学園生活を満喫したいだけのモブ(チート)   作:ハスバル

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第4.5章:白銀の聖堂と、大司教の微笑

 

食堂での級長強襲劇の興奮も冷めやらぬ翌朝。俺の元に、これ以上ないほど不吉な「呼び出し状」が届いた。

差出人は、セイロス聖教会最高指導者

――大司教レア。

 

(終わった。今度こそ本当にフォドラの闇に葬られるかもしれない……)

ガタガタと膝を震わせながら、俺は大司教の間へと続く重厚な扉を開けた。

 

高い天井から差し込む神聖な光のその先に、緑の髪を美しく結い上げ、慈愛に満ちた微笑みを浮かべた女性が立っていた。その横には、鋭い眼光で俺を睨みつける補佐官のセテスさんの姿もある。

 

「ようこそ、金鹿の学級のマイルズ。顔色が悪いようですが……大丈夫ですか?」

 

鈴の鳴るような、優しく包み込むような声。しかし、前世で原作を知っている俺からすれば、その笑顔の裏にある「冷徹な絶対者の気配」が透けて見えて生きた心地がしない。

 

「は、はい! レア様! お呼び出しに預かり、恐悦至極に存じます! ちょっと寝不足なだけで、健康そのものです!」

 

「ふふ、元気なら何よりです。……ハンネマンから報告を受けましたよ。あなたが理学の授業で、素晴らしい才の片鱗を見せたとか」

 

レア様は静かに歩みを進め、俺の目の前でピタリと足を止めた。

ふわりと、修道院の聖香の香りが鼻腔をくすぐる。だが、そのプレッシャーは尋常じゃない。

 

「紋章を持たぬ身でありながら、魔導の深淵に触れ、石壁をも溶かす業火を放った……。セテス、セイロスの聖なる歴史において、このような奇跡は前例がありましたか?」

 

「いえ、大司教。いかに潜在的な魔力があろうと、紋章の加護なしに初級魔法をそこまで変質させるなど……

おおかた、同盟のへんぴな領地で、禁忌の魔導書でも拾い上げて独学したのではないかと、私は疑わざるを得ません」

セテスさんの正論(でも的外れ)な追及が痛い。

 

「そ、そんな滅相もないですセテスさん! あれは本当に、実家での薪割りの時に『あー、火が点きにくいなー』って毎日フーフーやってたら、なんか肺活量と魔力の連携がバグっちゃったというか、ただの生活の知恵の延長でして――」

 

マイルズ

 

レア様が、俺の苦しい言い訳を遮るように、そっと俺の両手を包み込んだ。

その手は驚くほど温かい。けれど、逃げることを絶対に許さないような、確かな力強さがあった。

 

「……あなたの手、そしてその瞳。嘘を穿ち、真実を見通す主の御前であっても、あなたはそれを『薪割りの知恵』と言い張るのですか?」

レア様の微笑みが、わずかに深くなる。その奥にある瞳が、一瞬だけ、ゾッとするほど冷徹な「観察者」のそれに変わった。

 

(ヒエッ……! 完全に睨まれてる! 下手に隠し事をしたら、レア様の逆鱗に触れて『不穏分子』として即座に処刑(光の柱的な何か)されるルートに直行するやつだこれ!)

 

「あ、いや、その……! じ、実は、子供の頃から、頭の中に変な数式や、武器の正しい扱い方が『勝手に浮かんでくる』不思議な体質なんです! 自分でも制御が効かなくて困ってまして……! 決して、教会やフォドラの秩序に仇なす意図はございません! 誓って、女神大人への信仰は本物です!」

 

俺は必死に(半分本当のことを交えながら)頭を下げた。潜在能力Sが勝手に暴走するんです、と。

長い沈黙が、大司教の間を支配した。

セテスさんがいつでも手乗りの斧を抜けるように身構える中、レア様はしばらく俺の顔をじっと見つめていたが――やがて、フッと慈悲深い笑みに戻った。

 

「……分かりました。主の御心は時に、人間の理解を超えた形で奇跡を授けます。あなたがその大いなる力を、フォドラの平穏のため、そして生徒たちの模範として正しく使うのであれば、教会はあなたを歓迎し、見守りましょう」

 

(助かった……! 首の皮一枚繋がった……!)

「ありがとうございます、レア様! この力、学園の草むしりや、食堂の皿洗いなどのために、粉骨砕身、使い尽くす所存です!」

 

「ふふ、謙虚な子。……ですが、もしその力を以て、主の教えに背き、このガルグ=マクの平穏を脅かすような真似をすれば……」

 

レア様は俺の手を握る力を、ほんの少しだけ強めた。

その声のトーンが、わずかに低く、地を這うような重みを帯びる。

「――その時は、この私が、あなたの魂を主の元へと還して差し上げなければなりませんね?

 

「……っ、肝に銘じます!!」

 

背筋に冷水を浴びせられたような恐怖に、俺は直立不動で叫ぶしかなかった。笑顔の圧が強すぎる。これぞ、逆らう者を容赦なく裁いてきた教祖の威厳だ。

 

「それでは、お下がりなさい。あなたのこれからの活躍を、楽しみにしていますよ」

 

大司教の間を這う這うの体で脱出した俺は、廊下に出た瞬間、壁に背中を預けてズルズルとへたり込んだ。服が冷や汗でびしょびしょだ。

 

「モブ計画どころか、生存ルートの難易度がルナティック(最高難易度)になってるじゃねえか……!!」

 

大司教レア様という、フォドラ最高峰の危険人物に完全にロックオンされてしまった俺は、心の中で「先生!! 本当に早く来てくれ!! じゃないと俺、信仰の炎で蒸発させられちゃう!!」

 

と、涙目でまだ見ぬ主人公へと祈りを捧げるのだった。

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