TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う   作:第616特別情報大隊

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ブルガル川//血塗れの勝利

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 ──ブルガル川//血塗れの勝利

 

 

 ブルガル川を渡河し、西部連合の野戦軍との決戦に臨む帝国軍。

 

 しかし、それを阻止するように川に入った帝国軍に矢が降り注ぎ、援護を行うはずの魔法使いたちは西部連合の魔法使いによる妨害を受けている。

 そこで私とソフィアが動く。

 

「敵の魔法使いを叩く。やつらが囮に食いついているところを横合いから殴りつける。ついてこい、リンクス。まずは気づかれないように連中に近づくぞ」

 

 ソフィアはそう言い飛行魔法でふわりと浮かぶと、あまり高度を上げずに低空を這うように飛ぶ。

 私もそれに続いて低空を飛んだ。

 

 敵の野戦軍を大きく迂回し、私たちは敵の後方に回り込む。

 ここで落下したら敵地で孤立することになる。決して油断できない。

 そう思うと緊張で手が汗ばむ。

 

「もう少しだ。これから一気に高度を上げるぞ」

 

 地上すれすれの飛行から一気に上空に向けて私たちは飛び上がった。

 地面からみるみる距離ができ、私たちは呼吸ができるぎりぎりの高度へ。

 敵がレーダーを装備しているわけではないので、警戒しなければならないのは目視でみられることだ。

 

 だから、攻撃の前には低空で接近し、攻撃の際に高度を上げるのは定石のひとつだ。

 敵魔法使いが臨戦態勢の場合、堂々と高空を飛行して接近することで気づかれるのはリスクになる。

 そうソフィアはあとで教えてくれた。

 

「あそこに敵の魔法使いがいる」

 

 ソフィアは杖で地上を指し示す。

 その杖に先には10名程度の魔法使いたちが、青白い魔力の矢で帝国軍の魔法使いを攻撃していた。

 私たちはあれを叩かなければならない。

 

「リンクス。私が防御を担当する。お前は……あの魔法で敵魔法使いを殲滅しろ。友軍との距離は十分に離れているが、威力には用心するんだ。……できるか?」

 

 ソフィアは私にそう尋ねる。

 

「できます」

 

 やれる。

 いや、できなければならない。

 ソフィアを失望させてはだめだ。

 

「よし。では、やるんだ。気づかれる前に」

 

 ソフィアは敵魔法使いと私の間を飛行し、防御を担当。

 その間に私は狙いを敵魔法使いに定める。

 

 友軍を巻き込まないほどの小さな爆発を意識。

 しかし、爆発が小さすぎて魔法使いが生き延びれば反撃を受けてしまう。

 まだこの爆轟魔法を使い始めた私には難しい問題だが、それでもやってみせる。

 ソフィアのためにも。

 

「えい……っ!」

 

 いつもの掛け声程度の詠唱とも呼べない発声。

 地上で炎が生じるとそれが一気に爆轟へと変化した。

 しかし、それはいつもより遥かに小さい爆発だった。

 調整にしくじったのだ。

 

「師匠、ごめんなさい! しくじった!」

 

「大丈夫だ。私がカバーする。『偉大なる精霊たちよ。我らを悪意ある敵の手から守る力を与えたまえ──』」

 

 ソフィアはすぐさま詠唱を行い、魔力装甲を広げた。

 球状に大きく広がる魔力装甲が私と敵魔法使いの射線を遮る。

 

「上空に敵魔法使い!」

 

 そして、明らかに魔法使い全員を殺しきれなかったその爆発ののちに、地上にいる生き残った魔法使いたちが一斉に私たちの方に攻撃を向けてきた。

 

『偉大なる精霊たちよ! 我らが敵を屠る力を我らに与えたまえ──』

 

 しかし、私たちが上空と言う位置をすでに占領していることに慌てたのだろう。

 その詠唱は短く、そのせいで魔法の威力は低く、ソフィアが魔力装甲を展開するのに防がれている。

 

「リンクス。再攻撃だ。今度は確実に仕留めろ」

 

「はい、師匠!」

 

 私は再び地上を狙う。

 敵の魔法使いたちは反撃に必死だが、一部が分散し始めている。

 このまま散らばると爆轟魔法で仕留めきれなくなる。

 その前にやらなければ……!

 

「えい!」

 

 今度はより大きな爆轟魔法を放つ。

 戦場が一瞬だけ静まり返るあの感触が得られるくらいの爆発を。

 

 魔法使いたちの展開する中心部に炎が生じる。

 その炎が目にも止まらない速度で膨張し、爆轟へと変化した。

 衝撃波が地上を駆け抜け、ブルガル川周辺の草原と森林が大きく揺さぶられる。

 

「うわああああ────」

 

 その炸裂した爆発に魔法使いたちは、その悲鳴すらも飲み込まれていく。

 今度は確実に全員を殺し切っただろう。

 

「何事だ!」

 

「こ、後方の魔法使いたちが!」

 

 同時に展開していた西部連合の野戦軍にも動揺が走る。

 彼らは未だ帝国軍の渡河を阻止していたが、そこで友軍魔法使いが全滅したことを知ったのだ。

 

「さて、給料分の仕事はしなければな。リンクス、次は敵野戦軍だ。やるぞ」

 

「はい、師匠」

 

 ソフィアはそう言い、再び防御を彼女が担当し、攻撃は私が請け負った。

 流石に西部連合と帝国軍の距離が近くて爆轟魔法は危うい。

 なので、私は魔力の矢を彼らに降り注がせた。

 

「ぎゃああああ──っ!」

 

 手足が吹き飛んで泣き叫ぶ兵士。

 

「うわああああっ! た、助けて──!」

 

 助けを求める叫びを上げた直後の撃ち抜かれる兵士。

 

 魔力の矢で殺すのは爆轟魔法で殺すよりも残酷な気がする。

 魔力の矢は必ず相手を殺せると言う保証はない。

 手足が千切れたことで()()()された兵士は、痛みに耐え続けなけれならない。

 それならいっそ爆轟魔法で一気に吹き飛ばす方が人道的ではないのだろうか?

 いや、変わりないか……。

 銃弾で殺されるのも、爆弾で殺されるのも、どちらも慈悲などない。

 究極的に言えば戦場に人道はないのだろう。

 

「いいぞ、リンクス。敵野戦軍が敗走を始めた」

 

 ソフィアがそう言う中、敵の野戦軍はついに後ろに下がり始めた。

 

「撤退だ! 撤退、撤退!」

 

 司令官が撤退を命じ、彼らは帝国軍に背を向けて逃げていく。

 僅かな殿(しんがり)だけが残って渡河を試みる帝国軍に立ち向かい、友軍が撤退するための時間を稼ぐ。

 

 西部連合にとって幸いだったのは、帝国軍の騎兵が渡河に失敗していたことだ。

 川底が思いのほかぬかるんでいたこともあって、帝国軍の騎兵たちはブルガル川を渡河できなかった。

 それによって敗走する西部連合を追撃することはできず、彼らをまんまと取り逃してしまったのである。

 

「いいぞ! 敵が逃げていく!」

 

「ざまあみろ!」

 

 西部連合の殿を撃破した帝国軍将兵はそんなことは知らず、ただ戦いに生き延び、勝利したことを渡り切った対岸で祝った。

 そして、ブルガル川は……今や渡河の最中に戦死した帝国軍の死体が溜まり、それがダムのように水たまりを作っている。

 夥しい流血の上での勝利だ。

 

「リンクス。よくやったな。帰投しよう」

 

「はい」

 

 いつものように優しい声色でソフィアが言うのに私は笑顔で頷いた。

 それから私たちは帝国軍の本陣へと帰投し、どういうわけかクイントゥス将軍が司令部の天幕の外で私たちを出迎える。

 

「素晴らしい活躍だったぞ、魔法使い!」

 

 彼は満面の笑みで非常に満足そうだった。

 

「忌々しい西部連合に大打撃を負わせてやった! 我々の大勝利だ!」

 

 クイントゥス将軍はこの戦いを勝利とみなしている。

 死体があれほど川に浮かんでいるのに呑気なものだと私は内心で呆れた。

 

「これからも私の下で奮闘せよ! 頼りにしているぞ!」

 

 彼はそれだけ言うと鼻歌でも歌いだしそうなほどの陽気さで立ち去る。

 

「……これが勝利か。随分とハードルが下がったものだ」

 

 ソフィアはクイントゥス将軍が去ってから小さく鼻を鳴らす。不満げに。

 

「やあ、おふた方」

 

 そこで私たちに声を掛ける人間がいた。

 ガイウスだ。彼は敵の魔法攻撃を受けた割には平気そうな顔して私たちの方に来た。

 

「酷いじゃないですか、私たちを囮にするなんて」

 

「そんなつもりはない。そちらがたまたま敵の攻撃を引き付けただけだ」

 

「そうですか。では、そういうことにしておきましょう。しかし──」

 

 ガイウスが口で笑みを浮かべ、目を線のように細める。

 

「片方が攻撃を担当し、片方が防御に専念する。そうすれば魔法使いは最大の攻撃力と防御力を同時に発揮できる。どうしてこれまで思いつかなかったのか不思議なくらい、素晴らしいコンビネーションですね」

 

「……!」

 

 ガイウスがそう言うのにソフィアの顔が引きつった。

 

「そうでしょう? そして、今回防御を担当したのはソフィアだ。つまり、あの攻撃魔法の使い手はソフィアではなくあなたでしたか、リンクス」

 

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