「――以上の術式展開こそが、フリュムの乱において用いられた魔道の基礎である。諸君、しっかり記憶に留めておくように」
教壇に立つのは、立派な白髭を蓄え、片目にモノクル(片眼鏡)を光らせた老教師、ハンネマン先生だ。
午前の理学(魔道)の講義。俺は「目立たない席」の鉄則である、後ろから二番目の窓際で、必死に「ちょっと物覚えの悪い凡人」を演じようとしていた。隣の席では、リシテアが早く自立して親孝行をしたいという一心から、ものすごい気迫でノートを取っている。
「では、本日の講義の理解度を測るため、ごく簡単な小テストを行う。各自、配られた羊皮紙に解答を記述したまえ」
よし、きた。あえて10問中6問くらいだけ正解して、平均的な生徒を演じるつもりだった。だったのだが――。
(……あれ? この問題の記述、ゲームの設定資料集で読んだやつだ。いや、それどころか、術式の並びを見ただけで、脳内で勝手に『正解の最適解ルート』が光って見える……!?)
潜在能力Sの頭脳が、勝手にフル回転を始めてしまった。文字を見た瞬間に、答えが、それもハンネマン先生が涙を流して喜びそうな「美しく効率的な魔道数式」が、勝手にサラサラとペンを握る手に伝わっていく。
「そこまで。では回収する」
我に返ったときには、時すでに遅し。羊皮紙には、一分の隙もない完璧な解答がびっしりと書き込まれていた。
案の定、採点していたハンネマン先生の手がピタリと止まった。モノクルがカタカタと震え、白髭が小刻みに揺れている。
「……な、なんだこれは……。マイルズくん! 君か! 君がこれを書いたのかね!?」
「えっ、あ、はい。一応、俺ですが……(あ、終わった)」
教室中の視線が一斉に俺に突き刺さる。特に、最前列で完璧な答案を出したはずのリシテアが、信じられないものを見るような目で俺を睨みつけていた。自分の努力を嘲笑われたように感じていないか心配だ。
「素晴らしい……! フリュムの術式をあえて第三段階で省略し、威力を維持したまま発動速度を上げるなど、魔道研究院の学者でも早々思いつかんぞ! 君は天才か!? どんな紋章を持っている!?」
「いや、俺、紋章は無いって――」
「無いわけがない! 」ハンネマン先生が興奮気味で話す。
「先生、次は実技の時間だろ? マイルズが本当に天才かどうか、実際に魔法を使わせてみれば分かるんじゃない?」
クロードがすかさず面白そうに油を注ぎやがった。
◇修道院の中庭。
的となる木製の人形を前に、金鹿の面々が集まっていた。
リシテアが「魔道の才能というのは、血の滲むような努力の先にあるのです」と鋭い闇の弾丸『ドーラΔ』を放ち、ドゴォン!と音を立てて木の人形を激しく吹き飛ばす。さすがの威力だ。
「さあ、次はあなたの番ですよ、マイルズ。紋章がないのにあんな解答が書けた理由、見せてもらいましょうか」
(まずい。リシテアの目がガチだ。どうにかして失敗しないと。一番簡単な『ファイアー』を、わざと不発に終わらせれば……!)
俺は魔道書を開いた。脳内で「失敗するイメージ」を思い浮かべる。魔力をわざと雑に練って、ポフッと煙が出るくらいに調整しようとした――。
その瞬間、俺の「限界突破」の特質と潜在能力Sが、その微調整すらも**『神業レベルの魔力制御』**として完璧に処理してしまった。
「あ」
手元から放たれたのは、小さな火花――ではなかった。
ゴオオオオオオオオオオッ!!!
それは、初級魔法『ファイアー』の形をした、文字通り「劫火の嵐」だった。あまりにも純度が高く、完璧に圧縮された炎の弾丸は、標的の木の人形どころか、その後ろにある演習用の頑丈な石壁まで一瞬でドロドロに溶かし、遥か上空へと火柱を立ち上らせた。
静寂。中庭が、水を打ったように静まり返る。
「……は?」
リシテアの口から素っ頓狂な声が漏れ、レオニーは顎が外れそうになり、イグナーツは眼鏡をずり落とした。ローレンツにいたっては、持っていた薔薇を地面に落としている。
「……うん、やっぱり君、最高に面白いや」
クロードだけが、引きつった笑顔でパチパチと拍手を送ってきた。
「アハハ……なんか、ちょっと力んじゃいました……」
俺は、完全に手遅れになった「モブ計画」の残骸(ドロドロに溶けた壁)を見つめながら、引きつった笑いを浮かべるしかなかった。
ついに派手にやらかしてしまいました(笑)。
やらかしてんなぁ、この主人公…(呆れ
誤字などありましたらご報告お願いします。