学園生活を満喫したいだけのモブ(チート)   作:ハスバル

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マイルズのオリジナル防具
【リフレクの盾】(分類:盾 / 錬成によってのみ可能)魔力を弾く結晶が埋め込まれた盾。(元フライパン)重装の心得がある者が扱えば、敵の攻撃を受け流しつつ、その威力をそのまま撃ち返す。(中威力魔法まで)
能力値(ステータス)
守備:+4
(物理への防御力は一般的な「鉄の盾」中級程度)
魔防:+2
重さ:+2
必殺回避:+2

反映される技能:重装


第23章:蒼き獅子と三男坊の匙(さじ)

士官学校では、各学級の連携を強化するための「合同戦術演習」が企画された。

今回の対象は、クロード率いる【金鹿の学級】と、ディミトリ率いる【青獅子の学級】。

午前は軍事演習場での模擬戦、そして午後は両学級の親睦を深めるための野外調理実習という、文武両面のカリキュラムである。

 

「よし、皆。午前中の模擬戦を始めるわ。相手は王国の精鋭だけど、いつも通りにやれば大丈夫」

演習場の前で、ベレス先生が淡々と指示を下す。

 

「先生の言う通りだ。だが、相手の級長はあのディミトリだからな。まともに正面からぶつかったら、こっちの前衛が何人すっ飛ぶか分からないぜ」

クロードが弓の弦を鳴らしながら、不敵に笑う。

 

その金鹿の陣形の最後尾。マイルズは、前回の演習で真っ黒に焦げた「超耐熱魔道フライパン盾」(リフレクの盾)を背中に背負い、両手には大きな麻袋を抱えて控えていた。

 

袋の中身は、午後の調理実習に使うためのジャガイモ、人参、そして厨房の裏で仕込んできた特製の合わせ味噌と出汁(だし)の瓶だ。

 

「マイルズ。あなた、また変なものを背負っている」

ベレス先生の鋭い視線が、マイルズの背中の黒焦げた円盾(フライパン)に注がれる。

 

「あ、先生。これ、一応綺麗に磨して煤は落としたので、午後の煮込み料理の大鍋の蓋(ふた)としても使える優れものです」

「……そう。怪我だけは、しないように」

先生は不器用な生真面目さでそう釘を刺すと、青獅子学級の待つ演習場の中心へと歩き出した。

 

「はああっ!」

演習場に、凄まじい風切り音と金属音が響き渡る。

青獅子学級の級長、ディミトリ=フォン=ブレーダッドが振るう訓練用の鉄槍は、模擬戦用とは思えないほどの質量と破壊力を伴って、金鹿の前衛を圧倒していた。

 

「くっ、何という力だ……! これが王国の『怪力王子』

!噂は本当だったのか!」

ローレンツが必死に槍で受け流そうとするが、ディミトリの一撃を受けるたびに、彼の足元の土が削れていく。

 

「ローレンツ、無理すんな! 下がれ!」

クロードの放った矢がディミトリの足元を牽制するが、青獅子側からはイングリットや、大盾を構えたドゥドゥーが壁となって前進を阻む。

 

「そこだ、逃がさないよ!」

演習場の隅の物陰から、青獅子のアッシュが鋭い声を上げ、正確無比な矢を放ってきた。彼は生真面目な性格そのままに、金鹿の動きを完璧に予測し、的確に退路を断っていく。

 

うわ〜、アッシュくんの狙撃、全然外してくれないし連携もばっちりだし……。

ねえ、誰か代わってよ〜、私もう疲れちゃった〜…」

ヒルダが斧を振り回しながら悲鳴をあげる。

 

模擬戦は青獅子学級の優勢で進んでいた。

そんな乱戦の最中、マイルズは演習場の端で主役たちの激闘を眺めていた。

(さすが王国、前衛の固さも後衛の狙撃の正確さも尋常じゃないな。……おっと、あのままだとヒルダさんがアッシュくんの仕掛けた牽制の矢の範囲に踏み込むぞ)

 

そう思った瞬間、マイルズの足元に、アッシュが放った「地面を削って目眩ましをするための仕掛け(演習用)」の不発弾が転がってきた。小さな火花がチチチ……と音を立てている。

 

「ひぇっ!? なんで俺のところに!?」

マイルズは慌てて飛び退こうとしたが、バランスを崩し、またしても盛大に前のめりに転倒した。

 

その拍子に、背負っていたリフレクの盾(元フライパン)が背中から外れ、地面に落ちていた火魔法の不発弾をガバッと覆い隠すようにひっくり返った。

 

その瞬間。

 

ドバァァァン!!!

フライパンの内部で、火魔法の不発弾が完全に爆発した。

しかし、その衝撃は盾の分厚い鉄壁によって完全に密閉され、外には一切漏れ出さなかった。

代わりに、密閉された爆発の凄まじい圧力が、フライパンの底を「ポンッ!」とロケットのように真上へと打ち上げた。

 

空高く飛び上がった真っ黒な盾

それが、放物線を描いて落ちていった先は――まさに今、猛烈な勢いで突撃を仕掛けようとしていたディミトリの頭上だった。

「む……? 上空からの攻撃か!?」

ディミトリは卓越した武人の直感で上空の気配を察知し、手にした訓練用の鉄槍で、落ちてくるフライパンを完璧に迎撃(ジャストミート)した。

 

バキィィィィン!!!

 

凄まじい打撃音が響き渡る。

本来ならフライパンが火の粉を散らして吹き飛ぶはずだった。しかし、相手は幾多の直火を耐え抜いた超頑丈なフライパンの底である。

ディミトリの常人離れした怪力が、訓練用の鉄槍を通じてフライパンに伝わった瞬間――なんと、訓練用の槍の刃先がベキリと折れ、その衝撃がディミトリの両腕へと跳ね返った。

 

「な、何だと……!? 俺の槍が……いや、この鉄の硬度は一体……!?」

ディミトリが驚愕し、その動きが完全に止まる。

 

「そこだ!」

クロードがその隙を見逃さず叫ぶ。

 

ベレス先生の鋼の剣が、ディミトリの首筋の手前でピタリと止まった。

「――そこまで。一本」

 

ベレス先生の冷徹な宣言が演習場に響き渡り、午前中の模擬戦は、まさかの「金鹿の学級の逆転勝利」という幕切れを迎えたのだった。

地面には、ディミトリの怪力でさらにベコベコに凹んだフライパンが、寂しげに転がっていた。

 

「……す、すみません、ディミトリさん! 槍を壊しちゃって!」

マイルズが這いつくばりながら駆け寄ると、ディミトリは痺れた両腕をさすりながら、信じられないものを見る目でマイルズを見つめた。

 

「いや、気にするな……。

俺の不徳だ。しかし、君が投げたあの円盾……。王国のいかなる名匠が鍛えた盾よりも重く、硬かった。

金鹿の学級には、恐るべき隠し玉がいるのだな……」

 

「隠し玉っていうか、ただの厨房の粗大ゴミを加工した物なんですけど……」

 

マイルズの弁明は、王国の生真面目な王子には「底知れぬ達人の謙遜」にしか聞こえないようだった。

午後からは、演習場の脇にある広場での野外調理実習(親睦会)が始まった。

 

午前中の敗北が響いたのか、あるいはマイルズに衝撃を受けたのか、青獅子学級の面々はどこか緊張した面持ちで大鍋の前に集まっていた。

特にアッシュは、マイルズが包丁を握っているのを見て「あの、マイルズくん、さっきの盾の扱いといい、君は本当はどこかの隠密部隊の出身なのかい……?」と真面目な顔で尋ねてくる始末だ。

 

「これはいけない。せっかくの親睦会がこれでは台なしだ」

マイルズは腕をまくり、持参した食材をまな板の上に並べた。

 

フォドラの貴族たちが好むのは、肉をふんだんに使った豪華なステーキや、澄んだスープ(コンソメ)だが、平民街で育ったマイルズが作るのは、全く異なるアプローチの料理だった。

 

「よし、今日は王国の寒い気候にも負けない、特製の『具だくさん豚汁』を作ります」

マイルズは手際よくジャガイモや人参、大根を不揃いな乱切りにしていった。肉は食堂の余りの豚の脂身の多い部分を使い、これを大鍋の底でじっくりと炒めて油を引き出す。

 

クツクツと、香ばしい匂いが広場に部屋の隅まで漂い始めると、青獅子の食いしん坊(?)たち、特にドゥドゥーやイングリットの鼻がピクリと動いた。

 

「……妙な匂いだな。だが、悪くない。肉の脂と、根菜の香りが調和している」

ドゥドゥーが真面目な顔で鍋の中身を覗き込む。

 

「これ、何のスパイスを使っているの? 私、見たことがないわ」

イングリットが我慢できないといった様子で、喉を鳴らしながら尋ねてきた。

 

「これは『味噌』っていう、同盟の東の方の平民街でよく使われる発酵調味料です。これを大修道院の特製出汁(昆布と鰹節の合わせ出汁)で溶かすと、どんなに安いお肉や余ったお野菜でも、極上のスープになるんですよ」

マイルズは、あのディミトリに凹まされたフライパンの盾(綺麗に洗浄済み)を「大鍋の蓋」として上に乗せ、じっくりと具材を煮込んでいった。

フライパンの気密性は完璧で、大鍋の内部の熱を一切逃がさない。

 

―――数十分後。

 

マイルズが「蓋」を外すと、濃密で、どこか懐かしく、身体の芯から温まるような大豆と出汁の香気が、湯気と共に一気に広がった。

 

「さあ、お待たせしました! 金鹿特製、具だくさん豚汁です! 王国の皆さんも、冷めないうちにどうぞ!」

 

マイルズが木製のお椀にたっぷりと具だくさんの汁を注ぎ、ディミトリやイングリットに手渡していく。

最初は怪訝そうな顔をしていたディミトリだったが、お椀から立ち上る湯気を一息吸い込むと、意を決したように汁を口に運んだ。

 

「――っ!?」

ディミトリの目が大きく見開かれた。彼は無言のまま、ハフハフと息を吐きながら、大ぶりのジャガイモと豚肉を次々と口に放り込んでいく。

「な、何だこれは……。俺は昔から、味覚が酷く鈍くてな……何を食っても砂を噛むようだったのだが。

この汁は……温かい。いや、味が……大地の深い旨味が、はっきりと分かる……!」

王子のその言葉に、青獅子の面々が衝撃を受ける。

 

「殿下が、味を感じている……!?」ドゥドゥーの目が丸くなる。

 

「美味しい……! 美味しいわ、これ! 根菜の甘みとお肉のコクが、この茶色いスープに完全に溶け込んでいるわ! おかわり! おかわりはあるかしら!?」

イングリットはすでに一杯目を完食し、目を輝かせてお椀を差し出していた。

 

「わあ、本当に美味しい。なんだか故郷を思い出すような、ほっとする味だね。マイルズくん、良ければ今度僕にも作り方を教えてくれないかい?」

アッシュもお椀を両手で大事そうに抱えながら、嬉しそうに頬を緩めている。

 

「フハハ、どうだい王国の皆さん。うちの学級のマイルズの腕前は。策謀だけじゃなく、胃袋を掴むのも同盟の戦術のうちさ」

クロードが自分の分の器を持ちながら、得意げに笑う。

 

広場を包んでいた緊迫した空気は、マイルズが作った一杯の料理によって、完全に融解していった。

貴族も平民も、王国も同盟も関係なく、誰もが笑顔で大鍋を囲み、おかわりを競い合っている。

その喧騒から少し離れた木陰で、ベレス先生が自分のお椀を静かに見つめていた。

 

彼女は一口、汁をすすると、いつも通りの無表情のまま、トコトコとマイルズの隣へと歩み寄ってきた。

彼女がマイルズに向ける眼差しには、先ほどの模擬戦の手柄と、この料理の腕に対する、確かな信頼が宿っていた。

 

「マイルズ。……この料理、とても温かい。あなた、金鹿の学級にいてくれて、本当に良かった」

 

「……先生」

(ヤバい!…ゲーム内で沢山声を聞いたのにいざ自分へ言われると破壊力がヤバい!…)

まだ深い感情こそ見えないものの、不器用ながらも自らの生徒を誇らしく思うベレス先生の言葉に、マイルズは胸が熱くなるのを感じた。

 

「ありがとうございます、先生。お口に合って良かったです」

歴史がどれほど激動しようとも、トマシュという闇の存在がどれほどフォドラを脅かそうとも。

この大修道院の空の下で、三国がこうして一つの鍋を囲んで笑い合える未来があるならば、自分の「フライパン盾」の奇跡も、少しは役に立ったのかもしれない。

 

マイルズは、イングリットの「おかわり三杯目!」という豪快な声に応えながら、再び大きなお玉を握り直すのだった。

 

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