学園生活を満喫したいだけのモブ(チート)   作:ハスバル

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第17章:廃城の追撃戦、モブの索敵

「――待って。まだ、終わっていないわ」

盗賊の頭目を倒し、金鹿の面々が息を整えていたその時。

ベレス先生が霧の奥を鋭く見据えて、剣を構え直した。

 

「先生、どうしたの?

敵ならもう全員のされるか逃げ出すかしたみたいだけど……」

ヒルダが首を傾げる。

 

「逃げた残党の足跡が、この先の谷の奥……

古い廃城へと続いている。

……それだけじゃない。

微かに、別の『人の気配』がするわ。

それも、ひどく怯えているような」

ベレス先生の傭兵仕込みの直感に、俺――

マイルズ=アーデントの脳内システムもまた、最悪のタイミングで同調していた。

 

ピコン。

 

【気配察知:S(潜在)】

【因果の感知:限界突破】

(ゲェーッ! この先の廃城の地下……確かに、ものすごく魔力的に不気味な連中(闇に蠢く者)と、衰弱した女の子の生体反応がハッキリ感知できるじゃねえか……!)

 

「フム……。一度大修道院に戻る猶予はなさそうですね。

クロード、ここは追撃すべきかもしれません。」

リシテアが杖を握り締め、進言する。

 

「ああ、放置してまた巡礼者が襲われても寝覚めが悪いからな。――イエリッツァ先生、俺たちはこのまま廃城へ追撃をかけますが、構いませんね?」

クロードが最後尾のイエリッツァ先生へ振り返る。

 

「……勝手にしろ。私の任務は、お前たちの命の保証(引率)のみ。……だが、その城の奥から漂う『腐臭』。

……ただの盗賊ではないな。

私の刃をこれ以上焦がすなよ、生徒たち……」

イエリッツァ先生は仮面の奥で不気味に目を細め、剣を微かに揺らした。彼は自ら戦いこそしないが、その圧倒的な威圧感のまま、静かに俺たちの背後を付いてくる。

 

「マイルズ、あなたも来なさい。

……あなたの『目』が、この先必要になる気がする」

主役たちの強行軍に引きずられるのだった。

 

 

辿り着いた廃城は、不気味な静寂に包まれていた。

逃げ込んだ盗賊の残党たちが、必死にバリケードを築いて抵抗してくる。

 

「突入する! 各自、連動して敵を排除して!」

ベレス先生の鋭い大号令。

 

「ローレンツ、正面の盾を崩して! 私は上層の弓兵を黙らせる!」

 

「了解です、我が槍の一撃、受けてみよ!」

金鹿の生徒たちが無双特有の鮮やかな連携で、砦の広間の敵を次々と無力化していく。

俺は例によって最後尾で、イエリッツァ先生の冷たい視線を背中に浴びながら、落ちている武器を回収する「ただの物資調達係」に徹していた。

 

しかし、城の最奥、玉座の間の裏手に差し掛かった時。

「……おかしいね。

逃げ込んだはずの残党の気配が、ここで完全に途絶えている」

ベレス先生が眉をひそめ、壁の石組みを調べる。

 

「隠し通路か何かかな?

でも、この暗さじゃ、スイッチを探すだけでも

日が暮れちゃうよ~」

ヒルダが困ったように大斧を地面につく。

 

俺の脳内マップには、壁の裏にある

【隠し扉の解除レバー:S】の位置が、ご丁寧に光り輝いて表示されていた。

これを見過ごすのは、モブ云々の前に寝覚めが悪すぎる。

 

「あ、あれ~? おかしいなー、この壁の燭台、なんかグラグラしてませんかー?(棒読み)」

 

俺は全力で間抜けな声を出しながら、壁に設置された古い鉄製の燭台を、ガコンと下に引き下げた。

 

ズゴゴゴゴゴゴ……!

 

「なっ……!? 隠し扉が開いた!?」

ローレンツが目を剥く。

 

「マイルズ、君さぁ……

勘が良すぎるなんてレベルじゃないんだけど」

クロードが呆れ半分、感心半分の目で俺を見てくるが、今はそれを気にする暇はない。

 

「奥から叫び声が聞こえる! 行くよ!」

ベレス先生を先頭に、俺たちは一気に地下の闇へと駆け下りた。

 

 

 

地下の薄暗い牢獄。

そこでは、ローブを纏った不気味な魔術兵たちが、一人の赤髪の少女を囲んでいた。少女は衣服を汚し、酷く衰弱しているものの、その瞳にはまだ強い光が残っている。

 

「くっ、ガルグ=マクの回し者か……! 計画を邪魔させる!」

 

「――させない!」

ベレス先生の剣が閃き、振り下ろされようとした魔術兵の刃を完璧に弾き飛ばした。

 

「金鹿の皆、突撃! 女の子を助け出すよ!」

クロードの放った矢が敵の詠唱を遮り、リシテアの闇魔法とローレンツの突撃が、牢獄の魔術兵たちを完全に圧倒していく。

 

「あ、ありがとうございます……!

私は……私は、アドラスティア帝国の

モニカ=フォン=オックスです……!」

 

助け出された赤髪の少女――モニカが、ベレス先生の手を握り締めながら、涙ながらに自身の名を名乗った。二年前、公に失踪したとされていた帝国貴族の令嬢だ。

 

「モニカさん、もう大丈夫ですよ。怪我はありませんか?」

俺はバックパックから、お茶会の雑用で常備していた特製の「気力回復ハーブ水(水筒)」を取り出し、彼女に差し出した。

 

「あ、ありがとうございます……! なんて口当たりの良い、優しいお味……。冷え切った身体に染み渡りますわ……!」

モニカは一気にハーブ水を飲み干し、少しだけ頬に赤みが戻った。

 

その一連の様子を、部屋の入り口で腕を組んで見ていた

イエリッツァ先生が、仮面の奥でフッと息を漏らした。

「……モニカ=フォン=オックス、か。

フン、生きていたのだな。

……お前たちの課題は、これで完全に『大成功』というわけだ」

 

 

 

だが、感動の再会に浸る時間は一瞬にして吹き飛んだ。

じわじわと、地下牢の壁や床から、赤黒い不気味な光の術式が浮かび上がってくる。

同時に、先ほど倒したはずの魔術兵たちとは比較にならないほどの重圧を伴った、異様な集団が闇の中から現れた。

 

「モニカを連れて帰ることは許さん。ここを貴様らの墓場としてくれよう。」

 

「モニカを逃がすな!クロニエ様に八つ裂きにされるぞ!」

不気味な仮面をつけ、肌の白い謎の魔道士たちが、一斉に複雑な呪文を唱え始める。地下牢全体の空気がひび割れ、禍々しい闇の弾丸が雨あられと金鹿の面々へ降り注いだ。

 

「リシテア、防御の魔陣を! ラファエル、モニカさんを後ろへ!」

クロードが叫びながら、素早く風の矢を放って魔道士の一人を怯ませる。

 

リシテアが必死に杖を掲げ、紫色の障壁を展開するが、敵の放つ魔法に圧され、その足元がじりじりと後退していく。

(マズい、このままじゃ地下室ごと生き埋めにされる! モブの俺がヘイトを買ってでも、詠唱の結節点を崩さなきゃならねえ……!)

 

ピコン。

 

【戦闘アシスト:敵魔力循環の可視化】

俺の視界に、魔道士たちが展開している巨大な複合魔方陣の

「中心核(コア)」が、赤く光るラインとなって浮かび上がった。位置は、中央のひときわ背の高い魔道士の足元だ。

 

「す、すいませーん! 足元が滑って転びまーす!!」

俺はわざとらしく叫びながら、床のぬかるみに足を取られたフリをして前方にスライディングした。その勢いのまま、手にした頑丈な鉄製の湯沸かしポット(物資回収品)を、魔方陣の中心核へと正確に投げつける。

 

ガキィィィン!!

 

「なっ……何事だ!?」

絶妙なタイミングでポットが魔方陣の幾何学模様を物質的に遮断し、集中的に練り上げられていた魔力の流れが完全に逆流した。

 

ドガァァァン!!

 

「ぐわぁぁっ!? 術式が、暴走しただと!?」

魔道士たちが自らの魔力のバックラッシュに巻き込まれ、次々と爆発に吹き飛ばされていく。

 

「ナイスだ、マイルズ!

みんな、今のうちに地上へ脱出するぞ!」

クロードが即座に指示を出し、ラファエルがモニカを背負って猛然と走り出す。

ベレス先生を筆頭に、俺たちは崩壊を始めた地下牢の階段を駆け上がった。

 

 

 

激しい砂煙を上げながら廃城の中庭へと飛び出すと、夕日が降り注いでいた。

「はぁ、はぁ……! なんとか外に出られたねぇ……」

ヒルダが胸を撫で下ろした、その瞬間。

 

 

「あははははは! 逃げられると思った?

逃がさないよ、一匹もねえ!」

上空から、鈴を転がすような、しかし完全に狂気に満ちた甲高い笑い声が降ってきた。

 

中庭の崩れた外壁の上に、奇抜な白と黒の衣装を纏い、編み込んだ髪を揺らす一人の少女が立っていた。

その手には、波打つ不気味な短剣が握られている。

――**クロニエ**だ。

 

「誰だ、お前は……!?」

クロードが弓を番え、鋭い視線を向ける。

 

「アタシの名前はクロニエ! あんたの命を奪うものよ?

なんちゃって。

クロニエの姿が一瞬でブレた。常人の目では到底捉えきれない超高速のステップで、彼女はベレス先生の眼前へと肉薄し、その短剣を容赦なく突き出す。

 

キィィィィン!!

 

ベレス先生の剣がそれを辛うじて受け止めるが、クロニエの変則的かつ苛烈な猛攻は止まらない。

残像を残しながら、ベレス先生の死角から次々と刃が襲いかかる。

 

「あはは! 遅い遅い! もっと必死に踊ってよ!」

 

「くっ……! なんて速度……!」

 

ベレス先生の頬から、一筋の血が伝う。金鹿の生徒たちも加勢しようとするが、クロニエのあまりのスピードに、攻撃の焦点を合わせることができない。

 

「遺言があれなら今のうちに言っとけば?

アタシは聞かないけどさ!ギャハハハ!」

 

「モニカ……あんただけは逃さないよ!

アタシが使ってやるんだからね!」

(マズい、クロニエの速度はバグレベルだ!

先生が捉えきれないなら、俺のシステムで軌道を先読みして、一瞬だけでも動きを止めるしかない!)

 

ピコン。

 

【予測完了:3秒後の着地地点――先生の右斜め後方】

俺はバックパックから、ハーブの調合に使おうと思って拾っておいた「ネバネバした松脂の袋」を引っ張り出した。

そして、クロニエが次に跳ぶであろう空間へ向けて、全力で投げつける。

 

パチンッ!

 

「あ痛っ!? なにこれ、ベタベタして……動きが――」

空中で松脂の袋を顔面に受けたクロニエが、一瞬だけ体勢を崩し、その超人的な速度が完全に停止した。

 

「そこ――!」

 

ベレス先生がその決定的な隙を見逃すはずがなかった。剣がクロニエの胸元を鋭く穿つ。

 

ズシャァァァッ!

 

「ぎゃあああっ!? 痛い、痛いじゃないのよぉぉっ!!」

激しい鮮血を撒き散らしながら、クロニエは後方へと大きく吹っ飛んだ。彼女は胸を押さえ、殺意に満ちた眼で俺とベレス先生を睨みつける。

「よくも……よくもアタシの身体を傷つけたな!

許さない、絶対に許さないんだから!

――チッ、こうなったら……!!この前、捕まえたあれを出しなさい!」

クロニエが謎の魔道士たちに命令をすると

地響きのような音が辺りを包んだ

 

 

##

地響きと共に、廃城の大地が大きく裂けた。

そこから這い上がってきたのは、目が怪しく光り、全身が漆黒の硬質な皮膚で覆われた、山のような巨体を誇る

異形の怪物――**魔獣**だった。

その咆哮一発で、周囲の霧が完全に吹き飛ぶほどの

風圧が巻き起こる。

 

グルァァァァァァァァッ!!!!!

 

「な、何ですかあの怪物は……!?

身体の底が震えるような、おぞましい気配…!」

リシテアの声が微かに震える。

 

「これがいわゆる『魔獣』ってやつか……!

おいおい、冗談だろ、こんなのどうやって倒すんだよ!」

クロードが必死に弓を構える。

 

「金鹿の皆、うろたえないで!」

ベレス先生の声が、戦場に響き渡る。

 

「魔獣には『障壁』があるわ! 全員で一箇所を集中攻撃して、まずはその外殻を破壊するのよ!」

「よし、俺がヘイトを買う!

――こっちだ、デカブツ!」

クロードが魔獣の眼前に向かって矢を連射し、その注意を引きつける。

魔獣の巨大な爪がクロードを襲うが、彼は間一髪のところでそれを躱した。

 

「ラファエル、ヒルダ! 右前足の障壁を叩いて!」

 

「おうよ! 筋肉の底力、見せてやるぜぇ!」

 

「もう、本当に人使いが荒いんだからー! ――ハァァァッ!」

二人の巨大な大斧と拳が、魔獣の右前足の障壁へと炸裂する。

バリィィンとガラスが割れるような音がして、魔獣の障壁が一箇所、完全に剥がれ落ちた。

 

「ローレンツ、リシテア! 連動してその隙間に最大火力を!」

 

「我がグロスタール家の誇りにかけて……いざ!」 

 

「消え失せなさい! ダークスパイク!」

剥き出しになった魔獣の肉体へと、ローレンツの槍とリシテアの闇魔法が突き刺さる。

魔獣は苦悶の咆哮を上げ、巨体を激しく狂わせた。

だが、その狂乱した魔獣の尾が、避難していたモニカと、彼女を守る位置にいたレオニーの方へと猛烈な速度で振り下ろされた。

 

「しまっ――!?」

レオニーが槍で受け止めようとするが、その質量差は絶望的だった。

 

(動け、俺の身体……! ここで二人を死なせたら、モブとしての寝覚めが悪すぎるだろ!)

 

ピコン。

 

【潜在能力解放:瞬間最高速度(限界突破)】

俺の身体は、思考よりも先に動いていた。完全に光を置き去りにする速度でブレ、レオニーとモニカの目の前へと滑り込む。手にしたのは、城内で回収した「壊れかけの大きな鉄の盾」。

 

「ハァァァァッ!!」

 

ズガァァァァァァン!!!!!

 

魔獣の巨大な尾の直撃を、俺は盾の角度を完璧に傾け、受け流す形で防御した。凄まじい衝撃波が中庭を駆け抜け、俺の持っていた盾は木っ端微塵に砕け散ったが、レオニーとモニカには擦り傷一つついていない。

 

「え……? マイルズ……?」

レオニーが、信じられないものを見るような目で俺を見つめる。

 

「ベレス先生、今です! 先生、魔獣の頭上の核を!」

俺は砕けた盾を放り出し、全力で叫んだ。

 

「――これで、終わりよ!」

ベレス先生が飛び、剣を魔獣の脳鉄へとその刃を突き立てた。

魔獣の巨体を内側から破壊していく。

 

グルァァ……ァ……。

 

「うそ、魔獣が……こんな連中にやられちゃうわけ?」

地響きを立てて、魔獣はその場へ崩れ落ち、やがて黒い霧となって消滅した。

その隙に、傷ついたクロニエは「あんた達!絶対に許さないわよ!覚えておきなさい!」と言い残し、闇の転移術式で姿を消していたのだった。

 

 

 

大修道院への帰路。

救出されたモニカは騎士団の馬車で保護され、俺たち金鹿の生徒は夕暮れの山道を歩いていた。

 

「マイルズ。……また、あなたに助けられたわね」

 

ベレス先生が、歩調を緩めて俺の隣に並ぶ。

その引き締まったタイツ姿の脚が、歩くたびに夕日に照らされて健康的な美しさを放っている。

「いやいや、先生。俺はただ、壁の燭台が気になったり、手元にあったものを投げただけで、戦ったのは先生方ですから!」

 

「……そう。でも、あなたが隠し扉を開けなければ、あの不気味な魔道士たちの術式を崩さなければ、そしてクロニエの動きを止め、魔獣の攻撃から皆を守らなければ……

モニカも私たちも、無事では済まなかった」

 

無表情な顔のまま、至近距離で視線を向けてくるベレス先生。

 

「それに、あなたが私に内緒で持っていたあのハーブ水、とても良い香りがした。

……今度、私にも淹れてくれる?」

(アアアアアア!! 先生、そういう約束を後ろで聞き耳を立ててるクロードたちの前でするのは本気で勘弁してください!!)

 

「おーい、マイルズくん! 大修道院に戻ったら、今日の君の活躍(?)を祝って、またあの美味しいミートパイ作ってよー!」

 

ヒルダが後ろから無邪気に叫ぶ。

 

「フフ、マイルズ。君の『索敵の才能』と『調理の才能』、我がグロスタール家が本気で囲い込みを検討せねばなりませんね」

ローレンツまでが真面目な顔でそんなことを言い出す始末だ。

 

さらには、遠くガルグ=マクの門前で、噂を聞きつけた青獅子のイングリットが「マイルズくんが戻られたと聞きましたわ! 今日の晩餐こそ、我が専属料理人の話を――!」

と待ち構えている姿まで視界に入ってきた。

 

能力を隠し、ただのモブとして静かに卒業する

はずだった俺の学園生活。

モニカを救出し、闇の勢力を退けたことで、歴史の表舞台(と主役たちの包囲網)へ、俺はさらに深く引きずり込まれていくのだった。

 




剣のところが既に天帝の剣を持ってたりしたので訂正しました。
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