学園生活を満喫したいだけのモブ(チート)   作:ハスバル

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第21章:張り詰めた糸の緩み

トマシュ――もとい、謎の魔道士「ソロン」の電撃的な逃亡劇から、丸三日が経過した。

大修道院内は、最初の四十八時間こそセイロス騎士団が血眼になって地下通路や不審者を捜索し、息の詰まるような緊張感に包まれていた。金鹿の級長であるクロードも、各国の不穏な動きを警戒して連日通信用の伝書鳩を飛ばし、ベレス先生も常に鋼の剣に手をかけられる位置をキープしていた。

 

だが――不気味なほどに、何も起きなかった。

 

ソロンは跡形もなく消え去り、彼が残した警備配置図の座標をいくら掘り返しても、すでに魔術的な痕跡は完全に消去されたあとだった。

教団側もこれ以上、生徒たちを自室に監禁し続けてフォドラ全土に無用なパニックを植え付けるわけにはいかない。

 

四日目の朝、大聖堂の鐘の音と共に、セテスからの通達が大修道院内に響いた。

 

「――諸君。トマシュ殿の件に関し、騎士団による全域の捜索は完了した。安全が確認されたため、発令されていた最高警戒態勢、および各学級の一時解散を視野に入れた自宅待機命令を、これより解除する。生徒諸君は、本日から通常の講義および大修道院内での当番活動を再開するように」

 

その放送が流れた瞬間、金鹿の教室からは、安堵のため息が一斉に漏れ出た。

 

「ふぅ……。一時はどうなることかと思ったけど、ひとまずお家に帰されなくて済んだみたいね〜。私、荷造りするだけでもう疲れちゃってたもん」

ヒルダが机に突っ伏しながら、いつもの甘ったるい声で文句を言う。

 

「だが、油断は禁物だ。あのトマシュ殿が化け物だったという事実は変わらない。我々貴族は、常に最悪の事態を想定して動くべきなのだからね。……そうだろう、マイルズ?」

ローレンツが薔薇の香りを漂わせそうな優雅な仕草で、教室の後方で静かに佇んでいたマイルズに話を振る。

 

「あ、はい。ローレンツさんの仰る通りだと思います。俺なんかは、またいつ当番活動の予定がひっくり返るかヒヤヒヤしていましたから、通常の日常に戻ってくれて助かりました」

マイルズは、あの夜にソロンのローブを引きちぎってしまったボロボロの鉄の盾を、こっそり机の陰に隠しながら愛想笑いを浮かべた。

 

教室の前方では、級長のクロードが顎に手を当て、ベレス先生と静かに視線を交わしていた。

二人の間にある距離感は、まだお互いの出方を窺うような、士官学校初期の「支援C」の硬さが残っている。けれど、その瞳の奥にある危機感は共通していた。

 

「ひとまず、表面上の平穏は戻った、か」

クロードが席を立ち、ベレス先生の隣へと歩み寄る。

 

「先生、教団側はこれで幕引きにするつもりかね?」

 

「……表向きは、そうするしかないのだと思う」

ベレスは無表情のまま、冷徹なトーンで答えた。

 

「でも、騎士団の配備は変わっていない。裏での警戒は続いているわ。

……あなたたちも、不用意に一人で出歩かないこと」

 

「了解、了解。先生の言うことは聞いておくもんだしね」

クロードは飄々と肩をすくめると、教室の後ろで雑用に戻ろうとしているマイルズの方へと視線を向けた。

 

「さて、マイルズ。警戒が解けたってことは、溜まりに溜まった厩舎の清掃当番が俺たちを待ってるってことだ。行くぜ、歴史の生き証人さん」

 

「ええ、喜んで。あの夜の恐怖に比べたら、馬の糞尿の処理なんて天国のようなものですよ」

 

マイルズは苦笑いしながら、スコップを手に取った。

大修道院の危機は、ひとまず水面下へと沈んだ。

しかし、この数日間の「一時解散の危機」を経て、三国それぞれの思惑が水面下でより深く、より迅速に絡み合い始めたことは間違いない。

歴史の針は確かに進んでいる。だが、今の彼らに与えられたのは、嵐の前の、ほんのひとときの「日常」だった。

 

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