学園生活を満喫したいだけのモブ(チート)   作:ハスバル

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とりあえず、自己紹介パートです。


第2章:金鹿の学級へようこそ

カツ、カツ、と石造りの廊下に自分の靴音が響く。

 

(よし、おさらいだ。挨拶は無難に。自己紹介も最低限。

レスターの田舎から出てきた、その他大勢のモブAとして

生きるんだ……!)

 

ふーっ、と深呼吸をして、俺は「金鹿の学級」の教室の

重い扉を押し開けた。

 

扉の向こうは、すでにレスター諸侯同盟の縮図のような、

賑やか(というか、まとまりのない)な空気に満ちていた。

 

「だからさーローレンツくん、その薔薇どこから

持ってきたの? 教室がちょっとトゲトゲした匂いに

なっちゃうじゃん」

 

「フッ、美を解さぬなヒルダくん。新たな級友を

 お迎えする場に、一輪の薔薇の気品を添える。

 これぞ貴族の義務というものさ」

 

(本物だ……!)

 

画面の向こうにいた金鹿のメンバーたちがそこにいた。

感動で胸が熱くなるが、いけない、今はモブになりきるときだ。

 

俺は極力気配を消し、教室の隅っこにある空いた席へと

滑り込もうとした。

 

 

しかし、

運命(チートステータス)はそれを許してくれない。

 

 

「お、新顔だな。お前が最後に揃うはずだった同盟の仲間か?」

 

声をかけてきたのは、緩く波打つ髪を揺らし、不敵で

親しみやすい笑みを浮かべた少年。

 

金鹿の級長、クロード・フォン・リーガンだった。

 

「あ、うん。初めまして。リーガン領の下級貴族の家から来ました、マイルズです。紋章もないし、これといった特技もない凡人だけど……よろしく」

 

完璧だ。我ながら教科書通りの「モブの挨拶」ができた。

これでクロードも「あぁ、よろしくな」と流してくれるはず──。

 

「……へえ?」

だが、クロードの琥珀色の瞳が、一瞬だけ鋭く細められた。彼は俺の全身を、頭の先から爪先まで、値探るような視線でじっと見つめてくる。

(……なんだ? こいつの歩き方、完全に隙がない。ただの『凡人』があんなに綺麗な重心移動をするか……?)

 

おいクロード、心の声が漏れそうなほど目がガチになってるぞ。潜在能力オールSの肉体は、普通に歩くだけで

「達人の気配」を醸し出してしまっていたらしい。

 

「まぁまぁ、クロードもそんなに睨まないの。マイルズくんが怖がっちゃうじゃん?」

 

一触即発の空気を破ったのは、ピンクのツインテールを揺らした美少女、ヒルダだった。

 

「私はヒルダ。マイルズくんって、なんか物静かで優しそうだよね。私、女の子だから力仕事とかすっごく苦手なんだけど、これからよろしくね?」

 

「あはは、よろしく、ヒルダさん。力仕事なら、俺にできることなら手伝うよ」

 

「ホント!? 嬉しい〜! 頼りにしてるね!」

 

(知ってた。サボるためにお願い上手なヒルダだけど、本当は周囲の期待が重くて怖がってる健気な子なんだよな。パシリくらい喜んでやるさ!)

 

ガハハと豪快に笑いながら、俺の背中をポンと叩いてきたのは、見上げるほどの巨体を誇る少年、ラファエルだった。手のひらが肉厚でめちゃくちゃ温かい。

 

「オデはラファエル! 飯を食うことと筋肉を鍛えることが大好きだ! お前、ちょっと線が細くて頼りねえから、オデが鍛えてやるよ! あ、そうだ。今日の飯の肉、オレの分を半分分けてやるから、いっぱい食って早く強くなれよな!」

 

(ラファエル……! 妹思いで、仲間にも自分の大事な肉を笑顔で分け与えてくれる金鹿の良心。本当に良い奴だ……!)

 

「ラファエルくん、少しうるさいですよ。ここは教室です、静かにに」

ラファエルを窘めるように、きっちりとした服装の少年が前に出た。ローレンツ=ヘルマン=グロスタールだ。彼は薔薇をすっと掲げ、俺を見下ろすように一礼した。

 

「初めまして、マイルズくん。僕はローレンツ。

 名門グロスタール家の嫡男だ。平民や下級貴族を守り、導く

ことこそが我ら名門貴族の義務。何か困ったことがあれば、この僕を頼るといい」

 

気取り屋だけど、本質はすごく気高くて責任感の強いローレンツ。彼らしい挨拶に安心する。

 

「あ、の……僕は、イグナーツ=ヴィクターです」

ローレンツの後ろから、丸眼鏡をかけた大人しそうな少年がペコリと頭を下げた。

 

「実家は同盟の商人なんです。僕は、その……親の勧めで騎士を目指してここに来たんですけど、あまり自信がなくて……。マイルズくん、お互い頑張りましょうね」

 

「よろしく、イグナーツ。一緒に頑張ろう」

 

本当は美しい絵や景色が大好きなイグナーツ。彼の優しさに心が和む。

 

「おいおい、どいつもこいつも小難しい挨拶ばっかりだな!」

 

そこで、快活に笑うオレンジショートヘアの少女が割り込んできた。レオニーだ。彼女は俺の「中の中」の地味な格好を上から下まで見ると、親しみやすそうにニカッと笑った。

 

「私はレオニー! 同盟の村の猟師の娘さ。おいマイルズ、お前も下級貴族って言っても、あんまり気取った感じがしなくていいな! 私は仕送りのために倹約しなきゃいけないし、武器の手入れやサバイバルなら得意だから、なんかあったら遠慮なく言いなよ!」

 

「ありがとう、レオニー。頼りにしてる。俺も派手な生活は苦手だから、色々教えてよ」

 

「お、話が分かるじゃん! 気に入ったよ!」

 

村の期待を背負って、必死に倹約しながら努力を重ねるレオニー。飾らない彼女の言葉が心地いい。

 

「……ふん。お気楽なことですね」

 

そんな俺たちのやり取りを、教室の奥からツンとした目で見つめる影があった。白髪の少女、リシテア=フォン=コーデリアだ。

 

「私はリシテア・フォン・コーデリア。子ども扱いされるのは大嫌いですから、そのつもりで。

あと、馴れ合うつもりはありませんから、足だけは引っ張らないでくださいね」

 

「分かってるよ、リシテア。君の邪魔にならないよう、精一杯ついていけるように頑張るよ」

 

「っ!? 呼び捨てにしないでください!

……まあ、その謙虚な姿勢だけは認めてあげますけど」

 

(焦る理由があるからこそ、人一倍努力して、虚勢を張っているリシテア。早く安心させてあげたいな……)

 

「あの……」

さらにその横から、消え入りそうな声がした。物憂げな青い瞳の少女、マリアンヌ=フォン=エドマンドだ。彼女は俺と目が合うと、怯えたように小さく肩を震わせた。

 

「私、は……マリアンヌ、です……。あの、私に関わると、あなたを不幸にしてしまうかもしれないので……あまり、お気遣いなく……すみません……」

 

「そんなことないよ、マリアンヌ。これからよろしくね」

俺が優しく微笑むと、彼女は驚いたようにパチクリと瞬きをして、また俯いてしまった。

 

「──よし、これで全員揃ったな」

 

一歩下がって全員の自己紹介を見ていたクロードが、満足そうに腕を組んだ。

 

「レスター諸侯同盟の未来を担う『金鹿の学級』へようこそ、マイルズ。見ての通り、ウチのクラスは貴族も平民もごちゃ混ぜの、一番自由な学級さ。これから面白い1年になりそうだ。よろしく頼むぜ?」

 

クラスメイトたちの顔を見回す。

みんなそれぞれ、表には出さない深い事情や葛藤を抱えながら、いま、目の前で一生懸命生きている。

 

(……うん。決めた。やっぱり、俺が裏で全部の悲劇をひっくり返そう)

 

モブとして平穏に生きたいという本音は本当だ。だけど、それ以上に──このバラバラで愛おしい金鹿のきらめきを、絶対に失わせはしない。マイルズは心の中で、静かに、しかし最高にワクワクする決意を固めるのだった。




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