学園生活を満喫したいだけのモブ(チート)   作:ハスバル

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第19章:不穏な影

モニカ・フォン・オックス男爵令嬢を廃城から救出し、ガルグ=マク大修道院へと帰還した金鹿の学級、ベレス先生、そしてマイルズ。

大修道院に戻った直後、救護室での治療を終えたモニカの口から「自分を拉致し、成り代わろうとしていた犯人」の名が語られたことで、大修道院の空気は一変した。

 

その名は――図書館長、トマシュ。

 

激震が走る中、大司教レアの命により、セイロス騎士団が即座に大修道院内を動いた。

数日留守にしていたトマシュが大修道院へ帰還その知らせを受けセイロス騎士団が、大修道院の回廊を歩いていたトマシュの行く手と背後を、完全に武装したセイロス教団の騎士たちが音もなく、しかし強固に包囲した。

緊迫した空気が回廊を満たす中、先頭の騎士がトマシュの数歩手前で足を止め、冷徹な声を浴びせる。

 

「大司教がお呼びである。トマシュ殿、一緒に来てもらおうか」

 

騎士の衣服に刻まれたセイロスの紋章、そして抜刀こそしないものの、いつでも獲物に飛びかかれるよう張り詰めた騎士たちの体勢。トマシュはいつも通りの温厚な老人の笑みを浮かべたまま、ゆっくりと首を傾げた。

 

「おや、騎士の方々……。

私のような老人に、一体何のご用ですかな?」

 

トマシュの声には、長年大修道院に仕えてきた者らしい、穏やかな慈愛がこもっているように聞こえた。

だが、その包囲のすぐ外側、ベレス先生やクロード、そしてマイルズたちと共に様子を見守っていたモニカが、トマシュの姿を見た瞬間に恐怖で身体を激しく震わせ、悲鳴のような声をあげた。

 

「間違いありません……! 私を襲い、あの廃城に監禁したのは……その人です!!」

 

モニカの決定的な証言が、回廊に鋭く突き刺さる。

周囲の騎士たちの目が一瞬にして鋭くなり、一斉にトマシュへと武器を向けた。ベレス先生は無表情のまま、腰の鋼の剣の柄に指をかける。

その瞬間、トマシュの顔から、あの温厚な老人の笑みが完全に消え失せた。

 

「ハァ……。まさか、あの小娘を生かして連れ戻されるとは。

まぁよい……」

その声は、普段のトマシュのものとは全く異なる、低く冷酷な響きへと変質していた。

 

トマシュは抱えていた古文書を床へと放り捨てると、ゆっくりと顔を上げる。その皮膚が、衣服が、まるで陽炎のように激しく歪み始めた。

光が収まったそこに立っていたのは、人間のそれとはかけ離れた、青白い肌と奇怪な装束を身にまとった

「闇に蠢く者」の魔道士――ソロンとしての、おぞましい本来の姿だった。

 

「地上の獣どもが。ここで私を捕らえられると思っているのか」

 

「くっ、化けの皮を脱ぎ捨てたか! 捕らえろ!」

セイロス騎士団の鋭い号令とともに騎士たちが一斉に飛びかかろうとする。

 

だが、ソロンが不気味に腕を掲げると、彼の足元から禍々しい暗黒の魔力が爆発的に噴き出した。空間そのものが歪むほどの不気味な光が、回廊の石柱を包み込む。

 

「喜ぶがいい。モニカを奪還されたとはいえ……我らの計画の歯車は、すでに回り始めているのだからな……!」

 

ソロンはそう呪わしげに言い放つと、誰もが近づくことすらできない圧倒的な魔力で、足元に高度な転移魔方陣を展開した。

 

「逃がすか……!」

ベレス先生が地を蹴り、鋼の剣を構えて間合いを詰めようとしたが、それよりも早く、凄まじい闇の閃光が周囲の視界を完全に奪った。

 

光が収まり、一同が視線をもとに戻した時

――そこには、引き千切られた古い羊皮紙の破片だけが床に散らばっており、ソロンの姿は、跡形もなく掻き消えていた。

 

 

 

長年、教団の心臓部である図書館に潜伏していた重鎮が、実は人類の敵である「闇に蠢く者」だったという事実は、ガルグ=マク全体、ひいてはフォドラ全土に計り知れない激震をもたらすことになる。

教団の防衛体制の再構築、そして各国の警戒は一気に最高潮へと達するはずだった。

静まり返る場で、ベレス先生は静かに鋼の剣の柄から手を離し、乱れた空気を整えるように金鹿の生徒たちの様子を確認した。そして、少し離れた場所で鉄の盾を構えたまま立ち尽くしているマイルズへと視線を向ける。

 

「マイルズ。……怪我はない?」

先生の声はいつも通り淡々としていた。

 

「はい、先生。俺は大丈夫です」

マイルズが少し緊張した面持ちで答えると、ベレス先生は小さく、しかし確実に頷いた。

 

「……そう。ならいい。全員、一度教室へ戻りましょう。セテス殿たちの指示を待つ」

 

先生はそう告げると、先を歩くクロードたちの後を追って、すたすたと歩き出していった。

 

トマシュという存在が消え去り、歴史は『無双』のシナリオ通り、急激な変革へのカウントダウンを始めていた。マイルズは、腕に残るあの禍々しい魔力の余韻を噛み締めながら、これから訪れるであろう激動の戦乱を予感し、静かに皆の後を追うのだった。

 




そろそろシリアス回抜けてぇなぁ
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