噂によると / Legend Has It [CP2077 × NIKKE]   作:Narrenschiff

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7.Vの選択 / V Got His Guns (By His Will)

 

 俺と、同じ。

 

 考えている暇など、どこにもなかった。

 何よりも先に──

 

 ──閉ざしかけた加速(アポジー)を叩き起こす。

 

 世界が軋みながら鈍る──体感時間六秒。歪んだ時間の底で、俺だけが真実の速さで動ける、わずかな猶予。

 その中でシャルが動いた。スローモーションとは程遠い、素早く滑らかな動き。倒れたジェリーに向けて、刃を返す。とどめを刺す気だ。

 

 すかさず地を蹴る。チャージジャンプの推力が爆ぜ、俺を砲弾にして飛ばす。

 

(次は、間に合わせる……!)

 

 刃先がジェリーの首筋に当たる──すんでの所で、肩からシャルの胴に突っ込んだ。全体重を乗せて。骨と装甲の塊が、銀色の隊員服を弾き飛ばす。手応えは、岩にぶつかった時に近い。ニケの体は、見た目より遥かに重い。

 

 宙空でシャルの手首を右手で捕まえ、力の限りに振り回す。二つの体が、もつれて宙を飛んだ。

 

 その最中、シャルの手首が回った。

 

 掴んだ腕の先。ジェリーの血に濡れた刃が、捻りひとつで切先をこちらへ向ける。

 待っていれば殺られる──咄嗟に腕を離したことで、逆向きに投げ出される。受け身などない。背中から叩きつけられ、衝撃が脳天まで突き抜ける。

 

「ぐ…っ!」

 

 片膝を立て、顔を上げる。シャルとの間に数歩。俺の背から、倒れたジェリーまでは五メートルほど。巻き込まずに済む位置だ。

 

(……ジェリーは!?)

 

 腹部の傷からは血がとめどなく流れている。即死ではないが、あの量を放っておけば長くはもたない。一刻も早く、手当が必要だ。

 

 ……俺が、止める。

 

 二人が同時に立ち上がる。

 シャルは無傷だ。あれだけの質量を叩き込んで、よろめきもしない。バイザーの砕けた隙間から覗く顔が、表情ひとつ動かさずにこちらを向いている。手首から飛び出した短刀の血を振り払い、収納した。

 

 加速が、切れる──

 

 六秒を撃ち尽くした合図だ。歪んでいた世界が、弾かれたように元の速さへ戻ってくる。音が、風が、骨格に響く痛みが、一斉に追いついてくる。

 しばらく切札は使えない。だが、シャルの方も同じはずだ。加速についてきた時の速度は──今はない。

 

 神経加速(ケレズニコフ)は、まだ生きている。考える猶予は作れる。だが、サンデヴィスタンには遠く及ばない。シャルの、あの力は──

 

 眼の奥で、キロシの分析機能を手動で叩き起こす。

 

 自動分析は、アマレットの一件から切っていた。何をスキャンしても返るのは「測定不能」ばかり。ラプチャーも、ニケも、地上の何もかもが、俺の想定外にある。

 

 ──くそっ。浅はかだった。

 あの時から走らせておけば。後悔を振り切り、視線をシャルへ据える。

 

 測定不能の文字は、出なかった。

 

 代わりに、データが流れ込んでくる。型番、出力値、規格。視界の端を埋めていく数列を、キロシが既知のライブラリと照合する。ヒット──

 

 やはり、この世界の規格じゃない。

 俺と同じ技術(サイバーウェア)だ。

 

 ──《ミリテク ”ファルコン“ サンデヴィスタン》

 

 時間を歪めるあの力を、こいつも積んでいる。

 

 シャルが踏み込んできた。

 間合いが消える。

 速い。だが、加速中(ファルコン)じゃない。ケレズニコフが引き伸ばした思考の中で、俺はその軌道を捉えていた。

 

 ──右だ。

 

 右手(ゴリラアーム)を振り上げ、シャルの肩口めがけて叩き込む。数トンの質量。捉えれば、それだけで動きを止められる。

 

 振り抜いた拳がシャルの背中側から飛び出す。貫通した──違う。避けられた。

 

 シャルは身を低く沈め、俺の拳の下をくぐっている。腕一本分ずれた虚空を、俺の全力が薙いだ。それだけの、最小の見切り。

 風圧が、銀の髪を巻き上げて──シャルの腕が下から跳ね上がってくる。

 

 俺の体は、まだ前へ泳いでいる。止まれない。脇腹へ彼女の手が向けられ、前腕の内側から鈍色(にびいろ)の短刀が勢いよく射出された。ちょうど、肝臓の真上へと吸い込まれていく。

 

 ──躱せない。腰を捻って急所だけ逃がし、残りを受けた。衣服を裂き、皮下アーマーを浅く貫いて、切先がチタン骨に当たり、火花を散らして逸れる。

 

 刃が手首の中へ引き戻されていく。

 

 さっきのスキャンで、シャルの中身はあらかた割れている。だが、この刃だけはヒットしなかった。エラーとも異なる『未登録』の三文字。ひとつだけ、俺の知らない異物が混じっている。

 

 考えるのは後だ。受けの反動で、シャルの体勢がわずかに伸びている。今だ。組み付いて極めれば、加速がなくても止められる。

 

 次こそ、手首を取る──だが掴んだのは、今度も虚空だった。体を開いて抜けたシャルとすれ違いざま、二の腕が薄く裂かれる。

 薄皮の一枚ぐらい、それがどうした。収穫はあった。

 

 こいつは攻める時も、避ける時も、反射でしか応じない。無駄打ちもフェイントもない。まるで、動き方が、初めから決まっているみたいに。

 

 その時、シャルが消えた。全動作速度の桁がひとつ跳ね上がる。加速(ファルコン)だ。

 刃が首筋へ届く指一本前、俺は加速(アポジー)を噛ませる。ほんの一瞬、世界が鈍るその隙間に、首を逃がして即座に加速を切る。

 

 同じ加速でも、向こうの方が長く保つ。撃ち合いになれば、先に息切れするのは俺だ。

 ならば、狙うは最小限。

 

 咽頭に迫る刃。首を仰け反って避ける。

 しかし返す刃が心臓へ向かってくる。右手(ゴリラアーム)の甲で左腕ごと逸らす。間髪入れず、三撃目。シャルの右手首の射出口から、短刀(ブレード)が杭のように撃ち出される。半身に回って角度をずらした。

 あの短刀を正面で受ければ、ひとたまりもない。

 

 防戦一方、僅かな間断もない。シャルの加速はまだ続いている。なのにこっちは点でしか割り込めない。刃の連撃が容赦なく急所を突いてくる。まずい。こうしている今も、ジェリーの血は流れ続けている。一秒ごとに、あの男が遠くなる。終わらせろ。今すぐに。間に合わなくなる前に。

 

 退いて、距離を取れ。牽制して、息を整えろ。武器を拾いに行ったっていい。その方が早い。頭では、分かっている。

 だが、足が退かない。

 

 俺は代わりに歪める時の量を刻む。更に細かく刻む。退けば楽になると分かっていて、その一手を選ばない。

 

 ますます、集中が研ぎ澄まされる。視界からノイズが削げ落ちて、シャルの刃先だけが、やけに鮮明になる。──それ以外が、どうでもよくなっていく。

 

 この感覚は知っている。

 ナイトシティの記憶。標的と自分、それ以外の全てが意識から消えさる。()かと本気で殺し合っていた頃、常に俺はあの冷たさの中にあった。

 戻ってきたその感覚は、一つの気づきを連れてくる。

 

 シャルの動きが、()()()よりも遅い。同じ加速の只中にいて、僅かに弛んでいる。

 あの飛び出す刃の速度は今でも脅威だ。だが、単純な性能比較で言えば、──ああ、瞬間速度は俺が上なんだ。

 

 ──もし、身を守るために時を刻まず、攻めに回していたら。もし、伸びきった刃の奥へ叩き込めたなら。だったら、()()、自由に使える。それなら殺せていた。とっくに、殺せていた。

 

 〈警告/連続使用負荷、許容域を突破。直ちに使用を中止し、適切な休息を。健全な精神を保つための推奨クールタイムは360min──〉

 

 赤色(レッド)など見えない。俺が見ているのはあの眼の光だけだ。

 

 辛うじて残っていた、残りの加速を全て流し込む。世界から音が遠ざかる。これは賭けだ。予想通りなら、シャルに先手が打てる。読み違い?──()が死ぬだけだ。

 

 互いに加速世界へ身を投じた真っ向勝負。

 俺は自らシャルの懐へ飛び込む。

 温存していた機能を呼び起こす。

 衣服ごと、輪郭が背景に溶けていく。前に構えた両腕が、自分の視界からも薄れて消える。持続はわずか数秒。あの眼が相手でも、これなら通る見込みがある。

 

 効果は劇的だった。

 完璧に此方の動きを捉えていたシャルの眼が、初めて標的を見失う。消えた標的を求めて宙をさまよう。

 

 だが、シャルは迷わない。さっきまで俺が立っていた場所へ、律儀に刃を振り下ろす。判断ではなく、反射による、決まりきった奴の()()

 

 賭けは当たった。これは十分すぎる隙だ。

 俺は、右脚を前へと放り出し、(シャル)の背後へと回り込む。これが俺の()()目。

 

 迷彩が剥がれ、輪郭が世界に戻ってくる。それでも奴の眼は前だけを見ている。

 ならば、ここで、全力を叩き込め。

 右手(ゴリラアーム)を大きく振り被る。

 

 これで、()()目だ。

 振り抜けば──奴の頭が、吹き飛ぶ。

 

 ──なあ、V。

 

 声が頭の芯で響いた。加速中は音すら歪む。だが、この鮮明な声は、俺の中(じごく)から響いている。

 

(お前が何を恐れてんのか、もっかい教えてくれるか?俺には、楽しんでるようにしか見えねえが)

 

(はっ……)

 

 乾いた嗤いが、頭蓋の内側を撫でていく。

 その一瞬で、拳が行き場を失くした。

 恐れていた筈だった。境界線(エッジ)の向こう側、そこから戻れなくなることを。それを彼らにも分かち合った。なのに、今、俺は、──俺がしようとしていたことは。

 

 握ったままだった拳を解く。

 

 代わりに、膝の裏を脚部機構(チャージジャンプ)を使って正確に蹴り抜く。支えを失ったシャルの体幹が、自重で泳ぐ。潜り込んで、肩で跳ね上げ、地面へ引き倒す。すかさず胴へ馬乗りになり、両手首を掴む。十字に交差させて、シャル自身の喉元へ押さえつけた。

 

 最初の飛びつきで理解していた。ニケは、組み付いた程度では崩れない。なら、彼女たち自身の重さで組み伏せればいい。

 

 砕けたバイザーの下、すぐ眼の前に、シャルの顔がある。銀のショートボブ。隊員服。首から下げた、部隊章。間違いなく、シャルだ。

 さっきまで同じ火を囲んでいた、彼女だ。

 疲労はないのに、息が上がっていた。彼女ではなく──俺の息だ。

 

「……ああ、わかってる」

 誰にともなく、そう漏らした。

 

 脱出不可能なように組み伏せても、シャルは抵抗をやめない。無感情に、淡々と拘束を解こうとする。あの、親しみ深かった表情はもはやどこにもない。今はただ一点、両眼の──

 

 ──()()の光。

 

 その光だけが最も雄弁に、敵意を物語っているように見えた。

 抑え込む中で、無音が流れた。

 上がっていた息が、緩やかに下りてくる。終わった──そう、思った。

 

────────────────

 

 だが、その静寂は無惨にも破られた。

 ミシリ、と何かが割れる音。組み伏せられた状態で加速(ファルコン)の起動──シャルの全身が内側から軋み始める。自身が壊れるのも構わず、無理矢理に出力を上げている。関節があり得ない方向へ撓む。それでも、止まらない。目前の敵を排除するまでは。

 

「やめろ、シャル!」

 気づけば叫んでいた。喉から絞り出されたのは命令ではなく、懇願の言葉だった。

 

「もう無駄だ……やめろ!やめてくれ……!シャル……!」

 彼女を止めたいのなら、この両手で押さえ込めばいい。もう少し、力を込めれば──

 

 ……無理だ。

 

 彼女が、壊れてしまう。そうなれば、二度と元には戻らない。

 躊躇が、力を緩ませる。

 

 その緩みを衝いて、交差させた両手首が、じりじりとこちらに向く。あの射出口が完全に俺を捉えたら、終わりだ。

 

 その時、ジェリーの兄の話が脳裏を過ぎる。長い間抱えてきた、アイツの地獄。その一部を俺に預けた、あの時の声だ。

 あの男を、死なせるわけにはいかない。

 緩めていた手に力を込める。俺が此奴を、シャルを──

 

「……シャルトリューズ!」

 声。それとほぼ同時に鳴った銃声が、夜気を裂いた。

 

 両腕から感じていた力が、ふっと抜けた。

 あの禍々しい緑色の光が、消えていく。

 半開きの瞼の奥に残ったのは、淡い黄色の瞳だった。

 

 彼女の強張りが、ほどけていく。さっきまで軋みを上げていた身体は静寂を取り戻し、ようやく重い荷を下ろしたように、シャルは動かなくなった。その顔には、もう、何も帯びていない。

 

 俺は、ようやく振り返った。

「ジェリー……!」

 

 そこに立っていたのは、もう動ける筈のない男だ。片手には大型拳銃。もう片手には──マックスドク。腹の傷は塞がるどころかさらに大口を開けていた。

 

 ジェリーの顔に、憎しみはなかった。

 撃った部下を見下ろすその眼に滲んでいるのは、裏切られた者の怒りではない。あるのは、彼女を悼む深い悲しみだ。

 

 言葉なく、ジェリーがその場へ座り込む。

 俺はシャルの腕を置き、急いで側へと駆け寄った。

 

「……使わせてもらった」

 ジェリーが、空になった吸入器を軽く掲げてみせた。

 それから、胸ポケットに手を伸ばす。

 取り出したのは、一本の煙草だった。

 

「……火を、つけてくれ」

 掠れた声だけが周囲に響く。

 俺はライターを取り出し、火を点ける準備をしながら、口を開いた。うまく、言葉にならない。

 

「なんで、……お前が……、お……俺が、俺がやれば良かっただろう……!」

 

 ジェリーは答えず、咥えた煙草の先に、俺の火を受けた。深く吸い込み、ゆっくりと、煙を吐き出す。

 

「軍法により……ニケの処分は……指揮官が、行わなければならない」

 淡々とした口調の下で、こらえきれない苦悶が、表情に滲んでいた。痛みじゃない。薬がまだ効いている。

 

 最期の一服を味わうように、ジェリーはもう一度、深く吸い込んだ。吐く。

「悪くない味だ。……本物、だな」

 

 俺は弾かれたように立ち上がろうとした。

「……止血の道具を取ってくる」

 まだ、間に合うかもしれない。

 

「もう、いい」

 低い声が、引き留めた。

 

「無駄だ。……分かるだろう」

 言う通りだ。流れた血の量も、心拍の落ち方も、この眼は嫌というほど見積もってしまう。塞いだところでどうにかなる傷じゃない。とうに、手遅れだった。

 

 血に濡れて座り込んだこの男と並ぶと、別の光景が重なる。

 ジャック。デラマンの車内で、ジェリーと同じように血を流して、俺に夢と、記憶痕跡(レリック)チップを遺していった──俺の親友。あの時もそうだった。看取る側に立たされた時点で、もう、何かを託されることはわかっていた。

 

「お前は……傭兵を、やっていたな」

 ジェリーが、煙を細く吐きながら言った。

 

「……ああ。昔な」

 

「そう、だったな。昔か……」

 頷いて、ジェリーは続けた。

 

「なら、これだけでも……受けてくれ」

 首から提げていたメダルを自ら外す。もう一本のネックレス──アマレットの形見も、その手に握られていた。二人分の認識票と、部隊章メダルが、俺の掌へ移される。

 一つはジェリーの血が乾いてこびりついている。

 もう一つは、白布に包まれたまま、清らかさを保っている。

 

「あの子と、俺のものだ。……後は、シャルの分も頼む。お前が、持っていてくれ……」

 

 掌の上で、輝きを失ったメダルの重みがのしかかる。前は一人分だった。今度のは──重さの桁が違う。それでも、託された。

 

「……わかった。任せろ」

 

 ジェリーの手が、サイドバッグへ伸びる。一見、何も入っていないように見える内張りの奥──隠しポケットから、折り畳まれた紙片と、ひとつの鍵を取り出し渡してきた。

 

「鍵……?なんの鍵だ?」

 問いには、すぐ答えが返らなかった。ジェリーは、紙片を指差す。地図の様だ。

 

「アークへ行くなら……青い点の、エレベーターだ。認識票と、ノチェロを呼べば……時間はかかるが、中に入れる、はずだ」

 

 重い沈黙が流れ、思案の結果がジェリーから語られた。

「……すまない。アークも、受け入れられるかは確実じゃない」

 

「気にするな……、もっと酷い状況になったことだってあるんだ」

 こんな時まで誠実さを突き通そうとするこの男に、微笑みを贈る。だが、笑えているだろうか。

 

 その時、ジェリーの体が大きく揺れた。喉の奥で、ごぼ、と濡れた音が鳴る。咥えていた煙草が落ちる。

 マックスドクが無理やり繋ぎ止めていた生命力が、限界を越えたのが分かった。

 

「もういい、もう喋るな……!」

 

 俺は、それしか言えなかった。だがジェリーは、震える唇を、なお動かす。

 

「兄の……真相を……」

 

 言葉が、途切れる。胃の底から込み上げたものを、ジェリーは大きく咳き込んで吐き出した。隊員服の胸元に、黒い血が散る。

 

 それでも、止まらない。

 

「奴らに……報いを……」

 

 止めるのは、もうやめた。悲しみに喉を塞がれたまま、俺はその一語一語を、残らず受け止める。それが、今の俺にできる、たったひとつのことだった。

 

悪い夢(バッドドリーム)……だ」

 

 掠れきった声が、続ける。

 

「バッドドリーム、に……」

 

 動こうとした唇が、途中で止まる。何かを言い終えるための、最後の一語が。

 いくら待とうとも、その先の言葉がくることは、二度とない。

 ジェリーの体から力が抜け、彼もまた眠るように崩れ落ちていく。

 

「ジェリー」

 

 応えない。

 

「ジェリー……!」

 

 血塗れの男はもう、応えない。俺は、その場に膝をついたまま、しばらくは立ち上がることもできずにいた。

 

「……ああ、そうだな。ジェリー……」

 

「悪い夢だ……」

 

────────────────

 

 どれだけ、そうしていただろうか。

 空の端が、白み始めていた。予定していた出発の刻が近づいてきた。

 

 俺は、ジェリーの側から立ち上がった。

 

 シャルのそばへ歩み寄り、膝をつく。半ば開かれたままだった瞼に指を添え、そっと閉じてやる。淡い黄色の瞳が、瞼の下へ隠れた。それから、彼女の首のメダルと認識票を、外す。

 

 少しだけ、手が止まった。

 目を、瞑る。僅かに一拍。それだけだ。

 

 今度は、再びジェリーのもとへ。

 傍らに転がった大型拳銃を拾い上げる。ずしりと、人間の規格に合わせた重さ。俺はそれを、腰のホルスターへ収めた。

 

 胸元で、銀の鎖が鳴る。

 三枚のメダルと、三人分の認識票。

 ひとつは血に塗れ、ひとつは傷だらけ、ひとつは汚れなく。

 準備は全て終わった。

 

 俺は出発前に、貰った地図を初めて開いた。

 幾つもの『青い点』が記されている。これが、方舟(アーク)へと続くエレベーターだ。

 そして、それ以外には──幾つもの、手書きの『赤い点』があった。

 

《ACT1 「復活 / Come Forth」 END》

 




ACT2以降は不定期更新になります。
目安は週、隔週ごとに2話ほどです。
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