学園生活を満喫したいだけのモブ(チート)   作:ハスバル

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流石に、古代文明に手を出すと色々ヤバいことになってきたので軌道修正頑張ってかけてます。あと普通にレア様に埋められそうにならないように主人公描かないと……


第11章:静寂の聖域、知識の迷宮と神速の筆跡

ガルグ=マク大修道院の大図書館。そこは、フォドラ全土のあらゆる歴史、魔道、戦術、あるいは教会の聖典が集う、知の最高峰にして最大の迷宮だった。

天井は遥か高く、重厚な石造りの柱が何本も立ち並び、壁面を埋め尽くす巨大な書架には、何百年もの歴史を重ねた古書や羊皮紙が隙間なく詰め込まれている。

窓から差し込む午後の光には、かすかに古い紙とインクの匂いを孕んだ埃がキラキラと舞い、空間全体がまるで時間が止まったかのような、絶対的な静寂に包まれた空間。

 

「……ここだ。ここなら、絶対に安全だ」

 

大きな書架の影、人目に付きにくい奥まった閲覧席の木製椅子に深く腰掛け、俺――マイルズは、本日何度目か分からない歓喜の溜め息を漏らした。

 

ここは大図書館。フォドラで最も「静粛に」という規律が物理的、かつ精神的に徹底されている場所だ。

昨日、市場から這う失意の体で宿舎に戻った俺を待っていたのは、地獄のような「金鹿の包囲網」だった。

 

リシテアは

「明日からあなたの行動を1分単位で記録します」と宣言し

 

レオニーは「明日の朝練は山を越えるよ!」と目を輝かせ

 

ローレンツは「同盟の未来を担う新たな戦術マニアの誕生だね!」と薔薇を振るっていた。

 

実際、今朝の朝練でレオニーに野生の熊が出るレベルの裏山へ連行され、筋肉が千切れる一歩手前まで追い込まれた俺は、午前中の講義が終わった瞬間、すべての気配を抹殺してこの図書館へと逃げ込んできたのだ。

 

さすがのリシテアも、神聖な大図書館の中で

「マイルズ! あなたの魔力回路の同調技術について問い詰めさせなさい!」

と大声を出すことはできないはず。

レオニーもここに弓は持ち込めないし、ローレンツも大声を上げれば司書に一発でつまみ出される。

 

「ふふふ……勝った。俺の勝ちだ。ルールとマナーに守られたこの空間こそ、モブに許された唯一の聖域(セーフハウス)……!」

 

俺は安堵のあまり、机の上の読書灯の灯りを見つめながら、だらしなく口元を緩めた。

周囲を見渡しても、数人の熱心な修道士や、他学級の真面目そうな生徒が静かにページをめくっているだけ。

俺の存在は、この膨大な知識の雑踏の中に完璧に埋没している。これなら、夕方の閉館時間まで「ただの空気」として、誰にも邪魔されずに平穏な時間を消費できるはずだった。

 

だが、ここは全寮制の大修道院。

当然、俺と同じように「明確な目的」を持ってこの静寂を求めている先住民たちがいた。

息を潜めて周囲を観察していると、俺の座る席の少し前方、歴史書の書架の前に、見覚えのある後ろ姿が見えた。

 

青いマントを羽織り、真面目そのものの背筋で軍事書を読み耽っているのは

青獅子の学級の級長、ディミトリだ。

 

さすがは王子様、読書姿すら絵画のように美しい。

……が、よく見ると、彼が手に持っている

分厚い戦術書のハードカバーの角が、彼の規格外の怪力によって**みしみしと音を立てて微妙にひしゃげていた。

 

(怖い! 読書してるだけで本を物理破壊しそうになってる! 触らぬ王子に祟りなしだ、絶対に関わらないでおこう……)

 

俺がそっと視線を外したその時、今度は俺の真後ろの書架から、微かに「すー……すー……」という規則優しい寝息が聞こえてきた。

 

隙間から覗くと、そこには黒鷲の学級のリンハルトが、何冊もの分厚い紋章学の本を枕代わりにして、机に突っ伏して完璧に熟睡していた。

 

「……さすがだ。彼こそが、この大修道院における『不働のモブ(達人クラス)』。俺が目指すべき究極の脱力系がそこにある」

 

俺がリンハルトの睡眠技術に深く感銘を受けていた、その時だった。

 

トツ、トツ、トツ……。

 

静まり返った大図書館に、やけに規則正しく、かつ軍隊のように洗練された硬い靴音が響いてきた。

ただの生徒の足音ではない。

その足音の主が放つ、周囲の空気をピリッと引き締めるような、圧倒的な「規律の波動」。

 

(……嫌な予感がする。それも、ガチで胃に穴が空くタイプのやつだ)

 

俺は本能的に、机の上に置いてあった適当な分厚い本――

『フォドラ北部における農地改革と税制の歴史・第三巻』

――をがばっと開き、顔を完全に埋めるようにして隠した。

靴音は、俺の座っている書架の影の閲覧席へと、迷いのない足取りで近づいてくる。

 

そして、ピタリと俺の机の横で止まった。

 

「……金鹿の学級のマイルズ、だな。このような奥まった席で、随分と熱心に正典以外の書物を読み耽っているようだが」

 

低く、厳格で、一切の妥協を許さない男の声。

本の間から恐る恐る目を上げると、そこには、緑色の髪をきっちりと整え、教会の厳格な法衣を身にまとった

大修道院の補佐官――セテスさんが腕を組んで俺を冷徹に見下ろしていた。

 

(セテスさん直々のご来光だああああ!!! 終わった!!! 本丸が来ちゃったよ!!!)

俺は心の中で絶叫し、椅子から転げ落ちそうになるのを必死に堪えた。

セテスさんといえば、大司教レア様の右腕であり、この大修道院の秩序と安全を司る実質的なトップ。昨日、アンナさんの馬車で暴走したあの奇妙な鉄の遺物を、俺が勝手に弄んで停止させてしまった件が、もう本部の耳に入ったのか!? だとしたら、これから地下の尋問室に引きずり出されるルート一直線だ。

 

「は、はい! 金鹿の学級の平民生徒、マイルズです! セテス補佐官、俺、何も怪しい宗教の勧誘もしていませんし、レア様の秘密の園のリンゴも盗んでいません!」

 

「落ち着きなさい、声を落とせ。ここは図書館だ」

 

セテスさんは眉をひそめ、人差し指を口元に当てて俺を窘めた。その鋭い声は、周囲の生徒たちの耳にも届いたらしい。

 

「ん……? 何事だ……?」

本のカバーをへし折りかけていたディミトリが、怪訝な顔でこちらを振り返る。

 

「ふあぁ……。静かにしてくださいよ、セテス補佐官……安眠の妨害は罪ですよ……」

本を枕にしていたリンハルトも、迷惑そうに片目をこすりながら起き上がってしまった。

 

(最悪だ! 他学級の超重要人物たちの注目を浴びまくっている……!)

 

「お前に異端の疑いをかけているわけではない」とセテスさんは話を続けた。

「……いや、厳密に言えば、お前の『行動』について、少々確認したいことがあってな」

 

「昨日、市場にて、行商人アンナが持ち込んだ『由来不明の、極めて危険な古代遺物』が暴走し、大修道院に向けて魔力を放出しようとした際、お前がその場に居合わせ、極めて短時間のうちにその不気味な術式を解体したという報告が、騎士団の潜入任務兵から私の元に届いている」

 

セテスさんの表情は、いつになく険しい。あの遺物の出所や、刻まれていた奇妙な紋様について、教会としても警戒しているのだろう。セテスさん自身も「見たこともない術式だった」と、僅かに困惑の気配を滲ませている。

 

「なっ……!?」

 

その言葉に、ディミトリの目の色が変わった。

「暴走した古代遺物の術式を、瞬時に解体しただと……? セテス補佐官、それは本当ですか? 我が青獅子の生徒たちでも、そのような真似ができる者は……」

 

「……へえ」

 

それまで眠そうにしていたリンハルトの目が、一瞬で爛々と輝きだした。

 

「未知の古代技術による魔力回路の強制停止? 面白い。実に興味深いね。ねえ君、その時、魔力の逆流はどうやって防いだの? 既存の十傑の紋章のいずれかに共鳴させたの? それとも独自の触媒?」

 

(来ないで! 紋章・魔導マニアが覚醒しちゃったよ!!)

 

「静かにしろ、二人とも」

セテスさんが手で制し、手にした1通の羊皮紙の束を俺の机の上に置いた。

 

「実はな、現在、教会の書記官たちが、数百年前に書かれた『セイロス聖教会の古い典礼書の写本』の修復と翻訳作業を行っている。だが、その原文に使われている古代文字の文法が余りにも複雑怪奇でな。熟練の司書や学者たちが総出でかかっても、1ページを翻訳するのに丸一日を費やす始末だ。おかげで、今月末に予定されている大司教様への報告書の提出が、完全に遅延している」

セテスさんは、その鋭い視線を真っ直ぐに俺の瞳へと向けた。

 

「昨日のお前の『未知の術式を一瞬で読み解いた』という、おそるべき言語理解力と、指先の精密な運動速度があれば、この停滞した翻訳作業を劇的に進めることができるのではないか、と私は考えたのだ。

……マイルズ、教会の秩序のため、この作業を手伝ってはもらえないだろうか?」

 

「い、いやいやいや! 無理ですセテスさん! 俺、ただの平民ですよ!? 古代文字なんて読めません!」

俺は本気で両手を振って拒絶した。だが、横からリンハルトが覗き込んでくる。

 

「どれどれ……あぁ、これ、第ニ段階の変異聖教文字だね。僕でも解読に一週間はかかるやつだ。これを平民の君に丸投げするなんて、セテス補佐官も焼きが回ったんじゃ――」

 

「安心しろ、マイルズ。これは強制ではない」セテスさんはリンハルトを無視して告げた。「だが、もしこの作業を完了させてくれれば、今期のお前の『教会の課題(貢献度)』はすべて最高評価で免除し、金鹿の学級への支援金も上乗せしよう。……どうだ?」

 

(課題の全免除……!! 免除されれば、レオニーの地獄の朝練から堂々と逃げ回る大義名分ができる……!!)

悪魔の囁きだった。だが、今の俺にとっては、金鹿の包囲網から逃れるためのこれ以上ない免除特権(パスポート)だ。

 

「……分かりました。翻訳の足しになるかどうかは分かりませんが、その、目を通すくらいなら……」

 

「うむ、感謝する。作業場所は、この大図書館の最奥にある『禁書閲覧室』の隣の書記室だ。よろしく頼むぞ、マイルズ」

セテスさんは満足そうに頷くと、颯爽と歩き去っていった。

 

「面白い。僕も手伝うよ。君がどうやってこの難解な文字を処理するのか、特等席で見せてもらうからね」

当然のようにリンハルトがついてくる。

 

「俺も、もし邪魔にならないのであれば、フォドラの過去の叡智が紐解かれる瞬間に立ち会わせてもらいたい。古の戦術の参考になるかもしれないからな」

なぜかディミトリまで爽やかな笑顔でついてきてしまった。

 

(なんで他学級の重鎮たちが引き連れて書記室に向かってんだ俺は!!!)

 

 

案内された書記室には、埃を被った膨大な古代の写本と、山のように積まれた真っ白な羊皮紙、整理された羽ペンとインク瓶が用意されていた。

「はぁ……。まあ、適当に数ページだけ『一生懸命やりましたけど、難しくてダメでした』って風に装って、時間を潰すか」

 

俺は椅子に座り、一番上にあった『古代セイロス暦法における奇跡の証明・断章』という本を開いた。

その瞬間。

 

 

ピコン。

 

 

脳裏に、あの最悪で、最高に冷徹なシステム音声が響き渡った。

【古代フォドラ語・言語解読:S(潜在)】

【神聖魔導文字・完全理解:S(潜在)】

【高速筆記・精密複製:S(潜在)】

【限界突破:常時発動】

(アッ、これ、始まったな……)

俺の意識が白濁する。

 

開いた本の1ページ目、複雑に絡み合った古代の聖教文字が、俺の目を通した瞬間――

『現代フォドラ語の、超分かりやすい児童書レベルの翻訳』

に脳内で一瞬にして全自動変換されていった。

指示などしていないのに、俺の右手が、まるで独立した生き物のように勝手に跳ね上がった。

机の上の羽ペンを掴むと、インク瓶に一度だけ正確に浸し、真っ白な羊皮紙の上へと滑り出した。

 

サラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサーーーーーッ!!!

(速い! 速すぎる!! 俺の手が、まるで全自動の印刷機みたいになってやがる!!!)

 

【限界突破】した高速筆記スキルにより、俺の右手は残像すら残さない速度で羊皮紙の上を踊った。

文字の美しさも異常だった。寸分の乱れもない、完璧な教会の公式書体(フォント)が、神速で出力されていく。

 

「な、なんだって……!?」

後ろで見ていたディミトリが、驚愕のあまり声を漏らした。

 

「ちょっと待って……! 手の動きが見えないんだけど!?

術式を読み上げるプロセスを全部飛ばして、直接紙に出力しているのかい!?」

リンハルトが椅子から飛び起き、俺の右手を凝視する。

 

通常、1ページ解読するのに数時間はかかる古代写本が、俺の手にかかれば、ページを『めくる速度』と同じ速度で翻訳文として仕上がっていくのだ。

 

「止まれ! 止まれ俺の右手!」

 

心の中での悲痛な叫びも虚しく、俺の右腕は完全に魔導仕掛けの機械と化していた。

本を左手で高速でめくり、右手は音を立てて羊皮紙に文字を刻み続ける。

 

1冊目、終了。所要時間、3分。

2冊目、終了。所要時間、5分。

3冊目、4冊目、5冊目……。

書記室の中には、シュババババババババ!!!という、羽ペンが紙を削る恐ろしい風切り音だけが響き渡っていた。

 

 

作業を開始して、およそ1時間。

 

俺の前の机には、古代写本数十冊分の完璧な現代語訳が、非の打ち所がない美しい束となって整然と積み上げられていた。

 

「ハァ……ハァ……ハァ……。またやってしまった……」

 

俺は羽ペンを机に置き、完全に疲れ果てて机に突っ伏した。

ディミトリとリンハルトは、完全に言葉を失い、化け物を見るような目で俺と羊皮紙の山を交互に見ていた。

 

「……あら? 随分と奇妙な音がすると思ったら、マイルズ、あなたがこんなところにいたのね」

 

背後から、鈴の音を転がしたような、だが冷徹なまでの知性を湛えた少女の声が聞こえた。

ゆっくりと振り返ると、そこには、数冊の魔道書を小脇に抱え、白い髪を揺らした金鹿のクラスメイト――

リシテア・フォン・コーディリアが立っていた。

 

「リ、リシテアちゃん!? なんでここに……!?」

 

「なんでって、ここは図書館ですもの。私が調べ物をするためにここに来るのは当然でしょう。それより……」

リシテアは怪訝そうな顔で一歩近づき、俺の机の上に山積みにされた、出来立ての羊皮紙の束へと視線を落とした。

 

「セテス補佐官から、あなたが教会の重要資料の翻訳を手伝わされているとは聞きましたけど……。

この量、一体何ですか? まさか、白紙の紙をただ並べて、サボっているわけじゃないでしょうね?」

 

「いや、あはは、その通り! サボりだよ! 文字を書くフリをして遊んでただけなんだよ!」

 

俺は必死に羊皮紙の束を隠そうとした。だが、リシテアがそれを許すはずもなかった。

 

そして、横からリンハルトが口を開いた。

「いや、サボりなんてとんでもない。彼は本物の怪物だよ、リシテア。そこに積まれているのは、教会のトップ学者たちが何年も頭を抱えていた、難解な古代魔導書の完璧な現代語訳だ。しかも、彼はそれを、本をめくるのと同じ速度で書き上げたんだ」

 

「なんですって……!?」

リシテアの大きな瞳が、驚愕のあまり限界まで見開かれた。彼女は俺を突き飛ばす勢いで机に突進し、羊皮紙の束をひったくるようにして次々とめくり始めた。

 

「これ……これ、古代セイロス文字の『二重魔術構造に関する秘跡』のページ……!?

現代の魔道学者でも、文脈の解釈が分かれていて、未だに完全な訳が存在しないはずの難解な書よ……! なんで、こんなに完璧な、流麗なフォドラ語で書き起こされているの……!?」

 

「リシテア、彼の能力は本物だ」ディミトリも真剣な面持ちで頷く。「俺は軍事的な暗号の記述を見ていたが、一切の無駄がない。彼が我が国(ファーガス)の書記官であれば、国の宝として厳重に保護するレベルだ」

 

「同感だね」リンハルトがため息をつく。

「僕のこれまでの紋章学の研究が、彼のこの『ちょっと手を動かしただけ』の作業で、いくつか前提からひっくり返されちゃったよ。ねえマイルズ、今すぐ黒鷲の学級に移籍して、僕の研究室の専属になってよ」

 

「ちょっと待ちなさい!!」

リシテアが、羊皮紙を机に叩きつけて叫んだ。その顔は、驚きと、激しいライバル心、あるいは隠しきれない畏怖で真っ赤になっていた。

 

「リンハルト、ディミトリ皇太子! マイルズは金鹿の学級の生徒です! 他学級の立ち入りは禁止します!

……マイルズ、あなた、やっぱりただの平民じゃないわね?」

リシテアは、逃がさないと言わんばかりに俺の胸ぐらを掴んできた。

 

「このレベルの古代文字の解読を、この短時間で行うなんて……。

あなた、頭の中にどれだけの膨大な魔導知識の底流を隠し持っているの!? 私がこれまで命を削って積み上げてきた魔道の研究が、子供のおままごとみたいじゃない……!

悔しい……! 悔しいわ、マイルズ!!」

 

「リシテアちゃん、顔が近い! あと、俺は本当に、ただの運が良かっただけのモブで――」

 

 

「おや、リシテア。そんな大声を出しては、図書館の規律に反するぞ」

そこへ、タイミングが良いのか最悪なのか、会議を終えたセテスさんが、数人の教会の老学者たちを連れて部屋に戻ってきた。

 

「セテス補佐官! ちょうど良いところに!」

 

リシテアは俺の胸ぐらを掴んだまま叫んだ。

「このマイルズという男、とんでもない化け物です! 教会が何年もかかっていた古代写本の山を、わずか1時間足らずで、すべて翻訳し終えています!」

 

「何だと……?」

セテスさんと、後ろの老学者たちが一斉に目を見張り、机の上の羊皮紙の束へと群がった。

老学者たちが震える手でその翻訳を読み始めた瞬間、書記室の中に、これまでにない激震が走った。

 

「お、おお……! なんということじゃ! 数十年間、誰にも解けなかった『聖者セイロスの奇跡』の記述が、これ以上ない完璧な文法で解読されておる!」

 

「この注釈……! 現代の魔導工学の基礎を根底から覆す、凄まじい発見じゃ! 誰だ! これを書いたのは!?」

 

「そこにいる、金鹿の学級のマイルズくんだよ……」

セテスさんが、信じられないものを見るような、深い、深みのある、地底の底から響くような「凄まじい確信」に満ちた目で俺を見つめた。

昨日の市場での不気味な古代技術への対処、そして今日の超人的な言語理解。

セテスさんの中で、俺に対する「危険度」と「重要度」の評価が、天元を突破したのが分かった。

 

「マイルズ……。

お前、昨日市場で得体の知れぬ遺物を無力化しただけでなく、教会の最深部の叡智すら、一瞬で紐解いてみせたか。

……やはり、お前の背後にある『力』と『知識』は、フォドラのパワーバランスすら揺るがしかねないものだな」

 

(違うんだよセテスさん!! 俺の裏にあるのは、国家転覆の陰謀でもなければ、教会の転覆を狙う闇の勢力でもない!! ただのシステムの暴走なんだってば!!!)

 

「決まりましたね」

 

リシテアが、ノートをパンと叩いて、勝ち誇ったような、だが最高に楽しげな笑みを浮かべた。

 

「セテス補佐官、このマイルズは、これから私が24時間体制で共同研究者として身柄を預かります。彼の持つ古代の魔導知識をすべて吐き出させ、我が同盟、ひいては教会の魔道発展の礎にしてみせます!」

 

「いや、我が黒鷲の学級も彼を求めているよ」

リンハルトが淡々と遮る。

「彼を金鹿だけで独占するのは、フォドラの不利益だ」

 

「青獅子としても、彼の持つ暗号解読能力は無視できないな。

……マイルズ、一度、我が級の副官であるドゥドゥーの料理でも食べながら、ゆっくり話をしないか?」

ディミトリまで真顔で勧誘してくる。

 

(三学級のトップクラスが俺を取り合って修羅場を展開してる不条理!!! モブの日常を返して!!!)

 

「おーい、マイルズ! リシテア! こんなところにいたのか!」

 

さらに最悪なことに、書記室のドアががばっと開け放たれ、レオニーとクロード

「おいおい、図書館で何の大騒ぎだよ? ……って、セテスさん、それに他学級の級長さんたちまで、随分と豪華な顔ぶれじゃないか」

 

クロードが机の上の翻訳本の山と、顔を真っ青にして魂が口から出かけている俺の姿を見て、すぐにすべてを察したように、あの「ニヤリ」とした極悪な級長の笑みを浮かべた。

 

「へえ……。マイルズ、お前、今度は図書館の禁書を全部解読しちまったのか? やるねぇ。市場の危険な古代遺物の次は、教会の最高機密の紐解きか。しかも、他学級の連中まで一瞬で虜にするなんて、大した色男だ」

クロードは俺の隣に歩み寄ると、ポンと肩を叩いた。

 

「これでもう、お前が『ただのモブ』なんて言い訳は、フォドラの誰も信じないぜ? 明日からの金鹿の学級の戦術会議、お前には絶対に出席してもらうからな。ねえ、俺たちの学級の『影の最高軍師(ワケあり)』さん?」

 

(アアアアアア……。静寂の聖域だったはずの図書館が、金鹿の学級の『絆(逃げ場のない絶対包囲網)』、他学級からの『熱烈な引き抜き要請』、そして教会の『強制労働ルート』によって、完璧に、完全な形で、最高出力の魔境へと変貌しちまった……!!)

夕暮れの書記室。

 

セテスさん、老学者たち、リシテア、クロード、レオニー、さらにはディミトリにリンハルトという、フォドラの歴史を動かすレベルの濃いキャラクターたちに360度完全に包囲され、俺の「平穏なモブライフ」への祈りは、ガルグ=マクの高く聳え立つ天井の彼方へと、虚しく霧散していくのだった。

 

この大修道院、どこへ逃げても、俺の【Sランクスキル】と【限界突破】が、世界を巻き込んで大炎上を起こしてしまう。俺が本当の意味で「ただの背景」になれる日は、一体いつ訪れるのだろうか。

 

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