学園生活を満喫したいだけのモブ(チート)   作:ハスバル

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ちょっと今回は無双要素も入れてあります。


第16章:金鹿の初陣(課題)

五月も終わりに近づいたある日、俺たち金鹿の学級は、ガルグ=マク大修道院の裏手に位置する、霧の深い岩山へとやってきていた。

今月の学級課題――巡礼者を脅かす「盗賊団の掃討」。

 

「うーん、霧が深くて前がよく見えないね。これじゃあ索敵も一苦労だよ」

金鹿の級長クロードが、手にした弓の弦を軽く弾きながら眉をひそめる。

 

「全員、油断しないで。霧の奥に気配がある。……ここからは学級ごとに分かれて進むわ」

担任のベレス先生が、いつも通りの物静かで、しかし芯の通った声で生徒たちに指示を出す。

その一行の最後尾から、鎧の音を立ててついてくる影があった。

 

仮面を顔に当て、背中に槍を背負った士官学校の剣術師範――

**イエリッツァ先生**だ。

 

「……フン。お前たちの初陣など、私には関係のないこと。

……私はただ、レア様の命に従い、お前たちが全滅せぬよう後ろから見ているだけだ」

イエリッツァ先生の低く冷徹な声が、霧の中に響く。

 

「私の手を煩わせるな。

……もし私の前に敵が溢れてくれば、その時は……

容赦なく、すべてを刈り取る」

 

(ヒエッ……! 「手を出させるな」って言いつつ、仮面の奥の目が『早く敵がこっちに漏れてこないかな』って戦いたくてウズウズしてるように見えるのは俺の気のせいか……!?)

 

俺――マイルズは、列の最後尾、すなわちイエリッツァ先生の一歩手前という、精神衛生上最悪なポジションで冷や汗を流していた。

 

俺の生存戦略は、バグスキル【気配察知:S】を隠しつつ、ただの無力な平民モブとして安全圏に潜むことだ。なのに、後ろから放たれる死神のプレッシャーのせいで、気が気ではない。

 

「先生、イエリッツァ先生が怖すぎて、あたし戦う前に倒れちゃいそう~……。

マイルズくん、あたしの後ろから守ってて?」

ヒルダが当然のように俺の後ろに回り込もうとする。

 

「いやヒルダさん、俺の後ろはもっとおっかない死神がいますから! 前へ! 前へ行ってください!」

 

 

 

「――来るわ。各自、武器を構えて」

ベレス先生の鋭い声と共に、霧の奥から粗末な斧や弓を持った盗賊たちが一斉に飛び出してきた。

 

「おい! ガキどもが迷い込んできやがったぞ! 剥ぎ取れッ!」

 

「へえ、手ぐすね引いて待ってたわけか。

――ローレンツ、イグナーツ! 左右の展開は任せたよ!」

クロードが即座に指示を飛ばし、自身は素早く弓を引いて先頭の賊の足を正確に射抜く。

 

「フン、我がグロスタール家の戦術に抜かりはない!

――そこだ!」

 

ローレンツが流麗な動きで槍を突き出し、回り込もうとした斧兵を迎え撃つ。

 

「イグナーツ、君はそちらの弓兵を!」

 

「は、はい! 当ててみせます……!」

イグナーツの放った矢が、岩陰に潜んでいた敵の狙撃手を確実に無力化していく。

 

ベレス先生は生徒たちの動きを冷静に見守りつつ、自らも傭兵仕込みの無駄のない剣撃で、戦線を突破しようとする賊を確実に叩き伏せていた。

 

その頃、後方にいるイエリッツァ先生はというと――。

 

槍の柄に手をかけたまま、微動だにせず、ただ冷ややかに戦況を観察していた。本当に、ただの一歩も動く気がないらしい。

(……あ、危ねぇな。右の岩棚の上、崩れかかってる。あそこに回り込もうとしてる盗賊、上から岩が落ちてきたら金鹿の面々に直撃するぞ)

 

俺の【気配察知:S】が、戦闘の混乱で見落とされがちな「地形の危険」を察知した。

 

「クロードくん! 右の崖の上、敵が岩を落とそうとしてます! リシテアさん、あの岩棚の根元を魔法で叩けますか!?」

俺はあくまで「怯えた平民の悲鳴」を装って、大声で叫んだ。

 

「なにっ!? ――リシテア、頼む!」

 

クロードの呼びかけに、リシテアが鋭く頷く。

 

「言われなくても! ――そこ退きなさい!」

ドガァァァン! とリシテアの理魔法が岩棚を根元から爆破し、岩を落とそうとしていた賊ごと、敵の奇襲計画を粉砕した。

 

「ふぅ……。危なかったわね。マイルズ、よく気づいたわ」

リシテアが少し息を荒くしながらも、ふふん、と誇らしげに胸を張る。

 

「……ほう」

背後から、不気味な感嘆の声が漏れた。

イエリッツァ先生が、仮面の奥の瞳を僅かに動かし、俺の横顔をじっと見つめている。

 

「お前……戦況がまるで見えているかのような声のかけ方だな。ただの平民にしては、小賢しい真性の『目』を持っている……」

(ひいいいい! 先生、余計なところに食いつかないでください! 俺はただ巻き込まれたくないだけのモブなんです!!)

 

 

 

金鹿の生徒たちの見事な連携と、ベレス先生の的確な差配により、盗賊の頭目をクロードが仕留めたことで、課題は一人の負傷者も出すことなく完全な大勝利で幕を閉じた。

 

「よし、これにて一件落着だね。皆、初陣にしては上出来じゃないか?」

クロードが弓を肩に担ぎ、満足そうに笑う。

 

「ふむ……。私の手を煩わせるまでもなかったか。つまらん」

イエリッツァ先生は、結局一度も武器を振るうことなく、槍を背中に戻すと、ユラリと大修道院の方角へと歩き去っていった。

去り際、もう一度だけ俺をギロリと睨みつけるのを忘れなかったのが、本気で生きた心地がしなかった。

 

「……マイルズ」

全員が撤収の準備を始める中、ベレス先生が歩み寄ってきた。

 

「あ、ベレス先生。お疲れ様です。皆さんの戦果記録、俺がまとめて騎士団に提出しておきますね」

 

「ありがとう。

……でも、それだけじゃないわ」

ベレス先生は、いつもの無表情のまま、じっと俺の目を覗き込んできた。

 

「さっきの岩棚の指示……あれがなければ、ヒルダかイグナーツが怪我をしていたかもしれない。あなたのその『冴えた目』、ただの平民のものとは思えないの」

 

「えっ……あ、いや! あれは本当に、ただの臆病な平民の視界にたまたま入っただけで――」

 

「……隠さなくていいわ」

ベレス先生は小さく首を傾げ、ほんの僅かに、本当に微かにだけど、嬉しそうに唇を緩めた。

 

「あなたが優秀なのは、知っているから。

……これからも、私と金鹿の学級を、後ろから支えて。

……お願いね、マイルズ」

 

(アアアアアア!! 先生、無表情でそういうセリフを言うのは、本気で心臓に悪いから勘弁してください!!)

 

「おーい、マイルズ! 先生! 先に帰っちゃうよー!」

遠くからヒルダが手を振っている。

 

「今行きます!」

俺は真っ赤になった顔を隠すように、大急ぎで荷物をまとめて走り出した。

 

イエリッツァ先生の不気味な監視、そして俺のバグスキルに完全に目をつけたベレス先生。

 

戦いには参加せず、ただの便利な背景として生き延びるはずだったのに、なぜか主役たちの信頼(と疑惑)を一身に集めていく。

 

俺の「ただの無力なモブとして静かに生きたい」という切実な祈りは、今日もフォドラの霧深い山谷へと、虚しくこだましていくのだった。

 

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