ほら!」
「あっタロ先輩! おれが先だよ!」
「うん、アカマツくんもタロちゃんも後でね。先にご飯食べよ! 俺お腹空いちゃってさ。ゼイユは何か食べたい?」
「……学園シェーキ」
「じゃあ俺もそれ食べよ」
「すみません、お話中に失礼致します」
「「「?」」」
「私はクラベル。このブルーベリー学園の姉妹校である、パルデア地方のオレンジアカデミーの校長です」
「……あぁ、次の林間学校の」
丁寧に腰を折る老人の自己紹介から、自身とゼイユらの帰省と、ブライア先生の研究と併せて行われる林間学校。毎年行われるそれを、今年から他の学校と合同で開催されると聞かされたのを思い出したユズキはそうこぼす。
「えぇ、その打ち合わせに。折角だからとシアノ先生から貴方達のバトルを拝見しましたが、素晴らしいものでした」
お世辞など一切ないのだろう、そう感じさせる真っ直ぐな言葉に、隣でゼイユが「ふんっ、トーゼンよ!」とでも言いたげに腕を組みそっぽを向く。
「貴方達ほど腕の立つトレーナーは、オレンジアカデミーでもそう多くはありません。林間学校で、お互い良い成長の場になることを、期待しています」
「……えぇ、こちらこそ。よろしくお願いします」
言い終えるとお互い握手を交わし、再びユズキ達一行はワイワイ、ガヤガヤと食堂へと移っていく。
それを眺めるクラベルは、自身の勤めるオレンジアカデミーと同じように、この姉妹校の少年少女の織りなす尊い青春と、そんな彼らとオレンジアカデミーの自慢の生徒たちとの林間学校での交流に思いを馳せ、目を細めて笑みを浮かべるのであった。
ゼイユとイチャイチャしたくて描きました。
本当はこの後バトルで昂った体を持て余す2人や、負けヒロインの香りが既にしているタロちゃんについて。幼少期の出会いや、学園での日常から原作DLCにそってオリ主とゼイユのラブコメを描いていきたかったのですが、私が遅筆の極みで何年も寝かせているのに耐えられず放出してしまいました。
感想、評価などたくさんして頂けますとバフが乗って筆が早まります。(当社比)
また気が向いたら続きを書くのでとりあえずこれにて失礼する。