TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う   作:第616特別情報大隊

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アンヴィルの戦い//撤退

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 ──アンヴィルの戦い//撤退

 

 

 西部連合正規魔法使い。

 白いローブを纏った男性魔法使いが私を睨み殺すようにして見ている。

 

 戦場でここまではっきりとした憎悪を向けられたのは初めてだ。

 殺意こそ感じはしていたけれど、それは帝国への敵意と生存本能から来るもので個人への憎悪ではなかった。

 だが、彼は違う。

 彼は明白に私を憎んでいる。

 

「名乗れ、傭兵。私はルフス。西部連合の魔法使いだ」

 

 そして、彼はそう尋ねてきた。

 

「……付き合う必要はないぞ。ただの自己満足だ」

 

 しかし、ソフィアが私にそう言ったので私は無言で魔力の矢を生成し、ルフスと名乗った魔法使いに向ける。

 

「……犬め」

 

 忌々しげにルフスはそう呟き、詠唱を始める。

 

『偉大なる精霊たちよ! 願い奉る! 重ねて願い奉る! この手に我らが敵をうち滅ぼす力を──』

 

 彼は防御を捨てた。

 全力で魔力の矢を形成し始め、それが私とソフィアに向けられる。

 

「急げ、リンクス。あれが叩き込まれたら持たないかもしれない」

 

「はい、師匠」

 

 ソフィアが急かす中で私は魔力の矢を放った。

 ルフスと私が魔力の矢を放ったのは同時。

 お互いの魔力の矢は正面衝突を起こし、暴走した魔力が周囲にほとばしる

 だが──。

 

「力負けしただと……! この私が、西部連合の魔法使いである私が……!? あんな子供に……!?」

 

 押し切ったのは私の魔力の矢だ。

 私の矢はルフスの矢を切り裂いて突き進んだ。

 そして、矢は防御を捨てたルフスの胸を貫き、彼を絶命させた。

 げぼげぼと気泡の混じった血を吐いたルフスは私の方に殺意の籠った視線を向けたまま落ちてゆく。

 そしてぐしゃりと地上で音がした。

 それからのあの私を呪うようなルフスの眼差しが目に焼き付ている。

 

「……西部連合の正規魔法使いをやったか……」

 

 ふうと大きく息を吐いて、ソフィアがそう呟く。

 

「よくやった、リンクス。お前は強くなったな……」

 

 ソフィアはそう誉めてくれる。

 あのルフスの眼差しもこの言葉があれば、平気だ。

 

「師匠。私は役に立てた?」

 

「ああ。もちろんだ。お前はよくやっている。だが、まだ仕事は続いているぞ」

 

「はい」

 

 私たちは残る敵魔法使いを撃破しなければならない。

 3名を撃破しても敵にはまだまだ15名の魔法使いがいる。

 しかも、私たちが3名の要撃を撃破したことは念話で伝わっているはずだ。

 

「次の要撃がこちらに向かってくる前に地上撃破できればいいのだが……」

 

 私とソフィアは確認されている敵魔法使いの陣地に急ぐ。

 

「あれだ!」

 

「あれがルフス隊長をやった連中……!」

 

 敵意の滲む視線でこちらを睨む魔法使いが9名。

 こちらに向けて飛行魔法で接近している。

 

「リンクス。手早く片付けるぞ。長期戦になれば不利なのは数で劣る私たちだ」

 

「はい、師匠」

 

 ソフィアは魔力装甲を展開し、私は攻撃に当たる。

 この距離なら爆轟魔法が使用可能だ。

 上手くやればまとめて仕留められるだろう。

 

 ただ相手も飛行中なので狙いを定めるのがなかなか難しい。

 爆轟魔法で飛行中の敵を狙うのは、戦艦の主砲で航空機を撃つようなものだ。

 それでも私は狙いを定めて爆轟魔法を放った。

 

 静寂。ただ一種の静寂と時が止まったかのような感触。

 その次に炎が生じた。

 

 空に炎が瞬き、一斉に爆発が空に広がる。

 炎が光と熱とともに広がってゆき、まるで夕日のようにすら見えた。

 

「魔力装甲が溶けるだと──!」

 

「飲み込まれる! 助け──!」

 

 炎の飲まれていく魔法使いが悲鳴を上げる。

 そのあとに襲い掛かる衝撃波が横一列に飛んでいた魔法使いたちを、まるでタンポポの種を飛ばすようにかき乱した。

 

「何だ、これは……! 何なんだ……!?」

 

 生き残った3名の魔法使いが自分たちの背後で生じた惨状を見て呻く。

 背後では今も灰色の煙が立ち上り、彼らの仲間たちの姿はその中に消えていた。

 

「動揺しているな。今のうちに仕留めるぞ」

 

「ええ、師匠」

 

 私はいきなりの大損害に狼狽えている西部連合の魔法使いたちを狙った。

 魔力の矢が彼らを襲い、魔力装甲をぶち抜いて仕留めていく。

 

「嘘だろう……! こんな魔法使いが……存在するなんて……!」

 

 最後のひとりはそう叫び、私の方を化け物でも目撃したかのような恐怖の混じった視線で見つめたまま落ちていった。

 そして地上で息絶える。

 

「……西部連合の魔法使い部隊は残り6名だ。リンクス、続け──」

 

 ソフィアがそこではっとした表情を浮かべた。

 

「不味いぞ。地上の野戦軍が動いている。戦闘が始まる……!」

 

 そう、西部連合の野戦軍が動き出していたのだ。

 帝国軍との野戦に向けて。

 

「どうする、師匠!?」

 

「私たちは予定通り、敵の魔法使いを排除するしかない……! 逃げるにせよ、戦うにせよ敵の魔法使いが健在なままでは危うい……!」

 

「分かった!」

 

 私たちは西部連合陣営後方の魔法使いのいる場所に向けて飛行する。

 すでに西部連合の魔法使いたちは地上に向けて射撃を開始していた。

 魔力の矢が大きく弓なりの軌道を描いて、帝国軍に降り注いでいる。

 

「急がなければ……」

 

 帝国軍が敗走を始めれば、私たちは取り残される。

 そして貴重な魔法使いを撃破した私たちが丁重に捕虜して扱われる可能性ゼロだ。

 ガイウスが言っていたようにここは退くべきだったのだろう。

 

「見えました、敵魔法使いです」

 

「よし、リンクス。叩き込め。加減はするな」

 

「はい!」

 

 私は思いっきり力を込めて青白い光を発している敵魔法使いの陣地に向けて、爆轟魔法を叩き込んだ。

 

 静寂と瞬く炎。

 炎と煙が先に生じ、遅れて爆発音が響く。

 

 音速を越えた衝撃波は西部連合の魔法使いたちを壊滅させるには十分だった。

 きのこ雲が立ち上り、西部連合の後方はクレーターに沈んだ。

 

「よくやった、リンクス。陣営に戻るぞ。ここに取り残されてはかなわん」

 

「はい」

 

 私はソフィアの言葉に頷き、私たちは帝国軍の陣営に急ぐ。

 問題の帝国軍はといえば……。

 

「……帝国軍は撤退を始めている。やったのか、ガイウス……」

 

 撤退に反対したクイントゥス将軍はどうなったのか……。

 帝国軍は殿を残して撤退を始めていた。

 北から迫る敵に背を向けて、南に向けて逃げ始めている。

 まだ秩序を保った撤退であり、壊走とは言わないがそうなるのも時間の問題に見えるように私の目にも危うく映った。

 

「ガイウスに貸しを作っておこう。リンクス、地上の野戦軍を攻撃するぞ。壊滅させずともいいが、騎兵を優先して叩け」

 

「了解」

 

 ソフィアはそう言うと彼女自身も青白く光る魔力の矢を形成し、私とともに敵野戦軍に降り注がせる。

 

「上空に魔法使いだ!」

 

「クソ! 友軍の魔法使いは何をやっている!」

 

 広がる怨嗟の声。

 私たちはほぼ一方的に敵野戦軍に向けて魔力の矢を降り注がせ、蹂躙した。

 1万5000という野戦軍をふたりで壊滅させるのは無理だったが、彼らに前進することを躊躇わせることはできた。

 敵野戦軍は守りを固め、その間に帝国軍は逃げ去る。

 

「これでいいだろう。逃げるぞ。置いていかれないように」

 

 ソフィアはそう言い私を連れて逃げる帝国軍に追いついた。

 

「おふた方。よくやってくれましたね」

 

 帝国軍の黒い軍馬に跨ったガイウスが私たちを歓迎する。

 とはいえ、敗走の最中だ。ガイウスは泥まみれで、私たちも疲れ切っている。

 

「クイントゥス将軍はどうした?」

 

「流れ矢が当たりましてね。名誉の戦死です。惜しい方を亡くしました」

 

 ソフィアの問いにガイウスは全く感情を込めずにそう語る。

 

「そんなことよりおふた方が戻ってきてくださって助かった。あのままでは撤退も危ういところでしたから」

 

「これで貸しひとつだぞ」

 

「先に秘密を守ることでそちらに貸しを作ったのは私です。これでちゃらですよ」

 

 ソフィアが言うのにガイウスは大げさに肩を竦めてそう返した。

 

「さあ、撤退して軍を立て直しましょう。あなた方の助けがこれからも必要です」

 

「忘れるな。私たちは傭兵だ。味方なのは金を払っている間だけだ」

 

「ええ。そうでしたね。忘れそうになりますが、ちゃんと報酬は支払いますよ」

 

 こうして私たちはアンヴィルからの撤退に成功した。

 この功績は序盤で戦死したクイントゥス将軍のものではなく、その代わりに指揮を務めたガイウスのものとなり、彼は正式に第3軍の司令官になった。

 彼はガイウス将軍となったのだ。

 

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