TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う 作:第616特別情報大隊
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──アンヴィルの戦い//始まり
私が爆轟魔法の使い手だと気付いたガイウス。
ソフィアはガイウスから私を守るように彼の前に立つ。
「そんなに警戒なさらず。言いふらすつもりは今のところありません」
「……今のところ、か」
苦虫を噛みしめたような表情のソフィア。
私の秘密が知られたことは……あまりよくはない。
ソフィアが恐れたように異端として迫害されるか、あるいは利用されるか。
「前にも言いましたように私はある派閥に所属しています。その下っ端として戦場で戦果を上げるためにここには送られました」
「それで? お前の派閥に所属しろとでも?」
「いいえ、いいえ。あなた方がには私の利益になるように行動していただきたいだけです。私も戦果さえ上げさえすれば、この地獄みたいな戦場からおさらばできますから」
「……私たちは傭兵だ。金を払えば戦果は挙げてやる」
ガイウスが辟易したと言う様子で語るのにソフィアは短くそう返す。
「勘違いなさっておられる。私は帝国軍でも、クイントゥス将軍でもなく、私自身の戦果として誇れるものがほしいのです。私の派閥が政治的優位に立てるような戦果がほしいのですよ」
「それを聞くにお前はクイントゥス将軍とは別の派閥に所属しているようだな」
「まあ、それは否定しません」
ソフィアの指摘にガイウスは苦笑い。
最近はクイントゥス将軍の第2の副官みたいな顔をしていたガイウスだが、どうやらクイントゥス将軍と利益を同じくしているわけではないらしい。
帝国軍の派閥争いとはどうなっているのだろうか……?
「まあ、追々協力していただけると確約してもらえれば、約束通り言いふらしはしません。もっともそう遠くないうちにリンクスの才能は知られるでしょうが」
「……分かった。協力を求められたら応じてやる」
「助かります。それでは」
ガイウスはにこりと微笑むと、私たちの前から立ち去った。
「師匠……私は……」
「大丈夫。心配するな、リンクス。お前のことは私が守る」
私が心配になってソフィアに呼びかけるのに彼女は優しく笑ってそう言う。
彼女の言葉は嬉しかったが、私は守られているばかりでは嫌だった。
いつまでもソフィアの荷物でありたくないんだ。
「さあ、今日は休もう。お前も精神面で消耗しただろう。人が死に過ぎたからな……」
ソフィアはそう言って新しい陣営に設営された私たちの天幕に向かう。
天幕の中には藁のベッドがあったが、今日はひとつしか設置されていない。
天幕自体も渡河のあとで大慌てで設置されたものみたいであり、帝国軍の慌ただしさと出した損害の規模が窺えた。
「仕方ない。今日は一緒に寝よう」
ソフィアはそう言いベッドに腰掛け、私に手招きする。
私は彼女の隣で横になり、あまり寝心地がよくないベッドに手足を伸ばした。
ソフィアも私の隣で横になり、そっと私を抱きしめる。
「……リンクス。もう少しで暫くは戦わずにすむだけの金が稼げる。それまでは我慢してくれ」
「……はい」
ソフィアの胸元で私は頷く。
しかし、戦う必要がなくなかったら、私はどうすればいいのだろう。
どうすればソフィアに恩を返せるのだろう……?
* * * *
次の朝、再び前進が始まった。
目標は西部連合の首都ロンディウス。
首都というか、反乱の拠点のような場所だ。
そこには大きな港があり、その港は大金を生んでいるとのことだった。
しかしながら、まだまだロンディウスははるか遠く。
クイントゥス将軍の第3軍も、そしてライバルであるティベリウス将軍の第2軍も、揃ってそこから遠ざけられていた。
「ティベリウス将軍の方は手痛い敗北を喫したようだ」
ソフィアのために食事を天幕に運んでくると、彼女はどこから集めたのかそんな情報を口にする。
「西部連合との野戦で敗れ、敗走したとガイウスが言っていた。西部連合はティベリウス将軍との決戦の方に戦力を注いだようだ」
「では、クイントゥス将軍が喜びそうだね。ずっとティベリウス将軍に追いつき、追い越せって言ってったから」
「そうだな。しかし、第2軍との足並みが酷く乱れるとこっちも危うい。いつでも逃げられる準備はしておいた方がいいだろう……」
「けど、ガイウスとの約束が……」
「あれはやつが死ねば約束はなかったことになる」
ソフィアがさらりと言った言葉に私は硬直した。
ソフィアはまさか……ガイウスを……?
「……私たちが殺すわけではない。ただ本陣に迫られるほどの乱戦になれば何が起きるか分からないというだけだ」
ソフィアはそう安堵させるように言う。
しかし、彼女が言っていることは暗にガイウスを亡き者にすると言っているような気がしてならなかった。
彼女は私を守ると言ってくれたが、その方法は分からないのだ。
もしかすると彼女は乱戦に紛れてガイウスを殺すつもりなのかもしれない。
「心配するな、リンクス。私を信じてくれ」
ソフィアは可能な限り、そう努めている可能な笑みが浮かべられていた。
「もちろんソフィアのことを疑ったりしない」
ソフィアは正しい。
ガイウスが死んでくれた方が、今の私にとってはありがたいのだ。
そう、彼女はあくまで私を守ろうとしてくれている。
それから私たちはティベリウス将軍の第2軍が敗退したという知らせを正式に聞きながらも、前進を続けた。
それも今までより急いで。
クイントゥス将軍にとってはライバルが生じさせた自分が武勲を立てるチャンスだが、第2軍と第3軍が全く足並みを合わせないのは敵に各個撃破の機会を生むような気がしてならなかった。
西部連合にとってしみれば帝国軍は勝手に戦力を分散させてくれているわけだから。
私のそのような予感はある意味的中した。
私たちがロンディウスに向けて進軍する途中にある西部の都市アンヴィルという名の都市の攻略を急いでいたとき、敵野戦軍が北方から再び私たちに迫ったのだ。
包囲している都市を救出しようとする敵野戦軍の規模は前回より増えて1万5000程度。
それに対して長引く戦争で後方からの補充が遅れている帝国軍は5000名であった。
都市に立て籠もっている守備隊を含めるならば、完全に私たちは数で敵である西部連合に圧倒されていた。
「諸君、安心せよ!」
西部連合の野戦軍が陣を組む中でクイントゥス将軍が同じくアンヴィル包囲戦を中断して陣形を組んだ帝国軍の将兵を前に演説する。
「先のブルガル川での戦いを思い出してほしい! 私の卓越した指揮によって我々は窮地を乗り越えた! そのことは皇帝陛下のお認めになったほどだ! 今回も私の指揮によって諸君らは勝利に導かれることだろう!」
先の勝利がクイントゥス将軍に妙な自信を付けさせてしまったようだ。
彼は本来ならば撤退すべき場面で、敵との決戦に臨もうとしてしまっている。
どう考えても負けるのに……。
「いよいよ不味いことになったな……」
ソフィアもこの状況に渋い表情を浮かべている。
「敵野戦軍の規模から魔法使いも相当連れてきているはずだ。こちらには疲弊しきった魔法使いが私たちを含めて6名いるだけ。撃ち負けるぞ」
ブルガル川の戦いで兵士の一部は補充されたが、魔法使いは2名は戦死したまま補充されていなかった。
しかも、彼らは包囲したアンヴィルを落とすための地上作戦に従事していたばかりで疲弊している。
ソフィアが言うように魔法使い同士で撃ち合えば、私たちが負けるだろう。
「私がまた敵の魔法使いを撃破します」
私がソフィアにそう提案すると彼女は考え込むように顎に手を置いた。
「……そうだな。私たちがやるべきなのかもしれん」
ソフィアはそう言って隊列を組む兵士たちを見る。
これから3倍の規模の敵に挑むことになる彼らの恐怖は、クイントゥス将軍の演説で晴れたようには見えない。
「だが、もし帝国軍が崩れたら、私たちはすぐに逃げる。いいな?」
「はい」
私はソフィアの言葉にしっかりと頷いた。
私はまだソフィアの役に立てるのだ。
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