ここから物理的に引きこもるために、俺はレオニーの
「物資調達の居残りお手伝い」に志願した。
あのやらかし続きの日々から離れ、戦闘狂や級長たちの視線のない、修道院の裏手にある静かな物資置き場。夕暮れ時、オレンジ色の髪のレオニーが、ずっしりと重い木箱を抱えながら満足そうに汗を拭った。
「ありがとよ、マイルズ。お前、下級貴族の坊ちゃんの割には、嫌な顔一つしないで力仕事を手伝ってくれるんだな」
「いや、これくらい普通だよ。レオニーこそ、いつもクラスのために細かいことまで引き受けてて凄いな」
プロの傭兵を目指して、誰よりも地に足をつけて努力しているレオニー。
そんな彼女が、壁に立てかけてあった自分の私物の「弓」を手に取った。
「せっかくだんで、作業の終わりにちょっと体を動かしていくかい? 私の弓術、見せてやるよ」
物資置き場の奥にある、即席の射的場。
レオニーが放った矢は、三十メートルほど先にある小さな木の実の、見事に真ん中を射抜いた。
「凄いな、レオニー! 完全に真ん中だ」
「だろ? よし、マイルズも一本使いなよ。下級貴族なら、護身用に少しは嗜んだことがあるだろ?」
「えっ、俺!? いや、俺は本当に当たる気がしないというか……」
断ろうとしたが、予備の弓と矢を握らされてしまった。
(待て、落ち着け俺。弓なら、わざと手元を狂わせて、あさっての方向に飛ばせばいい。これなら『単に下手くそなモブ』を完璧に演じられるはず……!)
俺は弓を引き絞った。わざと的から大きく右にずらして放そうとした――。
その瞬間、脳内でピコンと冷徹な音が響いた。
【弓術:S(潜在)】
潜在能力Sの肉体は、俺の「わざと外しようとする不自然な力の入れ方」を、**『風の抵抗と弓のしなりを計算した、極限の補正射撃』**として完璧に処理してしまった。
――ビュンッ!!!
放たれた矢は、凄まじい風切り音を立てて一直線にカッ飛んでいった。
固定された木の実に向けて。
そして――
パキィィィン!!!
レオニーが射抜いた「矢の真後ろ」に完璧に命中し、元から刺さっていた彼女の矢を縦に真っ二つに引き裂きながら、的の木の実ごと後ろの分厚い木製の壁に深々と突き刺さったのだ。
「……………………は?」
レオニーの手から、持っていた弓がカラリと地面に落ちた。
「あ、アハハ……あ、あれ〜? 手が滑って変な方向に飛んじゃったと思ったら、なんかレオニーの矢に当たっちゃった! 奇跡ってあるんだね!!」
「奇跡で矢が縦に裂けるかぁぁぁ!! お前、今の無駄のないフォーム、完全にプロの狙撃手(スナイパー)のそれだろ! 決めた、お前、明日から俺の特訓に付き合いな!」
「違うんだレオニー、俺はただの通りすがりのモブで――」
夕暮れの物資置き場で、俺はまたしても「優秀すぎる自分の肉体」を呪うのだった。
さらに、これだけで終わるはずがなかった。
「へえ……噂には聞いていたが、弓の腕前までそこまでとはな」
物資の影からひょっこりと現れたのは、これまた一番見つかりたくなかった男、金鹿の級長クロードだった。
「ク、クロードさん!? なんでここに……」
「いや、お前が熱心に居残りの手伝いをしてるって聞いたからさ、級長として差し入れでも持ってきたんだよ」
クロードは手に持った果物の袋を揺らしながら、琥珀色の瞳を怪しく光らせた。
「だけど、今のを見せられちゃなぁ。お前、魔道だけじゃなくて弓まで『達人級』ってわけかい? レオニーの矢を真っ二つにするなんて、並の兵士じゃ逆立ちしても真似できないぜ?」
「だから、本当にたまたま風が吹いて、手が滑って――」
「はいはい、手が滑ってプロの技ね。お前、本当に面白いやつだな」
クロードはニヤリと笑うと、レオニーの肩を叩いた。
「なあレオニー。マイルズを特訓に付き合わせるなら、俺も混ぜてくれよ。この『隠れた天才』がどんな風に育つか、特等席で見物させてもらいたいからさ」
「おう、歓迎するよクロード! こいつの化けの皮、2人で剥ぎ取ってやろうぜ!」
「頼むから2人とも、俺をこれ以上巻き込まないでくれぇぇ!!」
物理的に引きこもって静かに過ごすはずだった物資置き場で、俺はさらなる包囲網(レオニーのガチ特訓&クロードの監視)に捕まり、夕日に向かって絶叫するのだった。