TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う   作:第616特別情報大隊

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アンヴィルの戦い//空中戦

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 ──アンヴィルの戦い//空中戦

 

 

 帝国軍と西部連合の戦力差は上空から見るとはっきりしていた。

 

 帝国軍が組んだ陣形に対して西部連合が組んだ陣形は倍ほどはある。

 隊列の厚みも、陣形の幅広さも全然違っていた。

 3倍だ。3倍の戦力差がそこにははっきりと示されている。

 

 しかもアンヴィルの周囲には利用できそうな地形もなく、僅かに流れる川とただひたすらに広がる平原があるだけ。

 

「閣下。ここは退くべきです」

 

 そう訴えるのはガイウスであり、クイントゥス将軍はそれを怒り狂ったブルドッグのような表情で聞いていた。

 

「戦力差があまりにも違います。魔法使いの数にしても──」

 

「我々はブルガル川で不利な地形においても西部連合を打ち負かしたのだ! ただの平地で多少の戦力差があろうとも負けるものか! 我々帝国軍将兵の質は、西部連合の傭兵などよりも遥かに優る!」

 

 ガイウスの言葉を遮ってクイントゥス将軍が叫ぶ。

 

「撤退も敗北もあり得ない! 我々は勝利し、西部連合を追い詰めるのだ! この私にお前の諫言は必要ない! 出ていけ!」

 

 クイントゥス将軍はそう言いガイウスを司令部から追い出そうとする。

 ガイウスは一瞬僅かな憤りの表情を浮かべたが、すぐに冷静な表情となり、自分の足で司令部の天幕から出ていった。

 

「魔法使い。今回の戦いでもお前たちには役に立ってもらうぞ。まずは敵魔法使いの撃滅である。魔法使いを撃破し、我が軍に勝利をもたらすのだ!」

 

 クイントゥス将軍は私たちにそう命じ、早速作戦に移れと言うように司令部の天幕の出口を指さした。

 ソフィアは何も言わず、それに応じ無言で天幕を出る。

 

「……師匠。私たちは今回は……」

 

「ああ。ガイウスたちをまた囮にする戦法が上手く行く保証はない。敵の使い魔がさっき陣地の上空を飛行していた。間違いなく、こっちの魔法使いの規模が敵に劣るのは知られただろう」

 

 敵の魔法使いは敵野戦軍の規模に相応しいだけの規模だ。

 西部連合側の18名の魔法使いをすでに私たちは確認している。

 魔法使いの戦力差においても私たちは3倍だ。

 

「……いざというときは連中を見捨てて逃げるぞ。私たちは傭兵だ」

 

「はい」

 

 私たちは帝国軍の勝敗など関係ない。

 戦ったことへの対価が支払われ、生き延びられればそれでいいのだ。

 

「おふた方」

 

 私たちがそんな会話をしていたとき、先に司令部を出ていたガイウスがやってきた。

 いつものような慇懃無礼な笑みはなく、彼は真剣な表情で私たちを見ている。

 どこか思いつめた様子ですらある。

 

「このままでは我々は大敗を喫するでしょう」

 

「だろうな」

 

 改めて分かり切ったことを告げるガイウスにソフィアは頷く。

 

「そして、これまでやってきたことからして、西部連合は敗者となった我々を丁重には扱わないはずです。だから、今取るべきはこのまま戦うのではなく、撤退すること。そのことに同意していただけますか?」

 

「……一理あると言うにとどめておこう」

 

 ソフィアはガイウスを警戒した様子でそういう。

 

「ありがとうございます。理解していただけるだけで助かります。我々は撤退を実行するつもりです」

 

「クイントゥス将軍は認めないだろう」

 

「ええ。認めないのは彼だけです。そう彼だけです」

 

「まさか……」

 

 ガイウスが言わんとしようとしていることは、つまり……。

 

「ええ。ご想像の通りです。混乱した戦場では誤射はつきもの。この手の誤射で司令官が戦死することも珍しくはありません」

 

 ガイウスが言うのにソフィアは何も言わない。

 ただ彼が語る話を聞いているだけだ。

 

「司令官が倒れたら私が指揮を執って撤退を行います。あなた方にはそれを支援してもらいたいのです。約束通り、私のために役立ってもらいましょう」

 

「……撤退そのものは可能なのか?」

 

「計画を練ってあります。ご心配なく」

 

「そうか」

 

 ガイウスはそれだけ告げると十分なのか、私たちの前から去り、彼の部下の魔法使いたちの下へと向かった。

 

「……誤射がよく起きる、か。いよいよこの国も末期だな……」

 

 ソフィアはそう呟くように言う。

 

「リンクス。お前はいつも通りに動け。ガイウスの言うことは気にしなくていい。ガイウスの件は……私が対処する」

 

「はい、師匠」

 

 ソフィアがいつものように私を守るようにそう言う。

 私はまだ守られてばかりだ。

 このままではいけないと分かっているのに。

 

「では、始めるぞ。定石通り、敵魔法使いを排除する」

 

 私たちは再び敵魔法使いの殲滅を目指して行動を始めた。

 だが、今回は敵の魔法使いは陣を作っているだけではなかった。

 彼らも要撃を上げて、対処してきたのである。

 

 

 * * * *

 

 

 私とソフィアは低空を飛行し、敵の魔法使いたちがいる陣地を目指していた。

 

「待て、リンクス! 上だ!」

 

 ソフィアが不意に高度を上げて私の上を飛ぶと、魔力の矢が彼女の魔力装甲に叩き込まれた。

 

「ぐうっ……!」

 

「師匠!」

 

 青緑色の障壁に揺らぎが生じ、ソフィアが苦悶に呻く。

 私が素早く上を見ると上空に3名の魔法使いがいた。

 

「卑劣にも奇襲を試みるとはな。犬にも劣る傭兵め」

 

 3名の魔法使いのうち、白いローブ姿の男性魔法使いが吐き捨てるようにそう言う。

 彼らはそれぞれが魔力装甲を展開しながら魔力の矢を形成し、私たちに向けている。

 

「……西部連合側の正規魔法使い。流石にそう何度も陣地を奇襲させてはくれないか。リンクス、やつらを排除する。そうしなければ私たちがやられる」

 

「はい!」

 

 いつものようにソフィアが魔力装甲を展開して私と敵の間の射線に立ち、私はその後方から魔力の矢を形成した。

 爆轟魔法でまとめて吹き飛ばすには、距離が近すぎる。

 

『偉大なる精霊たちよ! 我らが敵を射抜き、屠りたまえ──』

 

 相手側の魔法使いは短く詠唱して小規模な魔力の矢を連続して叩き込んできた。

 恐らくは私の形成した魔力の矢が放たれるのを警戒しているのだろう。

 今は防御し、私の攻撃を見て反撃するつもりだ。

 

「えい」

 

 私は詠唱にも満たない掛け声でそんな彼らを奇襲した。

 私の形成した魔力の矢は防御をソフィアが受け持っているおかげで、敵の魔法使いよりも遥かに強い──!

 

「なっ……!」

 

 そのことに驚く敵の魔法使い。

 咄嗟に防御しようとするが、私は逃さずまずは1名を屠った。

 敵の魔法使いの魔力装甲を叩き割り、その腹部に叩き込まれた魔力の矢は砲弾でも命中したかのように、身体を抉って死に至らしめた。

 

「デキムス!」

 

 敵の魔法使いが、私たちを犬以下と罵った魔法使いが慌てるのが私にも分かる。

 

「おのれぇ! 『偉大なる精霊たちよ! 願い奉る! 我らが敵を貫き──』」

 

 今度はもっと長い詠唱で応じようとする敵魔法使い。

 しかし、防御に専念しているソフィアの魔力結界は割れない。

 けど、ソフィアは苦しそうだ。早く終わらせないと。

 

「えい!」

 

 私は再び魔力の矢を形成し、敵の魔法使いを狙う。

 

「畜生、畜生! 『偉大なる精霊たちよ! 願い奉る! 我らを守る力を──』」

 

 魔法使いたちは防御に力を入れて長く詠唱するが、全力の攻撃から全力の防御への切り替えは難しい。

 私の放った魔力の矢はチェレンコフ光のように青白く輝きながら、敵魔法使いの青緑色の魔力装甲を抉り切った。

 

「た、隊長、助けて──!」

 

 私はまた1名を屠った。

 今度は胸を貫き、魔法使いは鮮血を吐きながら落ちていく。

 それを見た指揮官だろう男性魔法使いが鬼のような形相を浮かべる。

 

「残り1名だ。確実にやれ、リンクス」

 

 ソフィアが励ましてくれる。

 私なら、やれる。

 

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